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場違いな天才達  作者: 紅酒白猫
第二章 他の参加者と他の都市
34/47

28 未来都市 一日目(後)

 


 暗く、それでいて煌びやかで、遠く、だけど何か親近感がある都市。ノヴォエラ。

 この都市は『第一コア』『第二コア』『第三コア』と呼ばれる球体の街に分かれ、存在していた。


 その一つ、第三コアに私――アリシアとジョン少年。そして、たまたま同じ都市に来ていて、たまたま出会ったチーム『ラブピース』の三人の一人、獣人の女の子アーセル。この三人でいま共に行動している。

 行動と言っても、ただの都市観光だ。

 やりたいことも特にないし、見てみたいものも特になかった。とりあえずジョン少年が「一緒に行こう」と言って来たので、それでついて来ただけだ。

 そんな二人の後ろ姿を見ながら、私はただ歩いている。


 街は来たときと同じく、大きさがまちまちなキューブが黄色く輝きながら動いている。

 行き交う人などは、ほとんどいない。音は静かで、ただキューブから発されていると思われる、レーザーの発射音のような高音だけが街中を響かせていた。

 本当に静かだ。

 そう言えばこの都市は『未来都市』と呼ばれていたわね。未来がこんなのだと、少し寂しい。




「うん、ところでですがアーセルさん。あなたは、レイルさんの事が好きなのですか?」


 まるでガラスをぶち破るように、静けさを消し飛ばすような、唐突かつ大胆な発言をするジョン少年。

 やっぱり子供って恐ろしいわ。なんの悪気もなく、ただ自分の聞きたいことだけを聞く。子供だからこそ許される特権を、彼は時に、ここぞとばかりに使っている。


「そりゃもう好きですにゃ!」


 ペタペタと素足で歩き、頭の後ろに手を組みながらアーセルは躊躇なく答える。

 いや、私もそういった話は好きだけど。こんな大通りを歩いているときにするような会話ではないと、私は思ったりしている。

 それと三人で行動して最初に言うような言葉でもないと私は思ったりもしちゃう。


「それは、ただ単純に友達として、チームとしての事ですか? それとも異性として、ですか?」


 さらにこの子はつっかかるのか!

 アーセルは子供とはいえ女の子。そういった考えを持つ歳にもなりつつあるだろうに。

 彼の思惑はわからないが、何か企んでいるのは私でもお見通しだ。


「んにゃー、どうだろうかにゃ......。好きなのは好きにゃんだけど、ただそういったものは、あたしにはよく分からないですにゃ」


 そりゃそうよね。

 だって彼女、見た目だけなら私よりも幼そうだし、やっぱり難しいよねそういうのは。

 うんうん、そういった感情はもう少し大きくなってから、大人になってからはっきりさせていくものよね。


「ただあたしとレイルは、しゅじゅうかんけい? ってのがあって。あたしにとってレイルは、とっても大事なご主人様なのですにゃ」

「そういう関係だったの!?」


 思わず声が出てしまった。声に驚いたのか、ジョンとアーセルは目を丸くしてこちらに振り向いたが、そんなの気にしない。

 まさかアーセルとレイルは主従関係で、アーセルはレイルをご主人様と呼ばせている!? それって、また『奴隷』とかの話じゃないの?

 そういえば、現代都市でも奴隷店があった。

 もしかしたら彼女も、あのレイルって男に奴隷店とかで買われたのかもしれない。そう考えるとあの男、一見すると優男っぽかったのに、なんて非道なヤツなんだ。これはもう一度会ったら追求しなければならない。そして、もしそうならば、彼女を解放しなければならない!


 つい手に力が入ってしまう。

 握りしめた手に爪が当たり、少し痛みが感じ始めた。


「あの、アーちゃん?」

「んぬ? どうしたのですかにゃ?」


 不安げな顔をしてこちらを見つめる子供が二人。彼、彼女の歳は、私よりも低いはずだ。

 そうだ、この三人の中で私が一番の年上なんだ。私がしっかりしなければならない。そして二人を守ってあげなければならない!

 いまこの瞬間にそう決めた。

 他の皆と別行動しているこの間だけでも、二人の仮のお姉ちゃんとして、導いていけるようになろう!


「アーセルちゃん、そしてジョン君! 私がみんなと合流するまで守ってあげるわ!」

「う、うん。そ、それは......ありがとうございます」

「でもお前は、あたしより断然弱いですにゃ」

「大丈夫よ! 何かあったらすぐに追い払ってあげるから!」


 胸をトンと叩く。これから完璧なお姉ちゃんを演じようではないか。

 あぁそう言えば、妹か弟がほしいと思っていたけど、まさか別の世界でその願いが叶うとは思ってもみなかった。この世界に来てから良いことあまりなかったけど、悪い事だけってこともなさそうね。

 二人も照れくさそうに笑っている。まったく二人とも、素直じゃないなぁ。




 話が終わって数分経った後、やたら長く、大きな立方体の塊が目に入った。それは、元いた世界でよく見かけた高層ビルに似た建造物だ。

 下から上にかけて徐々に黄色く点滅していく様は、年越しのカウントダウンのように鮮やかで綺麗だ。


「あっ! あの店って魔具屋かな、お土産買いに行かない?」


 塔の入口付近に『魔具屋 未来都市店』という看板を見かけ、つい思ったことを口走る。

 これでは子供だ、もう少し自重しないと、お姉ちゃんにはなれないわね。


「うん、いいですね。未来の道具とは相当な物でしょうし、何より僕自身かなり興味がありますね。アーセルさんもいいですか?」

「んー、特に行くとこないし、あたしも行こうかにゃ。この都市について調べることも、一応は目的の一つだってレイルが言ってたですしにゃ~」


 アーセルの軽い返事に聞きジョンは、にっこりとして頷いた。


「うん。では共に行くと言うことで、決まりですね」


 そんなこんなで、魔具屋に入ることになった。

 ジョンの言う通り、これから見る物が「未来の物」とか考えると、少しだけテンションが上がる。






 全体が黒と灰色、たまに黄色く点滅する巨大な建物の目の前。

 やけに縦に長く大きい、取手のない扉に近づいてみる。

 何も変化がない。もしかして自動扉かと思って近づいてみたのだが。これはただの壁で、別のところに入り口があったりするのかもしれない。

 そう考えると、今の行動は結構恥ずかしい。ただの壁の前で棒立ちしているという、愚かな自分の姿が、簡単に第三者視点で考えることが出来た。さらに、私の後ろでは哀れみの目を向けているであろう二人の弟妹分がいると考えただけで、嫌な汗が全身から吹き出し、流れだしてくる。


「あの、アーちゃん?」

「な、なにかな? ジョン君!」


 隣にいたジョン少年が、私が着ている紅いドレスの袖を引っ張りながら、いつも浮かべている心休まるとても良い笑顔を向ける。

 可愛らしい笑顔だ。だが、いまは彼の可愛さよりも、自分の気恥ずかしさの方が上回り、少しだけ動揺してしまう。


「たぶんですが、その扉は......」

「そ、そうね! この扉、みたいなのは......か、壁なのよ! ちょっとジョン君達を試そうかなって思って、わざとやってたけど、最後まで気付かなかったみたいね! でも大丈夫よ。人は誰にだって間違いがある。そう、たとえ扉と思っていたのが単なる壁だとしても。誰も責めたりしないわよ」


 咄嗟に出たのは、誤魔化す言い訳だった。二人を言い訳に使ったのは少し心苦しい。

 だがそれよりも、いまは店の入り口だ。困ったことに、どこにあるのか見当がつかない。


「うん、わかります。ただ念のため、その壁に手をかざしてみてください」

「もー、ジョン君。そんなことやっても、これただの壁だから意味ない――」


 私が話している間に、隣に来ていたアーセルが扉に手をかざす。

 壁はまるでカーテンのように、手をかざした箇所から徐々に折りたたまれていった。ただ開かれた壁の奥から現れたのは、廊下や玄関などではなく、銀色の波打つ鏡のような不思議な壁だった。


「んにゃ、開いたですにゃ」

「で、でもなんかまた壁みたいだし、やっぱり入り口は別のところとか......」


 と話している最中に、アーセルは躊躇いなく鏡の壁へと入っていく。それは吸い込まれるように、ゆっくりと侵食するように。アーセルは消え、後に残ったのは銀色に波打つ波紋だけになった。

 私はただ、その光景を呆然と見るしかなかった。こんな、普通に考えれるようなものではない事を、どう理解すればいいのか、まったく分からなかった。


「えっ!? ちょ、ちょっと待って。これは、どうなってるの?」

「うん? どうしたんですかアーちゃん。先ほどから気になっていたのですが。もしかして、どこか悪いところでもあるのですか?」


 私の動揺に気付いたジョンが、心配そうに首を傾げ、また問いかけてきた。彼はこの光景と状況を理解しているみたいだが、何故どうして理解できるのか、こっちが気になってしまう。


「これはクリエさんの鞄と同じ構造ですよね。簡単に言えば、この奥は別の空間と繋がっているのだと推測できます。恐らくアーセルさんも知っていたのでしょう。何の警戒もなく入ることが出来たのは、慣れているため、だと思います」

「そ、そうよね。うん、大丈夫。知ってたわ」


 胸を張り堂々とした態度で笑顔を見せ、精一杯にごまかす。

 ジョン少年は「そうですか、僕は知りませんでした」と笑いながら言い、彼もまたアーセルと同じく、平然と鏡の壁へと入っていった。

 後にの残るは、アーセルが入った時と同じような波紋が流れているだけ。

 その波紋が収まるときには、その場には静寂と、自分だけになってしまった。


「え、えっと。私は......」


 その直後に心に漂う不穏な感情。

 置いて行かれた、という虚しさと。一人だけという孤独感が、銀色に揺れる鏡に映っていた。

 そうだ、映っているのは自分だけだ。周りには誰もいない。先ほどまで話していたジョン少年やアーセルもいない。いるのは新着の紅いドレスを着た、この世界に来たときから少し伸びた小麦色の髪をした自分だけだ。


 心臓の脈打つ鼓動が早くなっていくのを感じる。

 誰もいない。何もいない。一人だけ。映っているのは私だけ。みんなどこかに消えてしまった。

 それはまるで、これから起きることを暗示しているかのようなモノだった。

 そう、私以外の、全員消えてしまう、そんな――


「アーちゃん、本当に大丈夫ですか? 体調が悪いようなら少し休憩をとりましょうか?」


 ジョン少年が鏡の壁の中から顔だけ出し、心配そうな顔を浮かべ、問いかける様に言った。

 彼の言葉で我に返った。何を考えているのだろう。別に心配することはない、何も問題ないはずだ。大丈夫、みんな私を置いて行ったりしない。


「ううん、大丈夫。ちょっとだけ、立ちくらみになっただけよ」

「うん、そうですか。ですが、あまり無理はなさらないでくださいね。何かあってからでは遅いので。少しでも体調が悪いと感じられたら、すぐに僕かアーセルさんに言ってください」


 優しくささやくジョン少年に対し「ありがと」と返事を返す。

 ジョン少年はその返答ににっこり笑い、右手を差し出し「一緒にいきましょうか」と鏡の中へと誘う。私はその右手を掴み、飛び込むように鏡の中に入った。






 …………






 鏡の奥で目に映ったもの、それは現代都市にあった魔具屋とは比べ物にならないほど巨大で、長大で、広大な建物だった。

 建物全体は円形上で、建物の壁には私達が入って来たのと同じ鏡の様なモノがいくつも貼り付けられ。建物の中央には巨大な円柱が突き刺さり、その周りを飾り付ける様に、眩暈がしてしまいそうなほどの量の、あらゆる種類の魔具が陳列されていた。

 円柱に飾られた道具を追うように見上げる。まるで天国まで続いていそうなほど、この建物は何処までも天高く、そびえ立つように伸びていた。


 店の中には外で見かけたのと同じ、全体が灰色で黄色く点滅して輝くキューブが、星の数と大差ないほど宙を浮き、細々と散り散りに動いていた。

 すぐ近くの鏡の壁からキューブが出てきた。キューブは円柱に飾られた魔具の前まで移動すると、止まった。動きを止めたキューブは捻じれ角が四方に分かれる。開かれたキューブの中からは飾られた魔具とは別の魔具が現れた。双方の魔具が砕け散り、破片はキューブの中と飾られていた魔具があった場所へと、交換するように集結する。四方に分かれ開かれ、分裂していたキューブが再び捻じれるように、取り替えた魔具を隠すように組み合わさる。一通り目的が完了したのか、新しい魔具を収納したキューブはそのまま移動し、出てきた鏡の壁へと入っていった。

 その一連の動作が、ほぼ全てのキューブに当てはまることにすぐに気付いた。


「この店も、なかなかすごいところですよね」

「そうですにゃぁ......。あたし等がいる遺跡都市の店はこんな大きくなかったし、量もこれほどまでないですにゃ......」


 共に来た二人も同じ感想のようだ。つまりは、私も同じことを思っていた。

 大きさも数も圧倒的だ。天空都市のところは行ってなかったから比較できないが、とりあえずアーセルが言うには、遺跡都市よりはあるみたいだ。

 


「どうだい、この都市の魔具屋は。この店はそこいらの都市とはまるで違う広々とした空間、充実した品揃え、店の外からでも品を即購入、即輸送。そして、完璧で完成された魔具達。どうです、とても美しいでしょう......?」



 背後から唐突に現れ、聞こえた男性の声。思わず振り向き、その人物を確認する。

 身長はソウジよりは少し高い男。襟を立てたままの、全身がフィットしたグレーのスーツを着て、同じ色のズボンを穿いている。手は黒い手袋を装着し、目が隠れそうなほど深く被った白いニット帽のような帽子。さらにどう見てもサイズがあっていない、大きな赤いシューズを履いている。


 人良さそうに笑顔を浮かべ、徐々に近づいてくる男性。

 ただ怪しさだけは、今まで出会った者達の中で一番だ。なんてたってこの男は、身体が逆さまのまま、宙を歩くように近づいてくるのだから。天空都市を拠点としていたチーム『神の集い』の一人、ルヴィヴィナとは明らかに雰囲気が違う。

 もしかしたら、彼も参加者なのだろうか。だがこの未来都市にいると思われる参加者はたしか、この都市を離れているハズだ。しかしそうなると、もしかしたら彼は、別の都市にいるはずの参加者?


「うん。あなたはこの店の店員ですか?」

「はぁい。そうでございますよ、お客様」


 営業スマイル的な笑みを浮かべながら男は答えた後「私の名前はこちらになります」と続けて胸に付けられた名札を見せた。

 名札には『魔具屋 未来都市店 店主 / カートン・シュベーリ』と書かれた文字が浮かび上がっていた。おそらく店の名前と、次に書かれているのがこの店員の名前ということだろうか。

 ジョン少年も同じように顎に手を当て確認していた。


「分かりました。ところでですが、先ほどから宙に浮いている灰色の立方体はどういった物なのですか?」

「アレはそうですねぇ。簡単に言えば、商品を入れるカゴ、のような物ですかねぇ。初めにあのカゴに交換する物を入れておき、次に商品と交換して、そのまま持って帰る。そのような動作をしていますねぇ」

「うん、なるほどです。つまりはあの鏡の壁の奥には商品を購入した人がいて、その場で即購入、即時輸送もされていた、といった感じでしょうか」

「その通りでございまぁす。あの鏡......『ゲート』を通じて、お客様は商品を購入していくのでぇす」


 飛び交うキューブを指しながら店主カートンは説明して、ジョン少年も数度頷いた。

 勉強熱心の彼の事だ、今の会話以上の事を理解したに違いない。後でこっそり教えてもらおうかな。


「そうそう、先ほどから思っていた事ですが、もしかして皆様は別の都市から来られた方たちですか?」

「うん、そういうことになりますね。ちなみに僕達は参加者ですが、あなたはどうですか?」


 ジョンが私たちの正体をすぐに言った。何の意味があるかはわからないが、秀才な彼のことだ、何か考えているのかもしれない。

 ねっとりとした喋り方をする、自らを店員と名乗る男。ジョン少年が言った「参加者」という言葉に一瞬だけ顔を強張るが、すぐに営業スマイルに戻った。


「安心してくださぁい。私は参加者ではありませんし、この店も参加者だからと言って商品を売らない、というような、そのような差別的な規則は存在しませぇんよ。我々は平等に、ただお客様の為に、お客様のお気に召した商品を売るだけでございますのぉで」

「うん、そうですか。それは安心しました。ここに来て何も買えないとあれば、僕の仲間が渋い顔をしますからね。ところで、この都市に住んでいると言われている参加者の存在を、あなたは知っていますか? 知っていたら出来れば、教えてほしいのですが」

「もちろん、この都市に住んでいる者なら知らない方はいないでしょう。彼等はこの、未来都市の『代表参加者』なのですから。それに、彼等が負けることがあれば、この都市の株が一気に暴落してしまいますからね」

「株が暴落......ですか?」


 何かを察したジョン少年は首を傾げ、顎に手を当てる。

 店主カートンは営業スマイルを浮かべたまま「例えばですよ」と言い、手を叩いて笑う。


「皆さんが現在プレイされているゲームは存じています。各都市の代表召喚者がそれぞれランダムで優秀な五人を、別の世界から召喚する。召喚された者達はゲームの『参加者』となり、他の参加者を全滅させるまで戦わせる。これはどの都市、どの人でも知っている一般常識です。ではこのゲームに参加していない、例えば都市の民たちは、ゲーム参加者の事をどう思っているでしょうか?」


 店主カートンの問にジョンは目線を下げ、考える素振りを見せた。

 都市に住む人達から見る私達『参加者』の存在、そんなの考えてもみなかった。


「......はじめは資料で書いてあった通り、災害のような存在で、関わりを持ちたくない者ばかりだと考えていました。現にあの召喚者の証であるカードを見せた時の反応は、初めて会った時とは全く違う反応を示していました。しかし、先の参加者同士の戦いを見ていた人々の中には、資料に書いてある事とは違い、興味が無いとは思えない反応を取っていました方たちがいた。そこで僕は考え方を変えました。参加していない者達、そう、まるで、スポーツ観戦をしている客のような、そんな感じなのだろうと考えました」


 淡々と語るジョン少年に、カートンは瞳を閉じ、数度頷いた。


「スポーツ観戦......。そう、その通りですよジョンさん。彼等は参加者を、まるでスポーツ選手として考えています。それも大々的にとりあげられる、一大イベントの、ですよぉ。そんな選手達にファンが付かないはずがありません」

「つまり貴方が言う株とは、ゲームに参加していない、この世界に住む原住者の人々、という事ですか?」


 指を一本立て、「そのとおりです」と店主カートンは笑う。

 ジョン少年はそんな彼とは対照的に、九歳とは思えないほど険しい顔をしていた。

 私はと言うと、まったく訳が分からない、ついていけない話だ。アーセルも話に飽きたのか、そこら辺を歩き回っている。さすがに商品である魔具には手を出していないが、いつ手を出してもおかしくない状態だ。


「実はですね。都市に住む人の数とは、ゲーム参加者の勝敗と比例すると統計で出ているのですよぉ」

「うん、つまり戦いに負けると、その代表の都市の人口は減り。逆に勝つ事で人口が増える、ということですか?」

「それと魅力的な存在かどうかも、ですかねぇ。如何にも屈強そうで、ゲームを勝ち残ることが出来る存在かどうか、それらを彼等は見ているのです。ところでですが、あなた方の都市はどうですか? 人の数は、多いですか? 少ないですか?」


 ジョン少年はまた考えるそぶりを見せた後「少なくは、無いと思います」と答えた。

 たしかにジョン少年の言う通り、現代都市に住む人達は、天空都市やここ、未来都市に住む人達よりも数は多い気がする。まだ一日もいないし、もしかしたら家にいるだけで、予想よりも多いかもしれないが、それでも現時点では人の影はあまり見ていない。だがそれが、何か問題なのだろうか。

 ジョン少年の答えに「そうですか」と頷き、続けて話した。


「では逆に、この都市の人が少ないのは何ででしょぅか? 以前行われた参加者同士との戦いも勝利しましたしぃ。知っての通り、彼等はここ十数年、全ての戦いを勝っています。それなのに、人口が増えないのは何故でしょうか?」

「うん、これは僕の予想ですが。前回のゲームで、一番に最初に敗退したから、ですか?」


 ジョン少年の問に、店主カートンは満足そうに口の端を上げた。


「その通りですよぉ、そのとおり。前回のゲームでのこの都市を代表する参加者チームは、供物も契約の宝縛も失ったため再召喚も出来ず、最初に全滅し、敗退しました。結果がいまの未来都市人口減少の原因になったのです。そのため、例えいまのゲームで勝ち越していたとしても、この都市には供物の数が少なく、噂では予備の供物も無いと言われています。それはつまり、彼等が一度でも負ければ、それでこのゲームは終わり、ということです」

「ですが僕等のいた都市では、この都市にいると言われている参加者は、かなり人気でしたよ? それでも来る人が少ないのですか?」

「もちろん来る人はいますよぉ。彼等、チーム『ドラゴンズフォース』はとても魅力的ですからねぇ。それでも移住が少ないのは、それとは逆に、彼等は血の気が多く、無駄な戦闘を好んでいるからです。知っていますか、彼等がいまこの都市にいない理由? 彼等は鍛錬と称して、都市外に存在する異獣と戦っているからと言われています。それと、これも噂ですが、チーム同士で戦闘訓練もしているとか。そんないつ全滅しても可笑しくないチームが所属する都市など、来たくないでしょう?」

「うん。たしかに危ないですね。それでも、負けて不利益なことなどは無いと思うのですが。それでも、こんな、ただのゲームで人口に影響がでるのですが?」


 何気ないジョン少年の問いに、カートンの笑みが消える。

 それは暗く、負の感情を顔に出したような、それほどの険しい顔つきになった。


「ただのゲーム? 君はこの世界に来てまだ一年も経っていないからわからないからとおもうが、この世界のゲームとは、非参加者に許された唯一にして最大の娯楽なんだよ。それを、それをただのゲーム? ありえないね。そんな言葉一つで、この世界の者達をまとめてもらっては困るっ!」


 カートンの怒鳴り声が店の中を反響する。

 話を途中から聞き流していたためか、思わず肩が一瞬だけ上がった。

 何故ここまで怒りを表す必要があるのだろうか。先ほどのジョン少年との会話を思い出しても、何処に怒りを表す箇所があったのか、私には理解できなかった。

 荒い息を徐々に整えつつ、カートンは顔を手で覆い隠す。


「すみません。僕はどうやら誤解していたみたいです。この世界で僕等が行っているゲームとは、それほど重要なモノとは、考えが及びませんでした」


 ジョン少年が謝罪した。彼が理解できていないんだ、私が理解できないのも無理がないのかもしれない、それでも怒鳴るほどの事なのだろうか。


「いや、いいんです。こちらこそ、いきなり声を荒げてすまないねぇ。さて、つい話が長引いてしまった。話はこの辺にして、商売をしないといけないねぇ」


 手を退けたカートンは、先ほどまでの営業スマイルに戻っていた。

 彼は次に右手を右から左へ流れるように動かす。その右手の軌跡を描くように、天空都市で使用していた、薄青色の板の様なモノを出現させる。店主カートンはさらに、出した板を三つに区切り、私たちの足元へと投げた。


「その板の上に乗ってください。すると自身が発するフォースの流れを操ることが出来るようになります。発する力を操れば、身体は空間を自由に移動することが出来るようになります」

「うん。それはつまり、宙に浮くことが出来るということですか?」

「簡単にいえばそうなりますね。すこしコツが必要ですが、皆様なら大丈夫でしょう」


 店主カートンは簡単に軽々しく言った。普通に考えれば宙を自由に移動するなど、はっきり言えば不可能だと、私でもわかる事だ。

 とりあえず言われたとおり板の上に乗ってみる。

 乗った後すぐに板に変化が起きた。板はまるで身体全身に纏わりつき、溶け込むように消え、消滅と同時に自身の身体が板と同じような色に発し初める。

 隣にいたジョン少年やアーセルを見てみると、二人も私と同じように輝いていた。


「こんなのでいいのかな?」

「うん。たぶんそうだと思いますが、特に変わったことは――」


 ジョン少年が話すその隣で、アーセルが猛烈な速さで天井に向かって飛び立った。

 あまりにも唐突に、彼女は高速で消えてしまった。衝撃的な光景に思わず思考が停止し、しばらくしからハッと我に返った。慌てて天井を見上げてみるものの、聞こえてくるアーセルの悲鳴と宙を移動するキューブ以外、何も見えなかった。

 その後気になったのが、この店の天井がどこまで続いているのか、ということだ。あんな速さで壁にぶつかったりすれば、かすり傷程度では済まないだろう。


「あ、あの子、大丈夫よね?」

「う、うん。彼女は僕らよりは断然に強い方ですので、たぶんですが、無事だと思いますが」

「悲鳴も聞こえなくなったけど。まさか天井にぶつかったり、してないわよね?」

「それは、ありえるような、ないような......」


 私たちが見上げながら、発射していったアーセルを心配していたところ。同じく彼女が飛んで行った方を見下しながら、営業スマイルを浮かべていた店主カートンは「大丈夫でぇしょう」と根拠ありげに言った。


「この店の天井と床には、移転装置と同じ様な方法で繋げています。つまりは――」


 カートンが見上げるように床を見る。

 彼が見る方向へ視線を向けると、先ほどと同じ様な速度のアーセルが飛び出し、先ほどと同じ様に悲鳴を上げながら天井に向かってまた飛んで行った。


「天井と床がループするようになっていまぁす」

「うん、そのようですね」

「ちょっ、ちょっと! だからってあのままにしとけないわ!」


 私の心配に対し、アーセルを見下げる店主カートンは「大丈夫でしょう」とすぐ言った。


「彼女の場合は、少し力が入り過ぎたからでしょう。それに運動神経の良い方ならば、そろそろ制御方法が分かるかと思いますよぉ」

「その制御とは、どうやるのですか?」

「簡単です、ただ念じるだけです。行きたい方へ。向きたい方向へ。ただ願い、身体をゆだねるだけです。それで、この店の中を自由に移動することが出来るようになります」

「この店ということは、外に出れば戻るのですね?」


 ジョン少年の質問、営業スマイルの店主カートンは「そうなりますね」と答える。


「うん、それは残念ですね。もし外でも同じように使えたら、これを購入しようと思ったのですが」


 ジョン少年の冗談を聞き、店主カートンは高笑いをした。

 何がそこまでおかしいのか分からないが、もう彼との会話はジョン少年に任せよう。はっきり言って彼との会話は理解が追いつかない。何か裏を感じるのだが、感じるだけでそれ以上の事は何一つ分からないし。もしかしたら、今までの会話はただの商談で、同情とかなんかで物を買わせようとかしているのだろうか。


「では実際に動きましょうかぁ。私の経験上、考えるよりも行動したほうが早いでぇすよ」


 店主カートンは身体を逆さまのまま、私達の視線よりも上がっていった。

 彼を少しの間見た後、ため息を吐く。

 何ともふざけた店だ。自由に飛べるとか、子供だましもいい加減にしてほしい。だけど、本当に自由に飛べる事が出来たとしたら、カッコイイな。

 ただ、瞳を閉じて、念じてみる。

 身体が軽くなっていき、少し地面を蹴るだけで宙に浮く。手で示した先に移動する事が出来て、泳ぐようにバタ足をすれば移動が速くなる。両手を広げることで減速して、両手をグッと握ることで停止できる。

 そんなイメージを、頭の中で浮かべてみる。


「君は思ったよりも、身のこなしがいいね」


 瞳を開けると、店主カートンの傍まで来ていた。

 下を向くと、もたついているジョン少年と、ぐったりと大の字でふわふわ浮いているアーセルが見えた。

 足は地面についていない。周りを飛び交うキューブがぶつかりそうになり、それを軽やかに避ける。このままだと危険と判断して、とりあえず飾られた商品の一つまで移動する。


 私がいまどうなっているかというと、簡単に言えば浮いている。 

 驚きだ。ワイヤーアクションでも、何か宙に浮く物とかにも乗っていない。本当に自分の身体だけが浮いている。


 移動の最中、店主カートンに差し出していた手を握られ、吸い寄せられるように持ち上げられた。

 営業スマイルの顔が間近だ。綺麗な黄色の瞳、右目の下にホクロがついているのも分かった。口は笑っているが、眼はまっすぐ私を直視している。薄い唇が近づいて来たとき、思わず彼を押してしまった。

 距離が徐々に離れ、慌てて両手を握り停止する。

 押したことに対しては悪気はなかった。ただの、条件反射だった。彼はまるで、そう、ジョン少年のような感じが、一瞬だけしたのだ。あの見透かすような感じは、私は苦手だった。


「大丈夫でぇすか?」

「は、はい、大丈夫です。こちらこそ押してしまい、ごめんなさい」

「いぃえいぃえ、まだ慣れていないからでしょう。どうぞお手を、この店を案内してあげますよぉ」

「あっ、は、はい。ありがとうございま――」

「アリシアさん!」


 差し出されたカートンの手を掴もうとしたとき、ジョン少年が声を荒げた。

 下を見ると、彼は手足をバタバタと動かし、なんとか上がろうともがいているところだった。


「すみませんが、手伝ってくれませんか? どうも僕は、この制御が苦手みたいでして......」


 もの凄く必死に、慌てた様子でジョン少年が私に助けを求めてきた。どうやら彼にはこの浮遊術が難しいらしい。何か勝てるものが増えて、少し気分がよくなった。

 にっこり笑い「いいわよ」と返事をした後、ジョン少年の近くまで移動した。途中、何か舌打ちっぽいものが聞こえたけど、たぶん宙に浮くキューブに当たった為だろう。こんなにあるんだ、当たらないほうがむしろ不思議だ。


「アーちゃん。彼には気を付けてください」


 ジョン少年が唐突に険しい顔で言ったことに対し、思わず「えっ?」と声を漏らす。


「彼は僕の話術を回避できるみたいです。そしていま、アーちゃんが狙われていました。彼は参加者ではないと言っていましたが、会話の途中、いくつか腑に落ちないところもありました。しかし、残念ながら、これといった根拠がまだありません。それでも、何かしら関係があることは、間違いないのでしょう」


 ジョンが続けて行った。カートンとの会話の中で、ジョン少年がどれだけ情報を手に入れたか分からないが、カートンを危険視していることは理解できた。


「じゃあどうするの? この店から出たほうがいいのかな」

「いえ、まだ大丈夫です。すぐ店を出ますと、逆に何かをしてくる可能性があります。いまは彼の流れについていきつつ、機をみて自然に店を出ましょう」


 ジョン少年の耳打ちした提案に「わかったわ」とカートンに気づかれないように、小さく頷く。


「大丈夫ですか? ジョンさん」

「うん、大丈夫ですよカートンさん。アーちゃんのおかげでなんとかなりそうです。ですがアーちゃん、しばらくは僕と一緒にいてください。まだおぼつかない感じなので......」

「え、えぇいいわ! 少しはお姉さんらしい事をしないとね!」


 堂々と胸を張ってみたら、危うく後ろに一回転しそうになった。まだ慣れないな。

 それにしても、いつも冷静なジョン少年が珍しく焦っていた。それほど彼、カートンは危険だということだろうか。一見は確かに怪しそうだが、外形で判断してはいけないということくらいは、もう十分理解していたはずだった。どうやら私も、まだまだということか。


「......わかりました。彼女も制御出来ているみたいですので、さっそくこの店の中をご案内しますよ」

「よろしくですにゃ~」


 いつの間にか隣に来ていたアーセルが手を上げ、元気よく答えた。

 彼女はどうやら、制御の方はもう大丈夫のようだ。






 しばらくの間、店主カートンの案内で魔具屋内を案内してもらった。

 なかなか充実した時間だった。改めてこの世界の魔具という道具のすごさが分かった。

 特に楽器類がすごかった。トランペットやバイオリン、パイプオルガンなどをはじめとした、見た事がある楽器から。ギターとピアノが合体したような楽器。球体の中に入ると、壁じゅうがキーボードにボタンみたいなのに埋め尽くされている楽器。一番驚いたのは、飲んだだけで、マイクの代わりになるという、とんでも液体だ。怖くて飲んでいないけど、けっこう便利そうだ。


「以上で、商品の紹介を終わりますが、何か気になった魔具などはありましたか?」

「んー、少しはあったわね。でも使い方がしっくりこないっていうか、分かりずらいのが多いわね」

「新しいモノは、大体はそんなものですよ」


 店主カートンは相変わらず逆さまの状態で、営業スマイルを浮かべながら答えた。

 そうだ、みんなのお土産を買う予定だったんだ。たくさん魔具を見てきたけど、ユリアーナが喜びそうなものもあったし、なにか買っていこうかな。


「うん、そういえば。アーちゃんはいまお金、持っているのですか? それか交換できそうな物とか」


 ジョンのその言葉に、動きが止まる。

 そうだった。いま私は、何も持っていなかった。

 クリエットに貰った、ピンク色の可愛らしいポーチはユリアーナ博士に貸してしまったし。もしかしたら、何かしらあると思い、二日前買ってばかりの新着のドレスの袖、スカート、胸元、腰回り等、隅々まで探ってみる。が、結果は惨敗。硬貨はもちろん、交換できそうな物は何一つ無かった。


「えっと、ジョン君は、何か、持ってる?」


 出来るだけ優しく、お姉さんらしく聞いてみる。

 その問いに対しジョン少年は、着ていた服のポケットを全て裏返し、両手を上げ、首を横に振った。

 彼も何も持っていないとは、観光に来たのに何も買えないと言う生殺し状態だ。こんなことならチームが分かれる前に、いくらかクリエットから貰っておくべきだったなぁ。


「そっか、じゃあ諦めよっか」

「うん。買い物はまた今度にしましょう」

「うにゃ? なんだったら、あたしが払おうかにゃ?」


 会話に入ってきたアーセルが、穿いている短パンのポケットから、以前クリエットが金貨を取り出すときに使用した、小さなチップのような物を取り出した。

 たしか、あれも魔具だったはずだ。中の渦に手を入れ、引くと、大量の金貨が出てくる不思議なチップ。彼女もそれを持っていたらしい。


「アーセルさん、ありがとうございます。ですが、また今度チームのみんなで来ようと思います」

「そうですかにゃ? じゃあ、あたしもまた今度にしようかにゃー」

「アーセルもいいの? 何かさっきから見ていて欲しそう物とかあったみたいだったけど?」


 アーセルはリボンが付いた尻尾を振って、少し考える素振りを見せたが、すぐ「大丈夫ですにゃ」と笑って答えた。

 本当に、彼女は猫みたいだ。たまに顔を手で擦ったりするし。何よりあの耳、耳がいいね。ピクピク動いている、とっても可愛らしい。


「そうですかぁ、残念です。しかし、押し売りというのも、私の信条に反するのでやめておきましょう」


 会話を聞いていたと思われる店主カートンは、そこまで残念そうな顔はせず、初めて会った時と同じ営業スマイルを浮かべたまま言った。


「うん、すみません。いろいろと商品を見せて頂き、ありがとうございました」

「いぃえいぃえ。最近は直接お店に出向くお客様が少ないので、久しぶりに自慢の店を案内できて、こちらこそお礼を言わなければいけません。ありがとうございましたぁ」


 店主カートンはニット帽をとり、頭を下げた。

 とても素直で礼儀正しい。

 もしかすると彼は、ジョン少年の気にし過ぎているだけで、本当にただいい人なだけかもしれない。今度またこの店を来るときがあったら、押したことをちゃんと謝ろう。心の中でそう決意した。






 …………






「うん。思ったよりも時間が掛かりましたね」


 ジョン少年の言う通り、店を出たときには空はすでに暗くなり始めていた。

 未だ宙を行き交い黄色く点滅する大量のキューブと、常時動くビル群の点々とした、青く淡いライトの輝きが徐々に増していくのが分かる。

 この光景は、どこか都会の夜景のように美しく、儚い気分にさせられる。


「そうね。あの店、かなり大きかったからね」

「たしかにおおきかったですにゃ~。それにあんなによく飛んだことは、初めてだったですしにゃ~」


 アーセルは店の中で宙に浮いていた事を思い出しているのだろうか。手を頭の後ろで組み、目を閉じて身体を左右に揺らしながら歩いてる。

 そういえば彼女、最初から、かなりぶっ飛んでたわね。


「うん、そうですね。アレは、凄かったで......んっ? ちょっと失礼します」


 ジョン少年が話を途中で区切り、少し離れたところでエステルを起動させた。

 どうして、以前クリエットから貰ったアームリンクという魔具を使用しないのか疑問に思うが、どうせ相手は、あのソウジだからだろう。彼こそ何をするか、そしてしでかすかが、わかったもんじゃない。


 何かが肩に触れるのを感じ、振り向く。

 どうやらアーセルが私を呼んだみたいだった。彼女はジョン少年が使用しているエステルを指で差して、首を傾げた。


「あー、あれはエステルっていう電話型のペンよ」

「電話、ですかにゃ? それは念話を使用する道具とは別の物なのですかにゃ? でも見たことないし、さっきの店でもなかったと思うですにゃよ?」


 アーセルは動物の耳をピンと立たせ、驚く表情を浮かべた。途中、知らない単語が出てきたが、特に気にすることもないだろう。それより、自分のチームが創った物が自慢できる物と知り、少し鼻が高くなる。


「そう! アレはね、ソウジが創ったオリジナルの道具なのよ! アレを使って、えっと、なんて言うんだっけ? オール・レンジ・ビーム、だったかな? それを放つ事も出来るのよ」

「それって、あの光の矢の事ですかにゃ?」

「あなたたちはそう言ってたわね。その通りよ! 彼は驚くことに、大量破壊兵器を生み出したのよ」


 答えたと同時に脳裏で、光を浴びて、もがき苦しむ千人ほどの兵隊が浮かび上がった。

 そうだ。彼は大量破壊兵器を生み出し、操作している。

 忘れていた。彼は、大量殺人鬼だった。あんないつも笑っている、何考えているか分からない男は、すでにこの世界で多くの人を殺している、危険人物だ。


「なるほどですにゃ。アレが、起動装置ですか、にゃ~」


 可愛らしい猫特有の笑顔を見せるアーセル。何気に私は彼女のことが好きなのかもしれない。

 だが、彼女も参加者だ。つまりは、ゲームに勝つには、彼女を、こ、殺さなければ、いけない、のだ。

 あの時は、ただ帰りたい、という気持ちだけで言ってしまったが。帰るには、分かる方法だけだと、私達以外のチームを皆、殺さなければいけない。

 そんな非道な事、私には、出来ない。


「うん、わかりました。ではまた......。すみません、急にソウジさんから連絡がありまして......アーちゃん、どうかしましたか?」


 ジョン少年が通話を終えて戻ってきた。

 首を振りさっきまで考えていた事を忘れる。大丈夫だ、まだ帰る方法はこのゲーム勝利以外にもあるかもしれない。

 今は忘れて、また後で考えればいい。


「ううん、何でもないわ。それで、やっぱりソウジからだったのね。なんて言ってたの?」

「うん。簡単に言えば、先ほどチーム『ドラゴンズフォース』の面々が都市に戻られたそうで、明日時間を取って面会をする約束した、という内容でした。ついてに、城の中で今日は泊まるということで、これから城に集合とのことです。あと、レイルさんの伝言で、アーセルさんもこの都市の城、ノヴォエラ城に来てくれ、ということでした」


 レイルの伝言を聞いたアーセルは「了解ですにゃ!」と元気よく頷いた。






 しばらくは三人で移動した。ノヴォエラ城に着いてすぐ、アーセルとは別れた。なんだかんだで彼女と一緒にいて楽しかったし、もっと仲良くできるような気がした。

 そうだ、争う必要はないんじゃないのかな。

 話し合えば、この先きっと上手くいく。みんなでならこの世界からの脱出する方法も見つかるかもしれない。


 私はすでに集まっていたソウジ達に近づきつつ、そう実感していった。



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