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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第1部.彼の過去と彼女達
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彼と2人の初仕事



「ギルド登録完了です。あなたのステータスはこのカードに記載されているのでそちらをご確認ください」


 ユウは受付嬢からギルドカードを受け取るとコウスケとミリンの待つ席へと足を運んだ。


「これでユウも正式にわたし達の仲間入りね」


ミリンはそう言うとユウのほうへ右手を差し出した。


「この右手は?」


 意図を理解できなかったのかユウは首をかしげるとそれに気づいたコウスケが慌てて口を開いた。


「ユウさん、ギルドカードを見せてってことだよ」

「あ、そういうことですか。どうぞ」


 コウスケに笑顔を向けながらカードを渡すユウにコウスケは惚れてしまいそうになったが(もうとっくに惚れている)それを悟られないようミリンの持つユウのカードを覗き込んだ。


「…は?」

「なにこれ…数学おかしくない?」


 ユウのカードを見た2人は驚愕した。ユウは2人がなぜ固まっているのかわからないといった様子で首をかしげた。


「どうしたんですか?驚いたような顔をして」


 ユウの声に我に帰った2人は顔を見合わせるとユウのほうへと顔を向けた。


「ユウさん…ステータス高すぎでしょ…俺達レベル25なのに軽く倍以上あるとかチートかよ…」


 ユウのステータスはレベル1にしては高く、2人の数字を合計したよりも高かった。


「ま、まあこれはこれでいいんじゃない?強力な仲間ができたってことだし」


 ミリンがそう言うとコウスケは若干苦笑しながらも依頼掲示板クエストボードのほうへと足を運んだ。



ーーー



「ユウさん、ホントに武器いらないの?」


 下級かきゅう依頼クエスト・ゴブリン討伐を受けた3人は災いの森に入ると足を蹴飛ばしたコウスケはこんな言葉を口にした。


「大丈夫ですよ。私はいつもの使いますから」


 ユウは依頼クエストに行くのにもかかわらず武器はいらないと言って頑なにアイテム屋へ行こうとしなかった。


「いつもの?なにそれ?」


 ミリンは不思議そうに問い直すがユウは「あとでわかります」とでも言うような表情でコウスケの蹴った石を拾い上げると、スカートにあるポケットの中へとそれをしまった。


『ヴヴヴゥゥゥゥ…』


 低い鳴き声と共に数体のゴブリン達がコウスケ達のまわりを囲っていた。


「ユウさん、ミリン、来たぞ!」


 コウスケの合図と共にミリンは杖を構えた。ユウは自身の右手を胸に当てると、その腕をゆっくりと前へ動かした。すると、そこから抜き出しているかのようにユウの右手に、鋭利な鎖に繋がれたペンデュラムが出現した。


「えっ…なにそれ…」


 その様子を見ていたコウスケはそんな声をもらすが自らも剣を構えるとゴブリンのほうへと向き直った。


「いくぞ!」


 コウスケが叫ぶとミリンは杖を前に突き出した。


「燃えろ!〈ファイアボール〉!」


 杖の先端に小さな魔法陣が出現するとそこから拳くらいの火の玉が前方のゴブリンに向かって放たれた。


「はぁっ…!」


 コウスケは前方のゴブリンに向かって走ると剣を振りかざしコウスケの胴体を切りつけた。


 2人はゴブリンを一匹ずつ仕留めるとユウのほうへ目を向けた。


「…」


 ユウは何も言わずその右手に持ったペンデュラムを鞭のように振り回すと、まわりに残っていたゴブリン達の頭を綺麗に吹き飛ばしていった。

 首のないゴブリンの死体を目にしたコウスケは固まった。

 …それは1週間前、ミリンと出会ったときに目にしたものと同じ光景だったからだ。


「ユウはすごいなぁ…わたしの魔法じゃ一撃で倒すことすら出来ないのに」


 ミリンはそんなことには気づいていないといった感じで素直に感心しているようだった。


「あれは…ユウさんがやったのか…?」


 コウスケがブツブツとそんなことを呟いているとドロップアイテムを拾ったユウが2人のほうへ駆け寄った。


「どうですか2人とも。問題なかったでしょう」


 自慢気にそう言うユウの右手にはもうペンデュラムはなかった。


「う、うんそうだね…」

依頼クエストも達成したしギルドへ戻りましょう」


 2人はそれぞれそう言うとユウは「わかった」と言うように帰路に着く2人の後をついていった。



ーーー



「こんにちは〜」

「おじゃまします」


 アイテム屋KAZUと呼ばれるこの店はコウスケ達のよく行く場所となっていた。

 2人はそんな挨拶をしながら店内に入るとそれに続くようにユウが不安そうな表情をしながら入っていった。


「おう、いらっしゃい。誰かと思えばあんちゃんでねぇか」


 店の奥から出てきた50くらいのハゲた長身の男はそう言いながらコウスケ達のほうへとやってくるとユウを見て一瞬驚いた表情をしたが、すぐに何事もなかったように口を開いた。


「…これは珍しいなぁ…あんちゃん達が新しいを連れてくるとなんて」

「珍しいって…まだ会って数日なんですけど…」


 おどけたような調子で男はそう言うとユウの顔をジッと見つめた。


「俺はカズヤ。この店の店長をやってるんだ。姉ちゃん、あんちゃんの新しい仲間か?これからよろしくな」


 男─カズヤがそう言うと顔を上げたユウは安心した表情に変えると口を開けた。


「私はユウです。よろしくおねがいします。…あと、私は男です」


 ユウが言い終えるとカズヤはユウの頭をガシガシと撫でた。

 普段なら男(コウスケも例外ではない)に触れることを頑なに拒否するユウだかなぜかカズヤの手をどけようとしなかった。


「それはそうと…今日は何の用だ?」


 ユウから手を離したカズヤはミリンのほうを見るとそう言った。


「あ、そうそう…叔父さん、この前頼んだ装備できた?」


 ミリンはカズヤの姪っ子のため、カズヤはミリンには少々甘いところがあった。

 ミリンの言葉にカズヤは思い出したかのように店の奥へと戻っていった。


「珍しいね。ユウさんあんなに男に触れられるの嫌がってたのに。何かあるの?」


 コウスケは疑問に思ったことを口にするとユウはなぜだろうといったふうに首をかしげた。


「なんかカズヤさんは大丈夫です。どこかで親しくしていた感じがして…安心できるんです」

「不思議なこともあるのね」


 ミリンがそう言うと奥から戻ってきたカズヤがカゴを持ってきた。


「これでどうだ?色は違うけどあんちゃんと同じのだぞ」


 カズヤはカゴの中からコウスケの持つ黒い剣と全く同じ形の金、銀の剣を取り出すとコウスケとユウに一本ずつ渡した。


「あれ?二本もあるの?」


 ミリンが首をかしげるとカズヤはおどけたように口を開いた。


「素材が多かったからたくさん余ってな…暇だったからもう一本作ったんだが…ちょうどいいタイミングだったな銀色のほうは姉ちゃんにやるよ」


 カズヤが話し終えると興味深そうに渡された剣の眺めていたユウがミリンの肩を叩いた。


「これの素材ってドラゴンの骨ですか?」

「お、よくわかったな姉ちゃん。そいつ反応本人の使い方によって学習、成長していくんだ。あ、そうそう姉ちゃんにはこいつもやるよ」


 カズヤはカゴから黒い率の装飾の入った拳銃を取り出す渡すとユウは目を輝かせた。


「武器に名前をつけてみないか?ミリンが使うような杖はあんまり意味がないんだがあんちゃんや姉ちゃんが使う武器は進化するといつかすごいことが起きるぞ」


 カズヤは説明していたがユウはその銃が相当気に入ったのか色々なポーズをとっていた。

 3人はそんなユウを見てあははと笑うとそれに気づいたユウが不思議そうに首をかしげた。


「ユウさん…可愛い…じゃなくて!用も済んだしそろそろ帰ろう」


 コウスケはそういいながら入り口のほうへ向かうと2人もそれに続くように歩き出したら。


「カズヤさん、ありがとうございます」

「ありがとう、叔父さん」


 ユウとミリンが会釈をするとカズヤは笑顔で手を振っていた。


「おうよ!またな!ミリン、姉ちゃん、それにあんちゃんも」

「カズヤさんッ!私は男です!なので姉ちゃんはなしですッ!」


 ユウはそう言いながら店を出ると店内からかわいた笑い声が聞こえてきた。

 ミリンも店を出ると3人は宿へと足を運んだ。

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