嫌いな人とも仲良く勝負しましょう
「あ!師匠!なんで昨日の勝負なくなったこと言ってくれなかったんの!?」
ぷっちょとの勝負の2時間前、街の広場でみすずとののかと合流した。第一声からやかましいやつだ。
「いや、運営からのメッセージ見ればわかるじゃん。」
「気づくのに2時間かかったし。なははは!」
「みすずちゃん、また見捨てられたと思って泣いてたみたいですよ。」
「ちょっと!姉弟子!言わないでよ!心読まないでよ!」
「そんなことより。」
「そんなことぉ‥‥。」
心の底からそんなことだ。どうでもいい。
「こっから大勝負だ。勝てば1人数千億手に入る。負けるとかなり辛い状況になる。ここは絶対勝ちたい。」
「す‥数千億‥‥。」
みすずがつばを飲み込む。
気持ちはわかる。今まで考えたこともない額だ。
「勝ったらみすずは借金全部返せばいい。ののかだってもっと贅沢な暮らししろ。私はカップヌードル全種類箱買いする夢を叶える。だから死ぬ気で頑張ろ。」
「おー!!絶対役に立つ!!」
「勝負のルールは乱闘って書いてありましたね。」
「あー、うん。最悪だね。ぷっちょばっかり乱闘にあたるのおかしい。絶対なんかやってるよ。」
さしずめ、そういうアイテムがあるのだろう。
なんにせよ、攻撃を全く受け付けないどころかはね返すぷっちょ相手に乱闘は厳しい。
「1日中考えたけど結局ぷっちょのスキルの制限事項はわからなかったし、対策もわかない。
とりあえず制限事項を特定するところからかな。
幸い、こっちから攻撃しなければ攻撃力自体はそこまで高くない。
身体能力は高いみたいだけど、みすずなら余裕でかわせると思う。私は私でなんとかする。ののかは私の後ろから絶対離れないで。」
「はい。‥すいません‥役立たずで‥。」
「駄あほ。勝手に何もしない気でいないで。
私の後ろにいつつ、絶対ぷっちょから目を離さないで。
たぶんののかの心を読むスキルもはね返されると思うけど、もしはね返されないことがあればすぐ教えて。制限事項わかるかもしれないから。」
「は、はい!頑張ります!」
「うん。コミュニケーションはののかのテレパシーでする。3人で話すとかもできるんだよね?」
「はい。できます。」
「ん。いい感じ。ののかは私とみすずを視界に入れないようにして。」
「うちは避けてるだけでいいの?」
「とりあえずは死なないことにだけ専念して。
無駄に攻撃して死なれても困るから。
3回しか死ねない。どんなばかでもゲームオーバーに近づけば近づくだけ動きは固くなるから。」
「わ‥わかった!」
「額が額だけに私はあんたらが2回戦闘不能になっても素直にギブアップできる自信ない。
死にたくなかったら自分らで判断してギブアップしていいから。‥ごめん。」
「押忍!師匠が謝ることじゃないよ!
そんくらい自分でやるし!」
「そうですよ!たまにはみすずちゃんを頼ってください。」
「あ、あれ?姉弟子は?」
「あはは‥ののも自信ないから‥。」
「うっさ。やっぱ今のなし。
絶対2回戦闘不能になるな。その前に勝負をつけよう。」
「押忍!」
残りの時間をいくつかぷっちょの制限事項の想定することに使い勝負の時間がきた。
「うはは、ひさしぃ。てかチーム増えてんかぁ。うけんなぁ。」
チームルームから闘技場に移動すると既にぷっちょがいた。
相変わらずチームはぷっちょ1人みたいで、相変わらずニタニタしてて気味悪い。
「うるさい!お前なんかがにーなさんに話しかけんな!ギブアップするなら今の内だぞ!ってみすずちゃんが言ってます。」
「え?え!?うち!?」
「お願い。一生黙ってて。」
今回は別にイラつからない。
ののかなりに揺さぶりをかけているのだろう。
制限事項が見当もつかない今は何をやっても無駄ではない。
「うはは。チュートリアルのときから思ってたけど、やっぱそいつぶち殺してぇ。」
「あわわわ‥‥こわい‥‥。」
ぷっちょが薄気味悪く笑いながらののかを睨む。ののかが私の袖を掴みながら小動物のように小刻みに震える。
それでもぷっちょから視線をそらさずにいる。
「させないから。」
袖を無理やり引き離す。
ののかがこちらを見て、返事をする代わりに頷く。
『闘技場にきてからずっとぷっちょさんを見ていますが今のところ、全く心が読めてません。』
『りょ。まぁそんな簡単じゃないか。この後もお願い。ずっと見てて。色々試してみるから。』
『はい。』
『みすず。相手にスキルとかバラさないでよ。
正々堂々なんて糞の役にも立たないから。』
『お‥押忍!‥‥あ、危なかった‥。』
『それでは時間になりましたのでチームのののとチームぷっちょの勝負を始めます。
ルールは乱闘です。相手がギブアップするか、チームの全員が3回戦闘不能になった時点で終了です。』
開始のアナウンスがなった瞬間、髪の毛を鞭状に変え、ぷっちょの頭上に振り下ろす。
「うはは、いいねー。あがけあがけぇ。」
予想通り、ぷっちょのオートカウンターにはじき返される。が、予想通りにはじき返されてくれた。
どうやらぷっちょのスキルは攻撃をそのままはね返すだけのようだ。
正面からの攻撃は正面にはね返り、真上からの攻撃は真上にはね返る。
つまり、遠距離かつ四方八方から攻撃できる私は正面からの攻撃を避ければ、あほ先輩のような自分の攻撃で死ぬなんてことは回避できる。
『師匠!ずっるい!うちには攻撃するなって言っておいて!師匠攻撃しまくりじゃん!』
『うるさい。』
近距離かつ真正面からしか攻撃ができないみすずはぷっちょと相性が悪いだろう。
無駄に死なれても困る。
「わかる。わかるぜぇ。あたしのスキルの制限事項探ってんだろぉ?
そんな健気なてめぇにいーこと教えてやるぁ。
あたしのスキルに制限事項はない。」
なるほど。いいことね。確かに。
『たぶん嘘。私ら含め、今までのやつらは全員、制限事項あったから。良かれ悪かれ、たぶんぷっちょにもあると思う。
むしろないなんて嘘を言ってくれるんだから希望が出てきたね。』
『んー‥ののには難しい話はわかりません。』
『姉弟子に同じく!あれ?師匠のスキル、制限事項ないって言ってなかった?』
『ばかは細かいこと気にしないで。』
ここでもし、ののかのような制限事項でもなんでもない制限事項を言われてたなら多少動揺はしたかもしれない。
隠すということはバレると不利な制限事項であるということだ。
それさえ分かれば勝てるかもしれないということだ。
「くひひ。あんた、下手な嘘つくな。
まだ私の方が嘘つくの上手いよ。」
「おいおいおいぃ。あたしは生まれてこのかた嘘なんてついたことない聖女だぜぇ?
てめぇと一緒にすんなぁ。」
「どこが聖女だ!ばか!」
みすずがどうでもいい罵声から話に割ってはいる。
「うはは、てめぇの周りにはむかつく馬鹿しかいないのかよぉ。ウケる。
もう少し時間くれてやってもよかったけどやめた。こっちからいくぜぇ。」
勝負開始から全く動かなかったぷっちょがこちらに向かってゆっくり近づいてくる。
「ぱ!?も‥もしかしてまたうちは余計なことを‥‥。」
「言いました。いいよ。死なないことにだけ専念して。」
もう少しゆっくりいろいろ試したかったがこうなっては仕方がない。
逃げつつ、試していこう。
「まずは、ムカつくてめぇからだなぁ!」
そう言いながらナイフ片手に物凄いスピードでみすず目掛けて走り出す。
相変わらずチートな身体能力だ。
だけどスキルで強化されているみすずの身体能力に比べれば劣る。
『あんた、絶対跳ぶなよ!』
『がってんだ!師匠!』
みすずの喉元目掛けてナイフを振る。
がみすずが簡単にそれを避ける。
「あへぁ?避けるかぁ。避けるんかぁ。
うははは!ウケる!おもしれぇ!」
どうやらみすずがお気に召したようで。
先ほどのみすずの挑発も無駄ではなかったわけだ。
みすずに夢中になっている間にぷっちょの真下から攻撃したがやはり跳ね返される。ののかを連れて、距離を取りぷっちょの周りを回る。
『ど?』
『すいません。だめです。』
だめか。ぷっちょの周りは前後左右上下全て、オートカウンターで埋め尽くされているわけね。どうしようもない。
避けきれず、みすずに当たったナイフが突き刺さることなく折れる。
「んへぁ?んだ、こいつ。かてぇなぁ。」
「なははは!みすずちゃんは硬いのだ!舐めるな!」
それでいてぷっちょのナイフはこちらに当たるわけだ。ずるいスキルだ。
「スキルかなんかかぁ?めんでぇ。
あとさっきからちょこまかうぜぇ。てめえらから殺るかぁ。うはは。」
そう言うとみすずからこちらに体の向きを変える。気持ち悪い笑顔だ、全く。
『隙あり!!』
みすずが後ろからぷっちょを殴ろうと拳を振りかざす。ぷっちょは気づいていない。
『‥っ!ま、待って!』
みすずのデタラメな強烈なパンチなら、もしかしたらぷっちょのスキルにも通用するのではないか?
そんな淡い期待をどっかでしていたと思う。だからみすずを止めるのが一瞬遅れてしまった。
みすずのパンチがぷっちょに当たった瞬間、トラックがコンクリートの壁に突っ込んだような音と衝撃波で砂埃が舞い、視界を遮る。
「あいつは勝手に死んでくれそうだしなぁ。」
「あぐぁ‥‥。」
砂埃がおさまるとぷっちょを殴ったはずのみすずの右腕が肩から先がなくなり血が滝のように地面にこぼれ落ちている。
ぷっちょのオートカウンターで跳ね返され、みすずの拳は自分自身の腕を木っ端微塵にしたようだ。
くそ。また私の判断ミスだ。
もう少し早くみすずを止められていれば。
ほんと、後悔ばっかりだな、私は。
「き‥きかぁぁぁん!!」
咆哮と共にみすずの腕から溢れていた血がみるみる内に止まる。
筋肉で血を止めた、ってやつか?
「おおいぃ。化物すぎだろぉ。」
「なははは!師匠!なんつぅ顔してるの!?まだ負けてないし!きかないし!」
汗を垂らしながら笑顔でこちらに親指を立ててくる。
私は今、どんな顔をしていたのだろう。
情けない。これ以上、後悔に後悔を上乗せする気か、私は。
ののかが心配そうにこちらを見る。
あー、くそ。こっち見るなって言ったのに。いつも嫌なとこどんぴしゃでこっちを見てくるな。
「死ねばいいのに。」
わかってる。しっかりしなきゃ。
「んぁー。やっとやる気になったって感じだなぁ。潰し甲斐あるぜぇ。
てめぇにはちゃんとぶっ刺さんかよぉ!?」
いつの間にか両手にナイフを持ち、こちらに突進してくる。
ぷっちょのスピードも厄介だが1番厄介なのは瞬発性だろうな。
助走なしにいきなりトップスピードでこちらに突進してくる。
集中していないと気づいたときには首元にナイフが突き刺さってたとかなりかねない。
笑えない。
「あーあーあぁ?!!鬱陶しい髪だなぁ!おい!」
髪の毛でぷっちょのナイフを防ぐ。
大丈夫だ。集中すれば私でもなんとか反応できる。
でもずっとは無理だろう。
私とののかはみすずと違ってナイフが突き刺されば致命傷どころか場所が悪ければ死んでしまう。
早いとこなんとかこいつに攻撃を当てる方法を考えないと。
「ししょー!」
「くんな!大丈夫だから!呼吸整えてて!」
今、みすずが割って入ったとしても攻撃が当たらないんじゃあまり意味がない。
盾役として使うのもいいがいざという時のために息を整えてもらうほうがいい。
「うへぁ‥まぁじで当たんねぇのなぁ。
だりぃだりぃ。うはは。」
なんだ、その余裕。
いくらこっちの攻撃が当たらないからってそこまで舐められると腹が立つ。
「あー、うん。だなぁ。こんな安いチョーハツに乗るようなてめぇじゃねーよなぁ。めんど。めんどめんどめんど。早く死なねーかなぁ。死ね死ね死ね死ね死ね。」
「‥‥少し黙ってほしい。おしゃべりトロリンが。」
挑発かよ。普段から不気味すぎてわかりづらい。
攻めが弱い分、その得意な腹ただしい態度でこっちから攻撃させたいわけだ。あぶない。
でも逆にこれ以上の攻撃がないと考えてよさそうだな。少し安心した。
「あ!!」
「あ?な‥‥」
後ろからののかの声がしたと同時に私の体が横から吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる最中、ナイフを持ったののかがぷっちょの胸めがけて突進しているのが視界に入る。
どうやら私はののかに突き飛ばされたようだ。
「‥にやってんだ!!てめぇ!!」
「あんだぁ!?こいつ!?」
ののかの突進はぷっちょに当たることなく避けられた。
避けた?何故だ?必要ないだろ。
先ほどのののかの反応とぷっちょが避けたことが線で繋がる。
何故かまではわからないが、ののかはぷっちょの心が読めたのだ。
攻撃が当たると確信してぷっちょにナイフを突きつけた。
ふざけるな。なんでテレパシーで私にそれを伝えないのだ。
私のほうがまだぷっちょに攻撃を当てられる可能性は高いのに。
「がはぁっ!!あぐぅ!!」
「姉弟子!!」
ののかの断末魔とみすずの叫び声で我にかえる。
考えを巡らせていた時間は1秒もなかったと思う。
その短い時間の最中、ののかは胴体から真っ二つに切断され、ののかの腑があたりに飛び散っている。
それが答えだろう。
役立たずな私の代わりにまたののかは殺されたのだ。
「あああぁああああああああぁ!!!!」
状態を起こす間もないまま、ぷっちょの顔面目掛けて髪の毛の槍を突き刺す。
無情にも跳ね返され、自分の髪の毛で自分の右足を太腿の根元から切断する。
「あがぁあああ!!!」
「あぶな、あぶなぁ。なんだぁ、あの女ぁ。
完全に不意をついたつもりだったけどなぁ。
てめぇを殺せなかったのはちょっと損だなぁ。
あー‥いや‥うはは。今ならナイフでも殺せるかぁ?」
ナイフをどこからともなく取り出し、こちらに近づいてくる。
痛みと片足を無くしたことで逃げ出すこともできない。
どちみちこんな状態じゃ戦えないし、まともに頭も回らない。
1回殺されてから立て直すべきだろう。
ののかばっかりに痛い思いさせてきた罰だな。
「させない!」
片腕を無くしたみすずが私の目の前で仁王立ちする。
いや、させてやれよ。ほっとかれても出血多量で死にそうなんだから1回リセットさせてほしい。
「んへぁ?さっきの真っ二つ女見てたかぁ?
てめぇがいくら頑丈だってあたしはてめぇを殺れんぜぇ?」
「これ以上、仲間が殺されるのを見てるだけなんてできるわけないだろ!ばか!」
みすずの足が震えている。
怖いなら隅っこで縮こまっててよ。あんたはまだぴんぴんしてんだからそのまま死なないで頑張ってくれたほうが嬉しいのだが。
『ののかさんが戦闘不能になりましたので勝負を中断して勝負前の位置にお戻りください。ののかさんの意識が戻った30秒後に勝負を再開致します。』
「‥んあー。そぉいえばそんなんだったなぁ。
1番ムカつくやつ殺し損なったぁ。」
みすずの体が崩れ落ち、その場に座り込む。
ののかの死体があった方に目をやるとすでに血痕すら跡形もなく無くなっていた。
切断された側の太腿の根元を髪の毛できつく縛り、なんとか血を止める。
くそ。この状態で次の勝負に持ち越しか。
ののかが何かに気づいてたようだったから万全の状態でいたかったが仕方ない。
「んー‥んぁー。うひゃひゃ!いいなぁ!いいと思う!いいこと思いついた!そしよ!うはははは!」
笑いながらこちらに背を向け元いたほうに戻って行く。
これ以上まだなにかあるのかよ。勘弁してほしい。
「‥みすず‥ありがと。大丈夫?」
「‥動けなかった‥‥。」
座り込んでいるみすずの目から水滴が地面に零れ落ちる。
「姉弟子が殺される前‥嫌な予感がしたんだ‥‥なのに‥うち怖くて‥‥あんな痛いのはじめてだったから‥‥。ごめん‥ごめん‥‥!」
「普通でしょ。誰だって痛いのも死ぬのも怖いよ。それに、私が来んなって言ったし責めるなら私を責めて。」
不思議そうに悲しそうにみすずが私の目を見る。
「師匠はなんで自分だけ責めるの?なんで自分だけ危ない目にあおうとするの?」
言いたいことがわからないわけでもないがあまりわからない。
そんなつもりは毛頭ないのだが。
そういえば姉にも同じようなことを言われたことあるな。
「あー‥たぶん私、親も友達もいなかった同然の生活してたから。自分のできることは自分でやりたい。無理そうなら他人を利用する。そんな感じ。別にあんたを心配して来るなって言ったわけじゃないよ。守れると思った。
‥‥それに‥。」
いつのまにか五体満足で横になっているののかのほうに目をやる。
「意外と大事になってたわけよ。すげー腹立つけど。」
みすずの目により一層、涙がたまる。
「うちだって師匠も姉弟子も大事だよ!
それにそんな体じゃ師匠‥。」
1日2日で何言ってんだこいつ。
と思ったが私も人のこと言えないな。
「わかってるよ。駄あほ。なんとかする。」
「いったあああ!」
横になっていたののかが叫び声をあげながら体を起こす。
「勝ったら億万長者だ。絶対勝と。」




