表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきにーなのゲーム録  作者: にゃの
嘘つきにーな
9/24

脱出ゲームをお楽しみください


意識を取り戻すと地面に倒れていた。

目の前には心配そうな顔をしているののかがいる。


「よかった‥。目覚ましたんですね。」


『ぽんちょさん、やまさん、アヤメさん、にーなさんの意識が戻ったので30秒後に勝負を再開致します。』


あーね。くそ女を殺した後、私も死んだわけだ。

いや、我ながらあんな出欠多量でよくあそこまでもってくれた。ののかを殺されずにすんだ。

だが、ようやく1回か。


「ふふふ、にーなちゃん。貴女、やったわね?やってくれたわね?

こっちが遊んでりゃいい気になっちゃって。許さないわよ。100回殺したってお釣りが出るわ。」


あと2回もあの女の相手をしなきゃいけないと思うと気が滅入る。


「でもやっぱりただ殺すなんてヌルいわよね。

手足切り落として目ん玉潰して内臓1つ1つきれいに摘出して‥‥それともそちらのお嬢さんにそれをしたほうが貴女には効果あるかしら。

それでも足りないわよ。もっとなにかー


「ギブアップします!」


くそ女が話し終わる前に闘技場にギブアップの宣言が響き渡る。


「‥まぁ、そうなるわよねぇ。」


宣言したのは水男だ。


『やまさんがギブアップしましたのでチームのののの勝利となります。勝負を終了致します。チームばぶりしゃすの所持金の半分である1350万リルドがチームののののものとなります。以上です。それぞれのチームルームにお戻りください。

なお、チームのののは明日も勝負があるため30分以内にチームルームから退出頂きますようお願い致します。』


「‥勝て‥た‥。」


勝利のアナウンスが流れ、ようやく勝ったのだと確信がもてた。体から力が抜け、その場に座り込む。

水男が素敵すぎる。敵ながらもはや私たちの味方と言っても過言ではない活躍っぷりだ。


「にーなさん!やりました!やりましたね!!」


「え?あーと‥うん。なんか勝った感全然ないけどね。」


もし今回のルールが純粋に殺し合いだけだったら私たちに勝ち目はなかったと思う。

やっぱり私は運がいい。


「あらあら、たかが1勝でずいぶんと喜ぶのね。可愛いわぁ。」


くそ女がこちらに近づき、まだ腰が抜けて座っている私に話しかけてくる。


「またやり合いましょう。私まだ満足できてないもの。不完全燃焼だわ。」


「ごめんだわ。あっちいってほしい。」


「そ、そーだ!そーだ!あっちいけ!

にーなさんがびびっちゃって震えてるでしょ!!」


「あんたはちょっと黙っといて。って誰が生まれたての子鹿だ。」


「‥‥?ののにはレベル高すぎてよくわからないです。」


「ちょっと‥人がシリアス気味に話してる時に漫才やめてくれるかしら?」


「話すことない。勝てない相手とは戦いたくない。今まで通り楽しく初心者狩りでもしてれば?」


「ふふ、つれないわね。この欲求を満たせるのなんてそうそういないんだけど。こんなに濡れたの久しぶりよ?その内、嫌でも戦ってもらうわ。それじゃ、また。」


そう言い、自分のチームの方に戻っていく。


「あんな気持ち悪いサイコ女、初めて見た。」


「2度と関わりたくありませんね‥。」


入れ替わるように水男と操り男がこちらにくる。


「あの‥ありがとうございました!」


は?なにが?


「にーなさんが何が?私は忙しいからあんたらと話してる暇はない。と言いたがっています。」


「そこまで思ってない。」


つか、あれ?私、言葉に出せてなかった?

ののかが私の思っていることを過剰に代弁する。

そういえば私、対面で男の人と話すの苦手だった。

自分がすんごく緊張していることに気づく。

チュートリアルのときはほんとに頑張ったな、私。


「いや、あの‥サッカーとかでも試合の後とかって礼して終わるじゃないですか。それみたいな‥。」


いい子だな。水男。

このゲームに向いてない。


「あーね。殺し合いにお礼もくそもないだろ。早死にしそうだな、こいつ。ってにーなさんが


「それ、言わなくていいやつ。」


テレパシーで私が言ったで通るかもしれないが堂々と心を読むスキルを使うな。

隠せるものは隠しとけ。つか私の心を読むな。

もう自分で話すから黙ってろ。


罵倒を頭に思い浮かべ、ののかを睨む。

目が合ったがすぐ逸らされ、音のでない口笛を吹いている。


「あっと‥ちょっと待って。‥‥よし。

水男‥‥やまさんとぽんちょさんに450万づつ譲渡したから承認して受け取ってください。」


勝負で勝ち取った900万分を2人に返した。


「え‥なんでですか?悪いですよ‥‥。」


「そんなこと言ってる立場じゃないですよ。

あのくそ女の言う通り、今持ってる端金じゃ誰も相手してくれませんから。私なら黙ってありがたくもらいますけど。まぁ、貴方がいないと私たちは負けてましたし。450万プラスしても厳しいところですが。」


水男は少しの間悩み、渋々受け取った。

操り男は‥そうでもないな。嬉しそうに受け取った。


「仲間を増やすにしてもしなくても今日中に次の勝負の日程を決めた方がいいです。できれば明日勝負するくらいの感じで探してください。

死ぬ気で頑張ってください。もし生き残れて、もしこれに恩を感じてるなら余裕ができたときに返してください。」


「は‥はい!絶対このご恩はいつか必ず返します!ありがとうございます!」


いい子だなぁ。なんでこんなゲーム始めたの?操り男は少しは見習えよ。


まぁそれはともかく、私が今したことは保険というか投資というか。

もし仮にこの男が死なないでこのゲームで生き残って、もし仮に大きなチームになったりしたら敵でいるより仲間でいてくれたほうがいい。

私たちがピンチのとき、助けてくれるかもしれない。

いや、水男の性格からして必ず助けてくれる。


それに、不器用なりにも自分が持っている正義感を曲げないところが少し姉とダブった。

私やくそ女なんかよりこういう人こそ生き残らないといけないんだと思う。


水男が再度、深々お辞儀をして自分たちのチームルームに戻る。


「にーなさんは素直じゃないのです。」


「‥‥もう私の心読むことに躊躇いがないな。‥‥つかごめん。勝手にお金渡しちゃった。」


「いいですよ。反対なら途中で止めてましたし。にーなさんらしいというか。」


知り合ったばかりで私のなにを知ってると言うのだろうか。


「まぁ、でもお金渡すくらいなら仲間にしてもよかったんじゃないですか?」


「別にスキルが強いわけでもないし、メリットがなさすぎる。」


つか、男が同じチームにいたら私喋れなくなるし。


「すんすん。‥可愛い。」


「もうあんた、あっち向けよ。

それよりもう次の勝負まで全然時間がない。

今回はゲーム内で街をうろつきながら話そう。」


「わかりました。

あ、この連戦が終わったらのの、にーなさんちの近くに引っ越そうと思ってます。

そうすれば勝負の前日とか楽じゃないですか?」


「いいよ、そういうの。お金は大事に使えし。それに‥。」


「もうのののお金ですもん!引っ越しますから!」


「‥‥勝手にして。どうでもいい。」


それにぷっちょとの勝負に勝ったらあんたはこのゲームを続けなくていいんだ。無理して引っ越す必要なんてない。


「ほら、街に行くんですよね?早くいきましょうよ。」


自分の髪の毛を触る。

ののかを殺した感触がまだ残っている気がする。

あんなことをしてしまったがぷっちょに勝った後は友人として現実世界で仲良くやっていけるように頼んでみよう。

ののかとならいい人間関係を築けそうだ。

そう思うとののかに引っ越してもらうのも悪くないかもしれない。

ここまで思ってののかのほうに目をやる。

どうやらこちらを見ていないようだ。よかった。


街に戻り、広場の噴水の淵に並んで座り、次の勝負のルールを確認する。


「あーと‥‥脱出ゲームね‥よくアプリとかで見るやつかな?」


「ですかね?うー‥のの、頭使うの得意じゃないです‥。」


「え?得意なものあるの?」


「‥寝るのは好きですね。」


「ごみ。」


かくいう私もここまでの戦いでもわかる通り、頭を使うのは得意なほうではない。

この脱出ゲームとかいうのが謎解きの類だとして、相手に頭いいやつとかいたら勝つの難しそうだな。


「あ。もし謎解きならあんたが相手の心読めばいいんじゃん?

後手になっちゃうけどそれならついていけるかも。」


「あ。そうですね。全く気付きませんでした。」


1人くらい頭が良さそうなやつが仲間にしたほうがいいかもなぁ。

私含め、馬鹿しかいない。


その後は軽く話をして解散した。

明日の勝負は10時からだから早めに休ませないとののかがまた遅刻する。


家で1人でカップラーメンを食べながら姉の写真を見る。そして姉が残したメモを手にとる。

ゲームのことをこと細かくメモしてあるが何度も読み直したときにつく曲線のような癖がこのメモにはついてなかった。

姉はほとんどこれを読み直してない。あの人は頭が良くてメモを残さずとも大体のことは頭で記憶できる人だ。

このメモは私の机の引き出しの上部分に貼り付けられていた。どう考えても私に宛てたメモにしか思えない。


姉はこのゲームで命を落とすことを想定してメモを残したのだと思う。

姉の死後、私がこのゲームを始めるように。

何故かなんて私には1つしか浮かばない。




『時間になりました。中央に扉が出現しますのでそちらから勝負会場にお越しください。5分以内にこなければ不戦敗とみなします。』


次の日、勝負の時間になり、ののかと一緒に闘技場に向かう。


今までの闘技場とは違い、木々に囲まれた薄暗い森に出た。

今いる場所は約30メートル四方に木はなく、よくあるダンジョンゲームの一部屋のように見える。

左右に目をやるとこれもダンジョンゲームでよく見る木々に囲まれた道がある。


「めんどそーだなぁ。」


「にーなさんの髪の毛を自在に操るスキルで全部木を切り倒してくださいよ。」


「あーね。楽でいいかも。」


「おい!そのスキルはずるいぞ!!正々堂々戦え!」


少し離れたところに目をやる。

いかにも体育会系女子っぽいショートヘアにハチマキにジャージ姿の女がいた。今回の対戦相手だろう。

もちろんいることを知ってののかに聞こえる声で言ってもらった。

これで相手に髪の毛のスキルを認知してもらえただろう。

そんなことよりも解せないというか予想通りというか。


「なんであんた、1人なの?」


「違うチームにみんなどっか行っちゃったのだよ!1人だよ!1人のなにが悪いんだよぉ‥‥。」


うるさいやつだと思ったら急にしおらしくなった。うるさい兼めんどくさいやつか。


とにかく予想通り、チームの人数が減っていた。

昨日見た段階ではチームの所持金は2700万あったのにさっき見たときは800万になっていた。


チュートリアル戦を観戦しているチームから勧誘が来たのだろう。

私にもいくつかきていた。


すぐギブアップした役立たずのののかに来ないのはいいとして、こいつにも来てないってことは弱いと考えていいだろう。

あまり美味しい勝負とは言えないが負ける危険が少ないのであればそれに越したことはない。


「そ‥そんなことはいいの!正々堂々楽しく勝負をしよう!うちはみすずだ!スキルは身体能力の強化で制限事項は体のどこかが地面と接触しているとき以外はスキルを使えない!よろしく!」


ばかかこいつ。いや、前回のののかのようになにかしらの理由でわざとばかを演出しているのかもしれない。

この鬱陶しいキャラも演技かもしれない。


『いやぁ、なんか本気で言ってるみたいですよ、この人。』


なるほど。ばかの駄あほのチンパンジーか。

勧誘がないのはスキル云々より性格の問題だろう。こんなわざわざ自分の手の内を明かすばかなんて仲間にしたくない。


まぁ、好都合だ。ここはあえて乗ってやろう。


「正々堂々ね。いい響きだと思う。

私はにーな。私のスキルは変幻自在に自由に髪の毛を操れるスキル。制限事項は特にない。

こっちがののか。スキルはテレパシーで複数人と心の中で会話ができる。制限事項は視界に入ってる人にはスキルは使えない。よろしくね。」


「お‥おおお‥おおおおお!!」


「は?な、なななに?」


いきなり雄叫びをあげたかと思えば握手をされた。


「にーなとののかみたいな人と勝負でよかった!チュートリアルのときは教えてくれなかったし馬鹿にされたもん!よかった!うちは間違ってないよね!?勝負は正々堂々やらないとだよね!?」


大間違いだ。

だから勧誘もこないし、あんたみたいなのは早死にするよ。


「とりあえず手離して。」


無駄なスキンシップは苦手なのだ。やめてほしい。


『うー‥ののだってにーなさんの手触ったこたないのに‥。』


『気持ち悪いから話しかけないでくれない?』



『それでは時間になりましたのでチームのののとチームみすずの勝負を始めます。

ルールは脱出ゲームです。決められた出口に1人でも先にたどり着いたチームの勝利です。この勝負ではお互いへの攻撃を禁止します。木のない道が続いておりそこからハズれると戦闘不能となります。戦闘不能になりましたらスタート地点からやり直しとなります。それ以外は特にルールはありません。』


なるほど。木を切りながら進むのはできないのか。

でもなんか意外とヌルいルールだな。戦闘行為が禁止されているということは道をハズれる以外に死ぬことはないようだ。運がよければ早くゴールできるし、更に道なりを忘れなければそこまで時間をかけずゴールできるだろう。

たぶんこんなアホには負けないと思う。


『それでは始めてください。』


アナウンスが終わると同時に化物の雄叫びのような声が響き渡る。

森を掻き分け二足歩行の5メートルはある牛の化物がこの部屋に入ってきた。


「おお!ダンジョンといえばモンスター!モンスターといえばお宝!くうううう!アツくなってきたぁ!」


ふざけている。

こういうのがいるならはじめからルールで説明しとけ。気を緩めた私がばかみたいだろ。

ののかは状況が飲み込めていないのか口を開きながら呆然としている。私よりあほ面だ。


「うらぁ!!」


みすずが牛化物の足に正拳突きをくらわす。

右足が根元から吹き飛び、牛化物体勢を崩す。


強い。身体能力の強化というからどれほどかと思ったが、あれなら人間を1発で粉々に吹き飛ばせるだろう。


「とどめだぁ!!」


体勢を崩した牛化物の頭めがけて飛び跳ね、ぶん殴る。が、その攻撃には牛化物はビクともしない。


「ぴぎゃー!しまったぁ!またやってしまったぁ!」


あーね。体の一部が地面についてないとスキルは解除されるわけだ。しかもまたとか言ってるしチュートリアルでも同じような失敗をしたのだろう。ここにいる全員ばか丸出しだ。


牛化物がみすずを腕で掴み嚙み殺そうと口を開ける。


「ぴぎゃあああ!!死ぬううう!!」


食い殺される前に髪の毛のスキルで牛化物の首と胴体を切断した。


「ぷぎゃん!!」


みすずを掴んでいた腕の力が緩み、みすずが地面に叩きつけられる。


「いたい!でもすごい!にーなすごい!あんな化物を1発で倒すなんて!くううう!かっこいいなぁ!

うちだとあんな高いところは攻撃できないから。助けてくれてありがとう!」


助けた?冗談だろ?


「いや、あんなのいるなんてびっくりだよ。

とりあえずさ、一緒に行かない?どうせ目指す出口は同じなんだしさ。」


「うん!そうしよ!よかったぁ。

うち1人だからずっと不安だったんだ!」


みすずは私の提案を快く受け入れてくれた。

助かる。こいつがいないと私は髪の毛のスキルが使えなくてののかも私も一瞬で化物に殺されるだろう。

化物がどれくらいの頻度で現れるのかわからない。戦う以外の有効な手段が出来るまでは一緒に行動したほうが無難だろう。


「こっちだって同じだ。みすずのスキルがあると心強い。」


「どーしよ!にーながいい人すぎて、うち泣きそうだよ!」


こういうばかには仲間意識をちらつかしてやったほうが扱いやすい。


「おい、木偶の坊。行こ。」


「は、はい!」


私の声に反応してののかがこちらを見て返事をする。

これで反応するのもどうかと思うが。

私のほうを見て、ののかが小さく頷く。

とりあえずみすずと一緒に行動することに同意してくれたようだ。


「なははは!にーなはののかに厳しいのな!

でも信頼関係があってこそでしょ?少し羨ましいよ。うちなんか‥‥見捨てられたしな‥。」


「そのめんどモードやめて。私は言いたいことは誰にでも言うから。信頼関係?

私はこんなアホのこと信頼なんてしてないし。

敵なら知ったこっちゃないけど共闘するならそのめんどモードすごい嫌だ。嫌い。直して。」


「わ、わかってるよ!ごめんって!」


知ってるぞ。こういう体育会系女子は気を遣われるのを嫌うんだろ。なら私は全力で思っていることを全部言った方がこいつの言う信頼関係とやらを築けるわけだ。


ののかが後ろから私の肩に手を置いてきた。


「ののにはわかってるのですよ。にーなさんが病院にいくべきほど極度のツンデレってことくらい。ちゃんとのののことを信頼してくれてることくらい。」


「死ね。あんたは少しヘコめよ。

私がいつデレたし。」


「はふ‥そーゆー否定しないとこですよぉ。」


‥‥あ、やべ。殺すところだった。

冗談抜きにしてゲーム内のののかはぶち殺したくなるくらい腹がたつときがある。

まだ現実世界のおどおどしたののかのほうが精神衛生的にマシだ。


「調子乗るな。」


「ふぐっ!‥地味に痛い‥!」


殺すかわりにすねを軽くつま先で蹴ってやった。


「ほら!行こう!また牛のお化けがくるから!

うちに続けー!」


誰も返事をしない。

半べそをかきながらこちらを見てくるが知るか。


なんだ、この仲良し3人組が仲良くゲームをしてるような感覚は。

緊張感のかけらも無い。


命を落とすゲームだぞ?

大金をかけてるゲームだぞ?


2人のうちどちらか一方でも戦闘不能になられると非常に困る。

みすずが死んでも気持ち的にはどうでもいいがいつ化物に遭遇するか分からない中、はぐれて私がスキルを使えなくなる。

ののかが死んでも気持ち的にはどうでもいいがはぐれて知らぬ間に3回死なれても困る。


なのになにおちゃらけているのだ。

私だけでも危機意識を絶やさないようにしなくては。


さっきの牛化物ははっきり言って雑魚だった。恐らくこのゲームを理解させるための、謂わばチュートリアル的な敵だろう。

奥に進めば進むほどより強い化物に遭遇することになると思う。


勝手に突っ込まれてあっけなく死なれるのも鬱陶しいな。


「みすずのスキルは力を込めると発動するの?」


「ん?違う。体の一部が地面についてれば勝手に発動してくれるの!今もだよ!すごいだろ!」


「へぇ、じゃぁいつでも攻撃に転じられるのか。強いね。」


「それだけじゃないよ!そーだな‥あ!ちょっと止まって!見ててね!」


私たちをその場に立ち止まらせると自分だけ前の方に行く。

突然、茂みから木の矢がみすずめがけて飛んできてみすずに刺さ‥らず、みすずに衝突した矢が粉々になる。


「うちは防御力も高いのだ!どやぁ!」


「いや、それもすごいけど、どーしてそこに罠があるのわかったの?」


相変わらずのくそ運営は罠については何も言ってなかったはずだ。


「えーと‥‥勘!」


『にーなさん‥この人、頭以外すごく強いんじゃないですか?』


『同感。攻撃、防御だけじゃなくて、第六感まで強化されてるのか?それとも、もともと野生児だからか‥?どっちでもいいけど頭弱いからそんなにビビる相手ではないかなぁ。』


勝手にスキルが使えなくなるのに跳び上がる馬鹿だ。脅威ではない。


少し歩くとスタート地点のような広い場所にでる。道は3つに別れており、中央にはバカでかい猫の化物が眠たそうに座っている。


「よっしゃあああ!バトルだ!」


みすずが大声を出すのと同時に猫化物の目が大きく見開く。

静かにしとけばそのまま通れたんじゃないだろうか。


「かくごおおおお!」


みすずが猫化物めがけて拳を振るう。

が、避けられ拳が空を切る音が響く。

みすずが遅いわけじゃない猫化物が早すぎるのだ。


そのまま猫化物はののかの方に迫ってくる。

引っ掻かれる寸前でののかを髪の毛に巻きつけこちらに引き寄せる。


「にーなさん!すいません!」


「いーよ。期待してないから。」


ののかの方を見ないようにしてみすずの方を見ながらののかを助けるのはなかなか難しい。

大変よくできました、私。


「私の背中にくっついて、首にしがみついて。

絶対離れないで。」


「は、はい!」


片方のポニーテールを木に刺し、その髪を短くして木に移動する。移動してる時にもう一つのポニーテールを別の木に刺す。

これを繰り返せば空中での移動ができる。

ののかが落ちないよう首を絞めてくるのが難点だな。苦しい。

木と木を移動する合間に猫化物に攻撃をする。が、かわされてしまう。


「早くてなかなか攻撃が当たらない。」


「もうみすずちゃんに任せてこのまま空中を逃げてましょうよ!みすずちゃん、無駄にやる気ですから!」


「‥なんでちゃんづけ?」


「心読んで歳下って知りましたので!」


「‥‥なんで私はさんづけ?」


「え?!にーなさんにちゃんづけ!?ちょっと!笑わせないでくださいよ!落ちるじゃないですか!」


「落ちろ。糞虫。」


こんな状況でもののかに流されていまいち緊張感がもてない。

いいことなのか悪いことなのか。


「あああ!ムカつく!!ムカつく!!むっかつくううう!」


猫化物に攻撃が当たらなくて明らかにいらいらしているみすずが地面をぶん殴りはじめた。

地面が揺れ、ヒビが入り、しまいには部屋全体の地面が割れた。

地面が割れ、猫化物が体勢を崩す。


「おっしゃあああ!!ちゃーんす!!」


「なんつー。」


この馬鹿力が。考えてやったのかたまたまなのか。私たちが地面にいたらどうするんだ。

まぁでもとりあえず猫化物は倒せそうだな。


猫化物に駆け寄るみすずの足が飛び跳ねようと足を曲げる。


「駄あほ!跳ぶな!そのまま足を殴れ!」


「ぷぎゃ!?そぉだったぁ!!おりゃああ!」


勢いのまま猫化物の左前足を拳で文字通り粉砕する。前足の片方を無くした猫化物がその場に倒れこむ。

動けなくなった猫化物の脳天めがけて髪の毛の槍を突き刺す。

血まみれの脳みそが飛び出し、頭と左前足から流れる液体で地面を赤く染める。

しばらく痙攣した後、猫化物はぴくりとも動かなくなった。


「見たか!これがにーなさんの必殺技、なんでもぶっ壊せるめっちゃくちゃ硬い髪の毛だ!」


誰に言うでもなく何故かののかが声高らかに自慢げに叫ぶ。私におんぶされながら。


「耳元でうるせぇ。あんた、あれだな。ちょっと親しくなったらすぐ調子乗って鬱陶しくなるタイプな。喧嘩売ってんの?つか降りろ。」


「ネット上だけなので許してください!」


「目ん玉取り出してピーナッツ詰め込みたい。」


「いちいち怖いよ!にーなさんは!」


「に、にーな!」


拳を返り血で染めたみすずの声が響く。


「あんたも声でかい。もう少し落として。なに?」


「あ、ありがと‥。うち何でか知らないけどいつも飛び跳ねちゃうんだ‥‥。またやらかすとこだった‥。」


申し訳なさそうにもじもじしながら話す。

これはこれで似合わない。気持ちわるい。


「あーと‥あれだ。たぶん、頭さえ潰せば一撃で仕留めれると思ってるからつい狙いたくなるんじゃない?

別に一撃で仕留めなくていい。動きさえ止まれば後は嬲り殺せるんだから。攻撃するとき跳ばないように意識して。

今は私たち‥‥私だっているんだから尚更、一撃に拘る必要ないよ。」


「に、にーなさん!なんで言い直すの!?

ののだっていますよ!?」


「役に立ってから喋って。」


「喋んなくてもテレパシーあるから大丈夫です!」


「どうしよこいつ。」


「にーな!いや、師匠!

もっとうちに戦い方教えて!師匠に教えてもらえればもっと強くなれるかも!」


返り血のついた両手で私の肩を掴み懇願してくる。

きたな。めんど。だる。

その跳ぶ癖さえなくせば十分強いだろ。

私になにを教わるというのだ。


「じゃぁ、私のいう通りに戦って。だから離して。」


「押忍!!よろしく!」


まぁ死なれてもだるいし、好都合か。


「ののか‥じゃなくて!姉弟子もよろしく!」


「ののはにーなさんの弟子じゃないですよ。」


「ちんかすだよ。」


「ぬー。今日はにーなさんのツン期が長い‥。

にーなさんのちんかすっておかしいですよね?

せめてまんかー


「もう行こ。時間が無駄。」


その後は罠だったり化物だったり別れ道だったり、とりあえず散々だったが、みすずがほとんど対処してくれたおかげで大分楽に進めた。


罠だろうと化物だろうとみすずが直前で気づいてくれたから不意をつかれることもなかった。

意外と心強い。


化物は奥に行くにつれてやっぱり強くなっていったがみすずが飛び跳ねなければなんてことはない。

苦戦は特にせず最奥までこれた。

入り口の看板に「last」と書いてある広い場所に出たのでおそらく最奥でいいと思う。

中央には今までとは違いそこまで大きくない鬼のような鎧を着た化物が刀を腰にかざし座っている。

奥に扉が見える。恐らく出口だろう。あの鬼が最後の番人というわけだ。


「いよいよラスボスかぁ。くううう!アツくなってきたぁ!!」


「最後はアドバイスしないから自分で戦ってみて。絶対飛び跳ねるなよ?」


「押忍!!師匠!!」


その間に私たちはのんびりゴールしよう。

悪く思うなよ。


『なんか戦ってる間にゴールしちゃうなんて可哀想ですね。』


『そんな感情、肥溜めにでも捨てて。こっちだって負けられないんだから。』


『‥そうですね。すいません。』


ののかは物分かりがよくて助かる。

ここで正義感振りかざして勝手なことされたらたまったもんじゃない。


私だって人間だ。少しくらいそういう感情はある。それでもなにより大事なのは私自身だし、姉の復讐である。そんな1円の価値もない感情なんて押し潰殺してしまえばいい。


「いっくぞおおお!うりゃあああ!」


みすずが鬼めがけて駆け出す。

よし、あとは今のうちに隅っこを歩いてゴールを目指すだけだ。


鬼が立ち上がることなくその場で抜刀の構えをする。

問題ない。化物に噛まれても傷一つつかなかったみすずに斬撃は効かないだろう。

みすずにはなるべく長い間、戦っていてもらわないと困る。


鬼が下から上に向けて刀を振り抜き、空を切る。

なにをやっているのだ?みすずとの距離はまだ刀が届く距離ではない。


「ぎゃ!!なんでえええええ!?」


直後、風切り音が部屋に響き、みすずの体が空高く舞い上がる。


信じがたいが斬撃の衝撃波でみすずを宙に掬い上げたみたいだ。

みすずが落ちてくるのを真下で待ち伏せしている。みすずのスキルを把握しているのか?


「ののか。ゴールまで走って。私が援護するから。」


「は、はい!」


ゴールまで走って大体10秒ほどでたどり着けると思う。

ののかさえゴールしてしまえば私たちの勝ちだ。それまで適当にこの鬼の相手をしてやればいい。

いくら強くたってそれくらいなら私でもできそうだ。


上空を見ていた鬼の顔が突然、ゴールに向かうののかの方に向く。そしてののかのほうに駆け出す。

どうやらゴールに1番近い相手を狙うようだ。させない。


まだごきぶりくらいの大きさに見える落下中のみすずに視線をやりつつ髪の毛を無数の針に変える。


目的はののかをゴールまで行かせることだ。鬼に致命傷を与えることじゃない。

なら威力より手数だ。鬼をののかのところに行かせないようにすればいい。


数万本の髪の毛の針が鬼に突き刺さ‥らない。

最小限の動きで避け、避けきれないものは刀で受け流しつつ、ののかとの距離を詰めて行く。


ふざけんな。ゲームのNPCって普通こんな強く作らないだろ。

身体能力だけなら今まであったどの相手よりも強い。


鬼がののかに追いつき、刀を振りかざす。


「くそ!」


仕方なく髪の毛でののかを巻きつけ、こちらに引き寄せる。

一撃目はなんとかかわしたが、すぐさま二撃目を放つ。


ののかをこちらに引き寄せたときに血飛沫が腕につく。


「ののか!」


「に、にーなさん‥‥ののの体と首くっついてますか‥‥?」


震えながら自分の首に手をあてている。


「だ、大丈夫。頬が少し切れただけみたい。」


危なかった。まさかあんなに早く二撃目をくりだしてくるとは。

油断してたらののかの首は吹っ飛んでいただろう。


「ぷぎゃん!」


落下してくるみすずを髪の毛で巻き取りこちらに引き寄せる。

スキルが使えないであの高さから落ちれば間違いなく死ぬだろう。

それは困る。


鬼は元いた位置にまた座り始めた。


なるほど。こちらから攻撃するかゴールに近づかなければ、あっちからは何もしてこないのか。

さて、どうしよ。


「くっそお!師匠、ありがと!次は絶対ぶん殴ってくるから!!」


「いや‥待って。落ち着いて。死ぬだけだから。」


「なはははは!ひでぇ!」


全然笑うところではない。現に私がいなければ今頃、振り出しだぞ。


真っ向から挑んでも勝てるかわからない。

今のところ攻撃は全て避けられているし、とどめをさせるような大振りな攻撃は当たらないだろう。

とりあえず遠距離攻撃ができる私が攻撃を仕掛けて様子を見るのが無難かな。


「ちょっとそこにいて。私がやるから。」


「ぱ!?やだやだ!うちがやるから!

師匠がうちだけでやれって言ったんじゃん!!

うちまだ負けてない!!」


こいつのぱ行ムカつくな。

状況を考えてほしい。

思った以上に相手が強いのだ。

また吹き飛ばされて串刺しにされるのが目に見えている。


「勝算あんの?」


「あるよ!これからいろいろ考えるし!」


だめだ、こいつ。

ののかよりちんかすだ。


「やめて。みすずじゃ勝てないから。」


「なっはっは、甘いね、師匠。

うちはまだ実力の9割くらいしか出してないから!これからだよ!師匠!」


ほぼ全力である。

どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか。


「はふ‥。」


1番の役立たずが笑いを堪えているのが無性に腹が立つ。


まぁ、みすずがそう言うのであれば止める必要もない。

仮にみすずがあの鬼に殺されたとしてスタート地点に戻ったら、私たちはみすずがまた、ここに戻ってくるのを待っていればいい。

じっとしていれば鬼は攻撃してこないし特に制限時間もない。

あわよくば、みすずがここにたどり着く前にギブアップか3回戦闘不能になればなおさらいい。


せっかくだし、玉砕覚悟で試したいことを試してもらおう。


「さっきのが全力じゃないならわかった。

もう一回頑張ってみて。」


「押忍!!」


「ここまでのみすずの戦ってるとこを見た限り、みすずなら楽勝なはずだから。

あんな鬼なんかよりスピードもパワーもある。自信もって。

あと吹き飛ばされそうになったら足に力入れて思いっきり踏ん張って。あんたの力なら吹き飛ばされないで耐えられるはずだから。

みすずのほうが絶対強い。絶対勝てるよ。」


「お、押忍!!なんか師匠に言われると自信でてきた!絶対勝つから見てて!」


驚くくらい上手く暗示にかかってくれた。

さて、どうなるか。


『さっきと言っていることが真逆すぎて普通ならおかしいと思われますよ、今の。』


ののかがテレパシーで話しかけてくる。


『大丈夫。あいつ、あんたより馬鹿だもん。』


『なんで基準がののなんですか‥‥。』


私は先ほど、みすずに向かって暗示をかけた。

暗示といってもお前は強いから勝てる。絶対誰にも負けない。という気休めと言う名の励ましだ。

思ってもいないことを、まぁ、失敗したらしたでと思って、軽々しく何の重みもない言葉を、嘘をみすずに言った。

そう、私は嘘を言った。


みすずが勝てるなんて1ミリも思ってない。

でももし、私のあんなクソみたいな言葉を信じたのならば、嘘は本当になるんじゃないだろうか。

鬼なんかに負けない超人になるんじゃないだろうか。


まぁ、あんな言葉を真に受けてくれればな話だ。

ののかの言う通り、普通なら励まし程度に受け取るだろう。

ここはみすずのばか加減に賭けてみよう。


「師匠も言ってた。うちは強い。誰よりも何よりも強い‥お前なんかに負けないいいい!!!」


雄叫びをあげると同時に鬼の方へ全速力で走る。

鬼は先ほどと同じようにみすずを上空に吹き飛ばそうと刀で空を切る。


風切り音が響き、突風が巻き起こる。


「ぷぎいいい!!!きかああぁああん!!!」


吹き飛ばないようその場で踏ん張る。

足の力で地面が割れる。次第に突風が緩やかな風に変わる。

まぢで吹き飛ばなかった。


『見て、ののか。

あれが真性のバカだよ。』


『もっと言い方があるような気がするのです‥。ばかちん!とか可愛くないですか?』


『それで悪気ないとかほざくならマジひくわ。』


それに気が早い。

ただ一撃目を防ぎ、ようやく近づけただけだ。

ここから勝てるかは別だ。


「うちはお前なんかより速いし強い!!

だからうちが勝ああつ!!!」


鬼の間合いに入り、避ける暇もないほど速い正拳突きを胸にくらわす。


胸どころか胴体部分が跡形もなく粉砕し、手足と首だけになる。

余波で地面は割れ、正面の木の木の葉が半分ほど落ちる。


勝てるかどうかはそれほど別でもなかったらしい。


「師匠!!見た!?見てた!?

なははは!らっくしょーってやつだ!」


「こんくらいで喜ばないで。まだまだこんなもんじゃないでしょ?」


「押忍!!」


実際、想像以上の強さだ。

こいつ、私が煽げば煽ぐだけどんどん強くなるんじゃないか?


「そういえばもうゴールだ!どうしよ!

ここまで一緒に頑張ったんだから最後は正々堂々じゃんけんできめよっか!」


「あーね。そうしよっか。」


興奮気味に私に声をかけてくるみすずから視線を少しずらす。

みすずの後ろで私の指示通り、何のためらいもなくゴールに足を踏み入れるののかが映る。


『ののかさんがゴールしましたのでチームのののの勝利となります。勝負を終了致します。チームみすずの所持金の半分である400万リルドがチームののののものとなります。以上です。それぞれのチームルームにお戻りください。

なお、チームのののは明日も勝負があるため30分以内にチームルームから退出頂きますようお願い致します。』


「‥‥あれ‥‥?」


アナウンスと共に森にいたはずがいつもの闘技場に移動していた。


「お、おい!姉弟子!それはさすがにズルすぎだぞ!卑怯だ!これから正々堂々‥‥!」


今にも泣きそうな声でののかを罵倒する。


「ののかは悪くない。私の指示だよ。」


「し‥師匠まで‥‥。」


「そして私も悪くない。お金どころか命がかかってるんだ。勝つためにがむしゃらになるのが正しいでしょ。

正々堂々?仲良くゲームやってるわけじゃないよ。」


現にこいつはもうほぼゲームオーバー確定だろ。

残りの所持金が400万じゃ誰も相手にしてくれない。

残りの所持金を一か八かで観戦で賭けて増やせるか、残りの4日間を大事に過ごすか。どちらかだ。

まぁ、別にどっちでもいい。


「行こ、ののか。明日も勝負があるから。」


「あ、はい。」


あほ面をこちらに向け、駆け足で近寄ってきた。


少し寒気がした。

ののかは怖いほど人の死に無頓着だ。


目の前で人が死んでも、ゲームオーバー確実な相手が目の前にいても顔色ひとつ変えない。

大変助かる。私はこういうのにあまり慣れていない。


ののかとチームルームに戻ろうとしたとき、みすずが目の前まで駆け寄ってきて土下座をしてきた。


「え?なに?」


「師匠!姉弟子!うちをチームに入れて!頭悪いうちだって400万じゃ誰も勝負してくれないのわかるし!それに師匠にアドバイスもらいながら戦ったとき、すごくよく戦えた気がする!絶対役に立つから!お願い!」


なるほど。そう来るか。

悪い話ではないと思う。


みすずのスキルは接近戦であれば、防御面でも攻撃面でもほぼ最強と言っていいだろう。

前衛のいない私たちのチームには非常に心強い。

その上、私の嘘をすぐ信じる単純さもありがたい。これで敵にわざわざ毎回、髪の毛のスキルを宣言する必要もなくなる。


ただ不安なのはその頭の悪さが悪い方に働かないかである。

髪の毛のスキルを宣言しなくていいのに正々堂々とかいう理由で宣言しかねないし、頭に血がのぼったときに言うことを聞いてくれないかもしれない。

それに加えて私が止めなければこの勝負中に5回以上は飛び跳ねようとしていた。

それで勝手に2回戦闘不能になられると非常に戦いづらい。


それ以前にこのうるさいやつと毎日会わないといけないとなると非常にめんどくさい。

もうののかだけでお腹いっぱいだ。


『いいんじゃないですか?ののは賛成ですよ。』


『あーと‥そう?』


随分とテレパシーと心を読むスキルの切り替えが上手くなったもんだ。

心の底から腹が立つが、相談が苦手な私にとってののかの存在はすごく大きい。


『それで勝負中のにーなさんの負担が減るのはののは嬉しいです。戦闘も頭を使うのもにーなさんに頼りっぱなしなので‥‥。

欠点はよく言い聞かせればきっと直ると思うし‥。金銭面は少し減るけどそんな問題ないのかなって‥。』


みすずはペットかなにかなのかな?

まぁでも、そうだな。

戦闘全般をみすずに任せれれば私でももう少しマシな作戦とか思いついたりするかも。

それにののかの言う通り、みすずは400万しかないが、悲観するほど1人の所持金が減るわけでもない。


『ただ‥‥。』


『ただ?』


言いづらそうにののかが言葉を濁す。

やはり、ののかもみすずの馬鹿さ加減に不安を感じているのか?


『にーなさんとの2人の時間が減るのはのの的には非常に残念なのです‥。』


「いいよ。チームに入れる。」


「ほんとに!?やった!!ありがと!」


『うー‥にーなさん、今日いちのデレるタイミングだったのに‥。』


殺したい。


「でも、勝手なことしたらすぐ辞めてもらうから。飛び跳ねたら殺す。頭に血がのぼったら、1回意識的に落ち着くようにして。あともうちょっと静かに。それができないならちょっと無理。」


「押忍!!絶対大丈夫!!」


耳が痛いくらいにいい返事である。殺したい。


その後、チームルームを出て、街で合流し、チームに入れるための申請と所持金が均等に1人1450万になるようみすずにリルドを譲渡した。


2連勝しているはずなのに確実にお金が減っているがまだ大丈夫だろう。


「ほんとにありがとう!じゃあ、うちはこれで!」


「いやいや、明日の勝負のこと話したいんだけど。」


チームに入れたやいなやすぐさま帰ろうとする。


「ごめん!家族のご飯とか作らなきゃいけなくて。明日は師匠の言う通りにするから作戦とかはお願い!」


予想以上に勝手なやつだ。まぁののかもいるしいっか。むしろうるさいからいなくなってくれたほうがいいかも。


「ごめんね!じゃぁまた明日!」


「みすずちゃん。それは駄目じゃないかな?」


「ぱ?」


足早に帰ろうとするみすずをののかが止める。驚いた。こいつでもこんなことで怒るんだ。

ちなみに心の狭い私はさっきからみすずの申し訳ない素振りを全く見せない態度にハラワタが煮え繰り返りそうだ。


「でも姉弟子‥うち両親いなくて兄妹もまだ小さいから‥。」


「それはいいよ。‥のののスキルは人の心も読めるから。」


「あ‥‥。そうなの?」


納得したような声を小さく漏らす。

なるほど。みすずがなにかしら企んでるってことか?この馬鹿が?どこにそんな脳みそ詰まってんの?


「でも‥でも‥うち‥。」


今にも泣きそうな声を出し、ののかを見る。


「言えばいいんだよ。ののもにーなさんに1回そうしてもらってるから。」


あーね。なんとなく想像ついてきた。


「あ!なんだよぉ!姉弟子もかよぉ!ずりーじゃん!ならうちもいいじゃん!」


「言わないのがだめ。これ以上にーなさんに迷惑かけるなら、のの怒るよ。」


なんて説得力のない言葉だろう。


「‥‥うん!ごめん!師匠!姉弟子!」


謝ると共に街の広場で土下座し始める。

こいつの土下座、安っぽいな。


「うち、親が残した借金がたくさんあって!どうしても今月中に返さなきゃいけなくて!そうしないと!うちだけならどうなってもいいんだけど妹が変なお店で働かされることになるんだ!50万でいいから換金させてください!お願いします!うちをどう扱ってもらってもいいから‥‥お願いします!」


全然安っぽくなかった。


「あーと‥私は別にだけど‥ののかは?」


「あはは、ののがどうこう言える立場じゃないですよ。にーなさんがよければののもいいです。」


ののかがいいと言うならこの土下座は演技ではないということだ。

まぁ、この駄あほが演技なんてできるとも思っていないが。ほんとに困ってるんだな、こいつ。


「じゃ、それで。細かい数字嫌いだからついでにうちとののかから50万渡すから150万換金して。」


「そ、そんなにはいらないよ!もしかしたらまた来月相談するかもだし‥。」


「聞いた?端数が嫌いなの。美味いものでも食べて。自分と兄妹が体調悪くなったりで勝負ドタキャンとかしたら串刺し。ちゃんとやるなら別に余裕があれば来月も換金していいから。」


「‥お‥押忍‥‥ありがとう‥‥師匠‥‥。」


「ん。じゃ、また。」


みすずは兄妹が無事なら自分はどうなってもいいと言う。


勝手だ。いいわけがない。

姉という存在はいつも私たちの気持ちを蔑ろにする。

いつも自分の無力さをつきつけてくる。


「うー!みすずちゃん見た!?

これがにーなさんのもうひとつのスキル、ツンデレだよ!たまんないでしょ!?すんすん!」


「ヒツジバエの幼虫に寄生されて身体中、穴だらけになればいいのに。」


「もはやよくわかんないけど怖いですってば!」


「師匠!姉弟子!うち、そろそろ帰るね!

ほんとに!ほんとに!ありがと!明日は絶対頑張るから!ばいばい!」


みすずがそう言いながら手を振ってログアウトした。


「やっと静かになった‥。

あー‥‥あんなうるさいばかと毎日会わないといけないのか‥。」


「鬱陶しいこと極まりないですね。」


「あんたも自覚した方がいいよ。大概だよ?」


「まぁ、自覚はあります。」


「え?直せよ。」


「あはは、ゲームだとつい‥です‥。」


「まぁ、いいけど。

‥‥ありがと。換金のこと、後で話されてたらたぶんまた頭に血がのぼってたと思う。」


「ふふん、ののの目標は一日一役ですから。1日に1回は役に立たないと。」


「目標低いな。」


それにしても、わざわざ声に出さなくてもテレパシーでみすずに伝えることもできただろうに。

案外、性格は歪んでるっぽい。


「次の勝負は‥‥あれ‥?なくなってる。」


勝負予定の一覧から明日の勝負が消えていた。

ぷっちょとの勝負については書かれてるし、バグではないのかな。


「あ、にーなさん。運営からメッセージが来てます。にーなさんにも来てますか?」


「あ、ほんとだ。来てる。」


『明日予定しておりました勝負は相手チームに所属している全てのユーザーがゲームオーバーとなったため、中止とさせて頂きます。こちらに関するお問い合わせは一切受け付けておりませんのでご了承ください。』


なるほど。勝負で3回戦闘不能になったのか賭け事で使い切ったのかは知らないがどうやら所持金が0になってゲームオーバーになったらしい。

まだ所持金に余裕があるからいいものの、余裕がないときにこうなられるとたまったもんじゃない。


「こんなこともあるんですね。」


「なぁ。まぁ、明後日が大勝負だし1日空いたのは逆によかったかも。」


毎回、次の勝負でいっぱいいっぱいだったこともあり、ぷっちょへの対策はまだ考えれていなかった。

今のところ勝てる気が全くしなかったし大変有り難い。


「あ!明日お休みになるならちょっとにーなさんと行きたいところがあるんですけどいいですか?」


「‥心、読んで。」


「‥はい。すごい嫌そうな顔してるけど内心は行きたくて仕方ないことがわかりました。」


「思ってねぇよ。」


ぷっちょとの勝負の勝敗が今後の展開を大きく左右する。


勝てば数千億手に入り、負ければ3桁をきる。

今からでもあのオートカウンターについて対策を練りたいのだ。

ののかと遊んでる場合ではない。


「メッセージ送ったので、書かれてるところに来てくださいね!先行ってますから!」


そう言って先にログアウトされた。

仕方ないからののかから送られてきたメッセージに目を通す。


「うげ。千葉じゃん。」


町田からはたぶん2時間くらいかかりそうだな。


まぁ、ばかばっかりの相手をしていてさすがに疲れた。

電車の中で少し寝よう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ