親睦を深めましょう
電車の窓から千葉にある東京夢の国が見えた。
私は行ったことはないが、なるほど。
外観だけでも、まるでそこだけ異国の都市かと思わされる華やかさがある。
そこに有名な鼠やら家鴨やらがいるわけだ。楽しくないわけがない。
最寄駅に親子で楽しそうに降りていく子どもを扉が閉まるまで眺める。
姉は行ったことがあったのだろうか。
あの人の人柄であればいくらでもお誘いがあってもおかしくないと思うが、私はそれらしいグッズやお菓子のお土産をもらった記憶はない。
姉なら行ってきたときに買ってきそうだけど。
いや‥姉が私に会いに来てくれるようになったのは姉が高校を卒業してからだ。
それ以前のことはましてや、以後だって会いに来てくれている時間以外、姉のことはほとんど知らない。
姉が私の質問に答えてくれたことしか知らない。
「あ、に、にーなさん‥‥ほんとにきてくれたんですね‥。遠くから‥ありがとう‥ございます‥。」
千葉駅に着くとののかがベンチに座って申し訳なさそうに待っていた。
「放置もできないでしょ。‥毎回こんな遠くから来てくれてたんだ。ありがと。」
「あ‥えっと‥ののが好きでやってることなので‥‥。」
やっぱりゲームの世界より現実のののかのほうが鬱陶しさは少なくて落ち着く。
まぁ、ゲーム内でこうおどおどされるのも困るが。
「す‥すいません‥。ここから少し車で移動します。」
「おお。免許も車も持ってるの?意外。」
「あはは‥住んでるとこが田舎なので車ないと生きていけないですよ‥‥。」
「へぇ。都内どころか家からもほとんど出ないからぴんとこないけどそうなんだ。田舎住みたくねーなぁ。」
ののかでさえ持っているのに23にもなって免許を持っていないことが恥ずかしくなってきた。
「東京では必要ないですもん。逆に維持費かかるし‥‥。引っ越したら売ろうかなって思ってます‥。」
「あーね。いいじゃん。持ってなよ。
んでたまに乗せて。楽しそう。車乗る前にタバコ吸っていい?」
「‥‥はい‥に、にーなさんが乗りたいなら、のの持ってます‥。
あ、タバコは車で吸っていいですよ。どーせ、他の人は乗らないし。」
「あーと‥じゃ、そうする。」
ののかの車に乗り、運転席に座るののかに目をやる。童顔なこともあり、違和感がすごい。
「んで、どこにいくの?」
窓を開けてタバコに火をつけ、吸いながらののかに尋ねる。
「ののの両親のお墓です。そういえば最近行ってなかったので‥‥。」
「‥‥‥え?そんなん1人で行けし。」
「そ、そそそーですよね!す、すいません‥‥。でも‥ここまで来たんだし‥一緒に来てください‥‥。」
考えてもわからない。
なんで顔も知らないののかの両親に手を合わせるためだけに2時間もかけてこんなところに呼び出されなければいけないのだ。
こんなことなら家で空き缶ボーリングでもしてたほうがよっぽど有意義だ。
「‥死ねばいいのに。」
「し‥シンプルに言われるのもキツイものがあります‥‥。」
「もういいや。行って手合わせればいいんでしょ。早く終わらせてなんか食べよ。お腹すいた。」
「は、はい。そうですね‥。のののおすすめのお店に連れて行きますね。」
申し訳なさそうにののかは苦笑いをする。
私の性格からしてこうなることくらい目に見えてると思うのだが。
なんで私を墓参りに連れてきたんだろう。
霊園に着き、ののかの両親の墓の前に来た。
お世辞にも綺麗にされているとは言い難く、ここ最近は手入れされていないように見える。
そういえばののか自身も久しぶりだと言っていた。
「ののの両親はののが10歳の頃に死にました。‥‥ののが殺しました。」
墓に手を合わせながらののは続ける。
「ののは虐待されてました。殴られ、蹴られ、ろくな食事ももらえずな毎日でした。いつ殺されるかもわからない状態です。だから殺しました。」
淡々とののかは話してきたが、なんで私にそんな話をするのだろう。
正直、どうでもいい。
が、こういうとき、どんな反応をするのが正解なのだろう。
姉なら真摯になって聞くのだろうか。
私はというとそんな話するためにわざわざ私をここに連れてきたのか、最初に会った時、私に嘘をついていたのか、という苛立ちしか感じない。
「知ってますか?14歳以下の子どもが殺人を犯しても罪にならないんですよ?
まぁ、病院や児童相談所に連れて行かれたりそれが原因か知りませんがいじめられたりもしましたが‥‥。」
「あーと‥‥大変だったね。って同情するのが正解?その話聞いて私はどうすればいいの?」
「あはは‥にーなさんらしいというか‥。
同情してほしいとかじゃないんです‥。ただ、ののにはにーなさんしかいないって知ってほしかっただけです。
あのゲーム始めるまでいつ死んでもいいと思ってました。
にーなさんがいなきゃもう現実世界で生きていく意味もありません。」
あーね。ようやく理解した。
ののかはどうやら私の心を読んだらしい。
ぷっちょに勝った後、ののかにゲームを辞めさせるつもりな私の気持ちを変えさせたいのだろう。じゃなきゃ、こんな話、人に話す意味もない。
回りくどい。ゲーム内で言えば3分で済む話だ。
「‥‥いいじゃん。ゲーム辞めたって、こっちに引っ越せばいつでも会えるよ。」
もともとそういうつもりだった。
途中で死なれるよりそうしてくれた方がはるかに私の支えになってくれるから。
「‥会ってくれないですよ‥‥。唯一の繋がりであるあのゲームを辞めたらののはにーなさんにとって本当の役立たずになっちゃいますから‥‥。」
なんて卑屈なやつなのだろう。
私ってそんなひどいやつに見えるのだろうか。
つか、ゲーム内でもたいして役に立っていないくせによく言う。
「‥自分を強化できるみすずとかなら別だけど、あんたには自分を守る術がないだろ。
出来るだけフォローはするつもりだけど、これからどんなスキルのやつと戦ってくかわからないし、あんたが1番死ぬ可能性が高い。
まだ相手の所持金が少ない内は迷わずギブアップできるけど、数千億とか持つような相手となったら間違いなく迷うよ。いつも正しい判断ができる自信がない‥‥。」
2回戦闘不能になったらギブアップすれば間違いなく死ぬことはない。
今後、賭け額が大きくなればなるほど勝ちたい、負けたくない欲も大きくなるだろう。
自分は別にいい。死んだらそれまでだ。
でもののかが2回戦闘不能になったときに無理せずギブアップを選択できるかわからない。
ぷっちょとの勝負でもそれができるかずっと不安で仕方がない。
「別に‥覚悟の上です。」
「あんたの覚悟とか、どうでもいい。
私はあんたに死んでほしくない‥と思う。なんなら死ぬまで一緒に適当にだらだらできたらって思ってるよ。私の気持ちもわかれよ。」
「ならののの気持ちは!?ののだってにーなさんに死んでほしくないよ!初めての友達だもん!大切な人だもん!危ない思いして欲しくないし苦しい思いもしてほしくないよ!
ぷっちょさんに勝ったらみすずちゃんなんかほっといて、こんなゲーム辞めたいよ!!
でも‥にーなさんは‥絶対辞めないもん‥。ののの言葉なんて聞いてくれないもん‥。
なら‥せめて一緒に乗り越えたいです‥。
にーなさんだってののの気持ちわかってよ‥。」
自分の両親の墓の前で大声を出して泣き始める。
なるほど。そこまで想ってくれてるのか。
人の気持ちなんて姉じゃなくても誰でも察することなんてできないのか。難しい。
私たちはすれ違ってるカップルかなにかかよ。恥ずかしい。
でも改めて言葉って大事なんだと感じる。
「‥姉を殺したやつを殺したら私だってこんなゲーム辞めるよ。」
「ならそれまではののも続けますからね。」
「だからあんたは1番死ぬ可能性が高いんだってば‥。」
「あはは、なら守ってください。にーなさんが死んだらののも死ぬので、ののが死んだらにーなさんも死んでください。」
「いやだよ‥。なに流れに任せて笑顔でサイコじみたこと言ってんの?こわっ。1人で死んでほしい。」
涙を拭き、今までで一番の笑顔でこちらに振り向く。
「あはは‥‥ならそうします。それまでは付き合いますよ。」
止めたい。それは私のエゴなのだろうか。
いや、私のエゴに付き合わせることのほうがよっぽど自分勝手ではないだろうか。
こういうときどう止めればいいのだろう。
姉なら気の利いた言葉のひとつでもでてくるのだろうな。
「そういう死亡フラグ立てないでほしい。
‥‥絶対辞めさせるから。」
「あはは。それはののが決めることなので。」
「‥‥もう知らん。」
「‥にーなさんのばーか。」
「くしゃみの勢いで目ん玉飛び出して死なねーかな。」
「あはは!死にませんよ。」
「あーと‥じゃぁもう行こ。‥私も手合わせた方がいい?」
「あー‥どっちでもいいですよ。話がしたかっただけなので。」
じゃぁここじゃなくてもいいじゃん。
その怒りも含め、ののかの両親の墓に手を合わせるかわりにタバコの火をつけ擦りつける。
「ヤンキーですか、あなたは。」
「顔も知らないやつに手を合わせても嘘くさいじゃん。死人なら怖くないし、あんたを産んだこの人らムカつくし。」
「そ‥そろそろののへの怒りが笑えないレベルに達してるみたいなのでご飯いきましょう。
美味しいお好み焼き屋さん知ってるんです。」
「そんなもので私の怒りはおさまらない。
もんじゃがいい。」
「‥‥はふ‥も、もちろんもんじゃもありますよ。にーなさん、真顔で冗談言うから一瞬わからないです。」
「ふひひ、精進しろし。」
わからない。今は考えるのをやめよう。
どうせぷっちょに勝てるかもわからないんだ。
現状だと負ける可能性のほうが高い。負けたらののかにゲームを辞めさせる云々の前にゲームオーバーにならないようにするだけで精一杯になる。
この贅沢な悩みは勝ったときに考えよう。
「‥‥ごめん。」
「‥‥?はい。」
「ありがと。」
「‥‥はい。」




