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魔女と王様  作者: 新条れいら
ロイヤ編
58/117

58.帰国

「まずは、長く我が故国を護ってくれた事に、感謝する」


 その声は腹に響く様な力強さを持って、その場に響いた。


「戦果は皆も知ってのとおり―――」


 遥か高みの壇上の男の声を聞きながら、レアはこっそりと周囲を見渡した。幾人かの視線とぶつかり、相手が慌てて目を逸らす。一見すれば、背筋を伸ばした誰もが皇帝へ視線を向けているように見えるが、その実、この奇妙な紛れ物が気になっているのは確かだった。


 ロイヤの深い緑の軍服に混ざって、一人小豆色の異国の軍服が混ざっている。


(しかも、女だしね)


 そりゃぁ、気になって仕方がないだろう。


 きっとカイザックは、帰国に際して、自分の存在をいちいち告げてはいないだろう。何か企んでいるんだろう事ぐらいは分かる。ミヤがそれはカイザックのストレス発散だから付き合ってやってと、諦めたようにため息をついていた。


 そのミヤは、今はマリーノに居る。マリーノを整えてから、帰国するらしい。


(もう、マリーノは出たかな?)


 二か月もあればいいなんて、本人は言っていたから、マリーノは発ったのかもしれなかったが、出来始めた街道の街を散策しながらのんびり帰ってくるのだろう。


「祝杯を」


 皇帝の合図で、盃が配られ始めた。無事の帰国を喜び合う意味のそれなのだろうとぼんやりと見ていると、レアに渡すべきか躊躇している給仕が困った顔をしていた。


「渡しなさい。―――お前も、受け取る」


 隣に並んでいたエゲートに言われ、レアは驚きつつも給仕からそれを受け取った。中には果物の芳醇な香りを放つ透明の液体が入っていた。


「白ワインだ」


 不思議そうに覗き込んでいるレアに、エゲートが短く教えた。ワインと言えば、赤紫色をした物だと思っていたレアは、素直に驚いた。世界は広いなぁなどと感心していると、壇上の皇帝が盃を掲げた。


「我がロイヤに、更なる栄光を」


 同調する掛け声と共に、その場に居た人間が盃を傾けた。マリーノでは『王の意志』の儀式があるが、どこも同じなんだなぁと一拍遅れて、レアも始めて口にする白ワインを恐る恐る傾けた。


 盃越しに皇帝が飲み切った盃の下で、ニヤリと笑うのを見た。


 盃を飲み干した皇帝が、喉の奥で笑う。その音はやがて、我慢ならないとでも言うように大きな笑い声になった。


 突然の呵々大笑かかたいしょうにその場に居た誰もがギョッと身を強張らせ、遥か壇上の皇帝を見上げていた。


 自分への注目も理解しながら、しかし皇帝はしばらく笑うと、未だに手に持っていた器を、まるで示すようにその場に落とした。


 ガラスの割れる音が、広い空間に響き渡った。


「コレ程度の毒では、オレは死なないぞ」


 喉に刃を突きつけるような言葉。一瞬でも動けば、喉を掻き切られるような鋭さを持って響く。


 周囲がその言葉の意味を理解するよりも早く、皇帝は唇の端を釣り上げた。


「そう言えば、お前達に今回の遠征の最も重要な戦果を、示していなかったな―――レア」


 皇帝の笑みを見た瞬間から、嫌な予感がしていたレアは、持っていた盃を握りしめたのだが、名を呼ばれて、自分の予感が的中した事を理解した。


 恐る恐る壇上へ視線を向けると、カイザックと視線が合った。


「来い」


 嫌だと咄嗟に言ってしまいそうな言葉を、ため息と共に飲み込んでいると、エゲートに握りしめていた盃を取られた。抗議するように見つめた先で、さっさと行って来いと目だけで言われてしまう。


(…仕方がない)


 ここでの態度が、後々ロイヤでの生活に影響するのは、日を見るよりも明らか。ならば、精一杯の虚勢を張らせてもらおう。


 視線で穴が開きそうだと思いながら、レアは一番後ろ側から皇帝の待つ壇上の麓まで来ると、人々の方を向いた。


「何やってる。ここまで上がってこい」


 へっ?っと思わず言ってしまいそうになって、慌てて飲み込んだ。見上げたカイザックが手招きしているので、聞き間違いではないようだった。


(壇上に上がっていいのって…)


 もはや考えても仕方がないと諦めて、レアは壇へ足をかけた。息を飲むような、ざわめきを聞きながら、中ほどまで来てここで良いかと向きを変えようとした。


「ココまで、だ」


 呆れた様な声が頭上から降ってきて、レアは思わずため息をつきそうになった。カイザックがココというのは、自分の隣だったのだ。


 諦めて段を上がっていくその視界に、下からでは見えなかった壇上の奥が見えてきた。


 皇帝の椅子の隣に王妃の椅子、王妃よりも僅かに後ろに二つの椅子。


 金髪の美しい女性は伏し目がちで、レアの存在にも気付いていないようだった。その後ろからは鋭い敵意のまなざしが向けられていて、その横で、プラプラと足を揺らしている着飾った女の子に、レアは目を見開いた。


(っ!!?)


「後で紹介してやるから、今は諦めろ」


 耳元で苦笑気味に言われ、レアは慌てて顔を引き締めた。それを理解して、彼はさらに声を潜めた。


「ここに居る顔、覚えられるか?」


 ざっと二百人。ジルドなど見知った顔もあるが、それはごく少数だ。だがレアは小さく頷いた。レアの返答に、皇帝は小さく笑んだ。


「レア・シィー・ヴァルハイトだ」


 皇帝の紹介に、レアは背筋を伸ばした。皆一様に自分を見上げているので、端から視線をそっと巡らせれば、顔は覚えられそうだった。


「極東マリーノの将だ。魔女とも武神アファリアとも恐れ崇められ、我がロイヤ軍を三か月も苦しめてくれたぞ」


 あぁ、余計な紹介してくれたものだと、レアは内心でがっくりと肩を落とした。それでも顔には出さず、めい一杯の無表情を作る。


「死んだと思っていたエバンス・ルイーグスの弟子だ」


 そう皇帝が言った瞬間、場の空気がざわめいた。北東リリスとは長く境界線で争ってきた。もっとも手こずり、苦汁を舐めさされた宿敵は、しかし、謀反の罪で一族ごと処刑されたと言われてきた。それが十一年も経って再びその名を聞く事になるとは。


「かの有名な師子王ティンも双剣デッドも、彼女の下に長く就いた。傭兵達が一度は仕えるべき将だと噂する者がいることは、皆も知っていよう」


 皇帝の低く笑う声が、無表情の少女と相まって不気味さを醸し出していた。当の本人であるレアは、内心で突っ込みたいのを必死で我慢しながら、そっと視線を人々の顔の海に投じていた。


「武神アファリアの如き先見の目と、戦場に似つかわしくない慈愛を、気に入った。故に寵妃に迎える」


 それまでの話の流れから、軍部に配属だろうと思っていたであろう者達の、ギョッとした顔を、レアは内心で申し訳なくさえ思った。


「だが、せっかくの才だ。各部署に出向いてもらう事も考えている。その際は…」


 一通りの驚愕の顔を覚えたので、レアはカイザックの服の裾を引いた。もうこれ以上、称賛もどきは聞くに堪えない。


 レアの合図が思いの外、早く、カイザックはにやりと笑んだ。その笑みが、意味を理解しない聴衆には、更に恐ろしく見えた。


「様々に画策してもらって構わんが、相手は武神。―――逆に飲まれなければ良いな」


 楽しそうに笑うそれは、まるでこれから起こる、レアを巡る様々な問題を楽しんでいるようですらあった。


(きっと、すごく、厄介事なのに…楽しそう)


 心配して損したかなぁとレアは微笑んだ。


 少女の漏らした笑みが、驚くほど幼く無邪気だった。それまで無表情だっただけに、その笑みに誰もが見入り、そして、皇帝の次の言葉に凍りついた。


「オレの寵妃だという事を、忘れるなよ」


ロイヤ編スタートしました。

のですが、遅々として話が進みません…。

と言うのも、このロイヤに来てから、レアのやることが多すぎて、さて、どれから書こうか…時系列順に全部書いていくと、話があちこち飛ぶ。

最後にはまとまっていくけど、どうしようかなぁ~なんて考えてると進まない。


そんなわけで、三月ぐらい間を空けて、毎日更新の方が良いと思い、しばらく連載はお休みします。

目標は12月頭からの毎日更新!

頑張ります!!


何せ、学校の送り迎えが始まり、八月から始まったじんましんが全然良くならず…

集中力が著しく低下している…。

完結目標は2019年2月ごろなの。

3月に日本に帰国なんで、それまでには完結させたい。

どのへんで落としどころとするかは、だいたい決まっているのだけれど。


読んでくださる方、ありがとう。

評価まで付けてくださる方、ありがとう。

待っててくれたら、嬉しいな。

ロイヤ編、忙しすぎて、いちゃいちゃが少ないから、作者も面白くない(笑)

いちゃいちゃ、書くぞ~!

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