37 地底都市 二日目
この都市はまるで、土の城壁に囲まれているような形をしている。
辺りを見渡しても、壁、壁、壁。その壁の中に埋め込むようにして、人々は住む家や商店を出していた。
この都市にある城で休み、牢屋から出て一晩明けた今朝の頃。
朝食を終えた私――アリシア達は普段通り、いつもの通りという感じで情報収集をすることになった。
ジョンとユリアーナはこの都市の図書館で調べものをするみたい。あの二人なら私と違ってちゃんとした事を調べれそう。この前の未来都市では私は何もできなかったしね、すこし不甲斐なかった。
ソウジとクリエットはこの都市に所属するチームと話したいことがあるみたいで、そのまま城の中で留ま事にしたみたい。たぶん、昨日のロゼが話したことに関係があるのかもしれない。それか、ただの雑談かな? いやいや、あのソウジがただの雑談とか絶対にない。ジョンもそうだけど、必ず何かしそうな感じがする。
そして、私とロディオはこの都市の観察。付き添いとして別チームの一人であるフィルという、優しい声と柔らかな雰囲気が漂うお姉さん的な女性と行動を共にすることになった。
正直に言って、一番私らしい仕事をもらった気がする。やっぱり私は、お偉いさんとかじゃなくって普通の人とお話ししていたほうが楽しい。
暗い感じのこの都市とは違い、通り過ぎる人達は雑談しながら楽しそうに歩いていて、とてもいい雰囲気。街にいる人達の服装は何かの流行りなのか、ほとんどの者が大きめなコートに身を包んでいた。暑くないのかと思ったけれど、そういえばユリアんが『この世界では気温や温度、湿度などの概念は無い。そのため、服による体温の上下もまた無い』とか言っていたっけかな。よくわかんないけれど、つまり暑さ寒さを気にせず服を選べれるって言う事ね。素晴らしいわ。
そうね、都市の観察だけじゃなくって観光がてら、みんなにお土産でも買っていこうかな。
「昨日も思ったがぁ、なかなか良い雰囲気な場所だなぁ......」
隣にいたロディオが、持っていたスケッチブックにペンを走らせながら言った。
「やっぱりあなたも思う? あたしもねー、この都市のこのミステリアスで幻想的な感じがたまらなく好きなのよねー。まっ! あたしの故郷には敵わないけどね」
「フィル......でいいか? 君が元住んでいたところはどういうところだったんだぁ......?」
「別に普通よ~。ただそうねー......強いてあげるのなら、この世界にある遺跡都市に近い感じね。少し古めかしくて暖かい、オレンジが似合う心が落ち着く町。そういえば、あなた達はまだ行ってないのよね。イメージできるかしら?」
「君の言葉だけで、ある程度は想像できるかなぁ......」
「あなたが想像している以上だと思うよ。それで、ロディオ君とアリシアちゃんだっけ? あなた達の故郷はどうなの?」
フィルは笑みを浮かべながら問いかけてきた。
彼女に問われ「そうね......」と少し考える。パパやママと過ごしていた場所は......思い出したくないし。住んでいた場所は、辺り一面は高層ビルやマンション。あちらこちらに一日中大きなテレビやモニターがあって、自然なモノなどほとんどない。この世界に来て私が住んでいたところがちっぽけだと思えるくらい。
「私が居たところは、そんなに面白くない。みんながみんな、自分の都合で作り上げていった世界な感じ。そんな少し寂しい場所よ」
「俺は住む場所を決めていない。ただ目的のために転々としていたからなぁ......。故郷と呼べるところは、あまりない。強いて言うのならば、一面平原の小屋だなぁ......」
ロディオが私に続いて言った。彼も微妙な返答だったけど、私よりは気分が晴れそうなところに住んでいた感じがした。何より、自然があるのがいいわね。私も将来は海が見える家に住みたいな。
私達が言った故郷をイメージしているのか、フィルはしばらく目を閉じ、そして腕を高らかに上げ「あたしの勝ちー」と誇らしげに笑った。
「でもいい? どれだけ気に食わなくっても、自分の故郷は大事にしなさい。あなた達は元の世界へ帰るつもりなのでしょう? なら、故郷を愛さないと、ただ帰るだけじゃ悲しいわよぉ」
「俺は目的のために世界を周り、自国に帰る事は稀だったからなぁ。そこまで愛着は無いのだがぁ......」
「私が戻りたいのは故郷に帰りたいというより、私を待つファンのためよ」
そう言った途端、フィルの笑みが薄れ「ファン、ねぇ......」と遠くをみて呟いた。
何を思ったのだろうか。ジョンのように簡単に考えを読めないから、彼女が秘めている事が分からなかった。
そうよ。私は私を待つファンのため、そして世界を平和に満たす夢を叶えないといけない。彼女が何て、この世界がどうか何て、いまの私には関係ない。
......でも、本当に私がいまやっていることは、正しい事なの?
「もし、そこにおられるのはフィル大佐でありますか?」
とある店の入り口の前で、こちらに手を振りながら一人の男性が声をかけてきた。
「んーん? あー、君はこの前の『エンジェル掃討作戦』にいた巡査部長さんかー。どうだい、それからぁー?」
「はい、大佐方のチーム『地獄獅子』が手伝っていただいたおかげで、相当な数を押収することが出来ました。先の件はありがとうございます」
「いぃーて、いぃーて。あの事件にはあたし達が追っていた組織が絡んでいたからねぇ。こっちこそ手伝ってくれてありがとーねぇ!」
男性とフィルの二人は楽しそうに笑い合う。
フィルと親しげに話しているこの男は誰だろうか。服装は周りにいる人達と同じで、黒っぽい大きめなコートを着て、青いベレー帽も被っている。両手には白い手袋、コートから青いブーツを履いているのも見える。
と、私の視線に気が付いたのか。男と目が合った。
「あーそうだねぇ、紹介するよー。彼はこの都市の警察組織に属する人でねぇー。巡査部長のぉ、名前は......あー」
「クラリネットと申します」
「そうそう、クラリネットさんだよー」
「私はアリシア。よろしくね」
「俺はロディオだぁ......、よろしく頼むぅ......」
クラリネットと握手をしながら手短に自己紹介をした。服装と仕草から固そうなイメージだったが、思ったよりも感じが良さそう。この人はきっといい人ね。
「彼とはこの前ね、禁止強化魔法を組み込んだ魔具『エンジェル』の一斉取締捜査で一緒にグループを組んだ仲でさー。これまた凄いんだよね、予想以上に強くて驚いちゃったよー」
「いえ、自分なんて......。結局は皆さんの力を借りる形になってしまいましたし、まだまだですよ」
クラリネットは肩をすくめて首を振った。そんな態度の彼を、フィルは大声で笑いながら肩を叩く。叩かれるたびにクラリネットの顔が歪んでいくけど、もしかして痛いのかな。
「その『エンジェル』とは、なんだぁ......?」
「知らないのですか? 世界法律で禁止されている強化魔法を使用する魔具の名前ですよ。説明をしますと、身体能力の向上のほか、気分の高揚、精力増大等の効果がありますが、問題なのはその恐ろしいまでの中毒性です。効果が切れると同時に激しい鬱状態になり、さらに身体に多大な負荷を負うのです。その状態を解消するために、また使用する。繰り返していくうちに身体はボロボロになり、最終的に死に至ります。今回は大量に拡散する前に阻止できて幸いでした」
ロディオの質問に、かなり丁寧な説明を受けた。物知りというか、たぶんこっちでは常識な知識みたい。法律でも禁止されているような魔法もあるのね。
それにしても『エンジェル』か、なんか元の世界でいつか聞いたような効果ね。
「この事件は、ある意味では君たちにも関係があるんだよねー」
「それはぁ、どういうことだぁ......?」
「だってこの事件の裏を引いているのはー、昨日君たちに話した組織と関係があるのよー。つまりは、あたし達の先輩にあたる参加者......いや、棄権者か。彼等がその魔具をつくったみたいだからねー」
「それは参加者全体に関係であり、なぜ俺達とだけ関係するぅ......?」
「禁止魔法内蔵魔具『エンジェル』。その製作者名は......セメンテリオ。昨日聞いた名前でしょ? 君たちの召喚者クリエットによって召喚された元参加者。彼の『創造』の力で魔具と、誰でも作れるように製造機までを創ったのよねー。ホントーに、ややこしくしてくれたよー」
「待て。昨日のローゼンから聞いた話しでは、残った三人がジョシュアと共に組織に加わったとまだ判断していなかったはずだが、気のせいかぁ......?」
「気のせいじゃないよー。ただ、あたし達の召喚者であるロゼちゃんには話していないだけだよ。本当はとっくに彼等の消息は把握していた。けどロゼちゃんってさ、お姉ちゃん大好きっ子でしょー。また何か心配すると思って黙ってたのよねー」
フィルが頬に手を当てながら答えた。対してロディオはただ「そうかぁ」と頷くだけだった。
私個人で言えば、ローゼンのクリエットに対する執着は、昨日だけでも十分伝わった。確かにフィルの言う通り、そんな重要そうな事を教えたら何しでかすか分からない。なにかあの子、怖そうだし。
「そうです、そうです! フィル大佐。今度はいつライブが行われるのですか? みんな楽しみにしていますよ」
「あぁー、そうねぇ。どうしようかしらねぇ、んー。うん?」
話を区切るようにクラリネットが手を叩きフィルに何かしらを提案した。
問われたフィルは考える仕草を取った後、私と目を合わせた。というよりも、合わせてきたと言った感じがした。
鼻歌交じりに近づいてきて、肩に腕を乗せてきた。乗せてというか、添えたと言った感じ。重さを全然感じさせないほど軽い。接触させているだけのような感じ。
「んじゃー、次はアリシアちゃんとのコラボって感じでいこうかねぇ」
「えっ!?」
何か名前を呼ばれた気がするけど、それより気になるのは『ライブ』という単語だ。元の世界ではよく耳にしていた。それもそのはず、私の職業に当てはまる単語だから。
では何でその単語がいま出てきたのか。流れが全く分からない。
話を聞いていたクラリネットは「おぉ! 素晴らしいですね」と驚いて見せてるけど、私の方が驚きだ。
しかも『コラボ』という言葉も聞こえた。どういうこと? 誰とコラボするの? 話の流れに乗れていない。これはもしかして私だけ?
「大丈夫、歌うだけだから。いつにしよっかー?」
「わ、私は歌うならいつでも大丈夫だけど?」
「んーーー、二日後くらいでいっかなー。アリシアちゃんもいいよね?」
「え、えぇ......大丈夫、かな......」
何のことかわからず、つい返事をしちゃった。
隣にいるロディオに相談しようと目を配るが、彼も「そうかぁ......」とか言いそうな、いつもの無表情を浮かべているだけだった。というか、彼はこの話を理解しているのだろうか。もう、訳が分からない......。
「よし。ならいつものホールに昼過ぎに来てねー」
「分かりました、みんなにも伝えておきます」
クラリネットは笑顔を浮かべるのに対し、未だに話に乗れていない私はただ気まずく笑うしかなかった。
彼は「では」と慣れたように姿勢を正し敬礼をした後、どこかに行ってしまった。警察官だというのは本当のようだ。
そういえば、天空都市でも事件の後に同じような人たちが来ていたわね。世界が違っても秩序を守る存在がいるというのは安心できるわね。
あれ? でも現代都市では見かけなかったような気がしたけれど......。
「それじゃー、今後の予定も決まったことだし。この空いた時間で道具でも見に行こっかー」
背伸びをしながらフィルが言い、歩き出した。行く当てもない私とロディオは黙ってついていく。
道具、道具かぁ。歌うには声さえ出ればいいけれど、流石に奏でる音が無いと寂しいし。でも、楽器類はほとんど現代都市に置いてきちゃったし、現地調達するしかないかなぁ。そんなにお金、あったかな?
腰に付けたポーチから、お金を入れる用の小さい四角形の魔具を取りだし、残高を確認する。
支給は金貨が一〇枚程度、これで足りるのかな? 食べ物や何かしらのモノで物々交換出来ないかな? というか、クリエに頼んで一度帰った方がいいのかな。
そんな事を考えていると、前を歩いていたロディオがいきなり止まり、止まれなかった私は彼の大きな背中にぶつかった。後ろを振り向き「すまん」と言う彼に、意地悪く目を細め睨みつける。
「ここが地底都市の魔具屋だよー」
背中から顔だけ出し、フィルが紹介した店の外形を見る。店は他の店舗と同じように土の壁に埋め込まれ、入り口と看板だけが見えていた。黒い装飾が付いた赤い扉の両脇には、ちかちかと目を刺激するたいまつが飾られ、扉の上に飾られた看板には『魔具屋 地底都市店』と書かれている。
どの魔具屋もそうだけれど、無駄に目立つというか、他の店とは違いかなり特徴的なデザインが多い。未来都市で見かけたタワー型の店に、天空都市のは見たことはないけれど、ソウジが言うには青いたまご型の店と言っていたかな。現代都市の店は無駄にごたごたとした外形だったし。あと行っていないのは、遺跡都市くらいかな。流石にもう驚かないだろうけれど、相変わらずワクワク感はあるわね。
「また、怪しい店だなぁ......」
「デーちゃん、もしかして怖いのかなー? 大丈夫、だいじょうぶ! この都市のセキュリティ管理はバッチリだからぁ、警戒せずにリラックスしていきなよー。それに、ここはあたしのいきつけの店だからね。危ない事なんてなんもないよー」
フィルはそう言うと、鼻歌交じりに軽快に店に入っていった。
「デー......ちゃん?」
「いいニックネームね、デーちゃん」
「......さっさと、用事を済ませるかぁ......」
帽子を手で抑え、目元を隠したままロディオは店に入って行くのを見て、にやけながら私も続いて店へと入っていった。
…………
「やぁやぁ、おかえり~」
城に帰り部屋に戻る途中、廊下でばったりソウジと会った。てっきりまだクリエットと共にミカエル達と話をしているものだと思っていたが、どうやら話は終わっているみたいだった。
「ただいま。クリエやワスタさんと一緒にいないのね」
「まぁね~。ロゼちゃんと二人で話すってことで、一旦分かれているわけさ~」
「そうかぁ、それでお前は何をしているんだぁ......?」
「んー......簡単に言えば連絡をとってた、かね~」
問われたソウジはポケットから棒携帯エステルを取り出し、私達の前で揺らした。目の錯覚だと思うけど、エステルがうねうねと曲がっているのがなんだか面白い。
ロディオは納得した様子で「そうかぁ......」と呟いた。
エステルで連絡する相手となると、現代都市にいるジーニア・ズのみんなだろうな。帰るの遅れそうだから、少し心配だなぁ。
「そうそう。アーちゃんの思っている通り、みんなかなり心配してたよ~。とくに、アーちゃんをね。みんな無事だと言う事は伝えておいたよ~」
「ほんと、ソウジの勘は怖いほど察しがいいわね。でも、ありがと」
「という事で、心配性なアーちゃんは少し早く戻れる帰宅組ね~。他にジョン君とユリアんもだけど」
「ちょっと、どういうこと!? 帰宅組って、それにみんなとじゃないの?」
「ま~、オレとクリエちゃんは、まだミカエルさん達と話す事があるから仕方ないね~。あ、ロディーさんはオレ達の手伝いってことで残ってくれるか~い?」
「あぁ、わかった......。まだこの都市を観察したいと考えていたからなぁ、ちょうどよかった......」
ロディオが口の端を上げ小さく笑い、ソウジも「そりゃ、よかったっすね~」と同じく笑った。
それでも、また勝手に決められた。彼のこういうところ、私は好きじゃない。独断専行と言うやつか、話や道を相談せずに、一人で決定してしまうような人を、私は嫌いだ。
ただ、いつもならここで良い反論が思い浮かばず、言い返すことが出来なかったが、今回は言える。
「ソウジ! 悪いけど、私は二日後にこの都市でライブがあるの。残念だけど帰れないわ!」
どうだ、どうだ!
いつもいつも周りのことを気にせず決めていたからこうなるのよ。いきなりの予定変更に困惑するといいわ。
「あ、なら大丈夫っすよ~。二日後に戻るとだけ伝えてあるから、そのライブが終わってから帰る事にしようかね~」
あっさり返された。というか、早く帰れるとか言いつつ二日間はこの都市に滞在するの? なんか矛盾している感じがするし、ようやくソウジから出し抜けると思ったのに、なんか逆に拍子抜けしちゃった。
でも、何とか現代都市に戻れる算段はついたのね。一時はどうなるかと思ったけれど、一応は無事に帰れるって知って、正直ホッとしている。思えばいきなりこの都市に飛んできた時は、もう駄目だと思った。想像していたよりいい人が多くてよかった。
「そんじゃ~よ。オレは部屋にすこし寝てっから、メシ出来たら教えてちょ~だい!」
ソウジはエステルをこめかみに当てながら自分の部屋へと入っていった。
本当に勝手だ。やっぱり彼は嫌いだ。自分勝手で自己中心的な人を見ると胸がムカムカする。
「そうだなぁ......。俺も部屋で絵を描くから、また後でな」
隣にいたロディオもそう言い、部屋へ入っていった。彼もまた自分勝手の人な部類に入りそうだ。
誰もいなくなった廊下で目を閉じ自然と、それでいて大きくため息を吐いた。まったく、私の周りにいる男どもは勝手が過ぎる。同じ世界で、同じチームでなければ決して共にいようと思わなかっただろうな。
それにしても、薄暗い廊下ね。天井に灯りはあるものの、ほんわかとした程度のオレンジ色の灯り。奥に行けば行くほど灯りは遠のき、闇に吸い込まれそうになる感じがする。
寒くもないのに鳥肌が立った。この廊下は、一人でいたくない。
(私も、部屋に戻ろう......)
一歩足を進めるごとに、コツコツと履いているブーツの音が反射して耳にこだまする。
部屋はソウジやロディオから少し離れた場所にしてある。理由は、隣だとなんか嫌だったから。もうちょっと近い部屋にすればよかった。
また一歩踏み出す。
風は無く、音も自分が発している靴音しかない。
「ちょっと、いいかぁ......?」
「ヒィッ!」
思わず声を上げ、飛び跳ねた。
声をかけた者の正体を見ようと、身体をおそるおそる反転させる。
「だ、大丈夫かぁ......」
「も、もうロディーさん、脅かさないでよ」
「......かなり飛んだぞ?」
「いきなり声をかけられたら誰だってそうなるわよ!」
声をかけてきたのはロディオだった。
コートは部屋に入ってすぐに脱いだらしく、見慣れない格好に一瞬戸惑ったが、いつも被っているハット帽のおかげですぐに彼だと分かった。
それにしても、扉を音なく開けるのは何の悪い冗談なのかしら。心臓に悪い。
「それで、何か用なの?」
「いや、練習はどうするかと聞こうと思ってな......」
練習? あぁ、ライブのか。
フィルと行った魔具屋は、未来都市店と比べて商品が少なかった。いや、あの未来都市店が豊富過ぎたと言ったほうがいいのかもしれない。
楽器類は難なくあった。しかし、問題は演奏する人だ。さすがに現代都市にいるジーニア・ズをこっちには呼べない。でもそうなると、私一人だけになってしまう。残念なことに、私はピアノしか弾けない。しかも、弾いたのはかなり前の事だ。もう覚えていない。
仕方なく諦めようとしたところ、なんとロディオがある程度の楽器は弾けると言い出した。
試しにドラムセットで彼がどれほどのレベルかを確かめてみると、まるで熟練の達人だ。驚くよりも普段大人しめの彼が爽快に演奏する姿は、もう苦笑いを浮かべるしかなかった。
「そうね、明日から始めましょう。時間はあまりないけれど、あなたなら問題なさそうだし」
「そうかぁ......、わかった......」
ロディオはそう言うと、また部屋へと戻っていった。
相変わらず薄暗い廊下でまた一人だけになったが、先ほどとは違い不安感は無い。
「ホント、この都市の雰囲気は最高ね」
小さく呟いた。
私は部屋まで鼻歌交じりに、軽くスキップした。




