授業
「『絶刀』ですか?」
アリシアは聞いたことがないという風に首を傾げた。そうすると甲次と美緒が答えた
「アリシアさんが聞いたことがないのも無理はねーよ。この名前が流行りだしたのはつい最近だからな」
「最近といっても目撃情報自体は前から少しあったのよ。噂レベルだったんだけどね」
「だけどこの前、開拓者連合『リベリオン』の能力者の一団が調査に出ているときに、運悪くも戦略級ガイア『要塞亀』に遭遇してしまったらしい」
『要塞亀』要塞のごとき大きさと硬度を誇る亀で、能力は『超硬化』であり能力を使った突進はすさまじい威力を誇る
「普段はおとなしいガイアなんだけど、産卵期だったらしく気がたっていたのかおそってきたらしいのよ」
「その時現れたのが『絶刀』てわけだ」
「要塞亀を一刀両断にしたらしいわ。切れないものはない、ゆえに、絶刀とその調査団の人たちが呼び始めたらしいわ」
二人の話をアリシアは食い入るように聞きいっている
「その絶刀様で間違いありません!あぁ、やはりこの国に...」
アリシアは自分の世界に入り始めた。周りの男子はさっきから初恋が終わったと嘆き、女子はキャーキャー言っている。
「おいお前ら、私は授業の準備をしておけといったはずだが」
教室の入り口からドスのきいたかわいい声が響いてきた。
全員が壊れたブリキのように首を動かし入口に方をむくと...
「今立っている奴ら...反省文五枚だ。顔は覚えたからな」
ギャァーーーーー!
たっている生徒全員から悲鳴が響き渡った。
「さっさと席に着け、授業を始めるぞ」
アリス先生がそういうと、立っている生徒全員が速やかに席に戻った。それはもう脱兎のごとく
「一限目は転校生もいることだし知識の確認から入る。この世界にはガイアの脅威から逃れ人類がいきることのできる生存圏が六つ存在する。アリシア答えろ、簡単だろ」
「はい。この世界に存在する人類生存圏は、ヤマト国、ローゼン皇国、グロリア帝国、トリスタン技術国、クリミナル臨海国、クラフト産業国です」
アリシアはよどみなく答えていき、その姿に男子の視線はくぎ付けになっている。
誰でも知っている一般の知識なので答えられて当たり前なのだが、答える姿すら絵になっている
「正解だ、当たり前だがな。さて、それぞれの生存圏の特徴としては、能力者育成に力を入れているのが、ヤマト国、ローゼン皇国、グロリア帝国だ。」
もちろん能力者育成だけでなく地下空間において食料の生産はおこなっている。あくまで能力者の育成とガイアの討伐、神の遺産の探索を主な活動としているだけである。とくに帝国は実力主義の生存圏であり、帝王は実力で決まるのだとか。
「産業に力を入れているのがクリミナル臨海国、クラフト産業国だ。もちろん戦闘系の能力者もちゃんといるが我々三つの生存圏からも能力者を派遣している。何せ我々がこの生存圏の中でしっかり生活ができるのはその二つの影響が大きいからな」
『お前らも感謝しろよ』とアリス先生が含み笑いをしながら言った。
「私が一方的に話すのもつまらんな。日向、トリスタン技術国の特徴を言ってみろ」
そしたら先生がいきなり話を振り、美緒は少し慌てながらも立ち上がり
「は、はい。トリスタンは神の遺産と同じくらい強力な武器を人間の手で作り出そうと研究している国...です」
美緒は言い終わると、深く息を吐きだし席に座った。
「大体それでいいが、別に武器だけでなく便利な道具を開発することにも力を入れている生存圏だ」
アリス先生が少し補足を入れた。もっと慌てる姿が見たかったのか先生は『チッ、つまらん。答えられなきゃ課題を二倍にしようと思ったのに』と舌打ちをして少々不機嫌になった。
生徒全員『まじで!?』とおびえた表情を浮かべた。刹那は『先生がそれでいいのか』と苦笑を浮かべた。
「まぁいい、次は人類の敵ガイアについてだ。そうだな、六王が支配している六つの領域について誰かに...」
グ~~グ~~
教室が一瞬静かになった。全員の心境は『誰だ、アリス先生の授業で寝る恐れ知らずは!?』だ。
刹那の前、つまりは甲次の席からいびきが響いていた。
アリス先生はその姿を見てニヤリと笑い...
「そうだな。鬼道、お前に答えてもらおうかな」
甲次の返答は...
「グ~~グ~~」
いびきだった...
「甲次、甲次、起きてください。先生が悪い顔をしています」
刹那が甲次の背中をたたいておこそうと試みるもまったく起きる様子はない
アリス先生は悪い笑顔のまま甲次の前に向かってきた。
他の生徒は『何をするきだ!?』と生唾を飲み込む様子で窺っている。
「鬼道、お前は...課題五倍だ」
生徒全員が『な、なんだってー!』と声をあげそうになった。しかも...
「気持ちよく寝ているし起こすのもかわいそうだな...」
そうアリス先生はいい、甲次の机の上にある紙を置いた。そこには
『後で大事な話があります。昼休み屋上に来てね♡』
と告白文みたいに書かれていた。
ここで生徒全員の気持ちは完璧に一つとなった。すなわち
「「「「「「「なんてむごいことを...」」」」」」
アリス先生はさらにニヤリと笑みを浮かべた後、何にもなかったかのように元の位置まで戻っていった。
「それじゃあ、神薙答えろ」
甲次の後ろの席の刹那に飛び火が来た。しかし、刹那はそれを予想していたらしく、素早くたち
「六王が支配している領域にはそれぞれ特徴があり、海、樹海、沼、山岳地帯、空、草原ですね。空の領域では地上のガイアが他に比べて弱く、餌という認識なのでしょう。草原の領域はすべてが草原なのではなくいろいろな地形が組み合わさっているが王がいる中心が草原になっているそうです」
六王は広大な領域の中心に存在しており、中心に向かうほどガイアが強くなっていく傾向がある。なので、他の生存圏に移動するときは領域の端を通らなければならない。生存圏もすべて端に作られている。
「また、六王の姿はまだだれも発見することができず、その強さも予測不能のままであり、調査が滞っているのが現状です。神の遺産も中心付近にしか確認できておらずいまだ数個しか発見できていません。その神の遺産もいまだ使い手が現れたという情報は入っておりません」
刹那が言い切り席に座ると
「チッ、完璧だ」
アリス先生はそれはそれはつまらなそうに言い放った。
他の生徒は『正解してもこの仕打ち...』と沈んだ表情でアリス先生を見ている。
「だが噂によると、中心付近までたどり着いた能力者が一人だけいるらしい」
先生がそういうと、生徒の一人が手を上げ
「それは誰なんですか?」
といった。それに対してアリス先生は
「ああ、それはな、お前らがさっきもうわさをしていた絶刀とかいうやつだ」
先生がそう言った瞬間、刹那の隣に座っているアリシアの目がおおいに輝いた。
先生が『あくまで噂だがな』と付け足し、その話はそこで終了した。アリシアは不満そうにしていたが...
「次の話をする...と言いたいところだが、一限はこれで終わりだ。次は普通に数学だ、そこに寝ている馬鹿を起こしておけよ」
アリス先生はそう言って教室を出て行った。
「甲次、起きてください。授業も終わってしまいましたよ」
刹那がやさしく起こしても甲次は起きる気配がない。そうすると...
「刹那、甘いわよ。早く起きなさい!!甲次!!」
ゴンッ!
「いってーな!」
美緒が殴って無理やり起こした。
「もっと優しく起こせねーのか!」
「起こしたわよ!でもあんた起きなかったんじゃないの!」
「でも殴ることはねーだろ!」
「殴んなきゃわかんないでしょ!」
二人が言い争いをしていると、甲次が机の上においてある紙切れにきずいた
「ん?なんだこれ...なになに『後で大事な話があります。昼休み屋上に来てね♡』だと...」
フッフッフッフッ...
気味の悪い声が教室に響き渡る
「ハーハッハッハ!ついに俺の時代が来た!」
甲次がハイテンションになって意味不明なことを叫び始めた。刹那が
「あんまり期待しないほうが...」
と言い。周りの男子がそれに同意するように首を縦に振っているが、甲次は...
「ハッハッハ!お前ら俺に嫉妬しているのか!まぁお前らにもそのうちチャンスが来るさ!」
聞く耳を持たない。
刹那たちはあきらめた表情になって次の授業の準備を始めた。
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二限に数学、三限に国語と順調に進み、四限の能力基礎の時間になったいた。
「我々が持つ能力とはもともとガイアが使うものだった。しかし、突然人間の中に能力を使うことができる者たちが出現し、今ではほとんどが能力者になった」
能力基礎の授業もアリス先生が担当で、淡々と授業を進めていく。
「ひとえに能力といっても多種多様に存在し、我々は能力を特徴によって分類している」
アリス先生は次のターゲットを探すべく教室を見渡し、全員が集中していることを確認すると
「じゃあ、神薙でいい。全部答えろ」
指名されなかった生徒は安どの表情を浮かべた。
「はぁ、能力者の使う能力は、放出型、強化型、支援型、そして、特殊型が存在します。」
放出型とは、炎などの能力によって作り出したものをたた以外に放出していろいろな攻撃ができる能力
強化型とは、能力によって肉体や武器などを強化して戦う能力
支援型とは、回復などと攻撃には使えないが戦闘を支援することのできる能力
特殊型とは、どれにも当てはまらない特殊なものやその中でも逸脱するほど強力な能力
「正解だ、そして能力にもランクがつけられており兵士級から天災級にランク付けされる。特殊型の奴は大体戦略級以上だがな」
刹那の答えの後に、アリス先生が今度はつまらなそうな態度は見せずにしっかりと授業に戻った。
「お前らもしっかり自分の能力を把握しておけよ。今日の午後には模擬戦がある、無様な姿は見せるなよ」
『少し早いが、これで終わる』と言ってアリス先生は教室から去っていった。そのあとすぐに...
「お昼休みだ!それじゃあ俺は屋上に行ってくるぜ!」
ヒャッホーーーーーー!
甲次が意気揚々と屋上に向かって走っていき、その様子を見ていたクラスの表情は哀れみに満ちていた。