模擬戦前
昼休み、食堂のある一角、正確に言うとある一人が沈んだ雰囲気を醸し出していた。いうまでもなく甲次である。彼はついさっき屋上に女の子からの告白だと思って向かったのにもかかわらず、そこにいたのはアリス先生であり、さらに、課題五倍という追撃を食らったのだから。
彼は真っ白になって目の前にある昼食にも手を付けずに机に突っ伏し、うわごとをつぶやいている。
「せっ...だ..。もう...ない...」
一緒に昼食をとっていた刹那と美緒は哀れみの視線を甲次に向けて、刹那は立ち直らせようと頑張って励ましの言葉をかけている。
「まぁ、甲次そんなに落ち込まないでください。確かに先生の行為はひどいと思いましたが...甲次にならすぐにいい相手が見つかりますよ」
「だっ...き..して...」
「甲次はいい男ですよ。明るくて元気でそれはそれは最高の男子です」
「...そうかな?」
「そうですよ」
甲次が突っ伏していた机から顔を上げて、少し色を取り戻し始め、立ち直りかけた時
「まぁ、そもそもあんたにラブレターが来ることがおかしいのよ。はなから期待してなきゃいいのに」
美緒がそれはもう、防御が浮いてがら空きになった顎に強烈なアッパーカットを決めるがごとく鋭い口撃をくらわせた。
その一撃を受けた甲次は再び色を失い、元の体制に戻ってしまった。
「美緒、今のは少し言いすぎですよ。もう少し励ましの言葉を...」
「いいのよ。こいつはもう少し身の程というものを知ったほうがいいのよ」
「しかし、このままではめんどくさいですよ」
美緒はチラッと机の上に突っ伏していじけている甲次のほうを見ると
「...それもそうね」
「・・・・・・・・・」
「甲次、あの..その..ね。元気出しなさいよ。元気だけがあんたのとりえでしょ」
刹那が美緒に甲次に聞こえないように、小声で会話をして何とか美緒に甲次に励ましの言葉をかけさせることに成功した。
「・・・・・・・・・・」
「その..あんたにもいい出会いがあるわよ。多分、きっと、そのうち、いつか...」
(励ましている...のでしょうか?)
美緒の励ましているのかけなしているのかわからない言葉に刹那は疑問を持ったが...
「そうだな!いつもの俺が一番いいよな!」
甲次はちょろかった。すぐに元気を取り戻し、思いっきり机から立ち上がった。刹那と美緒はその姿を見てホッと息を漏らして、顔を見合わせてひそかに微笑した。
そこに...
「楽しそうですね、ご一緒してもよろしいですか?」
アリシアが笑顔で声をかけてきた。刹那と美緒が返事をする前に甲次が目にもとまらぬ速さでアリシアの近くまで行き
「もちろんです!ささ、どうぞこちらに」
「は..はい。ありがとうございます」
アリシアを席へと促した。その勢いにアリシアも若干引いている様子であった。
「お邪魔しますね」
「全然いいの...でございますよ。私も仲良くしたかった...です」
美緒がなれないのかおかしな敬語を使っている。アリシアはお姫様はだから気を使っているのだろう。アリシアはその様子を見て
「敬語じゃなくて構いませんよ。同じ学生ですものね」
「そう、ありがとね。私は日向美緒、よろしくねアリシア」
「はい、よろしくお願いしますね」
その時、女子二人が仲を深めている様子を見ている男子二人は
「あれ?最初に話しかけた俺はスルー?」
「仕方がありませんよ。同性はやはり話しやすいのですよ」
空気になっていた。刹那は何とも思っていなさそうだが、甲次は少しいじけている。
「お二人も敬語でなくていいですよ」
アリシアが二人に話を振ってきたおかげで甲次はまたも元気になった。
「おう!俺は鬼道甲次、よろしく!」
「私は、神薙刹那です。私の敬語は昔からの癖なのでお構いなく」
二人も挨拶を終えて、四人でやっと昼食を食べ始めた。
「そういえば、アリシアさんは何でこの時間まで昼食を食べていなかったんですか?」
ふと刹那が疑問に思いアリシアに質問した
「恥ずかしながら、道に迷ってしまいまして。まだ親しい人もいないので...」
アリシアは少し顔を赤くしながら答えた。
「じゃあ今度から一緒に食べましょうよ」
美緒がそう提案すると
「それはいいな!大歓迎だ!」
甲次が『それは名案だ』とばかりにハイテンションで美緒の提案に賛成した。
「刹那もいいよな!」
「ええ、もちろんですよ」
刹那もそれに同意し、三人ともがいい返事をするとアリシアも
「では、よろしくおねがいしますね」
と笑顔で返した。
そのあとは四人で楽しく会話をしながら昼食を食べ進めていった。刹那は食事をしている最中に
(これは、またクラスの男子に恨まれそうですね...)
と考えていた。甲次は何も考えずに美人と一緒に入れてただただうれしそうであり、クラスの男子の殺気のこもった視線が自分に向く可能性に全く気が付いていない。
そうこうしているうちに時間が過ぎていき
「やばっ!次の時間訓練所じゃん、はやく準備しないと!」
甲次が焦ったように叫び、他三人は...
「すいません甲次、私はもう準備が終わっています」
「私もよ、昼食の前に終わっているわ」
「すいません、私も終わっています」
「えっ...」
甲次の時間が止まった。四人の中で自分だけ次の授業の準備が終わっておらず、時間もあと少ししかない。間に合うか間に合わないかギリギリである。
そのことに数秒遅れて気が付いた甲次は...
「この、裏切り者どもーーーーー!」
と、泣きながら走り去っていった。
その姿を見て三人は笑いながら
「では、私たちは訓練所に向かいますか」
「そうね」
「鬼道さん、少しかわいそうでしたね」
「自業自得よ」
訓練所に向かっていった。
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三人が訓練所の前につくとすでにそこには
「ゼーゼー...ハーハッハ…おえ…お前ら..遅かった…うっぷ…じゃねえか..」
疲れ切ってもはや何を言っているかもわからない甲次がどや顔で倒れこんでいた。おそらく三人を見返すために全力で準備してここまで来たのだろう。
すべてを察した三人は心の中で
(ばかですね)
(ばかね)
(おばかなんですね)
盛大に罵った、優しそうなアリシアまでもがそう考えたことからどれだけ甲次がが馬鹿かということがわかる。三人は口にも顔にも出さずに
「甲次、早く中に入りますよ」
「さっさといくわよ」
「鬼道さん、行きますよ」
さっさと中に入っていった。三人のとも容赦がない
甲次はままだ体力が回復しないのか仰向きに倒れ伏している
「ちょ、ちょとまてよ..いえ!ま、待ってくださいお願いします!調子乗ってまじすいませんでした!」
その叫びは三人には届かなかった..
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結局、刹那が甲次に肩を貸して、なんとか時間までに集合場所にたどり着くことができた。ついた時にはすでにほとんどのクラスメイトが集まり、アリス先生もすでについてた
「よし、全員揃ったな。これから模擬戦を開始する」
先生がそういうとクラス全員がやる気に満ち溢れた顔になった。
「ふっ、ついに俺の出番か」
「私の能力が火を噴くわね」
「右手がうずいてきたぜ」
などと、おかしなことを言っている奴がいる、基本能力者には脳筋が少なからず存在する。もちろん普通の奴のほうが多い
「形式は一対一の一本勝負だ。戦闘系の奴は前に出ろ」
アリス先生は戦闘系の能力を持った生徒を前に呼び出し次々と指名していき二人組を作った。
「よし、さっき指名した順で模擬戦を開始する、最初な奴ら前に出ろ。非戦闘系の能力者は、模擬戦を見て自分が何をサポートできるかをしっかりと考えとけよ」
そう言ってアリス先生は訓練所の中央まで進み、
「それでは、模擬戦開始!」
開始を宣言した。