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場違いな天才達  作者: 紅酒白猫
第一章 場違い召喚
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4 参加者



 目の前に突如として現れた巨大な光の柱は、その直下にいた騎馬兵達すべてを包み込んだ。



 人の声とは思えない阿鼻叫喚が、広大で平和な草原を駆け巡る。

 両手で天を仰ぎ、光を覆い隠そうとする者や、馬を駆けさせようと蔦を叩く者、逆に乗る主人を蹴り飛ばし、一目散に光から逃れようとする馬。その光景と叫び声は、光の柱が消滅するまで続いた。


 そして消滅する。

 光も、兵も馬も、その全てが。


 忽然と......。




 騎馬兵達の姿が消えた。

 ......少し違うな、消えたのではなく戻ったと言った方がこの場合は合っているだろう。

 光が降り注いだその辺りは、何事もなかったかのように爽やかな風と共に揺れる草木が、ただ生い茂っているだけになっていたのだから。


「これは、すげぇなぁ」


 俺――ロディオ・ジーヴァピスは開きっぱなしの口からつい思ったことを漏れてしまう。

 それは本当の事だった。ただ言葉を間違えた。


 すごい、と言うよりも美しい、だった。


 光の色は虹などよりも多色で、黒より漆黒、白より純白。それはいままでの人生の中で見たことない、実に見事な光彩だった。


「たしかに、すごかった......ですね」


 隣にいたジョンという少年も驚愕の表情を浮かべながら同意する。

 それにしても、この少年は度胸があるな。騎馬兵の大群が迫るあの緊迫した状況でさえ、泣きもせず、逃げようともしなかった。

 まぁ、逃げれないと思うけどな。


 今の光景を心のキャンバスに描く。あとで時間ができたときに、実際にこの情景を描くためだ。

 そのために必要なのはキャンバスか、スケッチブック。それと筆と絵具、それさえあれば描ける。他の特別な道具なんて必要ない。

 写真なんていうただの画像では意味がない。自分の見た映像を今すぐにでも描きたい。




「この光はいったい......」


 心の中で先ほどまでの映像をループさせていると、前方から声が聞こえた。

 声の主はクリエットと呼ばれる青髪の少女だ。彼女はその問いに答えることが出来る黒髪の青年――ソウジに聞いていた。


「うん? いや~、突発的だったからあまり良いアイデアを捻れなかったけど。まさか本当に出来るとは思ってもみなかったよ~」

「あ、あの光はいったい。どこから伸びているの、ですか!?」


 続く問いに対してもソウジは「んー」とすこし考えるそぶりを見せた後、右手の人差し指を空に向けにっこり笑い、答える。


「人工衛星って知ってるよね~? 昔からそこから発射されるレーザーっていうのを憧れててさ~、つい創ってみた!」


 つまりあの光は遥か上空から発射されたということになる。

 先ほどの巨大な光の柱を生み出すほどの強大で巨大な人口衛星、それをあの状況下で瞬時に考え、そしてなんの躊躇もなく生み出した。

 本来ならば一度みんなに聞いてから『指輪』を使用するのがセオリーだろう。だが、彼のおかげで助かったと思えば、彼の行動は許すどころか、称賛に値する。




 しかし......。


「な、なんて、ことを......!」


 クリエットは違うみたいだった。彼女は「これで参加者にバレた」と呟いたあと、頭を掻き毟り叫ぶ。

 いまの彼女はどう見ても錯乱状態だ。一体何が彼女をこんな状態にさせたのだろうか。


「はい~? 『参加者』ってなーんすか~?」


 そんな情緒不安定なクリエットに対し、出会ってからと同じような笑顔を浮かべるソウジが、出会ってからと同じ口調で問いかける。

 その問いに彼女の掻き毟る手が止まり、少女とは思えない形相でソウジを睨む。彼女の綺麗な真紅の瞳は、いまにも人を絞殺しそうな鋭い深緋の瞳に変わっていた。



「アンタのせいで他のゲーム参加者に位置がバレたって言ってんのよ!! その変な口調でしゃべるのやめねぇと、ぶん殴んぞ!!」



 いきなり口調が変わるクリエット。


 しばらくの沈黙の後、失言に気付いたクリエットは慌てて口を抑える。

 彼女は瞼をパチパチさせ周囲を見渡す。どうやら本人も驚いているようだ。

 まさか優しそうな人だと思っていたけど、あんなに激怒するとは思わなかった。口調だけであそこまで怒るとは、気を付けないとな。彼の場合、口調だけではないと思うが。


「ぅっ......」

「あ、ソウジさん? すいません、つい口を滑らせてしま――」

「ずみまぜんでじだああぁあぁぁああ!」



 すさまじい勢いでクリエットの前に座り込み、手を前に添え置き、頭を下げる。

 これが本場の土下座か。これもなかなか絵になる、後で描いてみよう。


 ソウジは土下座のまま、クリエットに対して謝り続ける。

 はっきり言って同じ男性として情けなさを感じる。プライドと言うものが、彼には欠けているのかもしれない。


「あ、あの......わかりましたから。本当に大丈夫ですよ?」

「うぐっ......ほ、ほんどに?」

「え、えぇ。私こそ汚い言葉を発してしまい、申し訳ありませんでした」


 謝り続けるソウジに対してクリエットはしゃがみ込み、自分の非を謝りつつ慰める。

 顔を上げたソウジの顔は、涙と鼻水でグシャグシャになっており、はっきり言って醜い。こんなひどくカッコ悪い男性は生まれて初めて見た。


 しばらくして土下座を止め、涙を拭うように袖で顔を拭くソウジ。

 拭い終わると袖は黒く滲んでいる。顔を上げたソウジの顔は、晴々とした笑顔をしていた、まるでさっきまで泣いていたことが嘘かのように。


「よし、じゃーとりあえずどこかの街とかに案内してくれ――さい!」


 命令口調を途中で直した、どうやら先ほどのことが堪えたようだ。

 自業自得だがある意味、上下関係がしっかりしたのでいいかもしれない。このまま続けばいいのだが。


「そ、そうですね、わかりました! 確かにここは危険と思われるので近くの――――」




『―――――――――――――!!!』




 クリエットが話そうとした瞬間。鋭く強い、突風が吹く。


 思わず帽子を抑えるが、鋭い風が目に入り一瞬だけ目を閉じる。

 すぐに細めて周りを確認する。他の者達も顔を腕で覆う者や警戒している者。スカートを抑えている者などがいた。


 その確認する中に、見知らぬ影が一つ増えた。




「......なるほど。先ほどの光の矢が差し込んだ場所を見に来たが、どうやら新しい『参加者』か、なるほど......」



 声のした方へ振り向く。


 そこにいたのは美しい女性。

 外形年齢は20くらい。

 風が吹くたびに一本一本がサラサラと動く、腰の辺りまである薄緑の髪。

 灰白色の肌で、豊満な胸を見せびらかす様に、はだけさせた黄緑色のタイツのようなぴっちしりた服。

 服の両腕には波線の様な常磐(ときわ)色の刺繍がされ、それが紋章のようなにも見える。

 グラマーで魅力的に見えるが、いまは恐怖を感じている。

 その理由は、美貌よりも目に付く、腰の後ろにクロスさせている二つのカットラス。


 彼女は剣の端をポンポンと叩き、俺達を緑色の瞳で見つめている。



「......ッ! ドラゴンズフォースの『カト・ウィン』!!」


 現れた女性に対して、明らかに怯えた様子のクリエットが必死で情報をくれる。

 すでに剣を抜いた状態でクリエットの前に出るワスターレ。さっきまで騎馬兵とは明らかに対応が違う、彼女はどんなものかは分からない。だが、まずいことは分かる。


 最初に言ったドラゴンズフォースと言うのは分からないが、カト・ウィンは名前だろう。

 そのカト・ウィンは俺達を一人ひとり見渡し「ふーん」と言い、口の端を吊り上げる。

 明らかに侮辱されている雰囲気を醸し出しているが、何もできない。自分の身体が本能的に察しているのだろう、今は動かないほうがいいと。

 この女性は、先ほどの騎馬兵よりも危険な存在なのだ、と。




 彼女が俺達に近付こうとした時、またしても突風が吹く。

 その風と合わせる様に、遠くで突如現れた竜巻が俺達に近づき、そして消える。




「あれ? カトがいる。あんたも来てたんだ!」



 後ろから声が聞こえ、思わず後ろに振り返る。

 動いてしまってからでは遅いが、その一瞬だけカトを意識から消えていた。もしかしたらその瞬間に殺されていたかもしれない。

 嫌な汗が流れる。いまは一つひとつの行動が命取りだ、気を付けなければ。


 新しく現れた藤紫の髪を持つ少女。

 外形だけで判断するならアリシアと同じくらいだろう。つまり、16歳前後。

 紅い瞳に、白い肌。全身を墨色のマントで纏っているが、その輪郭からして先ほどのカト・ウィンとは違いスレンダーな姿が見てわかる。


 見た目は装備らしい装備は無いが、それでも恐ろしい。

 なぜならカトに目を奪われていたとはいえ、それでも周りには警戒を怠っていなかった。それなのに、いつの間にか背後を取られていた。


 そんな彼女なら俺達を簡単に殺せるだろう。

 死んだことも気付かないほどの速で、気が付いたら首の胴が別々になっているかもしれない。

 むしろ今そうではないか気になる。


 そう考えていたら、いてもたってもいられずつい唾を飲み込む。飲み込んだ唾が喉を通る感覚がある、どうやらまだ繋がってようだ。



「じ、地獄獅子の......『ジャト・アクイラ』」


 クリエットは震える唇で、現れた少々の名前らしき言葉を発する。

 それに対して「はーい」と気楽にマントの裂け目から手を上げるジャト・アクイラ。その動作一つひとつは子供らしさがある。

 だが、先ほどの常識外の行動を見てからでは、そのかわいさ何てものを見る余裕なんてない。

 目の前にいるのは外形が人に近いバケモノと言った具合だ。






「にゃにゃ! まさか、新しい『参加者』はいるとは思っていたけど、カトとジャトが来ているとは、これは珍しいことですにゃ」



 さらに右側から声が聞こえる。また強風が吹いたと思ったが、やはりもう一人来た。


 語尾が特徴で、一度聞いたら忘れないだろう声で、クロムイエローの瞳を持つ女の子。

 外形から、年齢はクリエットと同じくらいだろうか。そう考えると、現れた人物の中ではかなり幼い。



「ピースラブの『アーセル・シュシュ』までっ!」


 パニック寸前のクリエットが叫ぶ。

 どうやらこの状況はかなり、とても、間違いなく、確実にやばい状況らしい。クリエットの息の粗さが、呼吸音だけでそれが伝わる。


 アーセル・シュシュと言われる女の子は先の二人の平均といった感じの体つきだ。ただ先ほどの女性達とは違い、人の形をしているが全身が褐色の毛で覆われている。

 頭には猫耳が付き、足も動物のように踵が伸びている。

 上は黒のタンクトップを着ており、ジーンズの様な緑黄色の短パンを履いている。

 腰から伸びているピンクのリボンが付いた尻尾は、恐怖している俺達をよそに元気よく左右に揺れている。




「なるほど......あの光の矢に気付いたのは我々だけではないのだな......」


「当たり前じゃん! あんなデカい光る棒が空高くから降ってきたら、誰だってわかるさ。まさかカトとアーセルっちも来るとは思わなかったけれどね!」


「それこそ当たり前のことですにゃ。あの光線はデカすぎだから、そこらにいる人なら普通に気が付くにゃ。そんでその光線の先に『参加者』が集まるのもわかっていたにゃ!」



 自信満々に腕を腰に当て、胸を張るアーセル。

 そのアーセルの言うことにジャトは少し考える仕草をした後、納得したようで「確かにそうかもだね!」と笑う。



「なるほど......そしておぬし等も、の者たちから選抜され偵察に来た、という感じか」

「そういうことですにゃ。ま、あたしならだいたいの相手なら勝てるしにゃ。それに、このメンツなら昼ごはんには帰れますにゃ!」


 挑発をするような言い方をするアーセル。

 カトが首を吊り上げ見下す様な視線を送り、剣の柄をそっと握る。傍から見たらすでに戦闘態勢だ。


「なるほど......身の程をわきまえない、頭が悪く、良く吠える獣だ。なるほど......これは一度、しつけをしなければいけないな」

「あれ、その口ぶりだと、あたしに勝てると思ってるかにゃ? あんたごときがですにゃ?」

「もー無視しないでよ! このジャトちゃんもいること、忘れないでよね! やろうってんならいつでも準備オーケーよ! 何なら今からヤる?」


 俺達を完全に無視して話し始めるカト、ジャト、アーセルの三人。

 これはある意味幸いかもしれない、今のうちに逃げて......。


「さて、逃げようと考えている人も増えてきているし。このままさっさとやっち待ったほうがいいかもしれないですにゃ」


 アーセルを警戒していたため、目が合ってしまった。

 本当に幼いのに、どうしてそんな殺気のある目ができるのか、おかげでもう動けない。


「なるほど......私たちが言い争っている間に逃げようと、無意味なことを考えるな。弱者らしくていいが、同じ『参加者』と思うと悲しくなる」


 カトは首を振り、腰にあるカットラスを二本とも、しゃらんと音を立てさせ、抜く。



 俺はたまに武器を描いたりもする。そのせいか、多少なら武器の見る目がある。

 あの剣、よく手入れされているだけではない。切れ味もあると思うが、それ以上に『何か』ある。


 直感的に察した。


 あのカトが持つカットラス二本は、明らかに普通ではない。

 特殊な模様などはないが、その周りの空気が違う。まるで剣の刀身から風が吹いているような、そんな異様さをあのカットラスから漂う、気がする。


「仕方がないよ。それに弱者って言わないの! 本当の弱者さんが可哀想でしょ? 彼らはこの世界に来て間もないとは思うけど、このステータスはないな......本当に『参加者』なのかな? 弱すぎるって話じゃないよこれ」


 ため息が聞こえる。ジャトを見えていないが、呆れているのがわかる。

 その言葉とは裏腹に、つま先を地面にトントン叩き準備運動をするように腕を伸ばしている。どう見ても俺達をヤル気満々だ。



 呆れと悲哀、情けを同時にかけられる。

 しかし同情はしてくれない。


 俺からすると、彼女達三人のほうがヤバすぎる!

 格闘の知識が無くてもわかる。先ほどの騎馬兵とは明らかに力の違いがありすぎる。

 これは本当に、今度こそ無理かもしれない。




 ただそんな中、右手を上げ前に出る人物が出てくるとは思ってもみなかった。


 ボサボサの黒髪を揺らしながらゆっくりと歩を進める彼は、先ほどまでふざけていたような感じなど一切感じない、堂々とした態度だった。



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