前世
更新が、なかなかできず申し訳ありません。
「お嬢様、お疲れでしょう」
「お体をほぐし致しましょう」
学園から帰ると、侍女のソフィとアリアが玄関で待ち構えていた。
私の返事を聞かぬまま、手を引かれて一室に連れて行かれる。
すでに部屋は準備がなされている。
テキパキと二人は私の制服を脱がせ、柔らかなワンピースを着せる。
角度の付いた長椅子に座らさられ、首の後ろと目に暖かなタオルを当てられる
タオルの暖かさが気持ちよく、上品に深く息を付く。
内心では、
(あ〜!!気持ちいい!お嬢様生活さいこー!!)
と、叫んでいたが。
「昨日も夜遅くまで本を読んでらしたでしょう」
「朝、目の下にクマができておられましたよ」
ほどほどになさいませ、と二人は優しくお説教をしながら一人は私の身体を揉みほぐし、一人は髪を霧吹きで濡らし、トリートメントを塗っていく。
物心が付いた頃から、いや、私が前世を思い出した頃から、ソフィとアリアは定期的に身体を揉みほぐしたり、髪や爪の手入れをしてくれている。
おかげで肌はツルツル、すべすべ、スレンダーボディに、髪はツヤツヤ、スルスルだ。
美は作られる物だと自分を鏡で見て、美少女振りに実感する。
ズボラな自分の手入れでは、お父様とお母様の美形遺伝子を引き継いでいたとしても、美少女の状態は維持できないだろう。
「お顔と髪のパックにお時間かかりますから、夕食までこのままお少しおやすみなさいませ」
わかったよ、と答えた自分の声はすでに微睡んでいる。
※※※
「ここで迎えに来るまで絵本を読んでなさいね」
優しく言う、前世の母の声が聞こえた。
ああ、夢か。
「うん、わかったよ」
自分はお利口に答えたはずだ。
図書館に1人きりで置いて行かれるのはいつものこと。
母親は最初は1、2時間で迎えに来ていたが、母がいなくても平気そうな自分を見て、閉館の夕方まで迎えに来なくなった。
お昼ご飯はおにぎりと水筒に入ったお茶。おにぎりは時にはフルーツサンド。
お母さん、おにぎりもサンドウィッチも美味しかったよ。
あの頃は、ありがとう、ご馳走さまと言う事も知らなかったね。本で、食事のマナーを学んでからは一人で食べる時に呟いていたけど。
私は子供の頃、広い緑豊かな公園に併設された図書館で、母親の休みの土日は、1人きりで放置されていた。
私が大人になった時代では、子供を放置することは虐待と言われていたし、子供を狙う変態男に寄る悲惨な事件が問題になっていたが、私が子供の頃は子供を放置する大人は多かったように思う。
母親が私を置いてどこに行っていたのかは知らない。母親と父親が私に興味がないように、私も両親に興味を抱かなかった。
両親は私に感情を教えてくれなかった。気付けば、私は人間関係をうまく築くことができなかった。
人間に興味を抱けず、一人ぼっちでも寂しいと思わず、私は本ばかり読んでいた。
いや、違う。私は人間を知りたかった、知りたいと渇望し本を読んでいた。
本を読めば色々な人間の感情や生き方があった。怒りも悲しみも、恋の気持ちも私は人間からではなく、本から学んだ。
本から学んだ知識や、感情を身にまとい、前世1人で生きていたのだ。
人から嫌われないように、程々に人当たりの良い擬似人格を演技して。
(お母さん、行かないでって泣けば良かった?)
この世界で、私はたくさんの人から愛情を向けられ、自分をやり直している。
本からではなく、実際に自分に向けられる感情は私に前世なかった心を与えた。
(お母さん、お父さん、私を見て、構ってって、かんしゃくを起こしたら、少しは私を見てくれたかな?)
もう、わかることはないけれど。




