第二話 次の仕事
「こらこらミック君。職業名じゃなくてちゃんと名前で呼ばないとめっ☆って言ったでしょ?」
女の子は彼のぶっきらぼうな言い方にも気にせず、可愛らしくウィンクをした。
太陽のように輝くサンイエローの色をした髪に白いフリルのついた赤いワンピース、肩かけのウサギのポシェットという出で立ちの、少女というよりむしろ幼女に近い女の子は椅子の上で足をぱたぱたさせている。
「ちゃんと笑顔で言わなきゃ。クラリスちゃん♪ はい、りぴーとあふたーみー」
少しばかり舌っ足らずな口調で自分の名前を呼ばせようとするクラリス。
「歳を考えろロリババア。自分のことちゃん付けとか痛いわ」
「ふ、ふふふ。ノリわるーいよねぇ。君ってばホントつまんないよねぇ」
クラリスの喋りにミックと呼ばれた少年はハンッと鼻で笑い一蹴すると、頬をピクピクとさせ、ひきつった笑いをしている。
しかし、額には青筋がくっきりと出ており、怒りの度合いが見てとれる。
「知るか。仕事をこなす。ただそれだけで問題ないはずだ」
お前の事情など知ったことかとため息をひとつ吐き、ミックは懐に手を入れクラリスの前にある物を置いた。
それは片手に乗るくらいの小さな四角い箱。ガラスのような半透明の中に、赤黒く輝きを明減させている丸い物体が入っている。
「はいはい。今回もお仕事は無事にコンプリートってことで。君の担当として、ボクは鼻が高いよ」
先程までとはうってかわって、その幼さからは想像できない酷薄な笑みを浮かべ、クラリスは置かれた箱を手に取った。
「んー、これがあのディレウス候の魂。いつ見ても惚れ惚れするほどの醜さを持つ魂だ。やっぱりボクはヒトの魂はこれくらい汚れていた方が好きだなぁ」
今彼女が手にしているのは先程食堂にいた男たちが話していた貴族、ディレウス伯爵の魂そのものである。
その魂が入った箱を手で遊ばせながら、クラリスはうっとりとした表情をする。その顔は妖艶とまで言えるほど色気があった。
「とりあえずご苦労様。今回の報酬はこれね」
クラリスはポシェットから金貨の詰まった袋を取り出し、テーブルに置く。
パンパンになっているそれはガシャリと重たい音を響かせた。
「今回はボーナスポイントもあるからいつもより多めだよ? うれしいかい?」
「それで、次の仕事は?」
クラリスの言葉を無視し、置かれたミックは次の仕事の話をする。
「おやおや、勤勉だねぇ。ボクにはとても真似できないよ」
「茶化すな。あるのかないのか、どっちだ?」
とりつく島もないと分かるとクラリスはやれやれと肩をすくめ、ポシェットを開けて持っていた魂の入った箱を入れ、代わりに一通の紙を取り出しミックに渡した。
「次はこいつだ。前回のと比べると小物っちゃ小物だが、よろしく頼むよ」
「・・・・・・どんなやつだろうと構わない。ただやるだけだ」
ミックは差し出された紙を無造作に掴むと、軽く見通したあと乱暴に懐に入れた。
先程までの無感情とは違い、恨みや殺意を抱くような顔をした。
「まぁ、ボクは仕事さえやってくれれば過程はどうでもいいさ。んじゃ、よろしくね、おにいちゃん♪」
ピョイっと明日から飛び降りたクラリスはその姿相応の無邪気な笑顔で手をヒラヒラさせると食堂を出ていった。
「そう。俺の目的のためなら、どんなことだってやってやるさ」
誰もいない食堂で、ミックはそうポツリとこぼした。