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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第1部.最強の冒険者は誰だ
19/110

初戦と新魔法



『選手入場ですッ!まずは前回準優勝…ッ!ガリ&ゴリのペアだァァッ!対するは初出場ながらもユートピアの英雄と呼ばれた超絶美少女ユウと…それに釣り合わない男、コウスケのペアだ…』


「おい!俺の説明の時だけ露骨にテンション下げてんじゃねぇ!」


 コウスケ達がステージに立つと司会の騒がしいアナウンスが会場中にこだました。


「ウホッ…!ホントに美人の姉ちゃんじゃねぇか…美味そうなカラダしてんなぁ…?」

「ゴリ、これに勝ったらあのおいしくいただこうぜ…フヘッ!」


 ゴリとガリと呼ばれた大柄の男ともやしのような男はユウのほうを見るとそんな不穏な会話をした。


「私は男なのに…私は男なのに…私は男なのに…私h…」


 ユウは司会の言葉に再起不能なようでうつむいたままブツブツと呟いていた。


『それでは試合!開始だァァァァッ!』


 司会の咆哮と共にガリは地面を蹴った。


「先手必勝!その女は俺の玩具モノだァァァァッ!フヘッ!」

「《ドラゴソード》!」


 コウスケが叫ぶと右手に現れた小さな魔方陣から金色の剣が飛び出した。


「フヘッ!」

「ッ!」


 鈍い音と共にコウスケとガリの剣が衝突する。


「速いだけってことね…なら、勝てる!」


 コウスケはそう自分に言い聞かせるとガリを弾き飛ばした。


「お前みたいな奴が俺のスピードについてこれるわけねぇだろ!」

「それはどうかなッ!」


 高速で移動・攻撃をするガリにコウスケは意識を集中し、攻撃の隙を伺った。


「今だッ!反転重力アンチ・グラビティ!」


 コウスケは地面を蹴ると重力を無視するように宙に浮いた。


「これでッ!トドメダァァッ!サンダーァァァァ!」


 コウスケが叫ぶと左手に現れた大きな魔方陣から巨大な雷が発生し、ガリの持つ剣を避雷針に放たれた。


「ァァァァァァァァァァァァッ!」


 雷に撃たれたガリは叫ぶとその場に崩れ去った。



「よぉ姉ちゃん…俺らと楽しいことしようぜ…ウホッ」


 ゴリはオークが持っていたものよりも大きな斧を引きずりながらいまだに再起不能状態のユウに近づいていった。


「私は男なのに…私h…?私になにかようですか?私今機嫌が悪いのであなたみたいな汚いオスはそれ以上近づかないでもらえますか?」


 もはや正気でないユウは早口でまくしたてるとそれを聞いたゴリがピクリと反応した。


「誰が汚いオスだァァァァ!お前絶対犯してやるッ!〈パワーブースト〉ウホッ!」


 ゴリは咆哮をあげると身体強化魔法を使ったのか一瞬、全身にオーラのようなものを纏うとユウに向かって斧を振り下ろした。


「気持ち悪い」


 ユウが静かに呟くと黒い魔法陣がゴリの攻撃を阻むように出現した。斧がそれに触れた瞬間、まるで力を逆流させたかのように斧は木っ端微塵になった。


「なッ!」


 ゴリが呆気に取られているといつのまにか元に戻ったユウが右手に銃を構えていた。


「だから私はッ!男ですって!」


 ユウはゴリにしか聞こえないくらいの声でそう叫ぶと引き金を引いた。

 濃密な魔力を帯びた弾はゴリを軽く消しとばした。


『し、試合終了ゥゥゥゥッ!勝者はなんとッ!コウスケ&ユウのペアだァァァァッ!コウスケ選手の見たことのない魔法とユウ選手の無詠唱魔法による完封勝利だァァァァッ!』


 司会のアナウンスに会場中から多くの歓声が飛び交った。


「コースケさん!やりましたよ!私達の勝利です!」

 ユウはコウスケのもとへ駆け寄ると満遍の笑みを浮かべた。


「おう!…って喜びたいとこなんだけどね?俺はあれがどうなるのかが一番気にならんだけど」


 コウスケが指差すとそこには2人の攻撃によって灰となったガリとゴリ(だったもの)があった。


「あ、大丈夫ですよ。会場ここ自体が大きな魔道具で大会にエントリーしてるとこの中では何があっても死なないってスミレさんが言ってました。なので大丈夫だと思います」


 ユウが説明していると蘇生係スタッフと思われる人達がガリとゴリだったものに完全回復薬をかけていた。すると、灰は人型になると元のガリとゴリの姿へと戻った。


「おぉ…こういうことか…」

「完全回復薬自体は死んだ者には効果ないですけどここなら大丈夫ってことでしょうか?まぁなんにせよいくら激しく戦っても大丈夫ってことですね」


 ユウはそう言うと影の中へと飛び込んだ。


「あ、ちょっとユウさん待って」


 コウスケはユウを追いかけるように飛び込もうとしたがただ床に体を打ち付けただけだった。


「痛ぇ…それはないよユウさん…」



ーーー



 コウスケが控室に戻ると先に戻っていたユウが紅茶を淹れている最中だった。


「あ、コースケさん。ちょうど紅茶が入りましたよ」

「ありがと…じゃないよ!ひどいよユウさん、俺を置いて影に飛び込むなんて…!」


 コウスケが叫ぶとクスクスとユウの後ろから笑い声が聞こえてきた。


「先輩そんなこんなで怒ってたらこの先が思いやられますよ」

「吉田お前…ッ!というかいたのか気づかなかったわ」

「ちょっとそれ酷くない!?我の扱い酷くない!?」

「素でしゃべんじやねぇ気持ち悪ィ!」

「酷い!」


 2人の言い争いを横目に静かに紅茶を飲んでいたスミレは静か声でユウに話しかけた。


「で、実際のところなんで早く帰ってきたの?」

「いや…あの2人組みにこれ以上関わりたくなかったっていうのが本命ですね」


 ユウはカップを手に取ると暖かい紅茶を口に含んだ。



 夜、コウスケはみんなが寝静まったのを確認すると宿のベランダでひとり、月夜を眺めていた。


「『竜人』、そこにいるんだろ…聞きたいことがある」


 コウスケは外を眺めながらそう呟いた。


反転重力アンチ・グラビティねぇ…効果はともかくそのネーミングセンスはどうかと思うぞ」


 コウスケは後ろを振り返るとそこには黒い布を翼織った男が立っていた。


「竜人…教えてくれ…あのカイトを名乗ってた男は本当に吉田なのか?」


 コウスケの言葉に竜人は「なんだそんなことか」と息を吐くと口を開いた。


「本人さ、おまえの知ってる『吉田よしだ快兎かいと』その人だよ。ただ、今の歴史とは違う時間を過ごしたけどな」

「違う時間?どういうことだ?」


 コウスケが聞き返すと竜人は人差し指を立てて説明を始めた。


「今日お前らが会ったあの男は本来の歴史…『お前が死んだという時間を過ごしていた』ということだ。あの日ってのは俺達がお前を召喚した日…ようはお前の17の誕生日だろうな」

「じゃあ吉田は俺が召喚された日よりも後にこの世界に召喚されたってことか?」

「まぁ…時間としてはそうなるだろうが…俺達がお前を召喚したことによってあの世界の歴史も変わった。1つはお前が死んでないということと…もう1つは吉田という男があの世界に留まったということだ。召喚魔法であの男が召喚されたのは今から一年も前の話だからな…そうなるはずだった未来を変えたことになる」


 竜人はそう言うと空を見上げた。コウスケはそれにつられるように外を眺めると竜人は静かに呟いた。


「結局…俺達『キャンセラー』は2つの世界の歴史を変えたということか…」


 竜人は声色を変えると再び口を開いた。


「コウスケ、ここから先は俺も知らない歴史だ。俺達も出来る限りはサポートするがユウとイヨを任せたぞ」

「ちょっ…それは一体どうi…」


 コウスケが振り返るとそこに竜人の姿はなかった。



ーーー



 大会2日目。

 いつもより早く起きたコウスケは身支度を済ませると他の人を起こさないようそっと部屋を出た。

 コウスケが宿の裏口から外に出るとそこには普段着のユウが立っていた。


「おはようユウさん。今日もこれから自主練?」

「あ、コースケさんおはようございます。今日は久々にコースケさんも一緒に練習…します?」


 可愛らしい仕草でそう言うユウにコウスケは首肯すると2人は影の中へと飛び込んだ。




「コースケさん、今日の練習なんですけど…」


 いつものように水晶の洞窟に移動したコウスケが影の中から這い出ると少し躊躇うような仕草でユウが口を開いた。


「ん?どうしたのユウさん」

「今日はコースケさんだけじゃなくてミリンとも練習することになってるんですよ」

「え?」


 ユウのセリフにコウスケは意味がわからないといった様子で首をかしげた。


「このまえミリンに私達のこの練習のことを教えたんですよ。そうしたら『わたしもやる!』って言っていたので少し前からミリンとも練習をしてたんですよ」

「あー…そういうことね。ミリンも練習してたのはちょっと意外だったけど」

「あれでもコースケさんの役に立ちたいって頑張ってるんですよ」


 ユウがその言うと2人の目の前に白く大きな魔法陣が出現した。


「おはようユウ…って!なんでコウスケがここにいるの!?」

「おはようございますミリン」


 ミリンは魔法陣の中から出てくるとコウスケを見て驚いた表情をしていた。


「いや〜俺もたまにこの時間練習してたからさ…ユウさんから聞いたよ。ミリンも練習してるんだってね」

「まぁ…じゃあコウスケも一緒に練習するってこと?」

「そうですね。これで全員揃いましたし練習を始めちゃいましょう」


 ユウが仕切ると3人は各々の練習を始めるのだった。



ーーー



「ところでミリン」

「ん?どうしたのコウスケ?」


 ミリンが休憩をしているとコウスケが隣に座った。


「さっき使ってたあの魔法は一体?移動魔法か何か?」


 コウスケの言葉にミリンは考えるような仕草をとりながら口を開いた。


「あれはユウに教えてもらったんだけどね。コウスケの世界では『ゲート』っていう魔法があるそうじゃない?」

「うん?まぁ…アニメとかなら…」

「そのコウスケが言うあにめがどんなものかは知らないけど…ユウが『私達もこの魔法か使えたら便利だと思います』って言ってたから頑張ったら使えるようになったんだ」

「へ、へー…」


 どこか嬉しそうになる笑うミリンを見てコウスケは少し複雑な気分になった。


「俺も使えるのかな?」

「使えると思うよ?ユウだってコウスケの知識をもらっただけなんだから」

「それもそうか」


 2人はしばらく笑いあっていると何かを思い出したようにコウスケが周りを見渡した。


「あれ?ユウさんは?」

「朝食の支度があるからって先に戻ったよ?」


 ミリンがそう言いながら右手を前にかざすと大きな魔法陣が出現した。


「さぁ、わたし達もそろそろ戻りましょ」

「ちょ…ミリン!?」


 ミリンはコウスケの手を引くと魔法陣の中へ入っていった。



ーーー



 冷めやまぬ熱気の中ステージを前にコウスケ達は待機していた。


『本日は2日目!準決勝第一試合はァァァァ!1組目はァァァァ!昨日初出場ながらガリゴリペアを封殺したコウスケ&…ユウのペアだァァァァッ!』


 司会のアナウンスが会場に響き渡ると同時にコウスケとユウはステージに上がった。


「コースケさん。今朝やった新作は使うんですか?」

「どうしようかなぁ…俺は一瞬で終わらせて早くユウさんの淹れた紅茶が飲みたいからなぁ…」

「そんなあからさまにこちらをチラチラ見ないでください…まぁ、そう言うってことは使うんですね?」


 ユウが悪戯な笑みを浮かべるとコウスケはニッと歯を見せた。


「もちろん!派手にってやりますよ!」


 2人がそんな会話をしているといつのまにか紹介が終わっていたらしい相手の2人組がステージに上がってきた。


『それでは準決勝第一試合ッ!開始だァァァァッ!』


水素爆発ハイドロジェン・エクスプロージョンッ!」


 開始の合図がなった直後、コウスケがそう叫びながら突き出した両手を前に現れた巨大な白い魔法陣から大規模な爆発が起こった。


「ッ!」


 ユウはとっさに防御壁を展開するとステージにはとてつもない爆風とともに大量の水が撒き散らされた。


『き、決まったァァァァッ!開始直後のコウスケ選手の一撃ッ!昨日に続いて見たことない魔法の連発だァァァァ!』


 爆発の直後はシンとしていた会場は司会のアナウンスがかかると再び熱気にあふれかえった。


水素爆発すいそばくはつ…やはりすごい威力ですね」

「だろ?これなら簡単に多くの敵を一掃できるしな!でもユウさんが防御魔法を使ってなかったら危なかったかも」

「小さな爆発にすればいいと思いますけど…」


 2人は対戦相手が回復されたのを確認すると控室のほうへと戻っていった。





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