人形みたい
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なんか、人形みたい。
トゥーリアの微笑む顔を見て、そう思った。
『僕のお姫様は、小さいのに賢くておしゃまで可愛いんだよ〜。あんまり甘えてくれなくて寂しいんだけどね』
ウォルターが、珍しいものを持ってきてくれた時によく自分の娘のことを話す。
自分より、2歳年下だと言う。
『学園に入ったら学年違うけど、よろしくね〜』
よく、貴族が自分の子女を年齢が近いから仲良くしてくれと勧めてくるけれど、ウォルターのよろしくは、他の貴族とはニュアンスが違うだろう。
子女を側近にしたい、婚約者にどうか、ではなく、純粋に娘が困ってたら助けてね、という意味だと思う。
彼は自分に対して王子ではなく、普通の子供のように対応してくる。
初めは、失礼な奴とムッとしたけど、ウォルターの持ってくる物やそれの逸話が面白くて、いつからか気にならなくなった。
ウォルターの話を聞いていると、自分もいずれは色んな国に行きたいと思う。
今日は、午後の予定がぽかりと急に空いた。代わりにしようと思うことはそれなりにあったけど、ウォルターの屋敷に行ってみようかと悪戯心が湧いた。
付いていた警護の者を脅し、男爵家に連れて行くよう頼む。母上は俺に甘いし、警護の者に処罰がいかないよう後で頼もう。もともと甘やかされた我儘王子だ、警護の者は同情されるだろう。
男爵家にはウォルターは不在で、家人が大慌てで上司を呼びに行ったが、待たされたくなかったので侍女に庭を案内させる。
東屋には女の子が寝ていた。くうくう、と寝息を立てている。
侍女が「お嬢様」と女の子をゆすって起こす。
この子が、ウォルターのお姫様、トゥーリアか。
目を開け、こちらを見たトゥーリアのぼんやりとした表情が、すっと変わった。
にこりと笑うのに、表情が抜け落ちた人形のよう。
綺麗なお辞儀を見せる。
人形みたい。
話し方もまだ5歳なのに、大人のよう。
可愛くない。
ウォルターの話を聞いて、トゥーリアに会うのを少なからず楽しみにしていたのに。
トゥーリアは、表情はニコニコしてるけど本当には笑っていない。
気まずい気持ちになり、さっきの泥水みたいな飲み物の話題を振るけど、
「私は好きですわ」
一瞬で会話が終わった。
気まずい。誰か。
視線を彷徨わせていると、知っている姿が見えた。
「あ、ウォルター」
来てくれたのか!?
「このバカ王子。王妃がめっちゃ心配してるよ」
東屋に入ってきたウォルターに、にこやかにバカ呼ばわりされた。
いつものウォルターの軽口だ。ほっとなって、挨拶しようと思ったら、トゥーリアが叫んだ。
「おとうしゃま!でんかになんてことを!!」
え?おとうしゃま?
「もうしわけありましぇん!どげじゃ!おとうしゃま、どげじゃなしゃって!!」
さっきまでの人形の顔じゃなく、必死な顔で、トゥーリアがウォルターの足元で叫んでいる。
どげじゃ?土下座?
「でんか〜。もうしわけありましぇんー。ごめんなちゃい〜」
俺を振り返った、トゥーリアの顔。目にいっぱい涙を溜めて顔を歪めていて。
可愛いなあ、と思ったけど。
どげじゃがツボにハマって、笑いが止まらなかった。
泣き叫ぶトゥーリアを見て、ほっとした。
人形ではなく、素の顔は普通の女の子で。
「ありがとうございます」
帰り際、本当に嬉しそうに、にっこりと笑う顔がとても可愛くて。
トゥーリアに会うのが、楽しみになった。
第三王子も、ギャップに萌えたのです。