0006 異変
その日、LoBの掲示板は荒れた。きっかけはある1人の投稿だった。
「新エリアを発見した」
最初は全然信じられなかったが、2人3人と証言が増えるにつれて、それが検証されるようになった。特定の迷宮にある転移門からのみ行き来でき、安全地帯がなく、エネミーのレベルや知能レベルも従来のものとは比べ物にならないほど高い。大規模クランによる大攻略戦も何度か行われたが、新エリアの概要は把握しきれず、まだ多くの謎が残っている。
「アオイちゃん、こんどの三連休空いてる?」
「なんですかリーダー?デートのお誘いならお断りですけど」
「アオイさんそうじゃなくて今度私たちのクランでも新エリアに行こうという話になったんですよ」
「そういうことですか、まぎらわしい」
「アオイちゃん、俺そんな風な男に見える?」
「ええまあ、少なくともゲーム内での言動ではすぐに女に言い寄るチャラ男ですね」
「うーん辛辣だなぁ。まあそこがアオイちゃんの魅力でもあるんだけどさ」
「まあそんな話はさておき、私は土曜日は用事があるので無理です。ほかは大丈夫ですけど」
「よしじゃあ日曜月曜の二日間での攻略に決定だ。日曜の朝からあけておいてね」
「はあ、わかりました」
※
「ねえ美佳子ちゃん、今度の日曜日にみんなでカラオケに行くんだけどどう?」
「ごめんその日は用事があるんだ」
美香子は苦笑いしながらその誘いを断った。
「へえ……最近付き合い悪いよね」
突然後ろから声をかけられびっくりしながら振り返る。
「へっ?そうかな」
「うん。いままではむしろ美佳子のほうから皆を集めてたのに」
「うーん、でも今回はそう……家族で小旅行に出かけることになって」
美香子の友達はその言葉を訝しみながら周りを囲む。
「へえ、どこ行くの?」
「え?あっえっと、田舎のおばあちゃんの家だよ」
美香子はいい案だと思っていたが、長年付き合ってきた友達たちは誤魔化せなかったようだ。
「なんか怪しいぞ」
「ものども!であえであえ!」
「曲者をひっ捕らえるのじゃ」
「ちょっなっやめっあっどこ触ってんの!?」
「これか?これが良いのか!?」
「こんな無駄な脂肪で男でも引っ掛けたのか!?」
「無駄とかいうな!それとホント彼氏とかできてないから勘弁してよ」
友達2人に前後で挟まれながら揉みくちゃにされつつもそう叫ぶと、手が止まった。
「まさか……美香子ちゃん春を売りに」
「な訳あるかー!」
昼休みの喧騒にも負けないくらいのツッコミが、教室にこだました。
「それでどうしたのさ美香子どん」
「えーっとそのー、ゲームにはまってて」
「へえ、珍しい。ゲームとかあんまりする人じゃなかったよね?」
「うん、でもたまにはと思って始めたら案外夢中になっちゃって」
「で、なんてゲーム?ソシャゲって感じじゃなさそうだけど」
「LoBっていうんだけど知ってる?」
「うーん私は知らないな」
「私は知ってるよ、実況動画でみただけだけど」
片方が首をかしげる中、もう片方の友達がそう言う。
「意外だな、美佳子ちゃんどのゲームに誘ってもすぐにやらなくなっちゃうのに」
「だよね、もしやゲーム内でいい男でもみつけたか~?」
「そんなんじゃないよ。確かにクランの人は優しいけど」
「気をつけなよ?中身はどんな奴か分んないんだから。性別だってあてにならないんだから同姓だからって気を許しちゃだめよ」
「うんそこらへんはわきまえてるよ」
「ならいいんだけど……不安だなぁ」
「おーいホームルーム始めるぞー。早く席につけー」
「おっと、じゃあまた昼休みね」
「うん、じゃあね」
※
学校を終え帰路につくと、美佳子はスマホに通知が一件とどいているのに気が付いた。
「なんだろこれ……スパムじゃなさそうだけど」
その通知はLoB内の個人チャットの着信通知だった。差出人はゲーム運営となっている。
帰宅後すぐにゲーム機を起動してログインする。
「なに……これ」
そこに書かれていたのは秘密の場所への行き方だった。
「なにこれ、新エリアはいくつもあって、さらにそれぞれに秘密のエリアがあるってこと?」
「どうしたんだルーキー」
「デリクさん、ちょっとこれみてください」
アオイは端末を操作してデリクにメッセージを転送する。
「ほう、こりゃおもしろいことになってきたな」
「こんどの休みが余計にたのしみになりましたね」
「こんばんはー。どうしたんですか?」
「あっクロハさんこんばんは。運営からメッセージきてませんか?」
「えっと、あっきてますね……なんですかこれ」
「書いてあるとおりです。週末はこっちの攻略にいきたいですね」
「いいですね。でも何でしょうこの秘密のエリア」
「たしかに名前が百合畑なのは気になりますね」
「ゲームの題名にもなっていますし何か関係があるんでしょうか」
「可能性はありますね。それにリーダーが気に入りそうです。百合の花が好きみたいですし」
「……そういえばアオイちゃんは知らなかったんでした。一瞬ボケなのかと」
「えっ?違うんですか?」
「ははは、ルーキーは知らなくていいさ。それよりもいまからレベリングいくけどついてくるか?」
「むう、気になる。まあいいでしょう、レベリングにおともします」
「私もついていきます。いつものあそこでいいですか?」
「ああ。じゃあ準備してくるから10分後にここでいいか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「あっ私いちど落ちるので遅れたら先に行っといてください後で合流します」
「わかりました。それじゃあ」
※
「私もうおちますね、お疲れさまでした」
「お疲れさまでしたクロハさん。じゃあ私もそろそろ寝ます。おやすみなさい」
「ああ、まてルーキー。これお前にやるよ」
「えっとこれは……武器ですか」
「ああ。ただのリボルバーだがな。確かお前今の装備構成は対エネミー特化だろ?一つぐらいは対人用も持っておけ」
「はあ、でも必要ですかね?」
「……メッセージ詳細を開いてみろ」
「ああはい、えっと……ドロップアイテム?初めて見る説明文です」
「ああ、俺も初めて見た。どうやらお前が死ぬとそれがドロップするらしい」
「でもこれにそんな価値が……秘密のエリアですか」
「ああそうだ。特に大手クランはプライベートスペースとなれば死に物狂いで獲得しようとするはずだ。気をつけておけ」
「はい、デリクさんありがとうございます」
「礼ならクロハにもいっておけ。最初にお前の装備を気づいたのはあいつだ」
「そうなんですか。じゃあ今度あった時に忘れないようにしておきますね」
「おう、じゃあな」
「はい、おやすみなさい」
美佳子はゲーム機の電源を消してスマホを手に取る。
「もうこんな時間か。あれ?クラスのグループにメッセージがきてる……うげ、明日の数学の宿題追加?勘弁してよ」
美佳子は肩をがっくりとおとしながら勉強机に向かった。