救世主?
家宰のヒューが東屋に到着し、最敬礼をする傍ら、私に目配せをした。
この屋敷に今主人であるお父様は不在、お母様は寝付いていて起き上がれない。
つまり、おもてなしは私の仕事!!
「殿下、どうぞ応接間へご案内致しますわ」
東屋から屋敷の中へ案内しようとしたが、
「折角ここまで来たんだ。ここでいい」
と、今まで私が寝転がっていた長椅子にどかりと王子は座った。襟元も緩めて、靴も脱ぎ捨ててくつろごうとしている。
「トゥーリアは何飲んで、」
私の茶碗を覗きこんで、ギルスバードは固まった。
そうだよね、茶碗の中に入ってるの、泥水にしか見えないよね、てへ。
「殿下、それはチャイと言う南方の飲み物ですの。ミルクと茶葉と香辛料を混ぜた飲み物です」
ギルスバードは、私の茶碗を持ち上げ、行儀悪く匂いをかいだ。
「くさ!」
あーはいはい。子供には、つーか男には香辛料の香りはわかんないか。
「申し訳ありません。母にも行儀悪い飲み物と叱られていますの。ヒュー、殿下にお飲み物をご用意して」
結局、暑さのせいもあり、柑橘を絞った少し甘めの炭酸水を用意してもらった。
さっぱりしていてうまい。
「さっきのチャイ、うまいの?」
炭酸水を飲みながら、ギルちゃんが聞いてくる。
まだ子供だけど、可愛いよなー。生意気そうな顔がまたいいわー。
「私は好きですわ」
香辛料はこの世界ではお高いし。贅沢な飲み物です。
「ふーん」
王子は、絶対まずい、と呟く。
王子は庭を見に来た、とか言いながら、庭に目をやることは少ない。お城に素敵な庭なんかたくさんあるだろうし、何しにきたんだ、こいつ。あー、何を話題にすれば。
「あ、ウォルター」
とギルちゃんが言う。
ヒューと一緒にお父様がこちらにやってくるのが見えた。
あー、お父様、助かったよ、あとはお任せしますから。
東屋に入って来たお父様。救世主のよう、と思ったら。
「このバカ王子。王妃がめっちゃ心配してるよ」
お父様の言葉に、ヒューが白目を剥いた。
(おーとーうさまぁぁぁ!!!)
没落!?今日、没落日和なの!?
「おとうしゃま!でんかになんてことを!!もうしわけありましぇん!どげじゃ!おとうしゃま、どげじゃなしゃって!!」
盛大に噛みまくりですよ。まだ5歳だもん。急いで喋るとこうなっちゃうの。
ペチペチとお父様の足を叩く。めっちゃ涙目だ。
「でんか〜。もうしわけありましぇんー。ごめんなちゃい〜」
涙目で、ギルちゃんを振り向く。
王子は顔を真っ赤にして笑っていた。
え?怒ってない?