王子を阻止したい
ギルスバード王子の突然の訪問から程なく、従兄のセシリオ・アディンセルがギルスバード王子のお側役の一人に選ばれたことが、アディンセル伯爵家を通じてラインヘルト男爵家にも知らされた。
第三王子より一歳年上のセシリオは、まだ学園に入学する前でありながら、学問の才があると言の葉に乗せられている。第三王子の頭脳になることを期待されての、抜擢であるだろう。
一時は没落の憂き目に遭った伯爵家の当主、セシリオとトゥーリアの祖父は王家からの打診に涙を流して歓喜したと言う。
(私も、親しい従兄の出世は喜びたいところだけど・・・)
「トゥーリア。菓子をもう一つどうだ?」
目の前に座っている第三王子が、返事を確認せず、私の皿に菓子を入れてくる。
「遠慮せず食べろ」
「ありがとうございます・・・」
(なぜ!なぜ、ギルちゃんが私を構ってくるの!?)
セシリオが第三王子の側近に選ばれてから、王子と親しくなる為に、セシリオが王宮に行ったり、ギルスバード王子が伯爵家を訪れる機会が増えた。
そしてギルスバード王子が伯爵家を訪れる時は、高確率で従妹の私が招かれるようになったのだ。
セシリオとセシリオの妹、アルティエと共に王子を歓待するはずが、肝心のギルスバード王子は、私をやけに構おうとしてくる。
もともと、焦ると噛み噛みになり舌っ足らずな話し方になる私は、王子の構われ攻撃に焦り、その地を晒してしまう。
王子はそれが楽しいのだと思う。
ニヤリとした顔で笑われてしまい、私は、恥ずかしさで俯いてしまう。
「トゥーリアは可愛いな」
「!そんなことないでしゅから」
あ、噛んだ。
「ギル、僕の従妹を困らせないで」
「セス、困らせることなど俺はしていない」
セシリオが横目で、私を見る。口元は困ったように微笑んでいる。私も微笑むが、きっと引きつった笑みだろう。
なぜか、ギルちゃんは私を気に入っているようだ。お父様の娘だからなのか。
毎回のように王子の訪問に合わせて私が呼ばれることに、きっとセシリオや伯爵家の者は良い気持ちはしていないはずだ。
(王子の好意が、他の貴族の嫉みとなる。バッドエンドに行っちゃうんじゃないの、これ)
ひいぃ!勘弁してよ!と心の中はパニックで、王子との会話も噛み噛みになってくる今日この頃。
ハッピーエンドバージョンでは、ギルちゃんとトゥーリアは結婚してたけど、よくよく考えて見ると、公爵家に1代限りの男爵家から嫁げるわけがないのだ。
バッドエンドではギルちゃんは他国の王女と結婚していた。
普通に考えて、第三王子である彼は、他国に婿入りが妥当ではないだろうか。
それに、この先ギル王子と関わるようになれば、ギルちゃんの側近である残りの攻略対象者も出てくるだろう。
後の攻略対象者は、堅物の騎士と、女好きの騎士、それと宰相の息子。
このままでは学園に入る前に、全ての攻略対象者に会うことになりそうだ。
逆ハーを阻止するんじゃなくて、王子を阻止する方法を考えないといけないんじゃ・・・。
笑みが引きつるトゥーリアだった。