苦い気持ち
「お母様、ルル、行ってまいります」
「行ってらっしゃい」
「ねーしゃま、いってらっしゃーい!」
お母様と弟のルルーディンに見送られ、私はお父様と馬車に乗り込む。
今日から、私は学園に通う。
とうとう、ゲームが始まるのだ。
「緊張してるね?」
目の前に座っているお父様に話しかけられる。
「はい・・・。皆に馴染めるか不安で・・・」
私の今までの世界は、お父様達に守られ狭いものだった。今日からは自分の力で学園生活を送らなくてはいけない。
そして、攻略対象者との接触を避けなければ。
「知った顔は多いと思うけど、トゥーリアは友達がいないよね。肩の力を抜いて気の合う友達ができるといいね」
「はい・・・」
答える私の声は沈んでいる。
そう、母に連れられ子供の集まりに出る機会はあったが、私は基本ぼっちであった。
精神年齢が高いため、子供同士の交流が苦痛であり、1人でいるほうが楽だったのだ。
(うう、楽なほうに流れる私の駄メンタルめ!)
友人作りをサボった私の学園生活はきっと、ぼっちから始まる。
※※※
ヴァルテリッド王国の、王都リリアリム。その王都の名前を冠したリリアリム学園。
学園は12歳から16歳までの中等部、中等部卒業後2年間の高等部に分かれている。
貴族や裕福な者は自宅で家庭教師を付けているが、庶民は7歳から各地にある幼年学校に入ることを義務付けられており、成績優秀者で本人が入学を望む者は特待生として学園で学ぶことができる。
貴族や裕福な平民は寄付金が課され入学する。寄付金は最低金額が設定されているが、貴族は更に金額を積むことがステータスだ。
お父様も、きっと寄付金を積んだことだろう。
学園に入学しても大抵の者は高等部には進まず、16歳で卒業となる。
高等部に進む者は、余程の秀才であるか、国の仕事に就くことが義務付けられた者だ。
「何か困ったことがあれば、ギル王子を頼るといいよ」
微笑んでお父様が言った。
考えに沈んでいた私はかすかに胸が痛むのを感じていた。
(ギルちゃん・・・)
三年前、セシリオが学園に入学してから、ギルスバード王子はアディンセル伯爵家を訪問することが少なくなり、そして二年前、彼が学園に入学する直前に会ったのが最後だ。
会うたびにトゥーリアを構いまくったギルスバード王子は、その時は静かにセシリオ、トゥーリア、アルティエとテーブルを囲み、
『自由な時間は終わったよ。これからは自分の役目を果たすことになる』
大人びた目で彼はセシリオと話しをしていた。
ギルスバード王子に会うことが絶え、しばらくして私はようやく気付いた。
男爵令嬢である自分は、この先第三王子である彼に自分から声をかけることも、手紙を送ることも許されない。
今までの付き合いは、あくまでも、王子の側近であるセシリオを介しての王子の好意だった。
今までバッドエンドが気になり、王子の好意を私は迷惑だと思っていた。
しかし、王子がいなくなって、私はようやく苦い気持ちに気付いた。
(初恋だった)