リアルでも仲良くしましょう
「そういえば、みすずちゃんのことで有耶無耶になっちゃいましたけど、あの約束ってまだ有効ですか?」
「あ?どれだし。」
「あの‥ぷっちょさんとの勝負のときに言ってたののの言うことなんでも聞いてくれるっていう‥。」
「あー‥いいよ。なんでも聞く。」
「そーですよね。にーなさんがそんなこと許すわけ‥‥え!?いいんですか!?」
「まぁ‥約束だし‥。」
「の‥‥のの!えっちなこと言っちゃいますよ!?すんすん!」
「‥しょうがないよ‥。約束だもん‥。」
「にーなさぁん!」
一瞬意識が遠のいた。
目を開けるといつもの広場の光景が広がる。
「あ、にーなさん。起きました?」
いつものように隣にはののかがいる。
「‥‥悪夢を見た。」
「え?どんなですか?」
「死ね。こっち見んな。」
そういえばののかと一緒にいつものように姉の情報を探しながらだらだらしてたのか。
いつのまにか寝てしまったのか。ゲーム内なのに。
「‥疲れてるんかなぁ。」
「いや‥まぁ、3月の勝負が終わったばかりですし、気が抜けちゃったんじゃないですかね。」
「あーね。そかも。」
広場のまわりを見渡す。
少し人が少なくなった気がする。当然か。
あれから‥運営からチームの誰かがゲームオーバーにならないとギブアップができないというルールの変更の知らせがあってから2ヶ月がたった。
私たちはその間に2回勝負をしたが幸いに苦戦することなく勝てている。
が、相手チームは酷いものだった。
2回戦闘不能になったやつが狂ったように仲間を殺し始めた。
誰かしらをゲームオーバーにすればギブアップもできるし、ギブアップしたときの所持金の減りも少なくなる。
2回ともそれで勝てた。まるで地獄絵図だ。
誰もが死なないために必死なのだ。
なかなかに咎められない。
ののかは2回戦闘不能になったら同じように狂ってしまうのだろうか。
まぁ、私の命なんかでののかが助かるのならそれはそれでいいような気もする。
「相変わらずそれっぽい人いないですねぇ。」
「まぁ、いいよ。今は生きてあんたとこうやってゆっくりできてることが意外と嬉しい。」
「え‥ちょ‥えぇ‥いきなりデレないでくださいよ‥。ののにだって心の準備が‥。すんすん。」
たしかに‥私はなに言ってるんだ。
あんなくそみたいな夢を見たせいでまだ寝ぼけてるのだろう。
「‥若干諦め気味だよ。ここまで手がかりが掴めないと姉を殺したやつがまだ生きてるかも怪しいし。ここ最近で会ったやつと言えばあのくそ女くらいだし。」
「あ、噂をすればってやつです。」
「‥あー‥こっちくんな。」
ののかが指を指す方を見るとくそ女が近づいてくる。
「あらあら、まだ生きてたのね。くそガキども。残念。」
「お互いにね。戦う気ないから絡まないでほしい。」
「こっちももうないわよ。貴女たち、微妙に強いから。運営のせいで毎回生き残る事だけで必死だわ。私怨なんかで死んだら笑い者よ。」
たしかに。胸に刺さる言葉だな。
でもくそ女ほどのやつでもあのルール変更のせいで面白半分に勝負を挑めなくなったわけだ。
出来るだけ弱そうな相手を選んで勝負をしている。
このルール変更は誰が得をするのだろう。
「それはそうと、貴女たちいつもここで会うわよね。誰か探してるのかしら?」
「あんたには関係ない。」
「‥ののかちゃん、この子の性格どうにかなんないの?」
「ちっちっ。あやめさんはわかってないですね。
普段からデレるにーなさんなんてチーズの乗ってないピザみたいなもんですよ。このツンを乗り越えた先に極上のデレが待ってると思うと‥‥よだれが止まらんわけです!すんすん!」
「‥ののかちゃんは手遅れにもほどがあるわ‥。」
「私はフォッカチオ好きだけどな。あ、サイゼ行きたい。お腹減った。」
「じゃぁ今日はログアウトして食べに行きましょっか。」
「ちょっと待ちなさいよ。今日は別に喧嘩売りに来たわけじゃないわ。
人を探してるんなら力になれると思うわよ?私の仲間に情報を集めるのに長けているスキルを持ってる人がいるの。紹介するわ。」
「‥‥見返りは?」
「仲間になってもらいたい。簡単にギブアップができない今、少しでも戦力は欲しいところなの。
見たところ、貴女たちはまだ2人よね?悪い話じゃないと思うけど?」
なるほど。悪い話じゃない。
くそ女の強さは身をもって知っている。
仲間になってくれれば死ぬ確率も減るだろう。
だが、信じていいのだろうか。
くそ女が表情を変えず仲間を切り刻んだ光景と、この数ヶ月で勝負した相手が仲間割れし殺しあう光景が脳裏に浮かぶ。
わからない。
いつもならテレパシーで相手が何を目論んでいるのか教えてくれるんだが。
ののかのほうに目をやる。
あからさまに嫌そうな表情でくそ女を見ている。
あまりいい提案ではないということだろうか。
「悪いけどやめとく。ギブアップするための駒にされるのもごめんだし。」
「そう?そんなつもりはないけど無理にとは言わないわ。まぁ、気が向いたら声をかけて。
私だってただ生きたいだけだからいつでも大歓迎よ。じゃあね。」
そう言ってくそ女は去っていった。
「あのくそ女、なに考えてたの?」
「え?‥えーと‥まぁにーなさんが言った通りいざという時のゲームオーバー要員にしようとしてたみたいな感じです。」
「‥‥まぁ、いいや。お腹減った。ログアウトしよっか。」
「そうですね。じゃぁまた後ほどです。」
目の前からののかの姿が消える。
ログアウトすると瞬間移動したみたいにその場から消えてしまう。
「‥あれ?ログアウトできないな。」
私も同じタイミングでログアウトしたはずだが、いつもの小汚いアパートのくそ汚い部屋に戻る気配がない。
いつもなら数秒と経たずにゲームから抜けられるのだが。
「きゃ‥すいません‥。」
路頭に迷っているとシスター姿の女の人がぶつかってきた。
どうやら私はテンパって歩道に出てしまったみたいだ。
「ごめんなさい。大丈夫‥ですか?」
ぶつかってきたのが女の人でよかった。
普通に謝れた。
男の人だったら無言でその場から逃げてたかもしれない。
顔を覗き込むと綺麗な瞳から涙を零していた。
そんなに痛かったのだろうか。
「あっと‥すいません‥。」
「あ‥‥大丈夫です!こちらこそすいませんでした!」
深くお辞儀をしながら謝罪をし、足早に行ってしまった。
なんか罪悪感が胸に残ったままで気持ち悪い。
今日はいいことがないな。
その後は普通にログアウトができた。
ゲームのバグだろうか?
それともアイテムかスキルを使われた?
だとするとさっきのシスターが怪しい。
ののかのスキルを把握している可能性がある。
だから、ののかがログアウトしたタイミングを見計らって近づいてきたのだろう。
何をされたんだ、私は。
「に、にーなさん‥‥。」
部屋のドアの方から声がした。
振り返るとののかがいる。
「あ、あの‥携帯にも出ないし、ピンポン鳴らしても返事がないから‥入ってきちゃいました‥。」
「‥‥それはいんだけど、鍵かかってなかった?」
ののかは着ている赤いパーカーから鍵を取り出してこちらに見せつけてくる。
「‥‥いざという時のために作っちゃいました‥‥あはは‥。」
どうやら私の部屋の鍵のようだ。
「発狂してここから飛び降りて死なねえかな。」
「あはは‥‥2階から飛び降りても骨折るくらいですよ。それより、なにかあったんですか?」
「あー‥なんも。なんかいつもよりログアウトに時間かかっただけ。」
やめよう。
考えてもわからない。
それにこれで死んだら死んだだ。
私は今、そこまで生に執着していない。
もともと姉の死を知ったとき、死のうとさえ思った。
姉のいない世界で1人で生きていくことになんの意味も感じられなかった。
そして、あのゲームの存在を知って復讐という生きる意味ができた。
でもこの数ヶ月、なんの成果も得られないことを考えると復讐の相手はもういない可能性が高いと思う。
最初は誰でもよかった。
姉を殺した張本人でも、それが叶わないならそれを殺した誰かでも。
今思えば結局のところ自分で命を絶つのが怖かったんだと思う。
でも今は生き残ることのほうがよほど恐怖を感じる。
私は今、自分でも驚くほど毎日が満たされている。
ののかがいてくれるからだ。
必要とされたらすぐ股を開くチョロい駄女と思われたくないから本人には言わないが、私の中でののかの存在がかなり大きくなっている。
姉と同等と言っても過言ではないかもしれない。
たかが数ヶ月だが、私はこんなに誰かと時間を一緒にしたのは初めての経験だ。
姉でさえ月に数回程度しか会っていなかったのだ。
こんな毎日一緒にいてくれる人なんていなかった。
「じゃ、行こっか。」
「行きましょう。今日はののが奢りますからね!フォッカチオ祭りしましょう!すんすん!」
「くひひ。地獄かよ。」
だからこそ怖い。
この幸せが有限であることを知っているから。
遅かれ早かれののかも私も死ぬだろう。
ルールが変更になってなおさら確率は上がった。
そう何度も連勝できるものではない。
今がうまくいきすぎているだけだ。
もし勝負に負けることになれば他に仲間のいない私たちのどちらかが確実に死ぬ。
どちらかが取り残されることになる。
もう残る側はたくさんだ。
私はこの幸せの中で死にたい。
もちろん死ぬのは怖い。
でも生きてこの幸せの終わりを迎えるくらいなら、ののかが死ぬところを見るくらいなら私が先に‥。
「うわぁ‥‥にーなさん‥色々かけすぎでは‥?」
「フォッカチオには粉チーズにオリーブオイルにタバスコ。からのマイケチャップ。美味しいよ。かけてあげる。」
「いやいやいや。ののは塩だけで満足なのです。‥もうそれ、ピザ頼めばよくないですか?」
「あ?全然違うから。」
勝負が終わったばかりのこの時間は好きだ。
少なくともあと1ヶ月はこの時間を楽しめるのだから。
「‥あのゲームもなんか変わりましたね。
なんかみんな殺伐としてるというか‥。」
「そりゃね。前みたいに命の保証がない分、必死になるだろ。それに1回の勝負で最低1人死ぬだろうし、初心者は真っ先に狙われるだろうし、残ってるやつは大体、生き残ることに必死なやつばっかだろ。」
「運営側はなんでこんなルールにしたんですかね。」
「知らん。人が死ぬのをもっとみたいやつがいるんじゃん?」
このゲームには課金も広告もない。
運営側は損することがあっても得をすることはない。
つまり、別の方法で収益をあげているわけだ。
私の頭で考えうる方法としてはお偉いさん方を集めて賭け事でもしているのだろうか。
私たちの生死を利用して。
「‥ルールなんて変わらなければよかったのにな‥。」
氷で薄まったアイスティーをストローで飲みながら俯く。
ののかもこの時間が長くは続かないことを悟っているようだ。
「‥‥そだね。」
「うはは。辛気くせぇ。くさすぎて鼻がもげるわぁ。」
「‥‥あ?」
聞き覚えのある笑い方の女が目の前に立っていた。
まさかのまさかだろ。
「うひ!リアルでもそそる顔するわぁ。
ぷっちょだぁよぉ。はじめましてぇ、ってか。」
なんでぷっちょがここにいるんだ?
なんで現実世界で私たちのことがわかる?
現実のぷっちょはもっとブサイクだと思っていたがなかなか整った顔をしている。胸もまぁまぁあるし、なんかムカつく。
思考がまとまらない。
が、悪い予感しかしない。
「あ、あたしフォッカチオ頼むねぇ。
砂糖かけるとうめぇのよ。」
「‥邪道だ。」
「どっこいどっこいですよ‥。」
「‥‥いろいろ聞きたいけどとりあえず。
なんか用?」
「べつにぃ。あたしは用ねぇよぉ。勝負してくれるなら話は別だけどなぁ。
あいつらが用あるってぇからついてきただけだぁ。」
ぷっちょが指差す方を見ると、長身の男とまだ高校生くらいに見える女が2人いて店員と何かを話している。
ほどなくして店員が私たちが座っている席の机と隣の席の机をくっつけだした。
どうやら一緒の席に座るつもりらしい。
「君が都内住みで助かったよ。遠出は嫌いなんだ。」
長身の男が話しかけてくる。
誰だ。ゲームで顔を合わせたことがあるやつなのか。
「はじめまして。私はアリー。
ののかさんとは1回お会いしてるけどね。覚えているかい?」
「え?そなの?」
「えぇ‥‥そうでしたっけ?」
何故か逆にののかが私に問いかけてくる。
知らんがな。
「‥‥チュートリアルのあと、一度仲間になってくれないかと声をかけたはずだが。」
「ああ!思い出しました。
早くにーなさんのところ行かなきゃと思って断りましたよ?」
なるほど。私と会う前にチームから勧誘を受けていたのか。
何故だろう。ののかはチュートリアルでは特に目立ったことはしていないはずだ。
ののかのスキルを知っているのか‥?ということは‥。
「にーなさんのスキルも把握しているよ。
まぁ、他所に広めるつもりはない。今のところはね。」
メニューに目を通しながら私が気になっていることに答える。
くそ。要件によっては非常にやりづらいな。
ののかのときみたいに友好的な感じもしないし。
「ああ。あとこちらがあざみさん。この子がクチナシさん。今日はクチナシさんの要件で君に会いに来たんだ。」
「どうも。あざみです。ぼくは‥まぁ、付き添いみたいな感じだけど‥よろしく。」
「ぼくっ娘ってほんとにいるんだな。」
「ボコるよ?ぼく、空手やってるから。」
やば。思わず口にでてしまった。
年下にボコられたら恥ずかしくて死ぬわ。
ぼくっ娘は胸が私とそんなに変わらない。よかった。
「‥クチナシです。
先程ゲーム内でぶつかった修道服着てたやつって言えばわかりますかね?」
「あーね。気になってたんだ。
よかった。そっちから会いに来てくれて。」
シスターさんは殺人級に胸がでかくて話がはいってこない。吐きそうだ。
「とりあえずご飯でも食べてから本題に入ろうではないか。」
「いや、話すことないし。消えてほしい。」
「私が楠になの知人って言ってもかい?」
「‥あ?」
姉の知り合いだと?
姉を殺したやつを知ってるのか?それともこいつが‥。
今にもはじけ飛びそうなほど心臓の鼓動が高くなる。
こちらに笑いかけてきて再びメニューに目を戻す。
「私はフォッカチオとプリンを頼むよ。一緒に食べると美味しいのでね。」
「‥‥フォッカチオ流行ってるんですか?」
「いや、知らん。でもプリンはひくわ。」
「うはは。たしかに。プリンはねぇわぁ。」
「‥人数分頼もう。食べればわかる。」
「え‥?ぼくらも?」
フォッカチオのせいで本題に入ったのはこいつらが来店してから1時間後のことだった。




