騎士たち
「ギル、トゥーリアって子にいつ会いに行くの?俺も連れてってよ」
王宮の自室で、側近の2人と飲み物を飲んでいると、グラッド侯爵家の四男、サミュエルが突然言った。
部屋にはギルスバードと、側近のサミュエル、レスター伯爵家の三男、ティモシーがいる。
この2人は学園卒業後は騎士としてギルスバードに仕える予定であり、今日は王宮で剣の稽古をした後、ギルスバードの部屋で水分補給をしていた。
ギルスバードは学園に入学して二年目となり13歳となった。来年は、学園にトゥーリアが入園する。学園に入園してからは、学園で学ぶ時間と、王宮で課される教育で忙しくなりトゥーリアに会うことはなくなった。
「ギルのお気に入りの子でしょ?気になるよね。ティムも気になるでしょ」
俺に話しかけておきながら、返事を待たずにサミュエルはレスター伯爵家の三男ティモシーに話しを振る。
「私は、別に」
「またまたー。俺らがお守りする第三王子殿下の想い人だよ?顔くらい知っとかないと。やっぱりセスに似てる感じかなー」
「従妹であるから、どこかは似通っているだろう」
「セスに似てたら可愛いな!」
きっと天使系美少女だな!と口笛を吹くサミュエル。
1人で盛り上がっているサミュエルに言う。
「特に会う予定はない。たかが男爵家の娘になぜ俺が会いに行く必要がある?」
「へー?」
サミュエルが、意外だと言う顔をした。その顔はとても美しい。ウェーブした濃い金髪を肩まで伸ばし、水色の瞳に、左の目元には涙ボクロがある。
一見なよなよとした感じだが、こいつは滅法強い。先程も剣の稽古で全く敵わなかった。と言うか、剣を持つと好戦的になり美しい顔で狂喜の笑みを見せながら斬りかかってくる。初めて剣を合わせた時は、その笑みにゾッとし、その日の夜は夢でうなされた。
戦いがあれば、こいつは喜んで単身敵に斬り込んでいくことだろう。
日常生活でも、諍いがあれば喜んで顔を出しに行っている。
サミュエルと対になるティモシーは、普段は無口であり、自ら話すことは少ない。
話を振れば言葉少なに答えるが、無表情で感情の起伏をあまり見せない。
銀色の短髪に、オレンジ色の目をしている。無表情だがこちらも端正な顔立ちをしている。言葉少ないが周囲に対して気配りがあり女性にも男性にも人気がある。
剣の腕は、サミュエルに一歩敵わずであるが、サミュエルが単身斬り込んでいくとしたら、彼は団体を組織することに長けている。
模擬戦をサミュエル対従騎士5人で行った際、サミュエルは従騎士5人を瞬殺で倒し圧倒的な強さを見せたが、第二戦で従騎士5人をティモシーが指揮したところ、サミュエルをなんとか抑え込むことに成功した。
戦の際は隊長として、兵を率いるだろう。
代々騎士の家系であるグラッド侯爵家はレスター伯爵家の主家であるが、戦の際は部隊の隊長はレスター伯爵家、その下にグラッド侯爵家が付くことになり立場が逆転する。グラッド侯爵家は皆、血気盛んであるので従家であるレスター伯爵家は主家を絶やさないよう常に苦労している。
「たかが、男爵家の、ねえ〜」
ふーん、と美しい顔に人の悪い笑みを乗せ、サミュエルは呟く。
「なら、第三王子殿下の想い人ではないなら、俺がトゥーリア嬢に会いに行っても構わないですね?」
「伺いを立てる必要はない。俺には関係のないことだ」
ギルスバードの素っ気ない答えに、
「楽しみだよ」
サミュエルが微笑んだ。