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嘘つきにーなのゲーム録  作者: にゃの
楠になの人生譚
17/24

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『接続が完了しました。この度はLANDをご利用頂きありがとうございます。ゲーム内で利用する名前を決定してください。』


「‥‥あざみ。」


『あざみ様。本ゲームを始めるに当たってひとつご質問させて頂きます。

あざみ様は誓約事項に目を通し、同意の上で本ゲームのご利用を考えている認識でよろしいでしょうか?』


「うん。」


『ありがとうございます。それでは本ゲームのご説明をさせて頂きます。』


このゲームの進行役から簡単な説明を受けた後、気づいたら小さな部屋のベッドで横になっていた。

その横にある机に黒い封筒が置いてある。


進行役から説明があった通り、これがぼくのゲーム内で使えるスキルが書かれた封筒だろう。


「あ、あざみさん。クチナシです。チュートリアルで同じチームですね。」


部屋から出て、リビングのような場所に出ると女の人が話しかけてきた。

どうやらクチナシさんのようだ。

修道服を羽織り、現実と同様清楚な姿をしている。


「‥‥クチナシさん。よかった。1人じゃ心細くて‥。」


「私もですよ。その姿って‥‥男‥?」


「あ、いや‥まぁなんとなくかな。今はチュートリアルに集中しよう。お話はそれからで。」


クチナシさんが黙ったまま頷くのを見て、まわりを見渡す。

それぞれの部屋のドアにはゲーム内での名前が書いてある。

そこに花の名前はない。どうやら他には葉色コーポレーションからの参加者はここにはいないみたいだ。


ぼくとクチナシさんは、同じビル内からこのゲームに参加している。

いや、参加させられている。


このゲームの存在もだけど、まさか日本で日常的に人身売買が行われているなんて知らなかった。

そして、自分がそれに巻き込まれることになるとは思いもしなかった。


ぼくもクチナシさんも葉色コーポレーションに売られた身だ。

うちは貧乏だったしひとり親の父親とも上手くいってはいなかったけど、3000万と交換されるなんて。

昔の奴隷の価格に比べればマシな値段なのだろうけどショックを隠しきれない。


売られ先の葉色コーポレーションにはぼくを含め、10人ほどの若い男女がいた。

そこでクチナシさんと出会った。

本名は知らない。

葉色コーポレーションでは名前は名乗らせてもらえず、それぞれに花の名前を与えられ、現実でもゲームでもそれを名乗るよう言われた。


葉色コーポレーションは表向き大手の製薬会社だ。

あらかた新薬の実験にでも使われるのかと思っていたけど、そんなことはなくこのゲームに参加するよう言われた。

どうやらこのゲームでぼくらにお金を稼がせるつもりらしい。


死ぬ可能性があることと外に出れないこと以外、待遇は悪くなかった。

食べたことない美味しい料理も振る舞われたし、外に出れなくても建物内であれば自由にしてても問題ない。


むしろ、お酒に溺れた父親と暮らすよりも快適でさえあった。


「顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」


チュートリアルが終わり、ゲーム内の街をクチナシさんと歩いていると顔を覗き込んできた。


「大丈夫。ちょっと緊張しちゃったから。」


「あ、そうですよね‥ごめんなさい。

こんなゲーム‥大丈夫なわけないですよね‥。‥‥足が重いです‥。」


クチナシさんの気遣いは嬉しいけど、ぼくは全く違うことを考えていた。


どんなに辛くても頑張ろうと思っていた。

四月に高校を卒業したら家のために働こうと思っていた。

たった1人の家族だからとかろうじて繋がっていた糸がぷっつり切れた。

こんなところにずっといるつもりはない。

ここを出て幸せになってやる。

それがぼくなりの父親に対するささやかながらの復讐だ。

そう思うことで心を強く保てた。


「‥このまま2人で逃げたいですね。」


「はは。1人あたり5000億円稼げたら解放してくれるって話だけどね。逃げるのとどっちが楽だろ。」


どっちも途方のない話に思えた。

5000億なんて途方のない値段稼げるとも思えないし、ぼくたちがいるビルは長い時間をかけてフォークで壁に穴が空くようなお粗末なセキュリティもしていない。

さらにはこのビルから出れたとしてもこのゲームをやめるためにはさらにお金が必要となる。

解放ということであれば死ぬのが1番早いような気がする。


今、ぼくたちは葉色コーポレーションに指示されたところに向かっている。

そこに同じように身売りされ、このゲームを始めた人たちが集まり、2つのチームに分かれて組むよう言われている。

最初のノルマはどんな方法でもいいからチームごとに1ヶ月で5億渡せるだけ稼ぐことである。

1人でも頼りになる人がいれば当分は死なずにすむのだろうか。

それだけ稼ぐためにどれだけ勝負を挑まなければいけないのだろうか。

クチナシさんの言う通り、逃げれるものなら逃げたい。


「クチナシさんだね?」


突然、ヨーロッパの王族の服装をした長身の男がクチナシさんに話しかけてきた。


「だ、誰ですか‥‥どうして私の名前を‥。」



「私はアリー。詳しい話は後にするが私とチームを組んで私に協力してほしい。」


突然すぎて、話をうまく飲み込めないがどうやらクチナシさんはチームに勧誘されているようだ。

ただ、チュートリアルを観戦できると葉色コーポレーションから聞いており、もしチームの勧誘があっても全て断るよう言われている。


「申し訳ございません。私たち、もうチームが決まっちゃってて‥。」


「葉色コーポレーションだろ?知っている。

私ならそこから解放してやることもできるがどうだろう?」


何故、葉色コーポレーションのことを知っているのだ。

製薬会社としては有名だから名前くらい知ってても驚きはないけど、口ぶりから裏の顔も知っているようだ。

それでいてそこから解放できると言っている。


「あざみさん‥‥ど‥どうしましょう?」


小声でぼくに問いかけてくる。


「見返りの部分を聞いてみないとなんとも言えないけど、もし本当の話なら悪い話じゃないかも‥。話を聞くだけなら‥‥。

でも‥たぶん誘ってるのはクチナシさんだけだと思う。クチナシさんがしたいようにするのが1番じゃないかな。」


そう。ぼくは誘われていない。

クチナシさんが決めればいい。

葉色コーポレーションから出たとして、ぼくたちは売られた身だ。

外に居場所がある人も多くない。

どちみちこのゲームを続けなければいけないのであれば、葉色コーポレーションにいるほうが幸せな人も少なくないだろう。

死ぬまでは裕福に過ごすことができる。


ぼくが誘われているのであれば迷いなく即決するけど、誘われているのはクチナシさんだ。

クチナシさんが決めるのが1番いい。


「‥‥‥わかりました。」


一瞬、間を置き、決意した顔でアリーさんの方を向く。


「あざみさんも一緒に助けてくれるなら協力します。」


驚きを隠せない。

自分だけなら助かるかもしれないのに、この状況で不利な条件をつきつけれるなんて。

他人の心配をできるなんて。

見た目に違わず、中身までなんて綺麗な人なんだろう。


「‥ふむ‥まぁ、いいだろう。

なら、あざみさんにも同じチームに入ってもらう。ついてきてくれ。

ここではあまり説明できることも少ない。」


「‥すいません‥巻き込んじゃいました。

1人じゃ心細くて‥。」


申し訳なさそうに俯いている。

もしこれが嘘の話で死ぬようなことになってもぼくはクチナシさんを恨むことはないだろう。

チャンスをくれたのだから。


「‥いや、ありがとう。ほんとに。」


葉色コーポレーションに指示された場所には行かず、2人でアリーさんの後をついていく。


「この辺りならいいだろう。」


街から離れ、何もない岩場で立ち止まり、空間に手をかざす。


空間が歪み、人が通れるくらいの裂け目が出来た。

アリーさんのスキルだろうか。


「入ってくれ。ここなら運営に目をつけられることなく話ができる。」


クチナシさんがこちらを見ている。

頷き、ぼくから先に空間に入った。

クチナシさんがその後を、アリーさんがまたその後をついてくる。


中は暗く、小さな光の球がいくつも浮いている。まるでプラネタリウムのような幻想的な場所だ。


「ここは私が作った空間だ。ゲームをハックして、簡単には検知されない隙間を作った。まぁ容量を取りすぎると不審がられるから小さい空間だがね。

ここなら何をしてもログにも残らない。

君たちを殺しでもしない限りは運営は違和感も覚えないだろう。」


後ろから響く低く、威圧的な声に鳥肌がたった。

気づいたら1番後ろにいるアリーさんの方を向き、身構えていた。


「世間話もできないのか?だから、君たちを殺すことが目的じゃないという話だよ。」


アリーさんは足を止めることなく、ぼくの横を横切る。


「そもそも、私には君たちを殺すほどの力はないよ。戦闘向きなスキルじゃないんだ。」


喋りながら奥に進んでいく。

ぼくとクチナシさんもそれについて行く。


「おぉ。だんなぁ。邪魔してるぜぇ。」


道が途絶え、他よりも大きい場所にでた。

そこにはソファに座るいかにもヤンキーっぽいジャージ姿の女の人がいた。


「ぷっちょさん。用があるときはこっちから連絡するから、それ以外はここに来なくてもいいんだが。」


「うはは。うざ。あたしの勝手だろぉがよぉ。」


「‥‥はぁ。‥ぷっちょさんだ。この人にも協力をお願いしている。勝負全般はこの人がいれば問題ないだろう。」


「うはは。言ってくれるねぇ。この前負けたばっかだぜぇ?」


「遊びすぎなのだよ、君は。ルールが変わる前でよかったよ、全く。」


「あ、あの‥‥私は何を協力すればいいのでしょうか?」


そうだ。勝負に関してはぷっちょさんという人がいれば問題ないというならクチナシさんには何をさせるというのだろう。

どんなスキルか知らないがチュートリアルでは大した活躍はしていない。


「とても大事なことだよ。‥まず私の目的から話さないといけないな。」


「んへぁ?あたしは聞いてねぇぞぉ?

うはは。贔屓ぃってかぁ?」


「‥せっかくだからぷっちょさんにも話すよ。

私の目的は2つ。楠になの妹を殺すこととこのゲームを終了させることだ。」


「‥え?殺すって‥?」


「強制とはいえ、こんなゲームを始めといてその反応は意外だな。

順を追って話そう。楠になは私の元知人でこのゲームの創設者だ。もう死んだがね。

あああ‥!名前を声にするだけで頭がおかしくなりそうだ。」


狂ったように頭を掻き毟りながら話を続ける。


「このゲームは始まってからそんなに長くない。1年半くらいかな。私と私の恋人は楠になからこのゲームに誘われた。

テストプレイはよかった。こんな殺し合いのゲームなんかではなくみんな和気藹々と楽しめるゲームだった。素晴らしい人だと思った。

楠になが葉色コーポレーションと組むようになってから今のようにおかしな殺し合いのゲームになった。そして楠になに私の恋人は殺された。ううぅぁあ‥!ふざけるな!ふざけるな!!」


「あの‥ちょっとまって‥‥葉色コーポレーションがこのゲームを運営してるんですか‥?」


「表面上はな。実際してることといえば資金周りの管理くらいだろう。

運営の全ては楠になが作ったAIが自動でしている。

そのAIにウィルスを感染させて機能しなくなればこのゲームも終わるだろう。」


このゲームを終わらせる。

それは願ったり叶ったりだけど‥もし、このゲームが壊れたらぼくたちはどうなってしまうのだろう。


「まぁ、そっちの話は君たちにはあまり関係ない。楠になの妹のほうだ。」


焦点の合わない目でクチナシさんのほうを見る。

しぐさは明らかにイカれているのに言葉は会ったときと変わらず流暢なものだ。


「楠になは死んだ。私の知らぬ間に。なら妹を殺す。逃げられないように。できるだけ苦痛を与えて。」


何故、その考えに到達するのかわからない。

妹は関係ないだろうに。

やり場のない怒りを八つ当たりしてるようにしか見えない。


「どんな理由であれ、私は大切な人を殺されたんだ。まともでいられるわけないだろ?」


ぼくの考えていることを表情から読み取ったのか、悟ったようにぼくに話しかける。


「でも君の言いたいこともわかる。私は知りたい。

何故、楠になは私の恋人を殺したのか。

私が知る限り、あの人はそんなことをするような人じゃない。他に根源がいるのであれば私はそいつを殺す。もしいないのであれば、身内である妹を殺す。

‥‥クチナシさん。君のスキルを楠になの妹、にーなに使って、楠になについての情報を集めてきてくれ。

そうすれば、あざみさん含め悪いようにはしない。」


会話が支離滅裂している。

妹を殺すと言いながら実際は他に諸悪がいると思っているような口ぶりだ。

きっと楠になの人徳なのだろう。

そんなことをする人ではないということか。


アリーさんの顔を見るとゲームなのにやつれているように見える。

行き場のない復讐で相当まいっているように見える。


「あ‥えっと‥。」


クチナシさんがこちらを見てくるから小さく頷いた。

そのにーなさんという人には悪いけど、美味しい話だと思う。それにもう選択肢はない。


今から葉色コーポレーションに指定された場所に行っても遅いし、かといってぼくもクチナシさんも戦闘向きなスキルではない。2人で生き残るのも難しいだろう。

それに、にーなさんがどんな人かはわからないけど勝負以外での戦闘行為は禁止されているんだ。危険ということもない。


「‥はい‥やります‥‥。」


「よかった。‥もう既に私の仲間が君たちを葉色コーポレーションから金で買った。1人あたり50億だ。まぁ確実な利益を取る分賢いやつらだな。私らの勝負をお偉いさん方との賭け事に使ってしこたま稼いでるだろうに。

ログアウトしたらすぐそのビルから出してもらえるだろう。」


「うはは。そんなこたぁどうだっていいわけよ。だんなぁ。あたしもこいつらに着いてくぜぇ。」


今まで黙って話を聞いていたぷっちょさんがソファから立ち上がり、伸びをする。


「‥君は顔が割れてるだろ。」


「関係ねぇなぁ。あたしの知らねぇとこであいつを殺すのはだんなでも許さねぇ。

にーなはあたしのだぁ。」


どうやらぷっちょさんもにーなさんに私怨があるようだ。

この人の醸し出す雰囲気は独特な不気味さがある。

正直、ついてきてほしくない。


「‥‥わかった。ただし、私がいいと言うまでは邪魔はしないでくれ。」


「うはは。あぁってるってぇ。仲間だろぉ?信じろよぉ。」


おぼつかない歩き方でゆらゆらとこちらに近づいてくる。


おでこがぶつかるくらい顔を近づけてきて不気味に舌をちらつかせる。


「というわけでぇ。ぷっちょだぁ。よろぉ。」




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