嘘つきばっかりです
「うひゃひゃ!あぁー。上手くいったかぁ。
さいこーかよぉ。楽しすぎてくるっちまいそぉだろぉ。」
いつのまにか復活しているぷっちょの笑い声が闘技場に響く。
「なんだよ!ずるいだろ!お前が復活するまで勝負は中断だろ!反則だ!」
みすずが泣きそうな声で反論する。
「別に攻撃してねぇし。勝手に真っ二つ女が死んだんだろ。」
確かに運営は何も言ってこない。反則ではないのだろう。
「姉弟子になにしたんだよ!?お前の攻撃は全部防いだのに!なんで!なんでさ!?」
「あー、いいってぇ。説明すっからぁ。
この瞬間がさいこーに気持ちいいんだわぁ。」
説明なんてどうでもいい。ののかが死んだ、ののかを守れなかった結果は変わらないのだから。
そんな気持ちを無視してぷっちょは続ける。
「嘘つくときの基本はさ、本当のことを混ぜて話すことなんだぜぇ?うは!あー、うん。そうそう。あたしめちゃめちゃ嘘ついてんだわぁ。」
「嘘はダメだろ!ずるい!」
「あへぁ。まぁ、そーね。結局何も言わないで黙って戦うのが1番勝率たけぇもんなぁ。
でもそれは面白くねぇから色々くっちゃべってやったってわけなぁ。感謝だろぉ?
まぁ、あたしはあほな主人公でもなけりゃ、マヌケなラスボスでもなけりゃ、嘘ついたことのない聖女でもないけどぉ。ただのお喋りが好きな嘘つきなわけよ。」
こちらの反応を伺っているのかところどころ間を入れて話し続ける。
「嘘って言っても些細なもんよぉ?
獣女の動きを目線で推測してるとかね。うはは、化け物じゃあるまいし無理だろぉ。わかるかっつの。
あたしのスキルをどこまで知ってっか知らんけど、まぁ何でもちょん切る透明な板を自由に操れるわけよぉ。自由ってぇとちょい語弊があってさぁ。先に命令埋め込んで実行させたら後はオートで動くんよぉ。
真っ二つ女を真っ二つにしろとかね。
何かに当たったら命令が取り消されるのと途中で命令を解除できないのが使えねぇなぁ。うはは。」
『ぷっちょさんの意識が戻ったので30秒後に勝負を再開致します。』
「あー‥こんなことはどぉでもいいかぁ。うは!もう1つの嘘ね。」
その後もぷっちょは饒舌に続ける。
声から察するに早く話したくてたまらない顔をしているのだろう。
「爆弾なんてあたしは持ってないんだわぁ。
うはは。超小型の地雷でしたぁ。地面に仕掛けて踏んだら人1人吹き飛ぶくらいの威力のねぇ。」
「‥‥てめぇ‥。」
ようやくののかだった物体からぷっちょのほうに目をやる。
私の顔を見て満足そうに口角があがる。
「うひゃひゃひゃ!そぉそぉ!てめぇに近づいたときに周りにいくつか仕掛けたわけよぉ!保険よ!保険!
スキルで真っ二つにできなかったのは残念だけどこうも上手く木っ端微塵になってくれるとはなぁ!さいこぉかよぉ!うひゃひゃ!」
動けない私をあえて餌にして、ののかが近づいてきたところを吹き飛ばしたということか。
確実性に欠けるし反則になりかねないからほんとうにただの保険だったのだろう。
運までぷっちょに味方するなんてどうしようもないな。
いや‥考えれば考えるほどどうにかできた場面がいくつもあった気がする。
あのとき、玉砕覚悟でぷっちょを串刺しにできていたら。
あらゆる想定をしてののかをみすずから離れないように指示していれば。
ののかが2回死んだ時点でギブアップしていれば。
そもそも私が私怨なんて持たなければ。
ののかは私が殺したも同然だ。
「うひ‥!その顔が見たかったんよぉ。満足だわぁ。うはは。もう少し眺めたらギブアップしてやんよぉ。」
随分余裕だな。スキルを離さなければ死なない自信があるのだろう。
現にぷっちょから仕掛けてこなければ私たちにぷっちょを攻撃する術はない。
いや‥もうどうでもいいか。
疲れた。もう何も考えたくない。
「師匠!!」
突然みすずに肩を掴まれ無理矢理視線を地面から前を向かされる。
途中爆発音が聞こえたが気にもせずみすずは近づいてきたのだろう。
「あんなやつ!あんなやつうちが絶対殺してやる!!だからいつもみたいにうちに言葉をかけてよ!」
無理だ。みすずがいくら強くてもぷっちょのスキルはやぶれない。
しかもあんた、足折れてるだろ。
「お前は強いから誰にも負けないって言葉かけてよ!師匠にその言葉をかけてもらえれば嘘みたいに力が湧いてくるんだ!お願い!姉弟子の仇をうたせて!!」
泣きそうな声で懇願する。
嘘みたいにか。そりゃそうだ。
嘘だもん。心の底では思ってないからな。
私のスキルは嘘を本当にすることだから‥。
だから‥。
「‥‥‥っ‥‥‥みす‥ず‥!」
「‥師匠?」
みすずの両肩を掴み返しカラカラの声で名前を呼ぶ。
「わ‥私のスキルは髪の毛を操るスキルじゃない‥本当は言ったことを全部本当にできるスキルだ。
ののかは‥‥ののかは、まだ1回しか死んでない‥あと1回生き返ることができる!まだゲームオーバーじゃない!まだ復活できる!ののかはまだ死んでないんだ!」
「あ?‥‥あー‥うひ‥うひゃひゃ!」
ぷっちょが声をあげて笑っている。
当然か。
我ながら嘘が下手だな。
こんなこと後出しで突然言って信じれるものではない。
本当のスキルを言うとスキル自体が使えなくなるから一部嘘を混ぜているがこれによってこれからは少し戦い方を考えなければいけなくなる。
そして、前提としてこの嘘をみすずが信じてくれなければならない。
更にこのスキルが許容する範囲もわからない。
ゲームオーバーになった人間は生き返すことができないかもしれない。
可能性は極めて低い。
それでも縋るしかない。
リスキーだろうと可能性が低かろうと0じゃないなら‥ののかが生き返る可能性があるなら私はそれに縋りたい。
「頼む‥信じてくれ‥。」
「‥師匠‥‥。」
喋れば喋るほど現実逃避の嘘にしか聞こえない。
私だったら絶対信じないな。
「信じるも何もないよ!なんでもっと早く使わないのさ!!」
「みすず‥‥!」
『ののかさんが戦闘不能になりましたので勝負を中断して勝負前の位置にお戻りください。ののかさんの意識が戻った30秒後に勝負を再開致します。』
「おいぃぃ。うそだぁ。」
聞きたくって仕方がなかったアナウンスが流れる。
「みすず‥みすず!やった!ののか生きてる!」
「師匠!やった!やったね!」
みすずが物凄い力で抱きついてくる。
スキンシップは嫌いなのだが悪い気はしない。
軽くみすずを抱き返す。
「ちょっと!ののが見てない間に何やってるんですか!?」
気がつくと数メートル先で大声を上げているののかが仁王立ちしている。
『ののかさんの意識が戻ったので30秒後に勝負を再開致します。』
「あ‥あ‥‥あれ‥?」
自然と涙が零れだす。
参ったな。このゲームを始めてから随分と感情が豊かになったものだ。
「え?‥いや‥冗談ですよ‥?ののはこういうことには寛容なほうなので‥なにも泣かなくても‥‥。」
ののかがこちらに近づいてきて訳の分からない言い訳をし始める。
「くひひ‥‥駄あほ。どういうことにだよ。」
「姉弟子!!」
近づいてきたののかにみすずが抱きつく。
「わ!?えっと‥えー‥あー‥‥心配なかったよ。
にーなさんはのののこと守ってくれるから。
痛いから離して。」
私とみすずを交互に見て状況を理解したのかみすずを諭すように優しく話す。
死んどいてよく言う。まだ私のことを信じれるのか。
後で思ったがこのとき、また地雷が残っていてそれを踏んで吹っ飛んでいたら笑えなかったな。
「まじかよぉ。そんな展開誰ものぞんでねっつのー。」
心の底から残念そうにぷっちょがこちらを見ている。
みすずがののかから離れ、構える。
「まだだよ!あいつ生きてるもん!
次こそは絶対、姉弟子を守ってみせる!」
「いや、大丈夫だろ。」
「え?」
キョトンとした顔でこちらに顔を向ける。
攻撃に備えるならよそ見するなと言いたいが今回は問題ない。
「ギブアーップぅ。」
「え?」
ぷっちょは遊び半分でこの勝負に挑んでいたみたいだが妙なところで慎重ではあった。
2回死んでいる現状で勝負は続行しないだろう。
仮に続行していたとしても今度こそ私がギブアップしていた。
「うはは。せっかく鬱陶しい先輩たちが死んでくれたのにあたしが死ぬとか笑えねーからなぁ。無理はせんわけよ。
ギリギリまで必要最低限しか使わなかったてめぇのスキルの制限事項は気になるとこだけどぉ。まぁ、今回は詮索はしないでやんよぉ。」
有難い。この勝負を誰が見ているかわかったもんじゃない。ここで制限事項がバレれば私は言葉通り無能そのものになってしまう。
『ぷっちょさんがギブアップしましたのでチームのののの勝利となります。勝負を終了致します。チームぷっちょの所持金の半分である6150億リルドがチームののののものとなります。以上です。それぞれのチームルームにお戻りください。』
アナウンスが終わるとともに無くなった足や傷が癒える。
「勝った‥‥勝ったよ!師匠!姉弟子!!」
みすずがその場で飛び跳ね歓喜の声をあげる。
「アナウンス聞かなくてもわかってるって。」
疲れた。ほんとに疲れた。
実際、心の中では踊り狂いたいほど嬉しい。
勝ったのだ。誰も欠けることなく数千億もの大金を得ることができたのだ。嬉しくないわけがない。
つか思ってた以上に持ってるな、ぷっちょ。
「みすずちゃん。実際は踊り狂いたいほどにーなさんは喜んでるよ。」
「なんだよ!師匠!照れ屋か!」
相変わらずののかは私の心を読むのに躊躇がない。
「‥地雷踏んで吹き飛んで死ねばいいのに。」
「あはは‥助けてくれたのは誰ですか。」
「あーあーあー‥はしゃぎすぎだろぉ。」
ぷっちょが不機嫌そうにこちらを見ている。
まるでゲームに負けて拗ねている子どものようだ。
「‥億単位の金なんて手にすんの初めてだからな。そりゃはしゃぐよ。」
「うはは。まぁそりゃぁなぁ。でもこっからが大変だぜぇ?
今までと比べもんにならないくらいつえぇやつと相手しなきゃいけねぇからなぁ。
アイテムくらいいくつか買っておいたほうがいいぜぇ。」
「ん。そりゃどーも。」
「うはは。うっぜぇ。まぁあたしには関係ないけどなぁ。じゃぁなぁ。
次はぜってぇ、てめぇらぶっ殺してやるわぁ。」
王道漫画のライバルのような捨て台詞を吐いてぷっちょは闘技場を後にした。
いらんお世話だし、あんたと戦う次などない。
1人あたり数千億あるんだ。今後一切、勝負なんかしなくても優雅に生きていける。
「ぱ!師匠!姉弟子!うち、凄いことに気づいた!」
「‥なに?」
どうせロクでもないことだろうが一応聞いといてやろう。
「こんなにお金あるしさ、もう誰とも戦う必要ないんじゃない?1日100万取られても全然残りそう。」
やっぱり。しょーもな。
「知ってるよ。勝負しなくても余裕で一生遊べるくらいのお金を私たちは持ってる。」
「‥‥!ならうちはもういつ死ぬかもわからない勝負したくない!やめたい!
やめれるんだよね!?師匠も姉弟子もうちもみんなこのゲーム続けなくていいんだよね!?」
みすずの唾が顔にかかる。そんな近づいて懇願されても私が知るか。
なんでもかんでも私に答えを求められても困る。
みすずは好きでこのゲームを始めたわけじゃないのだろう。
家族を助けたくて縋る思いで始めたはずだ。
その目的を達成したみすずがこのゲームを続ける意味もない。
「金銭的には問題ないよ。みすずの言う通り、無理に勝負する必要もないし。」
「じゃぁー
「私はある目的でこのゲームを始めたんだ。その目的を達成するまでは続ける。」
みすずの顔がひきつる。
自分はゲームを続けたくないという意思表示だろう。
ここまでわかりやすく顔に出されると不愉快だな。
「だいじょぶ。もともとぷっちょとの勝負に勝ったら辞めるよう提案するつもりだったから。
みすずもののかも辞めてもらっていい。
巻き込むつもりはないよ。」
「師匠‥‥ごめん‥うちは家族と静かに幸せに暮らしたいから‥。」
「だから勝手にして。私だって目的達成したらこんな糞ゲーやめるから。
くひひ。無駄遣いすんなよ?たぶん平気だと思うけど税務署の職員が怒るかもな。」
「わわ‥わかった!無駄遣いはしないようにする!」
そこらへんは運営がなんとか上手いことやっていそうだが。少し脅しすぎたか?
「まぁ美味いもんくったり少し贅沢するくらいなら平気。元気でね。」
涙を堪えながら深々とお辞儀をしてくる。
性格に似合わず建前だけは上手なやつだ。
「ありがとう!師匠!姉弟子!この恩は絶対忘れないから!」
みすずはそう言ってログアウトした。
さばさばしたやつだな。
「なんか利用されるだけされたって感じですね。」
2人きりになってののかが愚痴をこぼす。
ののかが言うからにはそうなのだろう。
「お互い様だろ。てかあんたも消えろよ。
みすずがいないんだから次は助ける自信ない。」
あんな嘘、みすず以外誰が信じてくれるだろうか。目の当たりにしていたぷっちょか、この勝負を観戦していたやつくらいだろう。
「にーなさんは何回同じことを言うんですか?
ほんとは1人ぼっちだと不安で仕方ないくせに。」
「まだ地雷残ってないかな?踏んで。」
「あはは!ののは不死身なのでそう簡単には死にませんよ。」
「あー‥も‥。」
ののの言う通り、1人は不安で仕方なかった。
ののがそう言ってくれるだけで気持ちが楽になっている自分がいる。
最低だな、私は。
「まぁ当分、勝負なんてしないつもりだしこの話は保留で。
後でメッセージに連絡先送って。用があったら連絡するから。」
急に両方の掌で顔を隠す。
「はふぅ‥っ‥!ついにイベント発生しました!トゥルーエンドまでもうすぐですね!すんすん!」
「もうなに言ってるかわかんないけどよろしく。‥‥で、いつこっちに引っ越してくるの?」
指と指の間からこちらを見てにやにやしながら間をおいてムカつくテンションで話し続ける。
「すんすん!そんなにたのしみにしてるならすぐ行きますよ!今月中にはそっちいきますね!」
「うざ。今月中って‥もう26日だけど。」
「行きますね!」
「あ、うん。好きにして。」
正直、もうゲーム内でののかと話をしたくない。鬱陶しい上に心を読まれたんじゃ、なんかこしょばい。
「あ、みすずちゃんとも連絡先交換しとけばよかったですね。万が一必要になるかもしれないし。」
「あーね。じゃ、メッセージで連絡先送っとく。そのうち、気まぐれにログインしてくれれば気づくよ。
万に1つも当分必要になることはないし。」
「そうですね。あー‥なんかこの余裕、ようやく勝てたなって実感湧いてきました。」
伸びをしながら大きな目で空を見ながら呟く。
その清々しそうな顔を見て改めてののかが生きていることを実感した。
そんなののかに声をかけず放っておいてログアウトした。
頭に取り付けたゲーム機を取り、涙を拭く。
拭いても拭いても溢れてくるそれに諦めて煙草に火をつけ、鼻をかみながら煙を吐く。
「あー‥‥も‥‥やだな、これ。」
こんな姿、ののかに何回も見られるくらいなら死んだ方がマシだ。




