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魔女と王様  作者: 新条れいら
ロイヤ編
61/117

61.武神の智と力(3)

「とりあえず、その二人は連れて歩いてもらう。モモの使い方はお前に任せるよ。お前はオレの寵妃だという自覚を持ってもらわなくては困る」


 困る、と言われても困る、と言いたかった。だが、ここは自分の良く知る国ではなく、半年前まで自国の侵略国だったのだ。勝手が分かるまでは、やはり指示に従っておくべきだろうか。


「周りに気を使う必要はない。お前はお前のままでいいよ」


 レアがリリアンやモモの立場を気遣っている事を理解しているカイザックは、小さく笑った。ザッカ前線で、ロイヤの捕虜に対しても、良く気を遣ってくれていたのだろう事は、安易に想像がついた。


「陛下がそこまで寵愛を寄せるのでしたら、しばらく同じ部屋でも良いでしょう? リリアン女史」


「…宰相がそうおっしゃるのでしたら…」


 話が堂々巡りをしていたところへ投げられた一言に、難しい顔をしていたリリアン女史も苦々しく同室に同意する。


 後宮において、若輩の王よりも女官の方が、立場が強い場合もある。そうやって、後宮の慣習を守って来たのだ。その女官の長が折れる相手は、同じように王家を守って来た宰相ほどの人間しかいないのかもしれない。


「やっと頭が追い付いたのか、ジャック」


「陛下、そうはおっしゃいますが、あれほど後宮の慣習に駄々をこねておられた貴方が、妹君以外の女性に執着しているなど、空から岩が降ってきてもおかしくありません」


 空から岩と聞いて、ジルドが顔を歪めたのが分かった。


「愛してもやれない女性を道具にするような事を、したくなかったんだ」


「陛下が潔癖でいらっしゃるのは、重々承知しております」


 宰相の言う「駄々をこねた慣習」と言うのが、ミヤの言っていた話だと理解して、レアは苦笑した。カイザックらしいと言えばそれまでだが、血筋を守って来た彼らからすれば、それはそれは頭を抱えた問題だっただろうと思う。


「カイザックのそう言うところ好きだけど、周りを困らせちゃダメだよ」


「…お前に言われると、なんだか釈然としないな」


 憮然とした様子のカイザックへ、レアはにっこり笑う。


「レア、さっき顔は見ただろうが、これがロイヤの宰相のジャック・ジム・レトリマスだ」


 その笑みに諦めたように苦笑して、カイザックはレアへ一人の男を指しながら言った。さっきまで壁に向かっていた長身の初老は、レアへ人好きする優しい笑みを浮かべて丁寧に頭を下げた。笑顔がミヤに良く似ている。


「先ほどの間にもいましたが、お初にお目にかかります。レア様」


「レアの事は、シィーと」


 すかさずカイザックは指示していた。


「信じていようがいまいが、レアはアファリアの憑代だ。神の名を安易に呼ぶな」


「そうでしたか。失礼いたしました」


 宰相は気分を害した様子もなく、素直に謝った。相当信仰深くないと、そんな事言われて素直に聞けるだろうか。


「神の名って、大げさだよ」


「お前のそれは、肉体の名ではなく、神に連なる名だろう。安易に呼ばせて、穢すなよ」


「…カイザックの方が、詳しいね」


 レアの指摘にカイザックは驚いたように目を見開いた。それから少し考えるように空中を見る。


「あんまり深淵に触れてると、の色まで変わってきちゃうよ」


 冗談めかして言って、レアは宰相へ向き直った。


「神さま云々は抜きにしても、シィーと呼んで下さると嬉しいです。これから、よろしくお願いいたします」


 丁寧に頭を下げて、にっこりと微笑んだレアの表に、その場にいた誰もが見入った。大国の皇帝が愛するには、平凡な少女に見えた。それでも、その笑みに妙に納得させられる。


 周囲のそんな想いなど知らないレアは、これであいさつは終わりと、一つ息を吐いた。


「忙しいのに時間取らせちゃったね」


 これ以上、カイザックの時間を取る訳にはいかない。自分がいては、終わるものも終わらないだろうという事を理解してしまった。


「もう色んな事に腹を括るよ」


 そう言って早々にドアへ足を向けようとしたレアの腕を、カイザックは引いた。小柄な体は簡単に腕の中に納まった。


「無理はするなよ」


 耳元でささやかれ、ずいぶん前にそんな約束をしたことを思い出して、小さく笑った。


「うん。カイザックは無茶しちゃダメだよ」


 そう応えて、レアはぴょんと膝から降りて、扉へ向かった。


「じゃぁ、オレ達も」


 巨体を揺らしながら、レアの後に続くティンの背中を見送ると、デッドと目が合う。


「なんだ?」


 皇帝の意を問う言葉に、デッドは一度口を開きかけ、閉じた。


「言いたいことは、だいたい分かる。その言葉を、レアに投げかけてもかまわんぞ」


 デッドは眼鏡の下で、瞳を大きくした。


「オレがレアを騙していると思うなら、殺しに来てもかまわん」


 他の者がいる前で、堂々とそう告げる皇帝を、デッドは睨み付けた。


「オレはお前の、そういう所が好かん」


 嫌悪も露わに眉をひそめたデッドへ、カイザックは喉の奥で笑った。




「…どうしたの?」


 ぶっすりと見るからに不機嫌な顔をして、遅れて部屋に入って来たデッドに、レアもティンもギョッとした。


「普段、人当たりの良いお前が、珍し…」


 言いかけたティンを、デッドが射殺さんばかりの視線で睨み付けた。戦場で硝煙と血の匂いの中で見ることはあっても、こんな陽気でそんな視線を向けられては、さすがのティンも身を強張らせた。


「貴方は、あの皇帝の言った事を、信じているのですか?」


 視線と同じぐらい冷たい声音に、レアは察した。


「カイザックは二人に、わたしや自分のこと、どんな風に話したのかな?」


 レアの問いかけに、デッドの体が硬直した。自分の直感が当たった事を理解して、レアは部屋を見渡す。


「モモさん、いらっしゃいますか? お話しなければならない事があるので、出来れば姿を見せて欲しいです」


 言い終わるか終らぬ内に、長い髪の残存を残して、黒装束の少女が目の前に現れた。気配もなく隣に立たれ、さすがのティンもギョッとして見下ろす。


「ありがとうございます。支障なければ、顔も見せてもらえますか?」


 レアに忍びのルールは分からなかったが、モモはレアの要望に躊躇することなく、頭に被っていた頭巾を外した。


 切れ長の双眸は赤みがった茶色、漆黒の闇の様な髪と、大理石の様な白い肌。美丈夫とはこういう女性を言うのだろうと思わせる、少し年上の少女―――女性だった。背丈が小柄な自分に近かったので、少女だと思っていた。


 レアはモモへ頷くと、ティンと、未だ苛立った様子のデッドへ視線を向ける。


「ティンもデッドも。わたしの護衛という事だから、この話はしておかないといけないと思う」


 デッドの苛立ちもまた、同じところにあるのだ。


「二人は、この話を聞いて雇用の継続の有無を考えて欲しい」




「本当に、陛下の寵愛を受けているのですね」


 報告の合間、宰相の漏らす言葉に、カイザックは口の端だけで笑みを作った。


「陛下が寝所を共にしたい女性が出来るとは…王宮内が騒がしくなりますね」


 低く意味深な言葉の意図の分からぬ皇帝ではない。書類からチラリと視線を上げ、宰相の様子を盗み見る。


「また荒れますか」


 憂いているようにも、諦めているようにも見える。


「あの娘に関して言えば、心配はありませんよ」


「おや、手厳しいはずのジルドが、ずい分と懐柔されているようですね」


 懐柔、と言われて、ジルドは一瞬険悪な気配を纏わせる。が、すぐにそれは掻き消えた。代わって、その唇に小さく笑みを浮かべた。


「そうやって、あの娘を軽視していると、後で自分の見る目の無さに嫌気がさしますよ」


「レアに聞かせてやりたいな」


 ジルドにここまで言わせるレアの力に、カイザックは喉の奥で笑った。


「それだけは、ご勘弁ください、陛下」


 本当に嫌そうにジルドが言うので、カイザックはもう一度笑むと、書類をテーブルへ投げ出した。


「では、本題を聞くとしよう」


 その瞬間、その場の空気はひり付いた。


日本に帰国する日が決まりました。

2019年3月某日です。


やっと帰れる~なんて言ったら、旦那に「お前が行くって言ったんだろ」って言われる。

まぁ、そらぁ、昇進の可能性があるなら、行こうぜ。

子ども四人もいるんだから、稼いでくれ。


今は通常運行ですが、それでもぼちぼち引っ越し準備が始まっていきます。

パソコンは船便二便の予定なので、ゴールデンウィークまでは帰国してもパソコンがない。

紙に書きためるなんて、高校以来…。

帰国前までには、この「魔女と王様」も終わらせていきたいけれど、行けるかなぁ…

ちょっと、「やっつけ仕事」みないな感じで一項目ごと回収していく感じになりはしないか…(すでになりかけてる…)


頑張るっきゃない。

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