そして再び同じ時は流れる
「…はっ…夢…?」
コウスケが目を覚ますと紅茶の香りが漂ってきた。
「あ、コースケさん起きたんですね。そんなところにいないで一緒にお茶しましょう」
ユウがそう言うとコウスケは寝ていたソファから降りた。
「コウスケ、何かあったの?すごいうなされてたけど…」
ミリンは心配そうにコウスケの顔を覗き込んだ。
「いや…ちょっと怖い夢を見ただけだから大丈夫だよ…多分」
コウスケは手元にあるカップを掴むとズズッと紅茶を飲み干した。紅茶はとても美味しくコウスケの心を少し落ち着かせてくれた。
「そう…あれはただの夢だ…夢なんだ…」
コウスケは震える手を抑えながら自分に言い聞かせるようにひとり呟いた。
コウスケは自室に戻るとベッドへダイブした。
「また…時間が戻されたってことか…?」
両手を閉じたり開いたりしていると睡魔に襲われたコウスケはそのまま、眠りについてしまった。
ーーー
──翌日
コウスケ達はユウの作った朝食をとるとギルドへと足を運んでいた。
「オーク五匹討伐?これいいじゃない!報酬もそこそこ多いし五匹くらいわたし達にはどうってことないし」
「それでもこんだけ報酬がいいってことは沢山の人が失敗してるってことだよな…?簡単そうなのにな!」
コウスケは声をあげて笑うとユウが満遍の笑みを浮かべながら口を開いた。
「オークってあの豚の魔物ですよね!あれ美味しいんですよ!」
いつにも増してハイテンションなユウに2人は苦笑した。
「あ、あのすみません…そこのあなた、少しいいですか?」
3人がクエストボードを覗いていると眼鏡をかけたグレーの髪の女がユウに向かって話しかけてきた。
「私ですか…?」
ユウは不思議そうに首をかしげると女は大きく首肯した。
「僕はスミレ。君、僕達のパーティに入らないかい?」
女─スミレは右手を差し出しながらそういうとパーティメンバーであろう3人組のほうを見た。女性2人とコウスケとは天と地ほどありそうなイケメンがそこには立っていた。
「お断りします」
ユウはイケメンを視界に入れた瞬間、頭を下げてそう言った。
「そう…まぁいいよ。これからは冒険者としてよろしくね」
スミレはそう言い残すと3人組のほうへと帰っていった。
「なんなのあいつら」
ミリンはスミレの背中を見ながらそういうと、ユウのほうへ向き直った。
「ささ、依頼に行こう!美味しい肉が食べれるんでしょ!コウスケ、これ、お願いね」
コウスケはミリンから依頼の紙を受け取ると受付のほうへ歩き出した。
「…あのイケメン、どっかで見たような…?」
コウスケの独り言は誰の耳にも届かなかった。
ーーー
「今日はやけに静かね」
災いの森の中を歩いていたコウスケ達は、ミリンの何気ない一言にピクリと反応する。
それもそうだろう。いつもは聞こえる鳥のさえずりも虫の音も、風の吹く音すら聞こえてこない。聞こえる音といえばコウスケ達の足音くらいだった。
「なんか…嫌な予感がする…」
「えっ」
「あ、いやっ…なんでもない」
コウスケがぼそっと言った言葉はユウの耳に届いていたらしく、慌てるコウスケにユウは不思議といった感じに首をかしげた。
「何か来た…」
ミリンが呟くとザッザッと微かになにかが歩く音が聞こえてきた。
「オークの群れです。音からして5、6匹いると思います」
音のするほうへ目を凝らしていたユウは静かな声でそう言うと2人は頷いた。
やがて足音が大きくなるとオークの群れを確認できるようになった。
『ヴォォォォォォッ‼︎』
4匹のオークに3mは超えるであろうオーク供の頭・ハイオークが姿を現した。
「来たぞ!」
コウスケが叫ぶとユウとミリンはそれぞれの武器を構えた。
「雑魚はわたし達に任せて!」
「コースケさんはハイオークをお願いします」
ユウとミリンはそう言い残すとオークの群れへ突っ込んでいった。
「あいつら…まぁ、俺も殺りますかね」
コウスケは黒い剣を構えるとハイオークへ向かって走り出した。
「上等ですね…」
ユウは向かってきたオークに対し、銃の引き金を引いた。銃口から放たれた魔力を帯びた弾は、右腕、左腿、左肩、右膝とオークの体に拳一つ分くらいの穴を開けていった。
ユウは足元にはオーク(だったもの)がたくさん転がっていた。
「これで、3匹目」
胸を撃ち抜かれたオークがその場に崩れ落ちるとユウは静かな声でそう呟いた。
「なんでッ!なんで効かないのよ!」
不意に聞こえてきたミリンの悲鳴じみた声に、ユウはそちらに目を向けると、そこではミリンがオークに火の魔法を打ち込んでいるのだが、そのオークはビクともせずにジリジリとミリンのほうへ向かっていた。
「はぁ…」
ユウはそのオークのほうへ銃口を向けると頭めがけて引き金を引いた。
「ミリン、大丈夫ですか?生きているオークには火属性の攻撃は効かないんですよ」
オークが倒れるとユウはミリンのほうへ駆け寄った。
「ありがとうユウ…助かったよ」
ミリンはユウの手を取って立ち上がった。
「ユウって魔物に詳しいのね」
「まぁ…伊達に10年間もここで生活してませんからね」
2人はそう言うコウスケのほうへと目を向けた。
「遅いッ!」
コウスケは振り下ろされた腕をかわすとその腕に向かって剣を振った。肉を切る重い感触と共にハイオークの腕を切り離した。
コウスケはハイオークの動きを知っていた。否、既に戦ったことがある。コウスケはそんな考えを嘘だと思いたくて剣を振る。
「はぁっ…はぁっ…」
ハイオークが頭を失って崩れ落ちるとコウスケは荒い息を整えるようにユウ達のほうへと目をやった。
2人はちょうど4匹目のオークを倒したところらしくコウスケのほうを向くとこちらへ歩きだした。
「よかった…前に見た風景と違う…やっぱあれは夢だったんだ」
コウスケが自分に言い聞かせるように息をつくとユウ達は慌てた様子で走りだした。
「コウスケッ!後ろッ!」
「コースケさんッ!後ろッ!」
2人に言われコウスケが振り返ると、オークが斧を振り下ろしてきた。
コウスケは咄嗟に目を瞑った。
──しかし、痛みはいつまでも襲ってこなかった。
そして、痛みの代わりと言わんばかりに生暖かい液体が体にかかった。
「お前、2回目なのに何も進歩してないのか」
不意に変声機越しのようなノイズがかった低い声が聞こえてきた。
コウスケはゆっくりと目を開けると、巨大な鎌を持ち、黒い布を身にまとった人型の『何か』がそこにいた。
「もう死ぬな…これ以上…アイツを悲しませるな」
それはコウスケにそう言い残すと顔も見せずに影の中へと消えていった。
「なんなんだ…一体…」
コウスケが呟くとユウ達が心配した様子で駆け寄ってきた。
「コウスケっ」
「大丈夫ですか?」
コウスケは顔にかかった血を拭うとニッと笑う。
「あぁ…このとおりピンピンしてるぞ」
コウスケがそう言うと2人はほっと胸をなでおろした。
「オーク5匹にハイオーク1匹…結局さっきのオークを倒さないと依頼達成できませんでしたね」
ユウはあたりを見回しながらそう言うと「あ」となにかを思い出したように手を合わせた。
「お肉!お肉ですよ!調理しますから食べましょう!」
ニコニコと笑うユウを見てコウスケとミリンは顔を見合わせた。
「美味いなこれ!」
ユウに渡されたオークの肉(調理済み)を食べながらコウスケは絶賛した。
「ほんとだ、疲れが取れてる気がする」
ミリンの一言にコウスケはひどく共感した。
「オークの肉って食べられるもんなんだな」
コウスケはそう言うとドロップアイテムを拾っているユウのほうを見た。
「〜♪」
ユウは楽しそうに拾ったアイテムを磨いたり太陽にかざしたりしていた。
「あれってユウじゃない?」
「本当だ…あの時の人だね」
物陰から2人の少女がコウスケを覗いていた。
「ん?」
「どうしたのユウさん」
「いえ…誰かに見られてた気がして…」
ギルドへ帰る途中、ユウはキョロキョロと辺りを見回すと「なんでもない」と元気に歩きだした。
ーーー
「おつかれ様でした。こちら報酬になります」
コウスケは受付で依頼達成の報告をするとユウとミリンの待っているほうへと足を向けた。
「ん?あの2人は?」
そこにはユウ達と共に2人の少女が立っていた。
「おまたせ」
コウスケはユウ達にそう言うと2人の少女はコウスケのほうをジロジロとみまわした。
「へー…あんたがリーダーなの?あたしはユリ。よろしくね」
左側を一つに結んだダークエルフの少女─ユリはそう言うといきなりユウに抱きついた。
「あーッ!ユリずるいッ!あ、私はサクラ。今日から同じパーティになります。よろしくお願いしますね!」
ユリとは瓜二つの右側を一つに結んだエルフの少女─サクラはそう言うとユリの反対側に抱きついた。
「え、えっと…ドユコト?」
コウスケは状況を理解出来ずにミリンのほうを見るとミリンはやれやれといった様子で口を開いた。
「この2人、ユウの知り合いらしいの。もともと2人だけのパーティだったらしいんだけど…わたし達の仲間になりたいみたい」
「あーそゆこと…人見知りの激しいユウさんがいいなら問題ないか」
コウスケは状況を理解すると2人のほうを見た。
「俺はコウスケ。これからよろしくな」
コウスケはそう言うとジトっとした目をミリンが向けてきた。
「な、なんだよミリン」
「いやぁ〜別にぃ〜コウスケがなんでニヤニヤしてるのかなぁ〜って思っただけだしぃ」
「べ、別にニヤニヤなんかしてないしッ」
2人がそんな会話をしているとそれを見たユウはあははと笑った。
「これからよろしくね!ユウ」
「よろしくね」
ユリとサクラはなぜかユウだけにそう言った。
ーーー
宿屋に戻ったコウスケは自室のベッドに転がり込んだ。
「ふふ、ふふふふ…」
コウスケと4人のスレンダー美少女パーティ(ユウは男だけど)になったことでひとり、笑っていた。
「これで俺もラノベ主人公かなぁ…」
コウスケがそう呟いていると、扉のほうから視線を感じた。
「なにやってるんですかコースケさん」
コウスケが扉のほうを見ると汚物を見るような目でこちらを見るユウがいた。
「なに妄想してるかは知りませんけど…声は抑えてくださいね。あ、着替えはここに置いておきますから」
ユウは洗い終わったコウスケの着替えを机の上に置くと部屋を出て行こうとした。
「あ、そういえば前にカズヤさんが『武器に名前を付けてみるといい』って言ってましたね。コースケさんはどんな名前にするか決めたんですか?」
コウスケはユウのほうを見ると口を開いた。
「名前か…考えてなかったなぁ…今から考えるか…」
「そうなんですか?まぁ私もまだつけてないんですけどね…夕食になったら呼びますので。それじゃあ私はこれで」
ユウはそう言い残すと部屋を出ていった。
「武器の名前ねぇ…」
ーーー
「〜♪」
コウスケの部屋を出たユウは鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。
「お風呂♪お風呂♪」
ミリンの父親に頼んで自分用のものを作ってもらったお風呂が完成したのだ。ユウはそう呟きながら風呂場へと入っていった。
「ふぅ…」
脱衣所で服を脱いだユウは体を洗おうとボディソープに手を伸ばそうとするとガラッと勢いよく脱衣所への扉が開かれた。
「ユウっ!」
「背中流しに来たよっ!」
そんな声と共にユリとサクラが入ってきた…一糸報わぬ姿で。
「うわぁ!?」
いきなりのことに驚いたユウはボディソープを足の上に落としてしまった。
「〜っ!痛い…」
涙目になって足を抑えるユウはなぜかとても色っぽかった。
「悪かったって」
ユリは悪びれる様子もなくそう言った。あの後、髪と背中を洗ってもらった(強制)ユウは3人で湯船に浸かっていた。(ユウは2人にタオルをつけるように頼んだが断固拒否された)
「あの…なんで2人は私に対してそんなに無防備なんですか?私だって男ですし…それになんで入ってきてるんですか?ここは貸し切りだったはずなのに…」
男嫌いのユウが男と接触しないように作られたユウ専用のこの風呂はユウしか使わないため、あまり広くないのだ。
「いや…これはお礼というかなんというか…」
「半分はあの時私達を助けてくれたお礼。あとは私達の我儘…かな。あの時ユウはすぐにいなくなっちゃったからゆっくり話したかったの」
ユリか言い淀んでいると補足するようにサクラが説明した。
「あはは…気にしないでくださいよ。ほんとに食料を調達してただけですから。でもよく私だってすぐにわかりましたね。他人だったかもしれないのに」
ユウがそう言うとサクラは笑いながら口を開いた。
「ユウくらいしかオークの肉を食べようとする人はいませんからね…」
「あはは…たしかにそうですね…ってことは今日の依頼のときに近くにいたんですね」
「まぁそうなんだけど」
ユウとサクラが話しているとユリは羨ましそうな目を向けてきた。
「ちょっと!なに2人で楽しそうにはなしてるのよ!」
ユリはふくれっ面になってそう言うとユウはユリのほうへ目を向けた。
「ユリはどうして私だってわかったんですか?」
ユウがそう言うとユウは俯きながらブツブツと呟いた。
「…いや…それは…その…やっぱなんでもないッ!」
「まぁ言いたくないなら言わなくていいですよ」
煮え切らない答えだったがユウはそれ以上は言及しなかった。
「あ、そろそろ夕食の支度があるので私は上がりますね」
時計を見たユウは2人にそう言うと湯船を出ようとした。
「そうだユウ。この後、私達の部屋に来ない?一緒に楽しいことしよう?」
ユリが上目遣いでユウにそう言うがユウにはその意味が分からなかったらしく…
「楽しいことですか?じゃあ後でお邪魔しますね」
と言い残して脱衣所へと入っていった。(ちなみに当のユリは顔を真っ赤にして俯いていた)
ユウは可愛い。(断言)
どうも赤槻春来です。
これで一応2章完…かな?今回は今と過去を行ったり来たりしていましたので読みづらいところもあったと思います。もしそう思うならごめんなさい。
新キャラユリとサクラ。この2人は種族違うのに瓜二つということで髪と肌の色を反転させたような2人組です。
なんで風呂かって?日本には裸の突き合い…じゃなかった、裸の付き合いという言葉からありますからね。新キャラ出るたびに風呂のシーンかくぞぉ!(混乱)
わかっているのか初心なのかわからないユウは可愛い!(復唱)
面白いと思ったら今後も読んでくれると嬉しいです。感想やアドバイスなどありましたらコメント欄やツイッターなどに書き込んでくれると幸いです。
それでは、またどこかでお会いしましょう。(会ったことないけど)