王子、来襲
お父様は、きっとルケンティヒの王族だろう。
という私の確信について、私は途方に暮れていた。
それは、前世のゲームでなぜ断罪を受けたのか、それはお父様や弟の瞳、赤子の頃の弟の緋色の髪から、ルケンティヒの王族なのだろうの憶測でしかない。
だから、私は今後どう動けばいいのか全くわからない。
お父様がルケンティヒの王族であれば、その血を自分も引いているのであるのなら、当初の計画のように攻略対象者に関わらなければ断罪を回避できるという話にはならないのではないか。
(どうすればいいの・・・)
ふぅ、とため息を付く。
「お嬢様、ため息つかれてどうなさいました?」
私の髪をくしけずっていたアリアが鏡越しに問いかける。
「うーん、ちょっと」
鏡に映るアリアの顔を見つめ、答える。
「私の髪色ってちょっと変わってるよね?お母様はプラチナブロンドなのに、私は赤みがかってる金髪で」
アリアは微笑えんで答えた。
「旦那様が赤みのある茶髪でございますから、奥様の髪色と混じったのではございませんか?」
「そうなのかなあ」
「お美しい髪ですよ」
アリアは髪を結い、身だしなみの仕上げをしてくれた。
(ねえねえ、私の髪は脱色してるの?なんて聞けないよなあ)
定期的に髪のトリートメントをアリアとソフィーがしてくれているのは、赤毛の色を抜いているのではないかという疑惑のためだ。
アリアとソフィーは私だけでなく、弟のルルーディンの世話も一手に引き受けている。
この二人は多分色々なことを知っているのではないだろうか。
(まあ、それも憶測でしかないんだけど)
※※※
身支度を整え、アディンセル伯爵家に向かう。
アルティエから、今朝早くにお茶を誘われたのだ。昨日は学園で何も言われなかったから、急に思い立ったのか?と思いつつ、了承した。
ルルーディンはアルティエが大好きだから、一緒に行きたいとせがんだが、アルティエからの手紙にルルは留守番とあったので置いてきた。
多分今頃はお母様の膝で泣いてる。
「トゥーリア。いらっしゃい!急にごめんなさいね」
アルティエが玄関で出迎えてくれた。
「ティエ。お招きありがとう。急ではあったけどどうしたの?」
「それについては、こちらにいらして」
アルティエに案内されて屋敷の奥に進んで行く。いつもの茶会で使うテラスではないようだ。
案内されたのはプライベートな家族の私室に繋がる棟だ。
(アルティエの部屋かな?)
と思ったがアルティエはセシリオの部屋の扉をノックした。
「お入り」
セシリオの声が聞こえ、アルティエと共に中に入る。
部屋にいたのは、セシリオ、サミュエル、そして。
(ギルちゃん!?)
ギルスバード第三王子殿下だった。
※※※
(一体何事なの!攻略対象者が三人も揃って!断罪されるの!?)
私は予想していなかった出来事にパニックを起こしていたが、アルティエにそっと手を引かれ、ハッと気を取り落とし軽く腰を落とし三人に礼をした。
「第三王子殿下、サミュエル様、セシリオ兄様、ご機嫌麗しゅう・・・」
「セス、すまないがトゥーリアとしばらく話をしたい」
ギルちゃんが、セっちゃんに言った。セッちゃんは厳しい目でギルちゃんを見つめる。
「承諾できませんね。何をお考えで?」
「約束がある」
「約束?」
セシリオが眉を顰める。
「まあまあ!いいじゃんちょっとぐらい、ティエちゃんもこっちおいでー」
っと、サミュエルがギルちゃんとセッちゃんの間に入り、セシリオの腕を引っ張って部屋の外に出ていく。アルティエもセシリオの片側の腕に手を絡めたため、セシリオは抵抗できなくなった。
三人が部屋からいなくなり、ギルちゃんがソファに腰かけ私にも座るよう促した。
私は正面を避け、対角に腰掛けた。
「こうやって、話をするのは久しぶりだな」
「はい」
ギルちゃんが学園に入ってからだから、もう4年くらいぶりかな?
「先日すれ違ったときの、お前の顔が気掛かりだった。ルケンティヒのことを知りたいと言うだけでも好奇心が過ぎる。何かあったのか?」
ギルちゃんの黒い瞳がまっすぐ私を見つめる。
顔立ちがシュッとして、大人の顔に近づいている。ゲームの時の顔、私の一番の推しメンだったギルスバードに。
(ああ、好きな人だなぁ)
と、私は不意にギルちゃんへの恋心がまだ消えていないことに気付く。
そして、涙がこぼれた。
ギョっと驚愕した顔のギルちゃん。
ギルちゃんから目を反らし、横を向いて涙を押さえる。
最近、色々考えることが多くて感情を抑えて生活していたから急にギルちゃんに会ったことで色々と込み上げてきたようだ。
「申、し、わけ、あり、ませ」
しゃくりあげそうで、中々声もでない、困った。王子の前で何たる失態。
ああ、ヤバイ、どうする?このまま走って逃げたいけど、退室したらもっとヤバイ事態になるよなー。泣き止め、私。
と、どこか冷静に考えていると。
頭に手を乗せられた。
驚いて見上げるとギルちゃんが手を伸ばしていた。
「ウォルターにお前が学園で困っていたら助けてやってと言われていた。まあ実際は難しい話だが。王族として誰か個人を助けることなどトラブルの元だ」
そういえば、お父様は何かあればギルちゃんを頼るように、と言っていた。
「だから、俺は何もしてやれないだろう。お前が泣いていても」
私の頭に手を置いたまま、ギルちゃんは言う。
その手は頭を撫でる訳ではなく、置いた位置から動かない。
(何もしてやれない)
でも、ギルちゃんは私を見つめ、頭に手を置いている。
それが、彼ができる精一杯の慰めだと、感じた。




