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場違いな天才達  作者: 紅酒白猫
第一章 場違い召喚
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7 別の世界



 夕食は思った以上においしかった。


 あんな手軽に出来ているのに、味はそこらのレストランで食べるよりも、遥かにうまい。

 世の中、知らない内に進化してるわね。


 この宿に住み込みで働いている子供二人にも仲良くなった。

 二人とも女の子。年齢はジョン少年より少し上だと思うから、たぶん10歳か11歳くらいだと思う。

 二人ともボロボロの白いワンピースを着ていて、顔も似ているからたぶん姉妹か双子だろう。

 服装はアレだが顔は整っていて、将来大物になりそうな顔立ちをしていた。






 満腹で充実したお腹を擦りながら部屋の扉を開ける。

 本当はもう少し皆と話したいと思っていたけど、私が子供と話していたらいつの間にか自室に戻ってしまったらしい。

 そういうことで私――アリシアも、子供二人に別れを告げ自身の部屋に戻ってきた、ということだ。


「足が、痛いわね......」


 ベッドに腰掛けた途端、不意に呟く。


 履いていたブーツの脱ぎ、放り投げる。

 このブーツはスタジアム上で歌ったり踊ったりするため、多少は動きやすく設計されてはいるらしいのだが、それでもこれほど長距離を歩くためには作られていない。

 ブーツを脱いだ足のつま先は、多少赤みを浴びてヒリヒリしているけど、痛みを我慢すればまだ歩けるだろう。


「こんな状況になるなんて、誰が想像できるのよ」


 思わず愚痴をこぼす。

 数時間前に起きた緊迫した状況。それからの長時間歩行。

 これが番組のドッキリだったら最高だ、スタッフを殴れば済む話だから。

 だけど現実はそんなことなかった。

 どれだけ弱音を吐こうとも、誰も助けてくれない。助けてくれなかった。


 道中、ソウジが私と同じ疑問を口にしてくれたおかげで、何も考えずここまで来たけど。まさかこんな寂れた町に着くとは思わなかった。

 この町の名前は『エニ町』というらしい、さっきの子供に聞いた。

 なぜこんなボロボロなのかと聞くと、ここは都市から離れており客や住む人も少なく。何より危険、ということらしい。


 まったく、警察や政府は何をやっているのかしら!

 自身の土地も管理できないなんて、底が知れてる国ね。


(それにしても本当に、ここはどんな国なの......?)


 素朴な疑問。

 どうやって移動したとか。これからどうなるのかとか。

 そういう難しい話はどうでもよかった。

 難しい話はユリアーナ博士やジョン少年に任せた方がいい。


 とにかく、ここがどこかさえ分かれば助けを呼べる。そう確信していた。

 だって私は世界の歌姫だもの。私の存在を知れば、どんな国でもきっと助けてくれるはずだわ。


「帰れるの......かな」


 天井を見上げ不安を呟く。

 相変わらず汚い宿だ、こんなところ初めて泊まった。

 そう、泊まることになった。

 私はちょっとした休憩だと思っていた。

 しかし、今日一日はここで休み、泊まることになってしまった。


 近代都市『モドュワイト』


 頭に突然浮かんだ言葉。

 これから向かう予定の場所だ、そんな名前の都市は聞いたことないけど。

 でもきっとこんな場所よりはマシのはずだ。

 だって都市って名前だから、そこなら私を知っている人もたくさんいるはずだ。


(そういえばクリエットちゃんの名前にも『モドュワイト』って入っていたと思うけど、どういった関係なのかな?)


 頭を横に振って忘れる。


 いやいや、考えちゃダメだ。そういった話は私が考えていいものじゃない。

 ちょっとでも考えれば頭がパンクしそうになる。

 歌手にとって不安や心残りは本番に支障が出る、だから私は考えない。




 そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえ、反射的に床に落としたブーツの片方を持つ。

 少し警戒しつつゆっくりと扉に近づき、その人物に問いかける。


「どちら、さまですか?」

「あ、うん。僕です。ジョンです」


 扉の向こうから聞こえてきた声はジョン少年だった。

 その声に安心して扉を開ける。もちろんブーツを床に捨てて。

 扉を開けた向こうには、先ほどまで一緒に食事をしていたジョン少年とユリアーナ博士、それとロディオ絵師の三人がいた。

 三人もいるとは思ってもみなかったが、すでに数時間共にしている。

 彼等なら問題ない、むしろ私の中から不安をなくしてくれる。


「うん、すいません。もしかしてもう寝ていましたか?」

「え? あ、いえ。大丈夫。ちょっと休憩してただけ。まだ寝る予定でもないわ」


 その返答にジョン少年は「よかったです」と胸を下ろす。


「確か出発は明日って聞いていたけど?」

「うん。出発の話ではないですが、部屋に入ってもよろしいですか?」


 特に断る理由もないため「どうぞ」と言い、扉を開ける。

 三人はそれぞれ「失礼します」「こんばんわぁ......」「......邪魔する」とだけ言い、私の部屋に入る。






 やはりみんなどこか独特な雰囲気を出している。もっと言えば普通じゃない気がする。


 部屋に入ったあと私はベッドの上で座る。

 他の三人は部屋の端でもたれ掛かったり、閉じられた窓に腰を掛けたり、そのまま床に立ったりと部屋のあちこちに居座った。


「それで、どうかしたの?」

「うん。本当はソウジさんにも来ていただきたかったのですが、すでに寝ているみたいなので今回はこの四人で話し合いたいと考えていました」


 話し合うとは、いったいどういうことなのだろうか?

 わからないところは多かったけど、話し合うようなことはあっただろうか?


 いや、ひとつあった。


「あー、じゃあもう終わりなのね!」

「えっ?」


 私は学校に出たテストの難題が解けた時と同じ感情に満たされる。たぶん今の顔を鏡で見たら、最高の笑顔を浮かべているだろう。

 それに対してジョン少年は、逆の困惑した表情を浮かべていたが、気にしない。


「もぅ、ドッキリならもう少し丁寧にやってほしいわね! さすがに途中で気づいちゃったわよ? 次やるときは、もう少しリアリティのあるのを頼むわ!」

「え、えっと......アリシアさん。すいません。そういった話ではなくて」

「あれ、まだ続けるの? ま、確かにまだまだってのはわかるけど、さすがの私も疲れちゃったから早く家のベッドで寝たいと思っていたのよ。で、迎えの車はいつ来るの?」


 そう言い、自分の肩を揉む。かなり凝っていた。


「......ドッキリじゃない」

「ユリアーナ博士も、もう演技しなくていいわよ? かなり迫真の演技だったけど、もしかして外国の映画俳優とかだったりして?」

「......チッ、私は映画俳優でも演技をしていたわけでもない」


 本当に面倒くさそうに返答するユリアーナ博士。

 その返答に、なんかテンションが下がった。


「うん。残念ですが、これはドッキリでも映画の撮影でもないです。本当に僕達は元の場所から強制的に、瞬間的に移動したということが、ロディオさんとユリアーナさんとの話し合いでわかったことです」


 ジョン少年は二人に目を配りながら言う。

 それにユリアーナ博士とロディオ絵師は合わせるように頷いた。


「それで、お話しと言うのは。あなたも何も知らない状態でここに来たかどうかの確認だったのですが。どうやら今までの話からすると、僕達と同じということですね」

「僕達もって......じゃ、じゃあ本当に、私達はその......拉致されたってこと? そういうことなの?」


 ジョン少年は、少し考える様な仕草を取り、そして口を開く。


「それは、わかりません」

「わかりませんって、ちゃんと説明してよ!」


 怒鳴った。

 ついカッとなった、何より怖かったから。


 怒鳴った相手が子供だと言うことに後から気が付いた。

 ジョン少年はいつも通り平然としている。

 それが逞しくて、眩しくて、羨ましい。

 なぜ私は彼の様に冷静になれないのだろう。

 それにこれは、ニュースでよく見る国際的問題とかいうものではないのか?


「すまなぃ、アリシアにも聞いたほうがいいんじゃないかな?」

「うん、確かにそうですね。アリシアさん、あなたはあの草原に来る直前まで、どうしていましたか?」


 口に手を抑え、考える。


 この国に来る前。

 スタジアムで舞台の準備をしていた。

 着替えを終え、歌と踊りのチェックをして、廊下に出て、そして......。


「......女の子。とても白い子」

「うん。わかりました、ありがとうございます」


 ジョン少年は頭を下げ礼を言う。

 そして、その後顔を上げ深呼吸をする。


「どうやら、ここにいる皆さん。同じような現象が起き、そして共にこの国に来た、と言うことですね。......いえ、違いました、訂正します。この国、ではなく、この世界、と言った方が正しいですね」



 ............。



 ジョン少年の発言の後、沈黙が流れる。

 この場にいる私を含めて全員が、最後に何を言っていたことが理解できなかったみたいだ。

 ロディオ絵師は帽子の下から見える鋭い眼光が見開き、ユリアーナ博士は口を尖らせ、顔をしかめる。

 当の私はたぶん一番驚いている。何かの番組のドッキリか何かと思っていたため、ジョン少年の言うことは思いもしなかった。


「......それって根拠は?」


 怖い顔のユリアーナ博士がたまらず口を開く。

 もちろん私もそれが聞きたかった。どういった事でそう考えたのか知りたかった。


「そうですね、根拠は三つほどあります」


 そう言いジョン少年は指を三つ立て、その内一つを折る。


「一つ目は、初めの方でクリエットさんが言っていたことを覚えていますか?」


 クリエットの会話を思い出そうとする。

 だが、そこまで意識していなかったため断片的にしか思い出せない。


「えっと、ゲームのルールとか、そんな感じのことだった、かしら?」

「うん。アリシアさんの言う通りその事も言っていましたが、本題はそれより前の会話です」

「......ッ! あの言葉を信じてるのか?」


 ユリアーナ博士が怒鳴るように声を上げる。

 それほどのことなのだろうな、私は思い出せないから何とも言えない。


「うん。それが一番可能性があると思いまして」

「馬鹿げてる!」

「そうですか? しかし、いままでの状況を考えるとかなり高いと思いますが」

「......そんなの理屈に合わない」


 この二人の会話に入ってこれない。

 なぜか思わずロディオ絵師の方に顔を向けて、アイコンタクトで聞いてみる。

 私と目が合った彼も、残念ながらわからないらしく両手を上げる。


「えっと、ごめんなさい。結局、何って言ってたの?」


 もう答えが聞きたかった。

 二人で理解しているのが気に食わないのもあったが、何より私も会話に入れて欲しいと思った。

 ジョン少年は頷き、少し考えてから口を開いた。


「クリエットさんはルールの説明の前、自己紹介のところで『みなさんをこの世界に召喚した』と言っていました」


 そんなこと言っていたっけ?

 考えても思い出せないが、ロディオは思い出したようだ。彼の口が空いている。


「そ、それだけじゃ本当に、そうとは限らないんじゃ......」

「うん。では続いて二つ目です」


 そう言い、指をもう一本折る。


「この宿に来るまでに飛行機を見ましたか? ちなみに僕は見ていないです」


 確かに見ていない。見てもいないし音すらもしなかった。

 ずっと続くかのような、何の変哲も無い草原を歩いていたから、そんな飛行機とかが飛んでいたら気付くはずだ。


「で、でもたまたま通らなかっただけかもしれない」

「うん。それも考慮しました。しかし、あんな見晴らしのいいところで、飛行機を一機も見ていないというのは、逆に不自然なんです」


 ジョン少年は深呼吸をする。


「そして、これが最後の一つです」


 今までのは疑問ではあったが、別の世界と言うには核心的ではない。

 「あなた方を別の世界から連れてきました」なんてのは、ただの言葉だし。飛行機だって、本当にたまたま通らない場所に私達がいただけだったかもしれない。

 つまり、これから言うことが、ジョン少年にとって確信的根拠というモノだろう。


 みんなが静まり返ったのを確認して、ジョン少年は口を開く。



「......皆さんがいま話している言語は、何ですか?」



 突然の問いかけに首を捻る。

 ジョン少年の言っている意味が分からないが、その他の二人の反応は違った。


 ユリアーナ博士は眉をしかめ、下唇を噛んみ。

 ロディオ絵師は口を開けたまま、目を大きく見開く。


「ちなみに僕は英語。アリシアさんもですか?」

「そりゃそうでしょ! ちゃんとみんなの言っていることが分かるわ!」

「......ボクは、ドイツ語」

「ロシア語......」


 続けたユリアーナ博士とロディオ絵師の発言に、思わず二人の方を見る。

 確かにいま二人は、はっきりとした英語で答えた。でも......二人は違う言葉で話しているという。

 これは一体、どういうこと?


「ソウジさんもそうでしょう。そして彼は、何かを警戒している」

「ソウジが......警戒?」


 あの能天気そうな人物が?

 なぜ? どうして? どんなものに?


「彼はこの中の誰よりも早く、この世界の事に気が付いたのでしょう。そして身を隠す様に部屋に閉じこもっています」

「寝てるんじゃなかったの?」


 私の問にジョン少年は「いいえ」と首を横に振る。


「確かに寝音は聞こえましたが、あの音に違和感がありました。たぶん彼は寝たふりをしているだけでしょう。相当一人になりたいみたいでしたので、そっとしておきましたが」


 どんな音だったのか気になるけど、いまは無視しよう。

 重要なのはそこではないということくらい、私でも分かっている。


「なにを、警戒しているの?」


 恐る恐るジョン少年い問いかける。

 彼は口に手を抑え、少し考える。


「やはり、この世界にいる『他参加者』あるいは、未だ僕らにこの世界のことを話していない、クリエットさんとワスターレさん」

「......それとボク達も、だね。今はボクらが話し合っていることも、実は嘘をついている者がこの中にいるかもしれない。そう判断しているんだろう」


 ユリアーナ博士の言ったことに、ジョン少年は短く「うん」と返事をする。


 信じられない。

 ソウジが私達すらも敵視して警戒しているなんて。

 私達は同じこの国......世界に連れて来られた仲間じゃないの?


 いや、違う。彼はそんな優しい人物ではない。


「て、てことは......、ソウジは本当に、あの時、あの場所で、あの大勢を、みんな殺したの?」


 そう、話に流されそうになったが、これが番組のドッキリでも何でもないとして、全てが現実だとすると。彼は......ソウジは大量破壊兵器というモノを所持した、大量殺人鬼ということなる。

 そんな者が、いま同じ宿にいて、私と数個隣の部屋にいる。

 こんな危険なことが合ってたまるか!


「わ、私は、この宿を出るわ! あんな殺人鬼と一緒なんてイヤ!」

「待ってくださいアリシアさん。あなたは本当に彼を殺人鬼だと思っているのですか?」

「当たり前よ! だ、だってあの時、私達の目の前で、ひ、人を殺したのよ!」

「......ならあの時、ボク達が死ねばよかったと言うこと?」


 ユリアーナ博士の言葉の意味が分からなかった。

 なんでそこで私達が死ぬことになるの? どうして?


「うん、アリシアさん。あなたの意見は確かにそうですが、いま一度思い出してください。クリエットさんの言っていた『ゲーム』の事を、そしてソウジさんが行った行為を......」


 思い出す。

 クリエットちゃんが言っていた『ゲーム』は、他のチームを殺して優勝するというゲーム。いま考えると本当に恐ろしい。

 そしてその中で彼、ソウジが行った行為。クリエットが出した指輪を使って兵器を生み出し、それを向かってくる数千の兵隊に放ち、皆殺しにした。

 あの時の叫び声が今でも耳の中にある。


「あの時、ソウジさんがあの行動をしなければ、僕達はあの波のような軍勢に飲み込まれ、死んでいたでしょう。彼等がゲームの『参加者』か何かは分かりませんが、ソウジさんは僕達を守る為に『指輪』を使い、僕達の敵を倒してくれました。それは事実であり、そのことに僕は感謝しています」

「で、でも人を殺した」

「俺達の世界ではそうだろぅ。だが、ここは先ほど、別の世界と確定したぁ。ならこの世界のルールに従うべきではないのかぁ......?」


 またこの世界の話をしている。

 もう訳が分からない。でも、ロディオ絵師もそういうと言うことは、そうなのだろう。

 ここは彼に免じて、ソウジを警戒程度に抑えておこう。殺人犯なのは変わりないのだから。


「ですが、そんな彼も僕達を警戒していると言うことも、忘れないでください」


 何か話がごちゃごちゃになってきた。

 彼を信じろと言うのに、彼は私達を信じていなくって、それでいてクリエットちゃんやワスターレさんを警戒して。

 それでそれで......、結局どれが正しいの?


「それはちょ~っと違うな~」


 そんな会話を割り込む様に扉が開け、ソウジが現れる。というか、やっぱり寝たふりだったらしい。

 ソウジは「ずっとスタンバってました」と言いヘンテコはポーズを決めている。どうやら扉の前でずっと盗み聞きしていたんだろう。

 本当に警戒すべきかもしれない。


「うん、違うのですか?」

「ま~ね。ここではっきりさせておいたほうがいいかなって」


 ソウジは部屋に入り扉を閉め、その扉にもたれ掛かる。


「俺もだいたいはジョン君と同じことを予想しているよ~。あと付け加えるなら、クリエちゃんとワスタんも敵ではないと思う。それと、もちろんオレも君たちの敵なんて者ではないよ~」

「その、根拠は?」

「ん~、やっぱり直感かな?」


 直感、直感って。

 そんなことでクリエットとワスターレを信じろと言うの?


「それだと、無理ですね。彼女らは僕達この世界に連れてきた張本人です」

「ボクもジョンと同様の答えだ。付け加えるなら、この宿に着くまで何も話さなかったことを考えると、あえてボク達に黙っていたという可能性がある。そんな者達を信じるつもりはない」


 ジョン少年とユリアーナ博士が反論する。

 確かに......、ここまで来る間にいくつかクリエットと話はしたけど、すべてはぐらかされていた。

 どうもあやしい。


「はい、君たちの言うと~りです。でも、本当に彼女たちが俺達を召喚したのだろうか? それにクリエちゃんはこれから向かう場所、近代都市『モドュワイト』で話す約束をしていたからね。それまでは我慢くらいはしようよ~」


 そんなことを言っていたような、いないような?

 ジョン少年は口を開き「しかし」と言い、止まり、顎に手を添え、そして頷く。


「......うん。そういうことにしましょう。いまは、ですけどね」


 ジョン少年が呟きながら言い、それから続ける。


「確かに彼女たちは嘘を付いているようには見えませんし、本当に他の参加者を恐れている感じです。その恐れを、僕は信じることにしましょう」

「うん。おねがいするよ~、ジョン君!」


 満足そうな顔をするソウジに、少しため息交じりに空気を吐くジョン少年。

 ユリアーナ博士とロディオ絵師はまだ少し納得していない様子だったが、何も言わない。


「では、今の現状をおさらいしましょう」


 ジョン少年は手を叩き注目を集める。

 彼はこういう、視線の誘導をさせるのがとてもうまい。

 確か手品師と言っていたから、そういうのはお手の物なのだろう。



 彼は手を前に出し、指を一本出す。


「まず一つ、僕達はいま別の世界に居て、元の世界に戻る方法は不明だと言うこと」


 二本目を出す。


「二つ、クリエットさんの言っていたことを、いまは真実として受け取る、言うこと」


 三本目を出す。


「三つ、僕達は皆、殺し合いのゲームに参加させられている、と言うこと」


 四本目を出す。


「四つ、この場にいる全員は味方で、クリエットさんたちも今のとこは味方、と言うこと」


 五本目、手がパーの状態になる。


「最後に、これが一番重要ですが、僕達は他のゲーム参加者に狙われているため、命の危険があります。それも、いまこの瞬間にも、と言うことです」



 ジョン少年は、ソウジがハッタリで言った三日間の猶予すら考えてはいけないと言っている。


 味方は今のところ七人。


 だが、その内二人は怪しい。


「まさか、こんなことになるなんて」

「アリシアさんと同意見です」

「俺達は、帰れるのかぁ?」

「......帰る。絶対に帰ってみせる」


 最期のソウジはみんなと違い「楽しくいこ~よ」と言っていた。

 どうしてこの状況で楽しくしなければならないのだろうか、やっぱりこの人は、不思議だ。






…………






 その後はすぐに解散した。

 全員すでに体力的に限界だったため、今日はもう寝ようということになったからだ。


「疲れた......」


 ベッドに倒れ込み、そして瞼を閉じる。


 あの話を聞いてから眠れるかどうか心配だった。

 脳裏で昼頃にいた三人の『参加者』を思い出す。

 モデル級に綺麗な女性、俳優になれそうな少女、そして毛皮を被った可愛らしい女の子。

 彼女達も私達が参加してしまった『ゲーム』の敵だと言うことよりも、もっと話し合ったら楽しそうだとあの時思った。


 争いは好きじゃない。でも相手は私達を殺しに来ている。

 本当にソウジの行為は正しかったのか、そして私の考えは間違っているのか。

 正直そういった話は、私にはよく分からない。だからこうしていま悩んでいるのだろう。

 もっと知らなければ。皆の事、ゲームの事、そしてこの世界の事。

 そう考えるだけで頭が痛くなるな。


 ただ、そんなことを考えていたら、次に目を開ける頃には空が明るくなっていた。


 どうやら無事、眠れたいだ。





 残念ながら夢と言うことではなかったらしいけど。



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