亜人の街 ユートピア
「では準備はできましたか?」
ユウの部屋に集まったコウスケ達はユウの声を聞くと荷物を持った。
「あれ…ユウさんの荷物は?」
コウスケはユウが何も持っていないことに気付いたがユウは不思議そうに首をかしげた。
「荷物ならちゃんと持ってますよ?」
「え…でもユウさん手ぶらじゃん。どこに荷物があるの?よく見たら部屋のものも無くなってるし…」
コウスケがそう言うとミリン達も周りを見渡した。
「ほんとだ。ユウの部屋は綺麗で開放感があると思ったけどベッド以外何も無いね」
「ユリの部屋とは大違いだねぇ」
ユリとサクラが言い合っていると思い出したようにミリンが口を開いた。
「ユウ、それって昼に言ってたスキルってこと?」
「あれ?みんなに言ってませんでしたっけ?」
ユウはハテナといった様子で答えるとユリとサクラもピタッと言い争いをやめた。
「ユウさん、スキルって一体…」
コウスケが言いかけると改まった様子でユウが口を開けた。
「私、今日の依頼でレベル50まで上がったんですよ。そしたらスキルが解放されて〈影操作〉って言うのが使えるようになったみたいなんです」
ユウは自身のギルドカードをみんなに見せるとそこにはスキル欄に〈影操作〉と刻まれていた。
「へー…スキルかぁ…俺もあるのかな?」
コウスケはおもわずそう言うとミリンが困ったような顔をした。
「リーダー、人間はスキルを習得できないんだよ。だからリーダーとミリンはスキルがほしくても発動できないんだよ」
ユリが呆れたようにそう言うとサクラが付け足すように口を開いた。
「スキルは生まれたときから何になるか決まってるみたいで…種族ごとに受け継がれてるスキルと個人のスキルの合わせて2つ発動するらしいよ」
「俺はスキルがないのか…」
コウスケが肩を落とすとミリンが首をかしげた。
「でもユウ。そのスキルとユウが荷物を持ってないのはどういう関係があるの?」
ミリンがそう言うとユウは人差し指を立てて説明を始めた。
「影操作を使えば影の中にものを収納したり、影から影に移動したりできるとカズヤさんが言ってました。移動する場合は知らない場所だとどこに出るかはわからないらしいですけど、一度行ったことのある所なら一瞬で移動できるそうですよ」
ユウがひと通り説明を終えるとコウスケは口を開いた。
「じゃあ荷物は影の中にあるってこと?」
ユウはコクリと頷くと「《アベンジャー》」と呟いた。すると、ユウの足元にある影から銀色の剣が飛び出し、ユウの右手に収まった。
「どうですか?こういうことです。影移動も試してみたら意外と簡単だったのでこれから影移動を使ってユートピアまで行きたいと思います」
「えっちょ…まっ…」
ユウは笑顔でそう言うとコウスケ達の足元にあった影が広がり、コウスケ達を飲み込んだ。
ーーー
「いてぇ…」
影から出てきたコウスケは痛む尻をさするとあたりを見回した。
「ここは…」
災いの森の一角にある拓けた土地に位置する亜人の街『ユートピア』。どうやらコウスケは路地に出てきたらしい。
「どうですかコースケさん。一瞬で着きましたよ」
後ろからふふんと胸を張るユウはとても可愛いらしかった。
「ユウさん、ミリン達はどうしたの?見当たらないんだけど…」
「あ、ミリンならサクラと一緒にカズヤさんに頼まれたものを買いに行くって言ってましたよ。ユリは一旦家に戻るって言ってどこかにいってしまいましたけど」
少し心配そうに言うコウスケにユウは特に気にした様子もなくそう言った。
「そ、そうか…ん?家に帰るって?」
「ユリとサクラはユートピア出身ですよ?仲のいいエルフとダークエルフはここ出身以外はなかなかいませんから」
「へー」
2人はそんな会話をしながら路地を出ていった。
コウスケとユウはミリン、サクラと合流するとユートピアの中心部に位置する大通りへとやってきた。
「おお…これはおっちゃんも欲しがる訳だ」
コウスケ達は武器屋に入るとそこにはアイテム屋KAZUには置いていない装備が沢山あった。
数分後、4人はそれぞれ別れて店内を見てまわるとカズヤに頼まれたもの(一部だが)を手にとった。
「これで頼まれたものは全部?」
コウスケが聞くとミリンが持っている鞄を持ち上げた。
「ここに入ってるのと合わせて全部よ」
「それじゃあユリの家に…ってあれ?ユウはどこ?」
サクラは店内を見まわすがユウの姿はなかった。
数分前、ユウはコウスケ達と別れるとそのまま入り口のほうへと駆けていった。
ユウは店を出るとその瞳を閉じ、心を落ち着かせた。
「──…─…」
物音ですぐにかき消されるようなとても小さな声。
「助けに、行かないと…」
ユウはそう呟くとまるで落ちるように影の中へと消えていった。
ーーー
ユウが影から這い出るとグヂャという音とともに何かを踏んだ。
「ん?これは一体…ッ!」
ユウがそれを拾い上げるとそれは何かに食いちぎられたような『人の腕』だった。
ユウは反射的にそれを投げ捨てるとツンとした匂いが漂ってきた。
「これは…血の匂い?」
ユウが周りを見渡すとそこは食い荒らされたように散らばった死体…血で真っ赤に染まった道路や建物の外壁。先ほどまでユウがいた場所とは全く別の空間が広がっていた。
「いやぁぁ…」
不意に小さな叫び声が聞こえてきた。
ユウは影から銃を取り出すと、その声のするほうへと走っていった。
少し走ると前方に小さな獣人の少女が見えた。
ユウは銃を少女の目線の先に構えた。そこにはユウ達が先日戦ったハイオークよりひとまわり小さいが、禍々しい黒いオーラのようなものをはなったオオカミのような魔物が人型の何かを咥えていた。
「…ッ!」
ユウはその魔物めがけて銃の引き金を引くと、オークに大穴を開けたその弾は一直線に魔物のほうへと飛んでいき…触れる寸前、オーラのようなものに阻まれ、角の先端をかすりとった。
「えっ…」
ユウは驚きのあまり固まっていると、その声に気付いたのか魔物がこちらのほうを向いた。
魔物はユウの姿を確認すると勢いよくユウに襲いかかった。
『グォォォォォッ‼︎』
魔物に触れる寸前、ユウは影の中へ飛び込むと魔物の後ろ側からぬっと飛び出した。
「《アベンジャー》」
ユウは静かな声でそう言うと影の中から銀色の竜剣《アベンジャー》が飛び出し、ユウの右手に収まった。
「はァッ!」
ユウは地面を蹴飛ばすと魔物の死角からその首向かって《アベンジャー》を振り抜く。
ゴトッという音とともに魔物の首が落ちると大量の鮮血が吹き出した。
ユウは《アベンジャー》の剣先を拭くとそれを影へ投げ込んだ。
「なんなんですかあの見たことのない魔物は…銃と剣の起動が曲げようとするなんて…」
ユウはブツブツ言いながらドロップアイテムを回収すると少女のほうへと駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
恐怖のあまり固まっていた少女はユウの一言で緊張が解けたのかユウにしがみついては泣き出した。
「ゔあぁぁぁぁんっ!ごわがっだよぉぉぉっ!」
ユウはそんな少女を抱きしめ返すと「大丈夫、大丈夫だから」と言いながら頭をポンポンと撫でた。