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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第1部.全てここから始まった
17/110

イメージの具現化



「ただいまぁ〜!」


 ハルナの声とともにミリン達は門をくぐると屋敷はやけに静まりかえっていた。


「あれ…?ユウとリーダーいないのかな?」


 ユリは不思議そうに首をかしげた。


「どこかに行ってたのかな?あ、でも鍵開いてるよ」


 サクラが扉に手をかけるとギィ…と低い音を立てて扉が開いた。


「ユウ、コウスケ、どこにいるの?」


 ミリンが声をあげながら中にはいるとコウスケがドタドタと慌ただしい様子で台所から出てきた。


「ミリン、みんな、おかえり」

「おにぃちゃん、おねぇちゃんはどこ?」


 ハルナはコウスケが口を開いた瞬間、それに被せるように声をあげた。


「えっ、あー…ユウさんは今疲れたみたいでリビングのソファで寝てるよ」


 コウスケはそう言ってリビングを指差すとそこにはソファの上で寝息を立てているユウの姿があった。


「ユウ!」


 ユリはそれを目にするとそちらに走っていった。


「あ、ユリちょっと…」

「はる的には静かにしてあげたほうがいいと思う」


 サクラ、ハルナもそれに続くようにユウのもとへ歩いていった。



「それで?コウスケは何してるの?」


 ミリンはコウスケのほうを向くと口を開いた。


「何って…昼食を作ってるところだよ?」


 コウスケはキョトンとした様子でそう答えた。


「えっ…それ食べるつもりなの?ほんとにそれ食べれる?」


 ミリンは額に汗を垂らしながらコウスケの持っている鍋を指差した。


「何言ってるの?昼食だよ。食べれないわけないじゃん」


 胸を張って言うコウスケにミリンが絶句していると後ろから肩をポンと叩かれた。


「コースケさん、私も手伝いますから…一緒に作りましょう」

「ユウさん…!」


 いつのまにか起きたユウはそう言うと「食べれるものにしますから」とミリンに耳打ちした。


「じゃ、じゃあお願いね…」

「おう!まかせろ!」


 自信満々に言うコウスケに苦笑しながらミリンはユリ達のほうへと向かった。



「コースケさん。私、決めました」


 コウスケが鍋を洗っていると野菜を切っていたユウがふと、手を止めた。


「私…これからはみんなに頼るようにしたいと思います」

「ぶっ!」


 真剣な眼差しで言うユウを見てコウスケは吹き出してしまった。


「な、なんで笑うんですか!」

「悪い悪い…そんな真剣な表情で話す内容じゃなかったからな!」


 顔を赤らめて言うユウにコウスケはそう言うとユウは小さく息を吐いた。


「私は…もう泣きません。涙を見せたのはあなただけですよ」


 意地悪っぽく…しかし無邪気に笑うユウを見て、男とは思えない不思議な魅力に、コウスケは不覚にも見入ってしまった。


「どうしたんですかコースケさん。手が止まってますよ。さあ、早く昼食を作り終えちゃいましょう!」


 そんなコウスケの心をユウが知るはずもなく…


「あ、ああ!そうだな!」


 2人は再び調理を始めるのだった。




「やっぱユウさんの料理は美味いな…俺のと全然違う…」


 昼食を作り終えた2人は席に座っていたミリン達と食事を始めていた。


「コウスケが作った物体Xを食べずに済んで良かったよ」

「な、何が物体Xだ!ミリンだって料理できないじゃないか!」


 意地悪そうに笑うミリンと耳を真っ赤にしたコウスケのやりとりを4人は温かい目で見守っていた。


「相変わらず仲良し夫婦ですね」


 ユウが口を開くと2人はピタリと動きを止めた。


「「だから夫婦じゃない!」」

「おー息ピッタリ」


 ユウが感心していると思い出したように「あ」と声をあげた。


「そういえば今日買い物に行ってたらさ…魔物が討伐されたぞーって号外が出てて『魔物を一人で倒した謎の少女!』って書いてあって街の人達がユウのことを英雄だーって叫んでたよ」

「それで街の人達がで私達やユウのこと見た人がいるみたいで…外が大変なことになってるよ…」


 サクラが補足するとみんなは外を見た。


「うわぁ…めっちゃ人集まってるね…」

「私が影移動使うのでそれで帰りましょう」


ミリンとユウがそう言うとコウスケが「ちゅーもーく」と手をあげた。


「これからの予定を説明するぞ」


 コウスケがそう言うとしんと静まり返った。


「昼食が済んだらユウさんの影移動でアール王国に帰る予定なんだけど…」


 コウスケがそこまで言うとユウが何を話したいのかわかったようで口を開いた。


「ハルナちゃんはどうするの?私達と一緒に来るかそうじゃなければ引き取り手を探しますけど…」


 ユウがそう言うとハルナは席を立ち、ユウの膝にちょこんと座った。


「はるはサクラやおねぇちゃんと一緒にいく!」


 ハルナは叫ぶようにそう言うとユウはそっとその頭を撫でた。


「わかりました。ミリン、部屋とか大丈夫ですか?」

「えっ…多分大丈夫だと思うけど…ハルナちゃん一人っていうのはちょっと不安かも」


 ミリンがそう言うとハルナは満遍の笑みを浮かべた。


「じゃあおねぇちゃんと一緒のお部屋にする!」

『えっ…』


 ハルナの発言に本人とサクラ以外が同時に声をあげた。


「ユウはハルナに懐かれてるみたいだしユウなら問題ないと思うよ?」


 サクラの一言によって半ば強制的にユウの部屋にハルナが止まることとなった。




「ユウさんまた紅茶淹れるの上手くなった?」


 ユウの影移動を使って宿屋へ戻ったコウスケ達はユウが淹れた紅茶でティータイムを楽しんでいた。


「そんなことないですよ?あ、もうしばらくしたら私ちょっと出かける予定があるんですけど…コースケさんも付いてきてくれますか?」

「えっ…わ、わかった」


 唐突なユウの言葉にコウスケは一瞬戸惑ったが意味を理解すると快承した。


「えー2人はどっかいくのぉー?」


 若干不貞腐れながら駄々をこねるミリンを無視してユウとコウスケは支度を始めた。


「夕食には間に合うようにしますから…それでは、いってきます」

「えっちょっと無視は酷くない⁉︎」

「また後でねミリン」


 ユウとコウスケはそう言うとユウの影の中へと入ろうとした。


「いってらっしゃいユウ」

「いってらっしゃい!」

「おねぇちゃん、また後で!」


 ユリ、サクラ、ハルナはそう言うと2人は影の中へ飛び込んだ。



「ここは…」


 コウスケは影の中から出ると周りをキョロキョロと見回した。


「コースケさん、覚えてますか?ここは水晶の洞窟…あなたと初めて出会った場所ですよ。ここならどんなに騒がしくしたって周りには迷惑をかける心配はありません」


 ユウはそう言うと足元に落ちていた石を拾い上げた。


「わかってるよユウさん。これから特訓するんでしょ?一体どんなことをするの?」


 コウスケはユウと同じように石を拾い上げるとユウが口を開いた。


「これから行う特訓というのは〈イメージの具現化〉を有効に使うためのものです。本来、この力は私達ドラゴンがブレスなどを放つ時に使うもので魔力を持たないドラゴンにとってはあまり使わないんです。少し前にカズヤさんに聞いたら魔力を使って本来自分には使えない魔法が使えるようになるそうです」


 ユウは手のひらに乗った石をコウスケに見せるように指差した。


「これは…ただの石です。こうやって軽く握った程度では砕くことはできません」


 ユウはその石をぎゅっと握りしめた。


「まぁ握力じゃあ石は砕けないだろ」

「…」


 コウスケが軽口を叩くとユウは再び手を開いた。


「でも…握力が増えるイメージをしながらこうやって握ると…」


 ユウは目を閉じてその石を軽く握ると、低い音を立ててその石は粉々に砕け散った。


「ほら、これで魔力を消費する代わりに私が使えない身体強化魔法が使えるわけです。コースケさんもやってみてください」


 コウスケはユウに言われたとおりにイメージをするとその手に握りしめた石が砕けた。


「おお…!ほんとだ!」


 コウスケが歓喜の声を上げるとふむと興味深そうにユウがコウスケを見つめてきた。


「ん?どうしたのユウさん?」

「あ、いえ…」


 ユウはあたふたしながら視線を戻すと小さく咳払いをした。


「ミリンから聞きましたけど…コースケさんって異世界から来たそうですね…」

「えっ…そうだけどそれがどうしたの?」


 ユウの言葉にコウスケが首をかしげるとユウは言葉を続けた。


「それは私達の知らないこととかたくさん知ってるってことですよね?このすまほ?とやらみたいに」


 ユウがスマホを取り出すとコウスケは頷いた。


「では、その知識…私にいただけませんか?」

「えっ?そんなことできんの?べつにいいけど」


 コウスケがそう言うとユウは目を閉じた。


「カズヤさんが言ってました。〈イメージの具現化〉を利用してお互いの額同士を合わせると知識や一部の記憶を共有することができるそうです。それを今、やってくれませんか?」

「いや…べつにいいけど…」


 コウスケはまるでキス待ち状態の目を閉じたユウを見て一瞬浮かんだ邪な感情を振り払うように首を振った。


「い、いくよ」

「ん」


 コウスケが自分の額をユウの額に当てると頭の中に今まで経験したことがない出来事や知識が流れ込んできた。


「ひゃっ!」

「うわぁ!」


 いきなりユウがコウスケのことを突き飛ばした。


「コースケさん!破廉恥です!なんてこと考えでたんですか!あと、私は男ですっ!」


 どうやら先程まで考えていたことが伝わったらしい。

「すみませんでしたぁー!」


 コウスケはジャンピング土下座をきめた!


「まぁいいです…コースケさんが変態ってことは知ってましたから」


 ユウはそう言うと小さく溜息を吐いた。


「とりあえず顔あげてください。私がコースケさんからもらった知識を使ってやってみますから」


 コウスケが顔を上げるとユウが洞窟内の大きな湖に向かって右手を前に突き出した。


「ミリンは火属性魔法を打つときに何か詠唱を唱えていましたけど…こうやってイメージをするだけで…」


 ユウがそう言うとその右手の前に小さな魔法陣が出現した。


「見ててください」


 その瞬間、その魔法陣から拳ひとつ分くらいの大きさの火の玉が放たれた。


「おぉ…」

「初めてだから威力を抑えたんですけど…まぁ、こんな感じにコースケさんも試してみてください」


 コウスケはユウに言われるとユウと同じように右手を前に突き出した。


サンダーァァァァ!」


 コウスケが叫ぶと手の前に出現した魔法陣から雷が発生し、湖に水柱を立てた。


「おぉ…!ほんとにできた…!」


 コウスケは感嘆の声をあげると隣にいたユウがゆっくりと口を開いた。


「コースケさん、なんで叫んだんですか?〈イメージの具現化〉の場合叫んでも消費する魔力や威力は変わりませんよ?」


 ユウは不思議そうに首をかしげた。


「いやぁ…なんとなく…かな?言ってみたかったんだよこういうの」

「戦闘において無詠唱は相手にどんな魔法を使われるか予測・対策されないためにも強力なんですよ。せっかくの無詠唱なのにどんな魔法か叫んでバレたら元も子もないじゃないですか…」


 呆れながら言うユウにコウスケは苦笑した。


「どうですか?初めて魔法を使ってみて」

「思ったよりも簡単なんだな。それよりも俺はユウさんのことがびっくりしたわ」

「私のことですか?」

 笑いながら言うコウスケにユウは聞き返した。

「いやぁ〜まさかユウさんのスカートの中には凶暴な…」

「忘れてくださいッ!」


 コウスケが言いかけると顔を真っ赤にしたユウの回し蹴りによってコウスケは意識を失った。


「デリカシーがなさすぎですよ…コースケさん」



ーーー



「…ん?」


 コウスケが目を覚ますと何やらいい匂いがしてきた。


「あ、コウスケ起きた?夕食できたみたいだから一緒に行こう!」


 コウスケが身体を起こすとそこはミリンのベッドだったようで隣にいた…というより添い寝をしていたミリンが声をかけてきた。


「うわぁ!み、ミリン!?どうして同じ布団にいるの!?」


 状況を理解したコウスケは飛び跳ねるようにベッドから降りた。


「い、いや〜あはは…べ、べつに気絶してたコウスケに対してユリ達の協力があって既成事実を作ろうとしたとかそういうことじゃないから!」


 ミリンは顔を真っ赤にし早口でそう言うと目にも止まらぬ速さで部屋から出ていった。


「えっ?寝込みを襲うつもりだったの?」


 ミリンがいなくなった部屋でコウスケはひとり混乱していた。



ーーー



「そういえばさ、そろそろ大会の時期だよ!」


 コウスケ達6人は夕食をとっていると不意にユリがそんな声をあげた。


「大会?そんなのあるの?」

「えっ…リーダー知らないの?毎年行われる最強の冒険者を決めるコロシアムだよ。去年は初参加ながら圧倒的な強さで優秀を持っていったチームがいるらしいし」


 コウスケの疑問にユリがそう返すとサクラは不満そうな顔をした。


「私とユリも去年は参加したんですけど…あの2人組みは強かったです」

「えっ?2人組?」


 コウスケが聞き返すとサクラとユリはコクリと頷いた。


「あたし達は今年は参加しないかなぁ…絶対勝てないし」


 ユリがそう言うとユウが目をキラキラと輝かせながら子供のように声をあげた。


「コースケさん!参加しましょう!私、やりたいです!」

「じゃあ早速明日エントリーしてくるね!」


 ミリンはそう言うとコウスケのほうを見た。


「コウスケ、頑張ってね!」


 こうしてコウスケの意思とは関係無く大会に参加することが決まった。


みなさんこんにちは!赤槻あかつき春来はるきです!(ハイテンション)


第4章…ユウの過去編を中心にお送りしました!

幼少期のユウ…絶対可愛い(確信)

今回は新キャラの登場はないので定番(笑)のお風呂シーンはありません!期待した人は…まぁいないか!


第5章では大会編をお送りしたいと思います。2章で一瞬だけ登場したあのキャラも登場するのでお楽しみに!(宣伝)


面白いと思ったら今後も読んでくれると嬉しいです。下手な文ですが…これからもよろしくお願いします!

感想やアドバイスなどありましたらコメント欄やツイッターなどに書き込んでくれると幸いです。


余談ですが『足して2つのの高校生活』はこの作品の現実世界でのお話となっております。ネタいっぱいの作品なので暇があれば読んでみてくださいね!

それではまたどこかで!バイバイ!

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