第三話 新しい依頼
クラリスが出ていったあと食事を再開したミックは、小一時間ほど経ってから席を立った。
「もう行くのかい?」
「あぁ」
レイラの言葉にも短く返して部屋に戻ろうとするミック。
「また来なよ。あんたの食べっぷりは作る側としても気持ちいいからね」「・・・・・・あぁ」
ニカッと笑うレイラに顔を向けずに一言うなずいた。
それだけでレイラは満足そうにミックの頭を撫でて厨房に戻っていった。
部屋へと戻ったミックはベッドに腰掛け、先程クラリスから渡された紙を懐から取りだし書かれている内容を見る。
書かれているのは今回の仕事に関してと依頼者の要望が記されていた。
「所詮、クズはクズでしかないな」
すべて読み終えたミックはぐしゃっと紙を握りつぶし、誰もいない壁を睨みつけ殺気を放つ。
今度の標的を思うと、なくなったはずの左腕がうずく。
ズクズクとズキズキと痛み、あらゆる負の感情が集結していくようのを止められない。
「・・・・・・だがまだだ。その時は今じゃない」
体を抱き締めゆっくり何度も深呼吸して平静を取り戻したミックは腰を上げて部屋を出ていった。
――――――――――
「やれやれ。彼には失望しましたよ」
街から少し離れた富豪の邸宅が並ぶ区画。そのさらに奥にある一際でかい屋敷の一室。
そこにソファに身を沈め、足置き台に足を乗せくつろいでいる金髪の男が一人、横にいる黒服から手渡された資料を見て落胆のため息を吐いた。
「単純な仕事もろくにできないとは・・・・・・実に嘆かわしい。そうは思わないかい?」
渡された資料には、先日殺されたディレウスの死因など、通常は手に入らない情報が詳細に書かれていた。
それを彼、アドリアス・ディゴンは一瞥したあと興味をなくしたように資料を床に放り投げた。
「アドリアス様の、おっしゃる通りでございます」
黒服は放り投げられ散乱した資料をすぐさますべて拾い上げながら自分の主である彼に肯定する。
「まぁいい。微量ながら損はしたが、結果的に私と彼との繋がりを示すものはすべて消し去れたし。それに------」
アドリアスはそう呟き、黒服が新たに手渡した資料と手乗りサイズの四角い箱を見てくっくっと笑う。
「彼が必死に溜め込んでいた金も回収できたし、予定外の物も得られたしね」
透明な四角い箱のなかには青白い球体がまるで宝石のように光輝いていた。
「彼がまさかこっちの商売をしていたとは思わなかったよ。あぁ、それにしても美しいねぇ」
手で箱を弄びながら恍惚な表情をしてアドリアスは呟いた。
「人の魂とは、かくもこんなに美しいものだとはね」