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嘘つきにーなのゲーム録  作者: にゃの
楠になの人生譚
22/24

過去のお話をしましょう3


実験だとスーツ姿の男は言った。

実験とはなんだろう。全くいい予感がしない。


早くなる鼓動を右手で押さえ、経緯を見守る。


「一度、資料に目を通して頂いていると思いますが改めてご説明させて頂きます。

極秘の実験となりますので口外しないで下さい。

口外、もしくは貴方がたのミスによって実験が中止せざるおえなくなった場合はその時点で契約は破棄させて頂きます。」


前置きの長い男だ。

契約とはなんだ。

机にある資料に目を通すが小難しく書いてあり、あまり理解ができない。

資料と一緒にスーツの男のものであろう名刺がおいてある。

その名刺には葉色コーポレーションと書いてある。

衝撃と共に虫酸が走る。

裏でどこまで非合法的なことをやっているのだ、この会社は。


まだ小学生低学年であるお姉さんも状況を理解できないようで両親の顔を交互に見つめる。

父親がそんなお姉さんの頭を撫でて無言で頷く。


「ありがとうございます。なに、そんな難しいことを強要する気はありません。

ただある子供を貴方がたの家に置いて頂けるだけでいいのです。」


男は資料を1枚手に取り、家族らに渡す。


「ただ家に置いて頂けるだけで。

料理を作ってあげる必要も遊んであげる必要も勉強を教えてあげる必要も部屋を用意してあげる必要も愛情を注いであげる必要もありません。

むしろその子に干渉しないのが唯一のルールです。

トイレを使おうが冷蔵庫を漁ろうが話しかけてこようが泣き喚こうが全て無視して下さい。いないものとお考えください。

それさえ守って頂けたら貴方がたが抱える借金も私どもが肩代わりするし協力金も出しますし、あの子がいる限りの生活費を全て負担させて頂きます。」


男が立ち上がり、対面に座っていた父親の肩に手を置く。


「会社が倒産なんて、なんて災難だ。

貴方のせいじゃない。私どもに巡り会えたことを不幸中の幸いと思って頂ければ。」


「‥なんでこんなことを‥。」


震える手を抑えながら男のほうを見ずに質問を投げる。


「さてね。私みたいな下っ端にはわかりませんよ。ただの実験ですよ。実験。

上は詮索はあまり好まないと思いますがね。」


「‥‥わかった‥。やる‥。」


男は目つきの悪い目をそのままに口角をあげる。


「ありがとうございます。じゃぁ、明日から連れてきますね。

小学1年生です。学校にはお伝えしてありますから勝手に行くでしょう。

必要ないでしょうが一応名前は楠千尋で学校に行かせます。

楠千尋と干渉が確認された時点で実験は強制的に中止です。この意味、わかりますよね?

じゃぁよろしくお願いします。」


そういって男2人は家を出ていった。

その後もしばらくは沈黙が続く。


理解が追いつかない。

千尋さんはこの家の子供ではなかったのか。

千尋さんは葉色コーポレーションのなんなのか。

何故、千尋さんがこんな仕打ちを受けなければいけないのか。

この場にいる全ての人物が憎く見える。


「すまない‥‥。私が不甲斐ないばかりに‥。」


父親が沈黙をやぶり震える声で呟く。


「‥‥仕方ありませんよ。になを守るためにも‥。」


それを母親がなだめる。


仕方がない‥。そうなのかもしれない。

自分の子どもを幸せにするなら他人の不幸になんて構っていられない。

それを考えると彼らを責めることはできないのかもしれない。


「明日から女の子がくるんだ。楽しみ!」


状況を理解できていないお姉さんだけは目を輝かせていた。


翌朝、リビングに行くと裸の女の子が床に寝そべっていた。

寝息を立てているその子は間違いなく小学1年生の頃の千尋さんだった。


お姉さんはそれを見て話しかけようと近寄ろうとする。

それを父親が力ずくで止める。


「‥‥お父さん‥‥?」


「にな‥その子に絶対触っちゃだめだ。話しかけちゃだめだ。見てもだめだ。

この子はいないんだ。いないんだよ‥。

他のことはなんでもいい‥これだけはお父さんと約束してくれ。」


震えながら両の手でお姉さんを抱きしめる。

その目からは涙が溢れている。


「‥‥わかった‥。」


お姉さんは小学生とは思えないくらい物分かりのいい子に見えた。

現に父親との約束を破ることはなかった。


それからは千尋さんの過去でも見たとおり、千尋さんがこの家を出るまで地獄のような日常が続いた。


ただいない存在と扱われる毎日が続いた。


千尋さんの視点では気づかなかったがお姉さんはお姉さんなりに千尋さんを気遣っていたようだ。


1人で食べる量とは思えないお菓子を買ったり、千尋さんの学校の行事を把握し、その日には両親に財布の中身を補充させたり、千尋さんが寝静まってから千尋さんのことを悲しげに見つめていた。


「被験者が家を出てしまったのでここでの実験もここまででしょう。

6年間分の協力金は後で振り込んでおきます。今までご苦労様です。」


「あの子はどうなるんですか?」


父親でも母親でもなく中学3年生になったお姉さんが男に聞く。

よほど千尋さんのことが気になるのだろう。


「さてね。脳に埋め込んだ脳波を計る機械と発信機が上手く作動しなくてですね。何故かね。」


そう言って男はお姉さんを睨む。


「‥ま、これからどうするかお上さんがわいわいやってますよ。」


私は知っている。

それらを停止させたのはお姉さんだ。

私には理解できなかったがお姉さんは友達にも協力してもらい、なにか機械を作っていた。

そして千尋さんが家を出るその日、その機械のボタンを押していた。

おそらくそういう機械だったのだろう。


その目には涙が流れていた。


それからお姉さんが高校を卒業するまで何事もなく月日が流れた。

父親も運良く再就職もでき、お姉さんも都内の大学に合格し、ほんとに何事もない穏やかな生活が続いた。


お姉さんは大学に入ると一人暮らしを始めた。

引っ越したその日、段ボールからパソコンとよくわからない機械だけを取り出しおもむろに操作をし始める。


「千ちゃん‥‥見つけた。」


背筋に寒気が走る。


千尋さんに葉色コーポレーションのものとは別に発信機でも取り付けていたのかもしれない。

パソコンを見るとマップが表示されており、千尋さんのアパートがある場所を指している。


お姉さんは実験が終了した後も父親から千尋さんに関わることを強く禁じられていた。

そしてそれに、従ってきた。


何年も自分が自立できるまで待っていたのだ。

笑顔で何年も何年もその日が来るのを。


荷解きさえせず、お姉さんはそのまま部屋を出て千尋さんが住んでいるアパートに向かう。


その顔は今までに見たことないほどにやけている。

妖艶さと無邪気さが入り混じったようなその笑顔に狂気さえ感じた。


千尋さんの部屋の前に着くとチャイムを鳴らす。

やはりというか、あのチャイムを鳴らしていたのはお姉さんだったわけだ。

千尋さんの過去で見たとおり、千尋さんはこのチャイムに出ない。


10回ほど鳴らしてその日は今にも泣きそうな顔をして帰っていった。


次の日も、そのまた次の日も同じようにチャイムを鳴らし、開かないドアを見つめ帰っていく。


そんな日が知っての通り1ヶ月ほど続いた。


いつものようにチャイムを鳴らしに千尋さんが住むアパートに行く途中、千尋さんの部屋の窓が開いているのが見えた。


お姉さんの足が止まる。

無言で5分ほど窓を見つめ、窓に向かってアパートをよじ登る。


「はぁはぁ。やっと会えた‥。やほぉ。お姉ちゃんだよ!久しぶり。」


今更ながらなんという執念だろう。

この執着心はどこから湧いてくるのか。


「あはは。タバコ臭い。ゴミだらけ。

こんなんじゃ男の子にモテないぞ。」


千尋さんの過去を見ているときは気づかなかったけど、お姉さんは話しながらそっと窓際にある鍵を手にとる。


おそらく、千尋さんの過去では千尋さんの意識外の事柄については私も認識することができないのだろう。


「あんたがそれを言うのかよ。」


「‥‥ごめん‥千ちゃんと話がしたくて‥‥。」


「ふざけんな!何が話がしたいだよ!

帰れよ!話すことなんてない!」


「‥うん‥ごめん‥また来るね‥。」


私の、最早遠い記憶の通り、千尋さんを怒らせてその日は千尋さんの部屋を後にする。


無言で家に帰ると声を発することなく涙を流し始める。

そのまま、パソコンに向かい「妹 仲直り」で検索し始めた。


完璧。

千尋さんの過去で見たお姉さんはそんな印象だった。


人当たりが良く、社交的で落ち着きがあり、知的的である。

非の打ち所がない。私のような人間とは違う生き物。そう思っていた。


実際はそんなことはなくて、妹と仲直りするためだけに切羽詰まるような人なんだ。


言い方が悪いかもしれないが、私はその足掻く姿に好感が持てた。


「おーい、になー。どったの?元気ないじゃん。」


大学の食堂で友人と話をしている。

この人は小鳥遊 美々。お姉さんとは小学生の頃からの仲でおそらく1番仲のいい友人だ。


「いやぁ‥ようやく妹の住んでる場所わかったんだけど口も聞いてくれなくて‥。」


「あー‥家出したきりだったんだっけ?

仕方ないよ。急に話せるもんでもないでしょ。子どもの頃から姉妹で会話するのを禁止する家が悪い。どうかしてるよ。」


お姉さんは小鳥遊さんに実験などと本当のことを言えるわけではなかったが大方のことは相談している。

小学生の頃、発信機を壊す機械を作るのを手伝ったのもこの人だ。


「み、みぃちゃん!どうやったら仲良くなれるかな!?」


「いや‥そんなんあたしに聞かれても‥‥。

そーいうのあんたの方が上手いでしょ。」


小鳥遊さんの言う通り、お姉さんは人と仲良くなることに長けてると思う。

彼女が望もうが望まかろうが自然と周りに人が集まる。

お姉さんの人柄だろう。


「そーなのかなぁ。わかんないよぉ。

どうすればいいんだろう‥‥。」


否定をしないあたり、自分でもそう思っているのか、それともそんなことはお姉さんにとってどうでもいいことなのか。


「‥‥飯でも誘ってみれば?それなら否応でも話す時間は確保できるでしょ?」


「それ!すっごくいいかも!誘ってみるね!

この前、適当に作ったゲームで結構稼げたからお金いっぱいあるし!」


「うわぁ、嫌味なやつ。

にひひ、それにしても、にながこんな悩む姿も貴重なもんだ。」


そして私の記憶と寸分の違いもなく、合鍵で部屋に勝手に入り、ようやく千尋さんと和解することができた。


「それでね!千ちゃんったら食べながら話すのがすごい下手なの!もしゃもしゃしながら話すの!それがもう可愛くて可愛くて!」


「いや、嬉しいのはわかるけどさ。

そう毎日妹の話されるのもなぁ。聞かされるあたしの身にもなってくれよ。」


それから毎日のように千尋さんの話を小鳥遊さんにしている。

小鳥遊さんも呆れつつもどこか嬉しそうに聞いている。


私自身もこの時間は好きだ。

少なくともこの先、数年間は何事もなく穏やかな日々が続くことを知っているから。


「でもね、千ちゃん1人の時は全く外に出ようとしないんだよ。まぁ、それ自体は嬉しいからいいけど。」


「嬉しいのかよ。」


「でもずっと家にいたらきっと飽きちゃうと思うんだよね。だから千ちゃんが楽しめるようななにか贈り物をしたいんだけど‥なにがいいと思う!?」


「いや、知らないし。ゲームとかあげれば?」


「ゲーム!いいね!みぃちゃんはいつもいいアドバイスをくれるよ、まったく!このすっとこどっこい!」


「あたしのこと舐めてるよな?

‥にひひ、最近楽しそうでなによりだよ、すっとこどっこい。」


「‥うん。ありがと。‥早速ゲーム作ってくるね!」


「作んのかよ‥。買えば‥ってまぁいいや。

にならしい。」


小鳥遊さんの言う通り、お姉さんは楽しそうに笑うようになった。

以前からよく笑う人ではあったけど、どこか違和感を覚えるような笑顔だった。

まるで心はここにないけど顔だけ笑っているような感じ。

上手くは言えないけどそんな感じ。



『ワタシに何かやらせるのですか?』


千尋さんにあげたゲームをお姉さんが持っていった帰り道、アイちゃんがお姉さんに問う。


「アイちゃんのデータをコピーさせてもらうだけだよ。その方が楽だから。」


『またゲームでも作るのですか?』


「んっふっふぅ!今度のはすごいよ!絶対千ちゃんも喜んでくれるはず!」


『はぁ。これでアタシも彼女にエロい格好させられないで済むわけですね。

うひひひ、とびっきりエロいのにしてくださいね。』


「私、そういうのよくわからないけど‥。

とりあえず喜ぶと思う!なんと!ゲームの中に入れるゲームなんだ!」


『なんと‥‥意識の電子化ということですか?』


「まぁ、大雑把に言うとそんな感じかな。」


『すごい。それが実現できるならムーアもびっくりな発展速度です。ノーベル賞もいけるんじゃないですか?』


「あー、どうでもいいや。それ。

千ちゃんが喜んでくれさえすればそれでいいの。

まぁ、ちょっと資金足りなくてスポンサーについてもらってる人がいるから商品化はしないといけないんだろうけど。」


何を今更と思われるかもしれないが驚きを隠せない。

あのゲームのシステムの根底はお姉さんが作ったみたいだ。

発明と言ってもいい。

意識の電子化なんて不老不死の第一歩となるほどの発明ではないか。


「千ちゃん、あまり外に出たがらないからゲームで外にでてもらうの。

青い空にぽかぽかの太陽に和気藹々とした動物達。全部千ちゃんのことを思って作ってるんだ。喜ぶかな。喜んでくれるかな。にへへ。」


『あの人喜ばせたいならエロゲーでも作ってあげた方が早いですよ。』


その後も順調にゲームの開発は進んでいった。

ちなみにスポンサーというのはアリーさんのことだ。

本当の名前は嵐山 凛という名前で今ほどやつれてはおらず、その隣には綺麗な女の人がいた。

増田 香奈美といってアリーさんの恋人だ。

この人が約1年後、お姉さんに殺されるであろう人だ。

それを思うと胸が締め付けられる。


あんなに2人で楽しそうに話しているのになんで‥。


開発はお姉さんと小鳥遊さんの2人だけで進められた。

お姉さんがシステムの全てを担当し、小鳥遊さんがデザインを担当していた。


詳しくは知らないがゲームは2人で作れるものなのだろうか。

しかも大学生2人でだ。


私の疑問が否定されるが如く、開発は順調に進んでいった。

あとは実践テストが終われば商品化される。


「ありがとう。楠さん。小鳥遊さん。本当にすごいものを作ったものだな。」


「こちらこそご支援頂きありがとうございます。これで妹も喜んでくれると思います。」


「にひひ、になはほんとに妹のことばっかだな。ひとりっ子のあたしにはわからん。」


「えへへ。みぃちゃんは人生損してるね!

妹ってほんとに可愛いんだから!」


「私にも妹が2人いるけど全然可愛くないわよ。妹さん離れしないとになさん、いい人できないわよ。モテそうなのに。」


「そうだな。そういう人いないのかい?」


増田さんとアリーさんが2人の会話に割って入る。


「んー‥考えたことないです。私は妹が喜んでる姿が見れれば幸せなので。」


お姉さんの人生は贖罪という言葉を連想させる。


ここまででも千尋さんへの罪と償いがお姉さんの人生の大半を占めている。

言葉の通り、お姉さんは人生を代償に罪の状態から贖っている。


これが幸せなことなのか、そのような人がいない私にはわからない。

いや、当の本人にしかわからないことなのかもしれない。


それでもお姉さんの笑顔は誰よりも幸せに満ちて見えた。


「無理ですよ。こいつ生粋のシスコンですから。あたしがどれだけになのことで男連中から相談受けたか。

あたしの身にもなれって話です。」


「もう!この話はいいじゃないですか!

とりあえず私たちでゲームをプレイしてみましょう。大きなバグがあったらまた直さなきゃいけないし。軽微なものはリリース後に対応します。嵐山さん、それでいいでしょうか?」


「ああ、問題ない。君らも相当無理して疲れているだろうし。AIが運用のほとんどを担ってくれているという話だが、運用の契約も君らに任せたい。2人で会社でもおこしてもらえると嬉しいんだが。」


「考えておきます。えへへ。早くこのゲームを妹とやりたくて仕方がありませんよ。」


そう言って見覚えのある機械を頭にかぶせる。

葉色コーポレーションでかぶせられた機械と一緒だ。


お姉さんがゲームにログインすると私の意識もゲーム内にはいる。


『ようこそ!楽園へ!』


目を疑った。

ところどころはあの殺人ゲームと同じような風景や街並と同じだが、雰囲気がまるで違う。


昼間から花火が上がり、喋る動物達がお祭りのように和気藹々と騒いでいる。

ディズニーランドを連想させるような楽しそうな、夢のような風景が視界に広がる。


『ここは電子空間のテーマパーク、楽園です。

どうぞごゆっくりとお楽しみください。

ご不明な点がありましたら視界の左下に見えますお問い合わせのボタンを押してください。

すぐにお伺い致します。』


姿は見えないが、アナウンスの声が聞こえる。

おそらくこれがお姉さんが言う自動運営を担うAIだろう。


「りんご飴を4つくださいな。」


『どうぞ。お会計は200リルドになります。』


お姉さんがお菓子を売っているクマに話しかけ、りんご飴を人数分買う。


「うん。ちゃんと味覚も感じるね。

よかったらみなさんもどうぞ。テストなので今回は乗り物も食べ物もお金かかりませんから。って、スポンサーは嵐山さんなんですけどね。あはは。」


お姉さんと小鳥遊さんが作ったそれは、ゲームというより仮想的なテーマパークだ。

家にいながら家族や恋人や友達と気軽に遊びにいける。


現実ではないから天気が悪くなることも不慮な事故が起こることも子供が迷子になる心配もない。何故なら家で遊んでいるだけなのだから。

実に合理的な遊園地である。


「特に問題になりそうな箇所はないね。そして、実に楽しい。素晴らしい世界だよ、楠さん。」


「ありがとうございます。

不安なのは後はサーバのスペックだけですかね。

想定している1回の集客量であれば問題ないとは思うんですが。」


「それに関しては私の方でなんとかしよう。

私の知り合いの取締役の方にこのゲームのことを話したら、乗り気でね。

もしかしたら援助をお願いできるかもしれない。」


「よかった。‥申し上げにくいのですが‥リリース前に妹をここで遊ばせてもいいでしょうか?も、もちろんお金は払います!」


嵐山さんは優しく微笑み、お姉さんの頭を撫でる。


「君はまだ遊びざかりの歳だもんな。

いいよ。お金もいらない。妹と存分に遊ぶといい。」


「あ、ありがとうございます!

そだ!みぃちゃんも一緒に遊ぶ?妹を紹介するよ。」


「にひひ、いいよ。あたしはあまり人と話すの得意じゃないから。

奇数人数で遊園地とか、あたしの寂しい未来が容易に想像できる。

あたしは自分が作ったオブジェクトどもがこうやって動いてるの見れただけで満足よ。」


小鳥遊さんは満足そうに辺りを見渡す。


小鳥遊さんがデザインしたクマやウサギ達が楽しそうにゲーム内を徘徊している。


自分が作ったこれらがこれからたくさんの人を喜ばせることになるのだ。

あまり表情の変わらない小鳥遊さんがにやけてしまうのも頷ける。


「じゃぁ一緒に帰ろ。これなら千ちゃんのところ行くから途中まで一緒だ。」


「ついで感はんぱねーなぁ。

まぁいいけど。じゃぁ、あたしら帰りますね。」


「ああ。また連絡する。」


嵐山さんと増田さんに軽くお辞儀をして、ゲームをログアウトする。


先ほどのゲームを2つ抱え、外に出る。


「それ、妹の家からでもできるんだっけ?」


「うん。パスワードとIDが必要だけど、ネットが繋がってればどこからでもできるよ。

そのうちスマホからも接続できるようになったら楽しそうだね。」


「勘弁してよ。外でやれたら社会問題になる。」


「あー、盲点。相変わらず私は細かいことに目がいかないなぁ。」


確かに歩きスマホならぬ歩き遊園地なんて事故が増えるに決まっている。


「ありがとね、にな。誘ってくれて。

楽しめたわ。」


照れながら目を合わせることなくお礼を言う。


「いやいや、こちらこそ。みぃちゃんがいてくれて助かったよ。持つべきものは友ですなぁ。」


「にひひ、こしょばゆー


「‥‥みぃちゃん?」


後ろを歩いていた小鳥遊さんの言葉が途切れ、後ろを振り向くとスーツ姿の男に口元を塞がれ、頭に拳銃を突きつけられている。


「み‥みぃ‥ちゃん?」


「声を上げないでくださいね。この娘、殺しますよ?貴女も暴れないことをお勧めします。」


そう言って拳銃の角で頭を殴る。

男の腕の中でもがいていた小鳥遊さんが額から流れる血を見て大人しくなる。


「うん、よし。いやいや、楠さん、お久しぶりです。中学生以来ですかね。」


「‥‥なんで今更‥‥。」


男の顔に見覚えがある。

お姉さんが小学生の頃、実験を強要した葉色コーポレーションの男だ。


なんでこの男が。実験は終わったんじゃないのだろうか。

今更お姉さんに何の用があるというのだ。


「楠になが葉色コーポレーションと組むようになってから今のようにおかしな殺し合いのゲームになった。」


ふとアリーさんが言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。


「いやぁね。楠さんがとんでもないゲームを発明したとかいう噂をお聞きしましてね。

どうせなら私たちも美味しい汁を吸わせてもらえればと思いまして。協力してもらえませんかね。」


「んー!!んんー!!」


涙を浮かべながら男に塞がれた口で小鳥遊さんが何かを訴えかけている。


「‥まずはみぃちゃんを離してもらえませんか?話し合いならそこからかと。」


震える体を抑えながら小鳥遊さんを離すよう男に言う。


「んん?ああ。そうですよね。こんな不安な状態じゃ話し合いなんてできませんよね。

安心してくださいよ。私たちだって無駄な殺しはしたくありません。」


言い終わると同時に1発の銃声が響く。

その音は拳銃にしては小さく、人通りの少ないこの路地裏では誰も気にしないくらいの大きさだった。


だが、確かにそれは小鳥遊さんの頭にあてられていた拳銃の銃声だった。


頭から初めてみる物体を垂れ流しながら力なく地面に倒れこむ。


「‥‥っ‥‥み‥‥みぃ‥‥ちゃん‥‥?」


「だから、これは決して無駄な殺しじゃありません。私たちが本気であることを証明するための殺しです。」


どこからともなく清掃員の姿をした数人の男が現れ、小鳥遊さんだったそれを無造作に黒いゴミ袋に入れ、すぐさままたどこかへと消えていく。


お姉さんが耐えきれずその場に座り込み嘔吐する。


「あが‥み‥みぃ‥‥ちゃ‥‥。」


震えと涙が止まらず上手く喋れないようだ。

それをつまらなさそうにスーツの男が見下ろす。


「やれやれ。どうやら今日は話し合いは難しそうですね。またご連絡します。

まぁ騒ぐなり、警察行くなり好きにしていいですが、その時は貴女の妹さんを殺します。」


目を大きく見開き、座ったまま男を睨み上げる。


「しし、そうですよね。小学生の頃からあんなに気にしてましたからね、貴女。

さぞかし大事なのでしょう。協力してくれたら手は出しませんよ。じゃぁ。」


吐瀉物まみれのお姉さんの手を取り、握手をする。


「よろしくお願いしますね。」





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