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場違いな天才達  作者: 紅酒白猫
第二章 他の参加者と他の都市
46/47

40 地底都市 ライブショウ



 この世界元々の特性のせいか、こんな場所なのに寒さを一切感じない。


 僕がいるところは、地底都市から少し離れた巨大鍾乳洞のライブ会場。鍾乳洞の大きさは感覚的に球場のドーム一つ分ほどか。壁には大型モニターや音響装置が設置され、後ろの客にも満足出来る仕様になっていた。

 都市の中心部にある設置型移転門を潜り抜けることで来られるこの場所に、まるで敷き詰めるようにして多くの者達で溢れている。そんな中で同じ『参加者』で同盟を組んだ者達と言うこと、そして不愉快ながら身長の事もあって一番前の席、つまりはよくあるVIP席に僕――ジョン達は座っていた。

 

 さて、何故僕がこんな怪しい場所に居るのかというと。今日は以前から決められていたアーちゃんが歌う日で、その会場がここだと言うこと。もちろん僕は彼女の応援に来たのだが、僕の後ろにいる大勢の者達の目的は彼女ではなさそうだ。

 もう一人、このライブ会場で歌う者がいる。

 地底都市に住まう参加者の一人、フィル・リンクス大佐。

 話によると彼女はこの世界に来る前、大規模な軍を率いていたらしく。その士気高揚のために日々歌っていたとのこと。そして今は、戦うためではなく皆を癒すために彼女は歌い続け、結果としてこの世界では有名な歌手の一人になっている。

 彼女のファンの話によると、その歌声は聞く者を一瞬にして虜にするほどとのことらしい。

 歌は言葉であり、言葉は力だ。聞く者にその意味をリズミカルさを加えることで、心の奥底まで浸透させやすくなり、人の潜在的能力の向上を図ることが出来る。

 それを戦に用いるとは、よく考えられている。

 あまり参考にはしたくないですけど。


「......何か、考え事?」


 隣にいたユリアーナが話しかけてきた。

 彼女もアリシアの歌を聞くため......ではなく。フィルの歌に何かしらの力が隠されていなかを、調査するために来たみたいだ。

 ただ彼女は、いつにもまして機嫌が悪い。

 理由は彼女が本来やりたかった事が出来ない事、そしてこれがソウジの指示と言う事が起因していると簡単に予想できる。


「いえ、なんでもありませんよ」

「ならいいよ。それにしても......チッ、なんでボクがこんな事をしないといけないのか......」


 ユリアーナは嫌気のあるため息を吐き出し、新しく手に入れた道具(おもちゃ)をいじくり始めた。

 彼女の持つその白い板のようなモノは、まるで元の世界にあったタブレット端末に似ていた。ただし外形だけだ。画面も無く、ボタンもない。しかしそれは彼女の胸元少し下で浮き、その浮いた板の少し上の何もない空間を指で動かしていた。動作的にみてパソコンのキーボードを打つ感覚に近そうなものを感じるが、どう見てもそうとは思えない。


「うん。ところで、それは何ですか?」

「......これはモーリスから貰った。元参加者が持っていたと思われる......パソコンだ」

「パソコン、ですか? ボクにはまったく何も見えないのですが」

「それもそうだろうな。これはボクが掛けている眼鏡が無いと、何も見えない。しかし、これはなかなか便利なものだよ。これでクリエットの持つ『神眼』の能力の一つ『視察』と似たようなことが出来る。つまりはこの板......タブレットで映した映像を解析し、内部情報を読み取ることが出来る。それに読み取った情報を書き換えたり、組み合わせたりも出来る。簡単に言えば、今までボクがやっていた道具の分析や合成、分解、再構築、改造がこれ一つでより効率よく出来るようになった」


 最後に「これはいいモノだよ」と、珍しく変にうっとりした表情を浮かべた。

 そんな表情をされては、僕はただ笑うしかないでしょう。など思いながら「良かったですね」と笑う。


「うん、でも疑問がありますね。元の持ち主であるモーリス大尉は、何故そのような便利な道具を渡したのでしょうか? たしかに、僕達とミカエル達のチームは同盟を組んだ者同士だが、それにしても信用されし過ぎではないですか? もしかして、何かの罠の可能性が......」

「その事なら問題ない、理由はすでに分かっている。簡単に言えば、モーリス達はこの道具を使わないから。いや、どちらかと言えば、使えなかったと言ったほうがいいか」


 ユリアーナは手を止めると、まるで空気を集めるように板の上の空間を手で掴み、そのまま白い板に手を置き、次に彼女はタブレットの下に手を構える。すると板が、白から徐々に灰色へと変わり、まるで重力を思い出したかのように一瞬グラっと動き、彼女の手の中で落ちた。


「どういうことですか?」

「彼女は......彼女たちはどうも、この道具を起動できなかったらしい」

「うん、それはまた疑問ですね。どうして大尉達が扱えず、僕達が扱えるのか。彼等の方がこの世界の構造に近く、より長く住んでいるはずだと思うのですが」

「それはより容易な問題だよ。回答は、彼女達の世界とボク達のいた世界の技術レベルの差、と考えるべき。例えばこのタブレットの起動方法。一見すると何もないただの板だが、常識的に起動するには何かしらのセンサが組み込まれている可能性があると考えると、おのずと分かる」


 灰色の板を縦に傾け、端を指でなぞり手放す。すると板は再び重力から解き放たれ彼女の胸元で浮き、白く輝きだす。これが起動した、と言う事なのだろうか。

 だとすれば先ほどユリアーナが行った行為。板の端をなぞることが起動条件だと言う事になる。しかしその程度、少し考えれば分かることでは......なるほど、そう言う事ですか。


「それが、大尉達と僕達の理解の差と言う事ですか」


 ユリアーナは「その通り」と微笑んだ。


「ボク達の常識と彼女達の常識の差が、こんな簡単なところでも出てくる」

「うん。これはなかなか、面白いですね」


 面白い。別世界での常識は、他の世界では非常識である事がある。それはつまり、僕達の常識が相手に通用しない可能性を秘めていると言う事になる。

 こちらの常識内かつ相手の常識外での状況さえ整えさえ出来れば、例え驚異的な身体能力や恐ろしい固有能力を持つ『他参加者』でも対応が可能になれる。

 ソウジが言っていた「環境を変える」とは、もしかするとその事も含まれているのかもしれない。


「そういえば、ソウジさんが見当たりませんね」

「......チッ! あいつとクリエット、ワスターレは昨日のことについてミカエル達と話があるからと言って、いつもの監視室で話し合いだよ」


 昨日のこと......? あぁ、ボクが温泉で伸びてる間にあったという報告の事かな。

 温泉後にジャトから、自然都市に出現した『新たな参加者』の報告を受けた。今日はその事でミカエル達と話し合いをするのか。だからその間に行われるライブの様子をユリアーナに見てもらう、と言う感じかな。


 仕方がないとはいえ、これほど機嫌が悪い彼女と一緒にいるのは、いささか不安を感じ得ずにはいられない。しかも、その機嫌の悪い状況を作った本人の話をふってしまった。これ以上変に刺激しないよう「そうでしたね」と、忘れていたふりをして軽く答えることにしよう。

 小さく頷いてそう言おうとした時、後ろから身体を震わせるほどの歓声が一斉に上がった。


「みんなー! お、ま、た、せー!!」


 理由は簡単にわかった、ステージ上にフィルが現れたのだ。

 彼女の出現で会場は一気にファンの熱気に包まれる。

 黄色を基調にした、ボディラインをハッキリさせたスーツ。腕や腰、手首などに付いたフリル。細部まで細かな刺繍が施され、胸や足などには爪で破いた感じのデザイン。大人の魅力を存分に引き立てたその服装は、思わず目を反らしてしまいそうになるほど。昨日までのラフさを一切排除した服装だった。

 しかし、彼女の服装以上に気になるものがある。彼女自身の姿だ。

 まず目にはいるのが、彼女の頭から生えた耳だ。顔も黒くなった鼻、ピンとはねたひげ、猫のように上唇の中心が持ち上げられた感じの口。他にも腰から伸びる尻尾や手足も少し大きくなっているのも分かる。

 彼女の姿を見ていると、数日前に未来都市で会ったアーセルを思い出す。

 可憐さと可愛さを兼ね備え、ステージに立つ彼女は、昨日とは全くの別人になっていた。


「獣化、ですかね」

「彼女達はソレを『継』と称している」

「美しいですね」

「可愛らしい」

「猫耳ですね」

「肉球......」

「服装が危ないです」

「相対的に情報量が増しているな」

「すごい、ですね」

「想定していたよりも、変化があったな」


 ユリアーナも呆気にとられていた。さらに首を左右に振り、会場の辺りを見渡している。彼女にしては珍しく、この異様な空気を、物ではなく人を見て、自分なりに解釈しようとしているようだった。


 フィンが集まって来ているファンに向け振っていた手を、勢いよく降り下ろす。それが合図のようで、彼女の後ろで控えていたドラムを担当する者が、ドラムスティックをカンカンカンと鳴らした後、ステージを包み込む爽快なバックミュージックが流れ始めた。


「では早速、一曲目いってみよぉーか!」


 再び歓声が広まり、彼女の歌が始まった。











「みんなー! ありがとぉー!」


 曲が歌い終わり、彼女がファンに向け手を振ると、またしても「うおおおおおぉぉぉぉ」と言う歓声が轟いた。歓声は洞窟内を駆け巡り、二重三重と大きな一つの声となった。


「想像以上でしたね」

「あぁ......ボクはいま初めて、歌というモノに感動を覚えたよ」


 フィルの歌は素晴らしかった。

 全ての言葉に意味を乗せ、聴く者の心に響く歌声で、奏でる曲との協調性を保ちつつ、ステージ上で華やかに舞う彼女の姿は、僕の知るアーティストという枠を超えていた。

 周りを見渡してみると、まるで魂を抜き取られたような呆然とした表情をする者や胸に手を当て涙を流している者、興奮を抑えきれず持っているペンライトを無我夢中に振るう者など、様々な感情がこの空間に押し込まれていた。

 こんな人、今まで見たことがいない。

 これほどの実力を持つ歌手など、僕の記憶には......。

 いや、あった。つい最近の記憶の引き出しに、一人だけ覚えがある。僕の仲間であり、僕らが設立した組織『ジーニア・ズ』から絶賛の支持を受けている。

 僕らの世界が誇る天才歌姫、アリシア・ライトベア。


「さて、今日はみんなに発表がありまぁーす! なんと今回は特別に、アタシとは別の世界で歌っていたアーティストをお招きしてみましたー! ではどうぞ! 近代都市出身の......アリシア・ライトベアちゃんでぇーす!!」


 紹介と共にステージ奥で水蒸気のような白い霧が吹き出し、中から笑顔で手を振るアリシアと、無表情のロディオが現れた。

 アリシアは昨日とはまた違った、イメージカラーの赤色を基調としたドレス。髪は少しカールを入れている。格好だけみれは気合は十分に伝わってくる。

 ロディオはハット帽にロングコートと、いつもの服装だった。


「みんなー、こんにちはー! 私がアリシアでーす! 今日はよろしくお願いしまーす!!」


 ......。

 なんだろう、この違和感。さっきまるでとは雰囲気が違う。拍手はチラホラ聞こえるけど、歓声がない。

 当たり前か。いきなり知らない人が現れ、自分達のアイドル的存在と肩を並べて歌おうとしているのだから、変な空気になるに決まっている。

 けど、それでもこの違和感はなんだろう。

 僕がマジックショウを他の会場、他のマジシャンと共演する時も、こんか空気を味わった事がある。

 そうまるで、観客がこれから行うショウを楽しむではなく、審査するかのような、そんな空気がいま漂っている。


「いやー! 今日は来てくれてありがとぉーね! そんじゃ、さっそく歌って貰いたいと思うけどその前に......聴いているみんなにも楽しんでもらえるように、ちょっとしたゲームをしよっかー」


 フィルが『ゲーム』と言う単語を発したとき、思わず立ち上がりそうになった。僕らにとってゲームとは、いま参加している殺し合いを意味していたからだ。

 しかし冷静に考え、いまそんな騙し討ちのようなことをやれば、集まって来ている客が彼女に対し不快感を持ってしまう。一流のアーティストがそんな行為をするハズがない。

 では彼女はいったい、何をするつもりだ?


「これからお互い一曲歌って、その後みんなでどちらが良かったか投票しまーす! それで票が多かった方が勝ち。ねっ、面白そうでしょう?」


 フィルの提案に客は一斉に拍手と喝采、そして投票用紙らしい紙を上にあげた。

 命に関わるような話ではないと、ホッとする気持ちとは裏腹に疑問が多々できた。

 まず、何故そんなことをいきなりするのか。それに僕たちは投票用紙なんて貰っていない。あと、こんなアウェイな環境で投票による勝負なんて、全然平等なんかじゃ......。


「そういう、ことですか」


 隣にいたユリアーナは僕の呟きに「どういうこと?」と言いたげな表情をつくった。


「うん。彼女が提案したこのゲームは、勝負でも何でもありません。これはアーちゃんの歌手人生を狂わせるための罠です」


 ただ、何故そんなことをフィルがやるのかわからない。もしくは意味などなく、単なる嫌がらせなのか。それか、この世界で数少ないアーティストという枠を潰しにかかっているのか。

 そう言えば、フィルとアリシアは共に行動していた時があった。その間に何かあったのか、もしくは何か話したか。

 彼女の目的はいったい......。

 目的、目的......目的!!


 フィルの狙いに気付き、アリシアに対し慌てて両手を大きく振るい注目を寄せる。

 それから何度も、口パクで意思を伝える努力をする。


『ダ、メ、だ、よ!』


 これは罠だ。受けるなんて馬鹿馬鹿しい。ここは勝負も何もせず、ただ楽しく歌ってくれればそれでいい。


 大きくアクションをとったかいがあった。アリシアは僕に気が付き、安堵の表情を浮かべた。

 いいよ。続いて口パクの意味が伝わってくれれば何とかなる。

 さらに大きく口を開け、ゆっくりと、一言一言の形を作る。


 よし、頷いた。これで何とか......ん? 何か言っている。

 目を凝らし、彼女柔らかそうな唇に気をとられないように、口の動きを視認する。


『が、ん、ば、る!』


 あぁ、これはダメだ。ぜんぜん僕の意思が伝わってない。

 アリシアの口パクが『わかった』とか『りょうかい』とかならだいたい伝わっていると分かるけど、『がんばる』は返答としてはNGです。むしろ勝負を受ける感じになってしまった。どうして間違えたのか? もしかして、僕の口パクを『が、ん、ば、れ!』とでも言ってるようにみえちゃったかな?

 もうアリシアはこちらを見ていない。どうする、諦めるか?

 いや、まだもう一人いた。

 彼女の隣にいる男性、ロディオ。何か足りないと思っていたけど、いつもあるスケッチブックを持っていないのか。代わりにドラムスティックを持っているのが、さらに違和感を引き立たせる。

 彼ならば意思を伝えれるだろう。そしてアリシアを止めてくれるはずだ。


 手を再び大きく振るい、ロディオの注意を向ける。

 よし、気が付いた。帽子の唾を掴み、こちらに鋭い眼光を飛ばしている。......少し怖い。

 再びアリシアと同じように、口パクで呼びかける。


『彼女、を、止、め、て!』


 さて、どうだ......よしっ! 頷いた。

 一時はどうなるかと思ったけど、これで安心してライブを楽しめれそう。

 椅子に身体を委ねるように、ゆっくりと座りもたれ掛かる。変な汗をかいたな、喉も乾いた。ソウジさんから飲食用カードを借りてこれば良かった。


「それでどうするのー。アーちゃん、それにデーちゃん? このフィルちゃんと楽しい事、しない?」


 フィルは誘惑するように身を寄せながらロディオに近付き、マイクを彼の口元に寄せた。


「いいだろぅ......」


 彼の躊躇なく発せられた言葉に思わず「はぬぅなぁ!?」と変な声が出た。

 待って、待ってください。僕との意思が繋がったはずじゃないんですか。なんでそれで、僕の話を尊重せずにフィルの話に乗るのですか。


「いいわ! その勝負、受けてあげるわ!」


 困惑するなか止めを刺す様に、向けられたマイクにアリシアが大声で宣言した。

 どうしてそうなるんですか!?

 失敗があるとすれば、先のロディオの発言が原因だ。

 ロディーさん。あなたは僕と同じ、人の考えていることを読み取るのが得意な人だったはずです。なのに、どうしてですか......。

 待てよ? そう言えば、僕が発していた時の口の動きって、どうなるのでしょうか?

 この世界では勝手に言葉や文字が変換されますが、口の動きまでは変化していなかったような。

 とすると、もしかして――僕は彼に、英語表現の口パクをして意思を伝えようとしていた事になるのか?

 いやいや。けど、それでも、ロディーさんなら分かりそうだ。何か、別の要因があったとか......。

 あぁなるほど、アレですか。フィルさんがロディーさんにマイクを向けた時にした魅惑のポーズ。少し前屈みになり、両脇で胸を強調させ、首を少しかしげ、恍惚な表情で相手の眼をしっかり見定める。その誘惑に彼は普通に釣られたのか。


 ただでも、ソウジさんではないですけど、こんな事を予想していた自分がいた。たぶん、僕の労力は無駄に終わるだろうと、そんな感じはしてました。


「よぉーし、決定ね! じゃ、先行をどうぞ!」


 フィルは客に向け宣言をした。

 決まってしまった。しかも自然と相手に先手を取らせる徹底さだ。先手を取らせれば、相手の出方を見れて、後に対策を短時間ながらとることが出来る。さらにこの勝負は客による審査系という点もある。

 審査系の勝負ではどうしても人が絡んでくる。そして、人に一番印象に残りやすい記憶は『最初の記憶』と『最近に記憶』だ。よくある話で例えるなら伝言ゲームだ。前の人が最初に言った言葉と最後に言った言葉はよく覚えているが、中間の言葉はあいまいになってしまう。

 今回の場合、勝負は二人しかおらず先攻後攻は関係ないように見えるが、実はそうではない。短い時間ならば問題はなかったかもしれないが、勝負内容が『歌』となるとイケない。アリシアの歌の最初は印象として残るかもしれないが、途中から終盤は次のフィルの歌によって上書きされてしまう。フィルの歌も中盤は印象に残らないかもしれないが、序盤と終盤は記憶に残る。

 つまりは、総合的にみて不利だという事だ。


 その事を知ってか知らずか、客は大いに盛り上がった。

 客として見れば面白い展開だが、僕からすればこんなの出来レースで八百長並の不公平な勝負だ。もちろんながら楽しめるハズも無く、嫌な意味で心臓の鼓動が早まる。


「ソウジさん、なんて言うかな」


 思わず呟いてしまった。隣にいる彼の事を嫌悪している人物を忘れていた。

 恐る恐るユリアーナを見る。聞こえていなかったのか、彼女は手に入れたパソコンをまるで子供が新しい玩具で遊ぶように、無我夢中に打ち込んでいた。

 ホッと胸を撫で下ろすが、まだ根本的な問題が解決していないことに気が付き、すぐさまステージに視線を直した。ちょうどアリシアがステージの真ん中に立ち、ロディオは端の方でスタンバイをしていた。


「それじゃ! いくよー!!」


 相変わらず客の反応は微妙だ。騒ぎもせず、ただ拍手だけが空間に響いた。

 この空気だけでも分かるこの嫌な感じする。

 始まってしまった。鳥肌が立つほど、虚しい虚しい茶番劇が......。











『はっは~。それでジョン君の言う、その共演という公開処刑は、結果どうなったのかな~い?』


 ライブ会場の裏側。楽屋を出てすぐにある長い廊下で、持っていた棒携帯エステルから聞こえる声。その主は決まっている。今しがた電話し、この状況を説明した相手。僕らのチームのリーダーであるソウジだ。

 彼はいま、地底都市で会議中のはずだが、この予定外の状況を説明するために電話をかけると、彼は数コールの内に出てくれた。そのいつもと変わらぬ口調と緩い声は、僕の悩みを聞き、答えを導いてくれた。僕にとって一番安心する声となっていた。


「うん。それはもう、見事なまでに酷い有様ですよ」


 しかし実際、酷いなんて言えるほど甘いものではなかった。

 アリシアの歌は完璧だった。もちろん、ロディオのサポートのミスなどない。

 フィルの歌とも引けを取らない、誰もが魅了できるほどの歌唱力と踊り。未だに瞳を閉じ、記憶の宮殿を探ると真っ先にイメージが浮かぶ。先入観など持たなくとも聞き惚れてしまうほど、過去に聞いたどのアーティストよりも素晴らしく、僕の知る過去の彼女よりもずっと印象的で、感動的だった。

 本来ならば互角かそれ以上の評価を受けるはず。しかし、結果は無残に終わる。


『詳細はどんな感じだ~い?』

「うん......約八割が地底都市のフィルを評価しましたよ」


 客数万人ほどからなる投票の結果、圧倒的多数でフィルが勝利した。

 その時のフィルを思い出す。結果をみて大喜びするフィルは、何とも大人げなく、それでいて卑怯な相手だと率直に感じた。

 アリシアはというと、そんなどうでもいい結果を真に受け、すぐに会場を後にした。最後までアーティストらしく、笑顔で冗談をかましてまで平気なふりをして退場し、そして今は楽屋でロディオと二人で話をしている。


『つまりは、アーちゃんに二割くらいは入ったんだね』

「うん。ですが、どうせその票も作戦でしょう。票が何もなかったらなかったで、インチキだってすぐに分かってしまいますからね」

『ん~、なるほーね~。そっか~。今の彼女で、二割か~』

「すみません、こんな状況をつくってしまって。途中で気が付いたのですが、止める事が出来ませんでした」

『いんや~、ジョン君のせいじゃないから謝んなくっていいよ。むしろよく連絡してくれたって感じかな~』


 エステルの向こう側で、ソウジは笑いながら励ましてくれた。

 僕も「ありがとうございます」と自然と口に出た。


『それで、そんな大掛かりな事までしてアーちゃんの心を折ろうとした、彼女の目的は何だったのか。ジョン君は分かるのか~い?』

「うん。おそらくですが、持つ元の世界へ帰還する目的を無くすことだと考えています」

『帰還の目的......か~』

「そうです。アーちゃんは元の世界へ帰る理由を、自分たちのファンが待っているからと言っていました。ここからは僕の憶測ですが......その事を知ったフィルは、アーちゃんの歌手として才能が無いと錯覚させ、誰も彼女の帰りを待っていないと思わせる事で、結果的に帰還の目的を無くす。つまり、僕達が関わっているこの『ゲーム』から彼女を降ろす事を目的としているのでは、と僕は考えています」

『な~るほどねー、だけどまた別の疑問がある。彼女をゲームから降ろしたいのは分かったけど、それで何が変わるのだろうね~?』


 その事は僕も考えた。

 たった一人の為にこんな大掛かりなサプライズを用意させることが、本当に目的だったのか。

 答えは簡単だった。現にいま、僕達が止まり、悩んでいることがヒントだった。


「僕達、チーム『場違い』全員の『ゲーム』離脱。それがフィルが果たす本当の目的。僕はそう考えています」


 僕達は七人全員による共通の意思で今まで進んでいた。

 逆に言えば、一人でも欠けると一気に崩れる。一心同体と呼ぶに相応しい状態だった。それがいま、危機的な状況に陥ってしまった。


 扉が開く音が聞こえる。振り向くとロディオが楽屋から出てきていた。

 次に聞こえてきたのは、泣き声だった。

 すすり泣く少女の声。こんな状況をつくり、止められなかった罪悪感がこみあげてくる。


『お~し、わかった。ご苦労様。確か『移転札』をユリアんに渡してといたと思うから、それでこっちまで帰っておいで~』


 状況を察してか、ソウジは優しげな声で提案した。

 彼の言う通り、ここは一度戻ろう。しかし、それでは僕の気が収まらない。この都市に来てからやられっぱなしだ。

 悔しい。だから、思考する。

 僕が出来る、最大級の仕返しをしてやる。


「うん、わかりました。ですがやり残したことありますので、そちらが済んでから帰還します」


 ソウジはまるで分かっていたかのように「あんまり無茶は、ダメだぜ~」と言ってから電話を切った。

 エステルをズボンに仕舞い、大きく息を吐く。

 これから行うことは僕一人では難しい。だから、お願いをする。


「少し......いいですか?」


 泣き声が聞こえる扉のすぐ横で、手に入れたパソコンを操作するユリアーナと。

 そのもう片側で、渋い顔をしながらスケッチブックに絵を描き続けるロディオに向け。

 僕はこれからやろうとしている事を伝え、手伝ってくれるように頼んだ。






…………






 地底都市にあるフィクレ二ス城に、僕達四人は帰ってきた。

 しかしまだ頭がぐわんぐわんするし、吐き気もある。

 この感じは、乗り物酔いに近い感覚だ。慣れたものじゃあない。

 ユリアーナが持っていた移転札を使用し、疑似的に移転魔法を発動して帰還してきたのだが、相変わらずこの移動方法は好きになれない。


「やぁやぁ! お帰り~よ!」


 僕達の帰りを待っていたかのように、ソウジが後ろから大きな声で景気よく僕の肩を叩いた。

 突如とした強い衝撃に襲われ、危うく吐きそうになる。肩を叩くならもっと優しくしてほしい。

 叩かれた肩を擦りながら周りを後ろを見る。クリエットとワスターレも近くにいた。クリエットは笑顔だが、ワスターレは相変わらずヘルムを被って表情が見えない。それどころか態度の変化も微小で、喜怒哀楽がまだつかめない。難しい人物だ。

 それでソウジは、逆に分かりやす過ぎますけどね。ただ、僕達が勝手やった事を何も思っていないのだろうか?


「すみません、勝手な事をしてしまい......」

「すっごいね~、聞いたぜ! まさか会場をジャックするとは、大胆なことをするね~」


 ソウジは笑いながらさらに肩を叩く。

 そう、ボク達がやったことは、会場を丸ごとジャックする。もう少し丁寧に言えば、客の注目をフィルではなく僕達に集中させることで、結果的にライブを支配した。

 僕達がやったことは単純、大勢の客の前で手品を見せた。

 それも元の世界じゃ不可能な大掛かりな手品。瞬間移動や人体切断何て目もくれない、驚きの連続で息を飲むことすら忘れさせる。そんなマジックを、歌うフィルのライブ中にやって、それから逃げるようにこの都市に帰ってきた。

 すべて僕達が勝手にやった。

 誰の指示も受けず、誰の指示を聞かず。


「会場にいるフィルから連絡がきたよ~。マジですごかったってね! いや~、オレも見たかったな~」

「うん、ソウジさんは怒っては、いないのですか?」

「ん~......? 何故にオレが怒る必要があるのか~い?」

「何故って......僕達はリーダーであるあなたに黙って、勝手な事をやったのですよ?」

「だからなんだ~い? 君らはやりたいことをやった。それをサポートや後始末をするのが社長......じゃなくって、リーダーであるオレの役目だ」


 ソウジは「それに......」と言い、首に腕を乗せ耳元で小さく「このチーム『場違い』は、俺の言う事よりもやりたいことを優先させる者達だろう?」と僕にだけ聞こえるように囁いた。

 思わず笑ってしまった。その通りだ。

 このチームは自分勝手で成り立っている。それをソウジはうまい具合に、みんながやりたそうな事をやらせているだけだ。容量は僕の催眠術と同じだけど、その事を自覚してもなお、気分は悪くない。




 ソウジはその後「じゃ、まだ会議があるから、またね~!」と言い、クリエットとワスターレ共に何処かへ行ってしまった。チーム『地獄獅子』の者から怒られないか心配だったが、彼の事だ、何とかなるだろう。そんな気がする。

 ロディオは自室へ戻り「客観的に観た会場の雰囲気」の絵を描くと言っていた。それもまた目標としている『自分の絵』の糧となる。とのことらしいが、僕にはさっぱりだった。

 ユリアーナは、やはりと言うべきか。帰宅後すぐに自室にこもり、手に入れた異世界のパソコン触っている。あのパソコン。手品の際、かなり役に立った。本当に僕が魔法(マジック)を使用しているみたいな感覚に陥るほどだ。極めてしまえば何だって出来そうだ。

 そういえばあの手品の時にロディーさんにも手伝ってもらったけれど、何というか筋がいい。言われたことはほぼ完ぺき以上の仕上がりだし、この世界の特性でもある、物の『合成』や『分解』もすぐに慣れてしまった。悔しがっているユリアんの顔を今でも思い出せる。もしかしたら、絵の才能よりも他のことの方が長けているのかもしれないな。


「はぁ......」


 などと考えていると、近くでため息が聞こえた。

 僕はいま、アリシアと二人で彼女の部屋にいる。部屋に戻る前に、少しやりたいことがあったからだ。


 悩んでいる女性に対して男性が行うことは決まっている。

 そう『カウンセリング』だ。


「......」

「......アーちゃん、少しお話をしましょう」


 深い悩みを持った者は、その心を閉ざす。

 その状態ではどんなアドバイスを言ってもマイナスに考えてしまい、より心の扉を頑丈にしてしまう。

 だから、僕がこれから行うことは、話を聞くのではなく、ある意味独り言の物語だ。それが一番、いまの彼女に合う、そう思った。


「とある田舎町に、それはもう仲が良い兄弟がいました。二人はいつも一緒で何をするにも同じことをしていました。共に遊び、笑い、怒られ、泣いた。いつもおんなじ、一緒です」

「......」

「しかし、弟はある日、とある事に気付いてしまった。それは兄が、いつも弟に合わせていた、と言うことです」

「......」

「遊びも勉学もスポーツも、何もかもを弟に合わせていた。本当はもっと出来るハズなのに」

「......」

「最初は気分がよかった。しかし、時おりみせる兄の行動は、常人の考えるソレとは明らかに違い。彼はそれが恐ろしく、憎らしく、羨ましかった。兄の優しさは弟にとって苦痛になっていった」

「......」

「そしてついに、弟は兄に勝るため、とある事を企んだ。なんだと思います?」

「......何をしたの?」


 よし、食いついた。

 つい口の端が上がるが、すぐにこれから話すことを思い出し、への字になった。

 大丈夫、これはただの、誰かの物語だ。


「弟は何をやったか。それは......兄の目の前で自殺したのです」


 もやもやの何かが一気に、胸に込み上げる。

 身体全体に鳥肌が立つ。

 記憶がまるで、木に止まっていた鳥達が一斉に飛び立つかのように、頭いっぱいに広がっていく。

 ......うん、大丈夫。

 予想してたより、僕は落ち着いている。


「弟は、兄と共に、親の言いつけを破り、立ち入り禁止になっていた場所へと来た。兄を波風が打つ崖の上に立たせ、そして......」

「......」


 大好きだよ、お兄ちゃん。


「弟は、兄の横を走り抜け、崖を飛び降りた」


 飛び降りたときの彼の表情は、勝ち誇ったような笑顔だった。


「兄はその事がショックで、その時の記憶を、記憶の部屋の奥深くに隠した。そして、兄弟など始めっからいなかったかのように、次の日から平然と過ごし始めた」

「......」

「それから数年後、とある者が隠していた部屋を開け、記憶を呼び戻した。しかし、その記憶も曖昧で、まるで自分が弟のように錯覚してしまった。そうです、自分は兄を殺した弟になってしまったのです」

「その勘違いした兄は、どうなったの?」


 アリシアは少しずつ反応を示し始めた。

 いまはもう物語の虜だ。不安や哀しみは、一時的に消えている。


「......彼は悩み、苦しみ、そして答えを求めた。けど、一人ではたどり着けなかった。それもそうです、彼が考えていた視点は違っていましたから。それからもずっとずっと、皆には何もないふりをしながら、心と頭をぐちゃぐちゃにしながら、彼は答えを考え続けました」

「それで、その子は見つけれたの? 欲しかった答えを」


 アリシアは急かすように言った。

 いい調子だ、いつものせっかちな性格が戻ってきた。

 僕は笑顔で「うん」と答え、続きを話す。少し胸が苦しいが、これくらいなら大丈夫だ。


「ただ彼は、一人で考えても答えにたどり着けないと悟り、この話題に関係の無い人を尋ねました。すると、その人のおかげで彼は簡単に答えを見つけた。思考をズラし、考え方の根本を変え、ようやく答えにたどり着けた」

「でも、その答えって、辛い過去の記憶でしょ? また同じように傷ついたり悩んだりしなかったの?」

「うん。アーちゃんの言う通り、彼は悩みましたよ。ですが、以前よりは酷くなかった。理由は分かりますか?」


 アリシアは首を左右に振った。

 彼女答えに僕は目を会わせながら、にっこりと笑い言った。


「たとえ悩んでいても、ちゃんと導いてくれる人に出会えたからですよ」







…………





 カウンセリング後、僕達は戻ってきたフィルからの提案で夕食を御馳走になった。

 気が付けばもう夜だ。

 そして予定通り僕とアリシア、そしてユリアーナの三人は、近代都市へ帰宅する時間へとなった。


 フィクレ二ス城の出入口付近で、クリエットの描いた魔法陣の上に乗る。

 彼女の魔力が注がれるにつれ、魔法陣が青く光りはじめる。いつ見ても神秘的で美しい光を放っている。と、同時に、また酔うのだろうなと考えると、やっぱり少し嫌だ。船に乗る前のような感覚だ。


「それじゃ~、あっちにいる『彼等』によろしくね~」


 ソウジは手を振りながら笑顔で言った。

 彼の発言にあった『彼等』とは十中八九、組織『ジーニア・ズ』の者達だろう。

 会うのは久しぶりだ、元気にしているだろうか。自室にいた際、エステルで話したときは元気そうだったけれど。それに、僕達に対しての忠誠心が維持されているかも心配だ。帰って来てから冷たい視線に会うのは、何といっても寂しいですからね。


「ねぇジョン君。さっき話してた事だけど......」

「うん、何でしょう?」

「その、導いてくれる人がいなくても、人は強くなれるのかな?」

「うん、それは難しい話ですね。残念ながら、人は一人で抱える事が出来る悩みの許容量が限られています。たとえ、どれだけ心が強固で豊かな人でも、日々受ける痛みは深く食い込み、いつしか壊れてしまうでしょう」


 僕の言葉にアリシアは「そっか」と表情を暗くした。

 彼女にはまだ、僕のように信頼できる人。メンターを見つけていない。

 アリシアの心は常人とは比べ物にならないほど強い。しかし逆に、壊れてしまった場合の反動も大きい。いまの彼女はギリギリだ。ひどく揺れ動き、細く短くなっている。もう少し、ちょっとしたことで壊れるかもしれない。

 だから、僕が言えることはこれくらいだ。


「ですが......人は悩むほどに強くなる生き物です。悩むことで心がより柔軟になり、壊れにくくなります。むしろ悩める環境にいることに感謝しましょう。その状況を超えてことで、真の強い自分になれる。僕はそのように考えていますよ」


 目を丸くして聞いているアリシアに、僕は付け加えるようにして「ただし、ずっと一人はおススメしませんけどね」と笑った。

 残念なことに、僕がそうだった。一人で解決できると思い上がっていたから、アレほど悩んでいたのかもしれない。こんなんじゃ、師匠にも、親にも、弟にも顔向けできませんね。


 僕の話にアリシアも「そっか!」笑ってくれた。

 やはり彼女は、元気で笑顔が一番似合います。そうです、アーちゃんこそ、皆に笑顔と勇気、そして正義を魅せるに値する人物なのですから。


「じゃあ私はもっと、頑張らないとね!」


 何かを決意したかのようにアリシアは胸を張り言った。そして、魔方陣の外側にいるソウジに、手を差し伸ばした。

 彼女から差し出された手を、ソウジは答えるように掴んだ。

 一時的とはいえ別れるのだから、その別れの挨拶だろうと最初は思ったが、違った。

 アリシアはソウジの手を引っ張り、まるでダンスを踊るかのように二人して回転し、それぞれの位置を入れ替えた。


「私はもっと強くなる! だから私は、地底都市(ここ)に残る!」

「わ~ぉ! まさかのドタキャンだね~」

「うん。では僕も抜けましょう」


 それは自分でも驚くほどあっさりと、そして即決即断の判断だった。

 すでに床の魔法陣の輝きは直視できないほど眩く、振動も感じ取れていた。移転の途中で抜ける危険性は考えていなかったわけではないが、普段の僕らしくなく、考えるよりも先に身体が動いた。


「すみません、ソウジさん。『彼等』の事はお任せします」

「はっは~、いきなり予定が変わる。これだから人せぃ......――――」


 ソウジが何かを語っている最中、ソウジとユリアーナは僕達の目の前から光と共に消えた。

 彼等を送り出した後、魔力を注いでいたクリエットが深く息を吐いた。微妙に汗もかいているし、傍から見ても疲れる行為だと分かる。

 彼女の背中をワスターレが擦る。表情や言葉では分からないが、純粋に優しい人なんだろうな。この人の事は未だに正体はよくわからないけれど、味方であることには違いないので、とりあえず深くは考えないようにしている。


「どうして、ジョン君も帰らなかったの?」

「うん、そうだね......」


 アリシアに聞かれた。よく考えるとそれは自分でもわからなかった。

 何故、いきなり魔法陣から出たのか。理由を考えるが、納得する答えが「アリシアが心配だったから」なので、さすがにそんな恥ずかしい事は言えないので「なんとなく、ですかね?」と誤魔化した。

 彼女は「ふーん」と何か考えた後、「まぁいっか!」と笑顔で言った。


「それで、これからどうするんだぁ......?」


 ロディオが僕達の間にヌルッと入り込むようにして現れて言った。

 これからどうするか。そういえばそうだ。本来ならばソウジがここに残り、僕達が『ジーニア・ズ』達の教育を行う予定だった。

 顎を擦り少し考えたが、あまりいい案が思いつかない。


「とりあえず、今日はもう遅いので、各自部屋で休みましょうか!」


 クリエットも疲れているし、何より自分も睡眠をとる時間が近づいていた。

 まことに勝手で適当な案だったが、アリシアとロディオは頷いた。

 クリエットも話を聞いていたのか、辛そうな顔をしながら小さく頷いた。ワスターレは相変わらず反応はない。


 明日になったら、ソウジさんに謝ってから相談しないといけないな。と考えながら、僕達は自室へ戻っていった。


 そういえば、ソウジさん達はどうするのだろうか。

 あの二人はあまり仲が良くなかったようですし、少し心配だな。



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