今後のことを考えましょう
「‥え‥?終わりですか?」
眠そうに頬杖をつきながら聞いていたののかが目を見開き言う。
「あの‥ご‥ごめんなさい。千尋さんの過去からお姉さんの過去に飛んだので飛んだところ以上先の過去は見ることができなくて‥。」
「最初からあんたはそう説明してただろ?
ののかがごみなだけ。話してくれてありがと。でも本名で呼ぶのやめてほしい。」
「うはは。んなこと言ってぇ。てめぇも不満で仕方ないって顔してるぜぇ。」
話の途中からずっとお子様メニューの表紙にある間違い探しをしているぷっちょがへらへらしながら嫌味っぽく指摘してくる。
飽きて聞いていないのかと思ったが意外としっかり聞いているんだな、こいつ。腹立つ。
「そんなことない。姉がどういう経緯で亡くなったか大体わかったしありがたいよ。
ただわからないことも増えて混乱してるわけよ。」
お姉ちゃんは死んだ。
もうこの世にはいないのだ。
それなのにこの殺人ゲームは何事もなく稼働しているのだ。
シスターさんの話ではお姉ちゃんが死んだらウィルスでゲームがおじゃんになるはずなのに。
「うははぁ。うち的にはどうでもいいけどよぉ、とりあえず黙ってないで話を整理して今後どうするのか決めたらどうだぁ、だんなぁ?
結局こいつをぶっ殺すならうちがやるぜぇ?」
そう言いながら私の方に目を向ける。
「‥‥私は別にあんたが仲間になってもいいけど。強いし助かる。」
「うおおおい。デレるなぁ。流されちまうだろぉ。」
性格は最悪だが、こいつが仲間になってくれるのは頼もしい。
ののかの死ぬ確率も下がるだろう。
まぁ、ロリのっぽ次第というところか。
姉を恨んで私に敵意を向けてくるやつだ。
恋人が葉色の人間だったからと言ってそう簡単に私を受け入れてはくれないだろう。
「‥‥そうだな。
すまない。恋人が葉色の人間だと聞いてショックを受けていた。
一旦整理してから君とどう接するか決めるよ。
じゃぁ、またどこかで。」
そう言うとロリのっぽが席を立つ。
それに続いてこちらとロリのっぽを交互に見ながらシスターさんが立ち上がる。
「あ、あの‥私にできることがあればいつでも言ってください。できることは協力したいです‥。」
「ありがと。助かるよ。」
いい人だな、シスターさん。
スキルも戦闘向きじゃないしたぶん長生きできないタイプだ。
ぼくっ娘が何も言わずシスターさんの後に続く。
「‥お前も帰る流れだろ。」
「んへぁ?んなのうちの勝手だろぉ。これ見つけ終わったら帰るわぁ。」
お子様ランチの表紙の間違い探しを指差しながら、何を混ぜ合わせたか見当もつかない色のドリンクを飲み干す。
「うはは。つか、てめぇは難儀だなぁ。
こんなやつらの復讐だのなんだのに付き合ってよぉ。弱えんだから生き残るだけでも大変だろぉに。」
そう言いながらののかのほうに目を向ける。
たしかに。ぷっちょの言う通りである。
付き合わせているのは私なのだが。
「そ‥そんなことないですよ。」
ののかが言い足りなさそうに一言だけこぼす。
「よかったね。
これがゲーム内だったらこいつくそうるさいから。」
後でゲーム内で延々と聞かされる私の身にもなってくれ。
「うはは。たしかに。この前みたいなうざさの欠片もねぇわ。つまんね。帰るかぁ。」
「ロリのっぽがどういうつもりか知らんけど私としてはあんたらと戦いたくない。伝えといて。」
ぷっちょも含むのかはともかく、私のスキルの制限事項まで知られているのだ。勝ち目のない戦いは避けたい。
「あー‥いいんかぁ?さっきの話からしたらだんなだっててめぇのねぇちゃんが死んだ原因の1つだぜぇ?」
たしかに、ロリのっぽがいなければこのゲームの元ができることはなかったしお姉ちゃんが葉色に狙われることもなかったかもしれない。
「話を持ち出したのは姉かもしれないし、きりがなくなる。
とりあえず葉色を殺すのともんじゃってのを探すかな。」
「んだよぉ。だんなに比べててめぇは冷静だなぁ。つまんね。
あー‥うひひ。そーだそーだ。
これうちの連絡先なぁ。面白そうなことあれば呼べよぉ。協力か邪魔してやるからぁ。」
こいつは自分が楽しめれば敵にも味方にもなるってところか。
逆に扱いやすいかもな。
「おい。あんたら普通に帰って行くけど全部ののかに払わす気?半分払え。」
「ええ‥全部ののですか?」
「あぁ?別によくね?まぁいいけど。
性格が女神すぎるうちが全部払ったらぁよぉ。」
レシートをレジに持って行きながらぷっちょが去って行く。
いいもんか。これだから金持ちは嫌いなんだ。
まぁ払ってくれるならなんも言わないでおこう。
「なんかいろいろわかったようなわからないような感じですけどこれからどうしますか?」
2人になり、ののかが静かに話しだす。
「なぁ。とりあえず今まで通りもんじゃ探しながらプラス葉色コーポレーションのやつがいるか探るくらいしかないんかな?」
実際それくらいしかできることが思い浮かばない。
ネットで調べれば葉色コーポレーションがある場所はすぐわかると思うが私が現実世界で大企業とやりあって何かできるわけでもない。
「‥なんでゲームは壊れなかったんですかね?」
「‥わからん。姉が失敗したとしか思えないけど。」
ほんとにそうなのだろうか。
お姉ちゃんがそんなヘマをするとは考えがたい。
でもシスターさんの話には私の知らないお姉ちゃんの姿がたくさんあった。
余裕がなくなればお姉ちゃんだってミスの1つや2つ起こしてもおかしくはないのではないだろうか。
もしくはー
「実はお姉さんが生きているとか考えられないですか?」
私の脳裏をよぎった考えをののかが口に出す。
「まさかだろ。姉は死んだよ。」
「でもにーなさんはお姉さんの死体を見たわけじゃないですよね?だったら‥。」
「ならなんで会いにきてくれない?私がほんとの妹じゃないからか?」
「にーなさん‥。」
自分に言い聞かせるようにののかに問いかける。多分泣きそうな声を出してしまったのではないだろうか。
会いにきてくれない理由なんて腐るほど思いつきそいだが、それがたまらなく悔しかった。
もし生きているのならば真っ先に私に知らせてほしかった。
「それに送られてきた骨は確かに姉の骨だったよ。間違いないと思う。」
「‥‥ここで話し合っても考察の域を超えないですもんね。
引き続きもんじゃさんを探しましょう!」
ぷっちょの言葉が頭をよぎる。
まったく‥手伝ってもらっている立場なのにののかに当たってどうしようもないな、私は。
「とりあえずまた明日からまたよろ。」
姉が死んだのにゲームが続いていること。
姉の死後、誰かからか送られてきた姉の遺品。
私が姉と本当の姉妹ではないこと。
わからないことだらけだ。
私にはわからないままにしておくことはできない。
先ほどののかにあたってしまったがただただ自分に腹が立っていただけだ。
仮に万に一つ姉が生きていたとして、会いにきてもらえなくて当然なのだ。
私は姉が苦しんでいるときに、力になれなかった。
少なくとも姉の態度に違和感を感れていた。
それでも自分にできることなどないと近くにいながらもそれを放棄した。
最低だ。
姉に対して常に受身であった自分に心底腹が立つ。
罪滅ぼしにもならないし今更姉が生き返るわけではないが全てを知った上で私になにかできないかを私は考えたい。
「は、はい。こ‥今度は2人でゆっくりご飯食べたいですね‥。」
帰り道、ののかが小さい声でこぼす。
「なに言ってんだ。いつも一緒に食ってるだろ。今更だろ。」
「そ‥そうですけど‥。」
「‥くひひ。しょーもな。」
自分でも驚く。
前までなら丸1日ヘコんだり、無意味に八つ当たりしてたもんだが、随分と大人になったものだな、私も。
いや、ののかがいてくれることが大きい。
1人だったらもっと取り乱していたな。
その日は明日の集合時間を決めてののかと別れた。
次の日、来月の対戦相手に目星をつけるためののかとの集合時間より1時間ほど早くゲームにログインする。
同時に冷や汗が止まらなくなる。
スケジュールカレンダーを開くと翌日の16時に身に覚えのない対戦が組まれている。
あり得ない。こっちが勝負を受領しない限り勝手に勝負が組まれることはないはずだ。
現に今までなかったし、そのルールのせいで所持金の多い私たちは毎月、対戦相手を探すのに苦労している。
ギブアップのルールが改変される前まではかなりの量の勝負の申し込みが来ていたが改変後はほとんどない。
あったとしても受けないようにしていた。
所持金が多いチームに勝てば恩恵がでかい分、対戦相手が強い可能性が高くなるためリスクも相応に高くなる。
それをやるのは2種類のチームがほとんどだ。
所持金も少なく追い詰められて一発逆転を狙うチームか十中八九勝つ自信のあるチームのどちらかだろう。
スケジュールから対戦相手の情報を開く。
といってもわかる情報なんてチーム名と所持金くらいだが。
チーム名は「ナイトメア」で所持金が50億ちょっとか。
なるほど、チーム名通り悪夢そのものだな。
なんでだ。なんでいきなり承認もしていないのに勝負が成立したんだ。
他にも考えたいことが山ほどあるのになんでこう色々重なるのだろう。
ポニーテールで別れている両髪を指でくるくるしながら考える。
そしてある考えに行き着く。
できすぎではないだろうか?
たまたま昨日シスターさんに会って部分的ではあるが姉についての真実を知って、間も無く訳のわからないうちに勝負が組み込まれている。
こうイレギュラーが立て続けに起こるだろうか。
一本の線で繋がっていると思った方が納得ができる。
姉の死の真実に近づいたから誰かが私にアプローチをかけてきたと思えばこの流れは自然ではないだろうか。
もんじゃか?
いや、シスターさんから話を聞いたとき周りには私達以外誰もいなかったし、もんじゃがシスターさんのスキルを把握していたとも考え難い。
そしてこのルール無視の勝負の組み方ももんじゃにできるとは思えない。
葉色か?
あいつらならゲームのログを漁ればシスターさんと接触したことも想定できるだろうし、ゲームのルールを無視することもできるかもしれない。
かといって姉のいない今、私に用があるとも思えないし、運営の立場であるやつらならもっとわかりやすく接触してくるのではないだろうか?
『ののかさんからメッセージが届きました。』
そのアナウンスにはっとする。
運営のAIか?
そう思えば何かと納得いく。
シスターさんに過去を見れるスキルを与えることもシスターさんをロリのっぽと接触するよう促すこともルール無視の勝負を組み込むこともこのAIなら可能なのではないだろうか。
シスターさんの話では葉色に順従に運営をしているように見えて姉の味方であったようだ。
葉色にバレないように私に何かを伝えようとしているのか?
であればこの勝負も何かしらを伝えるために無理矢理組み込んだのではないだろうか。
「あー、わからん。」
運営から特に説明はないが勝負を放棄し、不戦敗になった場合はルール上、私かののか、もしくは両方が死ぬことになるのだろう。
どうせこの勝負を避けることはできない。
いくら考えても憶測の域を超えないのだからあーだこーだ考えても仕方ない。
それよりののかと一緒に明日の勝負に備えるべきだな。
もしかしたらののかのブッとんだミスで勝負を入れてしまった可能性も0じゃない。
ののかからのメッセージに目をやる。
どうやらあと5分ほどでここにくるようだ。
5分と待たず、ののかが広場に来る。
ののかのスケジュールを見るとそこにも同様の勝負が書き込まれていた。
ののかにも身に覚えがないらしい。
「また運営がのの達に不利なルールでも作ったんですかね?」
「ありえなくはないけど、それなら通知があってもいいと思う。
ちょっと周りのやつの心覗いてみて。同じような現象に悩んでるやついる?」
「‥‥いや‥見た限りいませんね。」
「ならルールが変わったんじゃなくて私たち、もしくは少数の特定のチームだけに起きてることだと思う。」
「‥スキルってことはないですか?
好きな相手と勝負を組めるスキルとか‥。」
「あーね。普通にありそうでやだわ。
でもお金に困ってるような感じではないし、所持金多い私たちに挑むメリットがない。
相手にぷっちょかくそ女みたいな頭ぶっとんだやつがいたら納得だわ。」
ぷっちょに関してはそんなスキル持ちと知り合いになったら真っ先に挑んできそうだ。
「‥ぷっちょ‥じゃないよな‥。
あいつはもっと所持金多いはずだし‥。
くそ女も死ぬ可能性のある勝負をわざわざ仕掛けてくるとも思えない。」
前回はみすずがいてようやく勝てた。いや、勝てたと言っていい内容ではない。
ぷっちょとまた戦うなんてごめんだ。
くそ女に関しても同じだ。また勝てるなんて思えない。
「んー‥ののにはこれくらいしか思いつかないのです。にーなさんはどう思いますか?」
ののかが頭を抱えながらこちらを見てくる。
「‥なるほどです‥。運営のAIですか。」
勝手に心を覗かれるのも癪だが説明の手間が省けるのは楽でいいな。
「まぁ、私の予想だけどね。
もしかしたら葉色の可能性もあるだろうけど多分AIの独断だと思う。」
そう思わせるほどに最近、不自然なほど私にとって都合がいい流れができすぎている。
AIが何かを私に伝えたがっている。脳裏に姉の最期の笑顔が浮かぶ。
「ぬぬぬ。結局いつも通り、その時になってみないと真相がわからないってやつですね。」
「そーね。まぁ、で、ののかに相談なわけだけど‥。」
得体の知れない、そして今回は何故か勝負の内容すら公開されていないため、対策のしようもない勝負である。
私はアドリブが苦手なのだ。
ここまでやってこられたのは勝負の内容がわかってから何時間も対策を練ってこれたからである。
正直なところ、今回の勝負はどちらかが死ぬ可能性が極めて高いと思う。
そしてそれが単純な戦闘力からしてののかである可能性が高い。
守りきる自信なんてない。
ならののかを参加させず私だけで勝負に挑めばいいとも思う。
ぷっちょとの勝負でののかが吹き飛ぶ光景が脳裏に浮かぶ。
あんな後悔、二度とごめんだ。
それでも私だって死にたくない。
ののかが参加してくれるだけで戦略の幅は広がるし認めたくないが心強い。
でもののかを参加させるのが怖い。
どこまでいっても私は優柔不断なままなわけだな。
死にたくないか。
自分の心変わりに対して笑けてくる。
復讐さえ終われば別に死んでもいいと思ってたんだけどな。
今はできるだけののかと生きていたい。
しょーもないな、私は。
「何回でも言いますが‥。」
ののかが私の手をそっと握る。
「ののはにーなさんのいない世界で生きる意味はありません。にーなさんが死ねばののは死にます。
だからののも行きますよ。ほんのちょびっとくらいは役に立つかもしれませんし。
その方が2人とも生き残る可能性もあがるかもしれません。」
「気安く触んな。駄アホが。」
ののかの手を払いのける。
そろそろ心を読まれることにも慣れてきたな。
「‥死んだら殺す。」
「あはは。にーなさんに殺されるなら大歓迎ですけど。」
結局私は私の有利に事がすすむようにののかを利用しているな。
そしてののかもそれを了承している。
やっぱり私は私が嫌いだ。




