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0005 二人だけの戦い



 暗い道を二人の少女が走る。



 「クロハさん!大丈夫ですか!?」



 「はい!ちゃんと後ろにいますよ!」



 「次の角を右に曲がりますよ!」



 「了解です!」



 二人ともDEXにステータスを割り振っているからかその足は速い。

 が、しかし……



 獣から逃げるには至らなかったようだ。



 「きゃあ!」



 「クロハさん!」



 クロハがエネミーの狼に襲い掛かる。さすがのクロハもイヌ科の動物への対処は心得ていないのか、なかなか振りほどけないでいる。



 「わ、私のクロハさんに触るな犬っころぉ!」



 「キャイーン」



 アオイは叫びながらエネミーの鼻っ面を殴りつけた。



 「助かりました。ありがとうございます」



 「ああいえ、別にそんな。持ちつ持たれつですよ」



 「……まだいるみたいですね」


 クロハの視線の先には赤い目が暗闇に浮かび上がっていた。



 「ここはひとまず撤退しましょう」


 「そうですね」


 クロハはアオイの提案にのり、2人は警戒しつつベースキャンプまで撤退した。







 「なんとか逃げ切りましたね」



 「2人とも無事で良かったです」



 アオイはベースキャンプのベンチに座り込む。クロハはその隣に座り、そう答えた。



 「しかしなんで犬型エネミーがあそこに大量発生したんでしょうか」



 「ダンジョン内容の変更……ではないと思います。アップデートがきたのは最近ですし、告知もなかったですから」



 「となると……エネミーのトレインですか?」



 「でも引いてきたプレイヤーは見えませんでした」



 クロハの感知スキルはカンストしているから、クロハが気付けなかったということは本当に誰もいなかったということかとアオイは考えた。



 (でもならどうして……?)



 「どうしますかアオイさん。この異常事態ですし早くに帰っておいた方が賢いかもしれませんよ?」



 「クロハさん……分かってて言ってますよねそれ」



 アオイに語りかけるクロハの顔は好戦的な笑みを浮かべている。



 「そうですね。私たちは迷宮の探索者です。探索者はいろんな人がいますが、1つ共通点がありますアオイさんはそれが何かわかりますか?」



 「もちろんです。「好奇心旺盛なこと」ですよね」



 「その通りです。だから仕方ないんです。目の前の謎を優先して連絡を入れ忘れたとしても仕方ないんです」



 「さすがクロハさん、話がわかってますね。こんな楽しそうなこと他人に渡すわけにはいかないですね」



 そこには2人の負け犬だった少女達ではなく、捕食者となったアマゾネスがいた。







 「まずは情報収集ですね。なにからしましょうか」



 2人きりのベースキャンプでこの階層の地図を机に広げる。



 「私たちが最初に接敵したのがここですよね。そこからだとクロハさんの感知でどの範囲カバーできますか?」



 「だいたいこれくらいでしょうか。マッピングされてる中では横道はないですね」



 クロハが指で囲った範囲には確かに真っ直ぐな道が一本あるだけだ。



 「やっぱり他の人は関わってない、ということでしょうか」



 「いえ、まだ可能性はあります」



アオイの言葉を否定しながらクロハひマップのある一点に指を指す。そこは最初に2人が接敵した場所だ。



 「犬型のエネミーの感知範囲は私よりも広いです。だから私の感知範囲外で敵のヘイトを消せれば、さっきの状況にもなります」



 「でもそんなことが可能なんですか?」



 「わかりません。現状公開されているアイテムにはそんな効果があるものはなかったですし」



 「うーん、とにかく現場に一度行ってみましょう。人がいたなら何か痕跡が見つかるかもしれません」



 「そうですね。じゃあ私が先導しますんでアオイさんは付いてきてください」



 「了解です。後ろは任せてください」







 二人は暗闇の通路を音もなく走る。



 「着きましたね。今のところ感知スキルに反応はありません」



 「じゃあ私は右の壁を伝って探すのでクロハさんは左側をお願いします」



 「了解です」



 二人は分担して辺りを捜索する。



 「よし、とりあえず壁から探そうかな」



 アオイはぺたぺたと壁を触りながら移動する。



 「アオイさん、何かありましたか」



 「いえ、特にないですね」



 クロハからきた通信にアオイはそう答えた。



 「そうですか。こちらも何もなしです。やっぱり未発見の通路なんてものはないんでしょうか」



 「ここらへんに隠しスイッチでもって思ったんですけどね」



 そういいながらアオイは壁を触る。するとカチッという音がした。



 「……アオイさん?アオイさん!応答してください!」



 マイク越しに聞こえた小さな音の後、連絡が取れなくなったアオイを呼ぼうとするが、返事はない。



 「確かここらへんで通信が途切れたんですよね」



 クロハがアオイの消失ポイントを探ると、一部へこんだタイルがあった。



 「ここに何かあったんでしょうか」



 クロハがそっと手を添えると、床が光り輝く。



 「これは……転移トラップ?」



 その声を最後に、そこのフィールドには誰もいなくなった。







 「ここは……」



 「あっクロハさん、目が覚めましたか?」



 「……ああすみませんひざを借りてしまって」



 クロハが起き上がると、そこはテントの中だった。



 「どうやら別のマップに転移したみたいです」



 「このベースキャンプは?」



 「一つ予備で持ってたのでそれを使いました。備えあれば憂いなし、ですね」



 クロハが外を覗くと、森が広がっていた。テントは少し開けた場所に設置されている。先ほどまでいた迷宮の暗い通路とは大違いだ。



 「ここ、どこなんでしょうか」



 「わかりません。クロハさんでもマップがわからないとなると……新エリアでしょうか」



 「そうみたいですね。でも不思議な話です。いままで迷宮どころか、安全地帯間以外の転移はなかったですし」



 「不思議を追えば余計に不思議がでてくる。すごいゲームですねやっぱり」



 この不可解な状況にも関わらず、二人の顔は好奇心の色を隠せていなかった。



 「周囲を探索してみましょう。とりあえず安全地帯にいって一回落ちたいです。晩御飯食べたいですし」



 「あっもうこんな時間ですか。私も一度おちたいですね。では行きましょうか」



 二人はキャンプを手早く撤収して、出発した。







 枝や草をはらいつつ二人は森を進む。



 「クロハさん……」



 「はい、感知できてます。でも何か様子がおかしいですね」



 クロハはマップを端末で表示する。自分の位置を示す中央から少し離れたところに、円状に敵を表す赤い点が並んでいた。



 「いままでの犬型のエネミーならば接敵したらすぐに襲い掛かってくるはず。だけどまるで意思でもあるかのように今は狩りを待っている……?」



 「狼のように群れで襲撃するようにプログラムが組まれたんでしょうか」



 「あり得るかもしれません。とにかく……動いた!」



 マップ上の赤い点が一つ此方へ向かうとともに、そこから円がしぼんでいくかのように全方位から赤い点が迫ってきていた。



 「クロハさん!」



 「アオイさん!とりあえず抗戦しましょう!」



 「抗戦っといってもこの数じゃ……きゃあ!」



 アオイは右腕に噛みつかれる。想像以上のエネミーの体重でバランスを崩し、倒れこんでしまう。



 「アオイさん!」



 「クロハさんは自分の身を守ってください!私はお先に戻ってますね」



 アオイはそれだけ言い残し、身体がポリゴン片となって砕けた。



 「くっ、私も持ちそうにありませんね……。死に戻りなんていつぶりでしょうか」



 クロハもアオイの後に続いてフィールドから消える。標的を失ったエネミーたちは、大きく遠吠えをしてから森へと戻っていった。


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