我は闇。喰らうモノなり
ものすごい久々の連載を開始します。
まだまだ未熟者ですので皆さま、よろしくお願いします‼️
「ハァッ、ヒィッ、ブヒィッ」
外は豪雨が降りしきるなか、館内を太った中年の男性が息を切らして必死に走り回る。
呼吸すらままならず、しかし彼から逃げるために少しでも酸素を取り込み回復しようと酸欠になりかかっている頭で近くにある部屋に逃げ込み内側から鍵をかけた。
「ブフウッ、ブゥッ、ハァ、ハァ」
少しずつ呼吸が整え、扉に耳を当て彼が来ていないかを確認する。
------カツッ、コツッ、カツッ、コツッ
「ひっ」
館内に響く靴音に中年男は悲鳴をあげ、ガタガタと震え出す。
歯がカチカチと鳴り、身体を縮こまらせ、必死に息を殺して彼が去るのを待つ。
しばらくして、靴音がどんどん遠ざかり、音がしなくなった。
「ふ、ふぅ。行ったか」
安堵の息を吐き、中年男は額から滝のように流れ出る汗をぬぐった。
「く、くそぅ。何故だ。なぜ儂がこんな目に遭わんといけないんだ」
安全になったとたん悪態を吐き、少し落ち着いたあと部屋を出る。
「そもそも、護衛どもはいったいどこにいった? こんなときのために金を払ってやってるのに使えないやつらめ」
「その護衛ってのは、こいつらのことか?」
「へっ? ひぃっ!?」
先程までは後ろには誰もいなかったはずなのに、いきなり声をかけられ、中年男は間抜けな声をあげて振り向き悲鳴をあげる。
そこには先程まで自分を追ってきていた黒ずくめでフードを被っている男が立っており、左手に持っていたものを中年男の前に投げた。
「な、なんだこれは・・・・・・あ、あぁ・・・・・・」
ごろんっと音がしたものを中年男が怖々とそれを拾い上げて見てみると、それは護衛だった男のなれの果てであり、既に生気がなくなった目が自分を見上げていた。
「ひ、ひやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
中年男は悲鳴をあげその場に尻餅をつき、持っていたそれを投げ捨てた。
(う、うそだ。こいつがこんな・・・・・・)
中年男の思考はなぜ、どうしてという言葉でいっぱいになる。
さっきの護衛の男は大人の男性が10人以上束になってかかられてもほぼ無傷で相手を叩きのめす。
そんな力を持っているはずなのに。
そんなまとまらない思考を続けていると、ふいに風が頬を撫でた。
窓はすべて閉まっているのにどこから風が? と一瞬にして思考がそっちに向かう。そのすぐあと、自分の顔に生暖かい水がかかった。
呆然と、中年男は右手で拭おうと手を動かした。
しかし、顔にかかった水を拭うどころかさらにびちゃびちゃと顔にかかり続ける。
不思議に思い自分の右手を見ると、本来そこなあるはずのものがなくなり、代わりになくなった部分からボタボタと血が溢れていた。
「えっ? い、痛い痛いぃぃっ!?」
知覚できたことでようやく痛みが脳に伝わったのか。中年男は右腕を押さえてその場にのたうち回る。
「ぐぞぉっ!! なぜ、なぜ儂がこんな------」
中年男が痛みと悔しさ、怒りとない交ぜになった表情をしながら目の前にいる黒ずくめの男を睨み付ける。
「痛いか? だがな、お前が食いものにしてきたやつらの痛みはこんなもんじゃないぞ」
そう言って黒ずくめの男は左手を一度振るう。
その動作でまた一度風が吹き、今度は中年男の左足がなくなった。
「あぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!?」
腕からも足からも血を迸らせ、男の呼吸が浅く小刻みになっていく。
「た、助けて、くれ。か、金ならやる。いくらでも、やる。だから、い、命だけは・・・・・・」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でひたすら命乞いをする中年男。
黒ずくめの男は答えることはせずただじっと見下ろすだけ。
「お願いだぁ。殺さないで、くれぇ」
「・・・・・・助かりたいと思うなら答えろ。場合によっては考えてやる」
しばらく眺めていた黒ずくめの男はしゃがみこみ、中年の胸ぐらを掴んだ。
「左目が義眼の、隻腕の男を知っているか?」
「な、なんだ、それは? わ、儂はそんな男は知らない」
「・・・・・・そうか」
黒ずくめの男は中年男を放して立ち上がり、彼を背に歩いていく。
中年男は殺されずにすんだと、安堵の笑みを浮かべた。
------ぐちゃっ
なにかがつぶれる音が聞こえたかと思うと、中年男の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
「あいつの情報はあてにならないな。また外れだったか」
ちっと舌打ちをし、左手に持っている赤黒く光る球体を懐に入れ、黒ずくめの男は館を後にした。
雨は激しく、降り止むことはなく、ただただ誰かの死を慈しむ鎮魂歌のように世界に鳴り響いた。