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魔女と王様  作者: 新条れいら
ロイヤ編
59/117

59.武神の智と力

「カイザックは、わたしを魔女にしたいの? それとも武神にしたいの?」


 怒った顔で言われて、皇帝は笑った。その笑みが今まで見せてきた不敵なものではなく、柔らかいそれに、その場にいた誰もが驚いた。


「それは勝手に周りが決めることだ。だが、お前と関わって、お前を嫌える奴はいない」


「またそんな事言う! ヒヨード様とか、私のこと嫌いだったじゃないですか!」


 ぷりぷりと怒って言うその名を聞いて、カイザックは呆れたような目をレアに向けた。


「あいつはお前の事、好きだったぞ」


 一瞬、何を言われているのか分からなかったように、レアは首を傾げた。


「えっ!? そんなわけ―――」


「お前、本当に恋愛に疎いな。ヒヨードはお前が好きだったが、お前があまりに色々才能が在り過ぎて、自分がみじめになって、嫌いだと自分に言い聞かせた結果、あんな風になったんだ」


 カイザックの恋愛解説に、レアはポカンと口を開けたまま、停止してしまった。


「お前があいつに一度でもにっこり笑っていたら、あの決闘ももう少し違ったかもな」


「…いやいやいや…カイザックの間違―――」


「剣を振り下ろす度、そういうイメージが来たからな」


「…」


 レアは何も言えなくなって、口をつぐんだ。その様子に、カイザックは再び笑む。


「話を戻すが、お前をどっちで売り込むかは、これからの報告を聞いてから決める。下手に魔女と売って、神官共に火あぶりにされたくないだろう?」


 椅子にもたれて、机の書類を手に取るカイザックは、先ほどの帰国報告後の格好のままだった。無造作にマントだけが椅子にかかっている。


「火あぶりぐらいで死ねるとは思わないけど、熱そうだから遠慮するよ。それに、神さまを心配させたくない」


 レアの言葉にカイザックは当然のように頷いたが、周囲の人間は青ざめた。そんな事などお構いなしに、レアは皇帝の座る椅子にかかったままのマントをどけようとした。


「お尻に敷いちゃってるよ」


 そう言ってぺんぺんと皇帝の腰を叩くので、周囲に控える官吏も女官も真っ青になった。


「あぁ、そうか」


 しかし、叩かれた当人は気にした様子もなく軽く腰を上げた。その隙にマントを引き寄せると、レアは女官が気付くよりも早く、さっさと畳んでしまう。


「あぁ、そっか。さすがに畳み方、あるよね。ごめんね」


 遅れながらも恐る恐る手を伸ばした女官へ、レアは苦笑して手渡す。微かに指が彼女のそれに触れて、女官は全身を硬直させた。


「皇帝の尻を叩くから、怯えられたな」


 怯えられた事にショックを受けているレアに、カイザックが喉の奥で笑いながら言う。


「お尻は叩いてないよ」


「同じだろうが」


 憮然と抗議するレアに、皇帝は楽しそうに返した。視線は書類に向かっている。


「忙しそうだけど、何か用事があって呼んだんじゃないの?」


 帰国して休む間もなく報告書類に目を通すほど忙しいのに、自分を呼ぶのだから何か用事があったはずだ。そう思ったのに、視線は書類に向けたままのカイザックは笑った。


「用がないと呼んではダメか?」


「…そうは言ってないよ」


 もごもごと口の中だけで言ったレアへ視線を上げ、手招きする。迂闊に近づいたレアの腕を引き寄せ、膝の上に抱いた。


「オレは四六時中こうしてたって良い。いや、むしろ仕事なんてせずに、抱き枕にして…」


「陛下、シィー殿が瀕死の金魚になっていますから、離してあげてください」


 タイミングよく部屋に入って来たジルドが、頭痛でも我慢するようなしぐさで言った。それまで、皇帝の今までに見たこともない言動におろおろと戸惑うばかりだった官吏達も、胸を撫で下ろす。


「その様子だと、まだ本題をお話になっていないようですな」


「本題?」


 カイザックの束縛から抜け出したレアが、制服の襟を整えながら首を傾げる。耳が熱くて、急いで冷まそうと手で煽ぐ。


「お前の後継人だ。いないよりはいた方が、恰好が付く」


「貴女の望む仕事も、与えやすくなります」


 皇帝の言葉を継いで、ジルドは教えた。ジルドの補足にレアは目を見開く。


「…でも、ポッと出のわたしの後継人なんて、誰が引き受けてくれるの?」


 確かにマリーノを背負って来ている部分もあるが、ロイヤからしてみれば、それはどこだと言わんばかりの田舎だ。そんな小国の田舎娘を誰が好き好んで引き受けるだろうか。


「そんな物好き、いるの?」


「いたぞ、何人も」


 首を傾げるレアへ、カイザックは苦笑した。


「ジルドもミヤも手を上げたが、この二人は影響力が強いのでな、外した」


 ジルドが手を上げてくれたと聞いて、レアは目を丸くして本人を見つめてしまった。その視線から逃げるように、ジルドは視線を逸らす。


「エゲートにした。お前の助命をロイヤで最初にしたのは、エゲートだからな」


 その名を聞いて、レアは嬉しそうに微笑んだ。花の綻ぶような笑みに、カイザックも満足そうに頷く。


「これからは第二の父とでも思ってやると良い」


「…頑固おやじ様だなぁ」


 しかし、続くカイザックの言葉に、レアは本人が聞いたら憤慨しそうな事を言って苦笑する。それでも、その言葉には親しみが滲んでいた。


「エゲートにも自分の仕事があるが、時間を見て、声ぐらいはかけてやれ。逢いたがっていたから」


 逢いたがっていたと聞いて、レアは再び苦笑した。マリーノからロイヤまでの三か月の道中、ほぼ毎日顔を合わせていたし、さっきも隣に立っていた。


 エゲートをレアの後継人にしたのには、エゲートの背後にジルドが必ず見え隠れするからだ。それは実質、ジルドが後継人であると言っても過言ではない。それだけの意味を読み取れぬ者がいるとしたら、もぐりだ。


「今、新しい部署を創ろうと考えている。お前はそこの長か相談役だな」


 言いながらカイザックはレアへ数枚の書類を示した。


「東街道の運営・管理部署(仮)?」


「ロイヤに向かいながら、お前がやって来たことだ。部族の者も、見知らぬ奴に言うより、お前だったら言いやすいだろう?」


 デデの街を皮切りに、ロイヤに向かうまでの三か月、ほぼ毎晩のように部族や小さな村の村長と話をし続けた。マリーノまでの街道は、それまで街道と言うには乏しく、ロイヤへ行くまでは大半野宿を強いられる。


 そこを何とか改善し、商人が少しでも安全快適に街道を行けるようにと、街を整備していくことが、カイザックの遠征の目的でもあった。


「正直に言えば、ロイヤも芳醇に資金がある訳ではない。資金援助はするが、いつまでもこちら頼りでは困るんでな。目標年数を決めて、自立をさせるのが、お前の仕事と言う訳だ」


「結構、大変そうだねぇ」


 金銭に疎いわけではないが、商売人の商魂は持ち合わせていない自分に出来るのかなぁと笑うレアは、しかし嬉しそうだった。


「これなら武神武神言われなくて済みそう。武器も扱えないのに、武神はやめて欲しいもんね」


 嬉しそうに表を上げたレアに、カイザックは思い出したように手を上げて合図した。


「その事だが―――」


 扉が開かれ、見知った二人の男が姿を現して、レアは目を見開いた。


「お前の護衛に雇っておいた」


こんにちは。

遅刻してきました、新条れいらです。


12月から毎日更新と言っておりましたが、2~3日更新になりそうです。

現在80を書いていて、ここがなかなか山でして…

なかなか思うように言葉が折り合わず、しどろもどろに二週間もかかっちゃいました。

この間、編集頭に切り替えられず、12月1日更新が出来なかったのです。

…いいわけです。

ごめんなさい。


すでに矛盾が発生していて、さてどうする~!!って内心焦ってます。

編集脳ではなく、現在ストーリーモードなので、どこまでスピーティにアップが可能か未知数です(^_^;)

しかも、12月って結構アメリカは忙しいです。

なんか学校の先生に感謝週間とかって、月曜日花、火曜日甘味、水曜日手紙、木曜日ギフトカード…金もかかるし、通学者三名も抱えるわたしは結構大変。

まぁ、言っても仕方がないので、体調だけ崩さないように頑張ります。

ずっと曇ってるんで、精神的に病みそう…

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