黒髪の乙女
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ヴァルテリッド国とルケンティヒ国が仲が悪いのには理由がある。
以前、この2つの国は1つの国、ルケンティヒ帝国であった。ある時期の皇帝に自治を認められたヴァルテ一族が反乱を起こしたのだ。
反乱と言ってもルケンティヒ国から見ればそうだが、帝国時代のルケンティヒは国が大きくなりすぎ官僚の腐敗が進み、国が荒れてしまっていた。ヴァルテ一族は自治していた領土と民を守るために独立を決意し、自治領周辺の貴族達も賛同し新しい王国を興したのだ。
なぜ唯の一貴族であったヴァルテ一族が自治を認められていたのか。
まー、あれだ。女性ですよ。
ヴァルテ一族に生まれた黒髪の美少女リリアリムちゃん。皇帝の目に止まり寵愛を受け、ヴァルテ一族大繁栄。
リリアリムちゃんは皇帝の子を産み、喜んだ皇帝がその子に自治領を渡したのだ。
リリアリムは美少女であるだけではなく、その時代に珍しく学のある女性だったそうで、彼女のおかげでヴァルテリッド国では女性も学ぶことが奨励され、リリアリム学園ができたのだ。
黒髪の乙女リリアリムは尊敬され、神格化され、王都と学園に名前を残している。
ヴァルテリッド国がルケンティヒ帝国から独立し、繁栄しているのが気に入らないルケンティヒ国は、何百年経った今でもヴァルテリッド国が自分の領土であると訴え、侵略しようとしている。
どうにかならんのか、あの国は。
ヴァルテリッド国に住む人や、周辺国の思いは皆このように一致していると思われます。
※※※
学園の敷地内には聖女リリアリムの遺体が地下に安置されている聖堂がある。私は今日もリリアリムが眠る学園で学び、学業の後のティータイムを友人と楽しんでいた。
そして、先日の女装男子ことサミュエルが目の前でお茶を飲んでいる。
何がどうなったかと言うと、あのカフェテリアでの騒ぎからしばらくしてあいつはまた私に声を掛けてきたのだ。
ただ前回と違うのは周りに友人がいたこと。私はあれから極力1人にならないように気をつけていた。
理由をつけてサミュエルに『あっち行けよ』と丁寧に答えていた中、
「まあまあ、よろしくてよ!」
「おかけになってくださいな」
「どうぞー」
と、友人達がサミュエルを席に着かせたのだ。
『はあ!?』と内心叫んだ私は声は淑女らしく出さなかったが、友人達の行動に目は驚きで見開いていた。
サミュエルは、フフンと言うように口元と片眉を上げ、私の前に座った。
彼は今日は男子の制服だ。この間は女子生徒にしか見えなかったが今日は美少年だ。化粧してたのかもしれない。
席に着いた彼が「あのさー、」と口を開いたのにかぶせ、
「サミュエル様は筋肉逞しい方と細身で筋肉が付いている方、どちらがお好み?」
友人で侯爵令嬢のテレーズがサミュエルに話しかけた。
「え?筋肉?」
質問の意味がわからずサミュエルが戸惑う。
「第一騎士団長のオズバルド様は、剛剣を使われる為かお体も逞しくていらっしゃいますけど、第二騎士団長のサイラス様は一見細身に見えますけどしなやかに鍛えていらっしゃいますでしょう?サミュエル様はどちらが好ましいと思われますの?」
テレサの静かな迫力に押されたのか、サミュエルはしどろもどろになっている。
「えー、まぁ俺も筋肉付きにくいし、サイラス殿の剣のほうが身に合ってると思うけど 」
どちらが好き、とかサミュエルは答えなかったが、テレサはスカートから出した小さな手帳に、「サミュエル様はサイラス様が好き。体に馴染んでいる」と誤解を招きそうな内容を書き込んでいる。
うふふ、と楽しげに笑う姿はなんだか悪役令嬢っぽい。
サミュエルは表情が固まっている。「筋肉?」と呟いている。
普通、令嬢の口から筋肉という言葉など飛び出さないだろうから、戸惑っているのかもしれない。
「サミュエル様は第三王子殿下の騎士になるんですわよね。きっと危険なこともございますわよね?」
今度は子爵令嬢のエミリアがおっとりと聞く。
「ああ、まあ護衛は、ティムがギルに付くことが多いけど」
「主の為に身を呈して戦う。自分よりも主を大切に思う。自分よりも・・・!」
エミリアさん、指を組んで頬を染めて自分の世界に行っちゃってます。
サミュエルが口を半開きにして固まっている。それでも美少年だ。
「カーサ・ディルの戦いでの歩兵の動きですけどルケンティヒ国に対して正面での陽動作戦に引っ掛かってくれたのは良いですけど味方の負傷が大きすぎですよね。あの陽動がなくとも当時のヴァルテ軍であれば十分な兵力差があったと思うんですけど一説に寄ると歩兵を率いる下級貴族が将軍と」
「ちょっと待って、黙って」
平民のファナが立て板に水の用に喋り始めたのを、サミュエルが慌てて止める。
「なんなの?この子たち?」
美しい顔を引きつらせてサミュエルが私に問いかける。余裕そうな姿はもうない。
「さあ?」
首を傾げて答える。
テレーズは前世で言うところの腐った婦女子だ。私は男同士の恋愛には興味はないが彼女は好んでいるようで、自分でそんなような話しを書いている。手帳はネタ帳だろう。
エミリアは異性でも同性でもいいが、犠牲愛や主従愛など、シチュエーションに萌えている。
ファナはとても賢い人なので、サミュエルが騎士なので話題を提供したつもりなのだろう。何かずれている気がするが。
美しく恐ろしいと感じていたサミュエルが顔を引きつらせている様子を見て、自分の肩の力が抜けた。
(なんだ。この人だって、顔はきれいで滅法強いけど、私と同じ人間なんだよね)
攻略対象者はゲームでは完璧人間で、非なんてどこにもなかった。ゲームだから、格好悪いところなんて見たことなくて。
だから、私は攻略対象者に対して必要以上に警戒していたのかもしれない。
なら私は私らしく。
「サミュエル様、私に何かお聞きになりたいことがあれば、はっきりとお聞きになってくださいな」
記憶力や努力はあるが頭の悪い私。嘘つくことや知らない振りや演技は得意だけど、実は腹芸は好きじゃない。
ここはストレートに聞いてやろうじゃないか。
まっすぐにサミュエルを見つめると、彼は毒気を抜かれたようにポカンとした顔になる。
「あー・・・なんだろ。なんか引っ掻き回したらギルが困るかなーとか面白そうかなーとか?」
「第三王子殿下を困らせて面白いんですか?」
「?うーん?・・・・・・なんか違ってたかも?」
サミュエルはしかめっ面になって首を傾げた。
自分の行動理由がわからないのか。エルちゃんはやっぱりおバカな子らしい。
「殿下をあんまり困らせないであげてくださいね」
おバカな側近を持つギルちゃんが可哀想になった。
「サミュエル様は主の困り顔を見たいと。・・・泣かせたいってことかしら」
「愛ゆえの下克上と言うのも萌えるわね」
「好きな子をいじめたいんですねー」
友人達はヒソヒソと話をしている。彼女達は通常運転だ。
サミュエルは彼女達を見て笑みを浮かべる。
「変わってる」
その言葉は嫌味ではなく感じた。
「エル。ギルが呼んでいる」
背後から気配なく声がして、ビクッとなり振り向く。
銀髪の少年が立っていた。攻略対象者のティモシーだ。
「わかった。・・・また来ても?」
サミュエルは誰にともなく問いかける。
「よろしくてよ!この次はティモシー様もご一緒でしてよ!」
「お二人のお話し、楽しそうですわ」
「騎士団の暗号文についてお聞きしたいですー」
友人達は友好的だ。テレーズとエミリアは美少年達に興味をそそられているのだろう。ファナは違うな。
サミュエルは、『あんたは?』と言うように私に目で問いかける。
あー、攻略対象者とは近寄らないでおきたいんだけど、友人達が楽しそうだしなー。それに上位貴族に嫌だとも言えないしね。
「お待ちしておりますわ」
来るなら来いやー!!うわーん!!
※※※
「エルが楽しそうに見えた」
ボソリとティムがサロンに向かう廊下で呟いた。
「あ?何で?」
「婦女子に囲まれて顔をしかめるあなたの顔など初めて見た」
「いや、それって楽しそうに見えるか?」
「貼り付けたような笑顔より、余程楽しそうだ」
「ああ、そう。・・・まあ、面白い子達だね。俺の顔に見惚れることなく、ドレスやら花やら流行の話題、人の噂話、陰口だとか、うんざりした話もなく・・・。ちょっと意味わからなくて変わってた」
俺は肩をすくめてみせた。
「次トゥーリアに会うときはティムも一緒だな」
サロンの扉を開けながら、中にいるギルに聞こえるように俺は言った。
トゥーリアは、学園の聖堂の地下にリリアリムの遺体があることを聞いて、「こわ!」と震えて聖堂に近寄らないようにしています。




