ホラ?
お父様が、王子に対して『バカ』と、首を刎ねられてもおかしくない発言をしたのに、ギルスバード王子は長椅子を叩いて笑っている。
「あっははは!はっ、どげじゃ!今まで澄ましてたのに、どげじゃ!あはは!」
この世界に土下座文化はあります。
王子の笑いっぷりに困惑し、お父様を見上げる。お父様は苦笑している。
「ギル王子とは、親しくさせて頂いているよ」
「別にかしこまらなくていい。いつも通りで」
ひーひー笑いながら、ギルちゃんが言う。
と言うことは、先程のお父様のバカ王子の発言はお咎めなしと言うこと?
「ひっ」
両目と鼻がつんと痛い。
「う、う、うぇ、うぇぇ、うぁぁーん!!」
ほっとしたせいで、涙がこみ上げ止まらなくなった。
「うわーん!!おとうしゃまのバカー!!!」
お父様の考えなしの発言のせいで、没落、断罪されるかと思ったじゃない!
王子様の目の前だけど、この5歳児の癇癪は一度タガを外すと止まらない。
「うえーん!」
お父様とヒューが慌てて、トゥーリアを宥めることになった。
「うえ、ひっく」
慌てたお父様に抱え上げられ、屋敷の中に連れて来られ、目の前にお菓子や甘い果物を並べられる。
お父様に抱っこされ、背中をぽんぽん叩かれる。
「ごめんね、びっくりしたよね。急に王子様が来たりしたし」
「俺のせいじゃないだろう。ウォルターが俺をバカとか言うからだ」
ギルちゃんが呆れたように言う。
本当に親しくしてるのか、お父様の失礼な発言にギルちゃんは寛容だ。周りに甘やかされた傲慢王子じゃなかった?
なんでお父様と仲良いんだろう?
「おみやげ届いた?」
「あぁ!竜の牙だろ!?あんな大きな牙、初めて見た。竜退治をしたのか?」
「隣国に行く最中にちょっとね。炎吹かれて危なかったよ」
「すっげぇ」
えーと、あの。
お父様?
めっちゃイイ顔で笑っていらっしゃいますが?
ギルちゃんも、目をキラキラさせてますが。
めっちゃ、ホラ吹いてます?王子様を騙してますよね?
この世界、竜なんていませんよ?
あれか、男の子のヒーローになりたいと言う願望を、ホラ話でがっつり掴んでるのか。お父様は珍しいものを数多く手に入れてくるし、なんか男の子が心躍る逸話も付けて披露するんだろう。
うん、悪徳商人かもしれない。
ギルちゃんの、お父様を見つめるキラキラした顔から、そっと目を逸らせた。
お父様のホラのせいでいつか没落しそう。
※※※
王宮から迎えが来て、ギルちゃんをお見送りする。
「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」
ギルちゃんに頭を下げる。王子様の目の前で動揺して大泣きしたのだ。何かしらの処分を受けてもおかしくない。
「別に。学園に入るまでは皆、粗相をしても大目に見られるから気にしなくていい」
ぶっきらぼうにギルちゃんが言う。
ギルちゃん、優しい子だなあ。全然俺様王子じゃないよ。
「ありがとうございます」
嬉しくてにっこりと、ギルちゃんに笑いかけた。