20 観戦
ソウジ、ユリアーナ、そしてジョンの三人が、階段を駆け上がって来るのが見えた。
彼等達はいったい、これほど重要なことが起きていたというのに、どこで何をやっていたのか。
思わずため息が漏れてしまった。
すでに事が起きてから十数分。たったそれだけの時間で、半分以上の出来事が終わった。むしろもうクライマックスだ。
彼等が来たとき、すでに私――クリエットと銀騎士ワスターレ、すこし離れたところにはアリシアとロディオがいた。
アリシアの後ろには労働者達の姿も見える。たぶん彼女が連れてきたのだろう。
その労働者たちによって綺麗になった施設――に付けられた窓から外の風景を眺める。もう少し具体的に言えば、街の上空に突如として現れた、いくつもの巨大なモニター。そのひとつを見ていた。
アリシアとロディオも同じく、先ほどからモニターを見ているが、見始めてから今に至るまで、ずっと口と目が開きっぱなしだ。目の方は思い出したかのように、たまに瞬きをしているが、それでも数が少なく、身体はまるで銅像のように固まって動かない。それほど彼女達が見ているモノは衝撃的だったのだろう。
当たり前だ。アレが本来召喚されるはずの参加者の、その戦闘風景なのだから。
「それで、クリエちゃん。何ですかな~」
「遅い、もう決着がついてしまうところです」
ようやく、私の近くにソウジ達がやって来た。彼等にも街の上空に浮かぶモニターを見るように指で示す。
モニターに映っているのは草木が無く、大きな塀に囲まれた場所。画面中央には人の影、数は九つ。
その一つは見覚えがあった。
いや、忘れるはずかない。私がソウジ達をこの世界に召喚して初日、あの絶望的状況で初めて出会ってしまった三人の参加者の内の一人。
胸がはだけた、ピッチリとした緑色の服。足の先が見えないほど伸びた裾をした、橙色の袴を穿き。流れる風にサラサラと乗る、薄い緑の綺麗で滑らかな長髪。
あの時、あの場所で、同じ格好をした女性。
縁竜カト・フィンの姿が、浮かぶその巨大なモニターに映っていた。
映る彼等を見ようと、街の人たちも皆立ち止まり、巨大モニターに映る光景に目を輝かしている。中には賭けらしき事をしている者や、流行りの球体型カメラを掲げ、必死に映像を録画しようとしている者など、その数は街を歩く者ほぼ全員といったところだ。
所詮ここにいる彼等は皆、ただの傍観者だ。
この都市にいる限り、自分達には危害がないと思い込んでいる。哀れで虚しく、都市から一歩でも外に出れば死ぬ危険が付き纏う、そんなことにも気づかず生きている気の毒な者達。
どこの都市も同じだ。参加者や私達、召喚者の命なんて、はっきり言って彼等には関係ない。ただ彼等にとってはこのゲームとは、世界共通の娯楽の一つなのだから。むしろ私たちが死ぬことを望んでいるのだろう。
『ゲーム』によって世界の経済は回っている。
それがこの世界での、一般常識だ。
などと考えながら、再びモニターに目を戻す。
窓から眺めても十分な情報が手に入る巨大なモニター。立体映像に近いが、これはただ二次元の画像を伸ばして、物理的に距離感を少しだしているだけ。だが不思議なことに、映像は、どこから見ても同じように見えれるという工夫はされているみたいだ。
たぶん、このモニターも魔具の一種だろう。私は見たことがないけれど。
戦闘はすでに『ドラゴンズフォース』が、対戦相手である参加者チーム『王の法則』を圧倒している状態だ。
構図はざっと見て五対二となっている。
『王の法則』の騎士は、二人とも似たような全身鎧を身に纏い、それぞれの剣の溝に、赤と青の色彩が彫られたロングソードを持っている。他の者達は、先の数十分でそれぞれ、カト、ギース、リコによって『退場』済みだ。カトは知っていたが、ギース、リコはまだ視ていないため、能力やステータスが分からない。やはりモニター越しでは見えないか。
二人の少し後ろで隠れる様に、戦闘で生じた瓦礫の一部に身を潜めている紫色の髪をした女性がいる。
格好は私の着ているモノに似た、それでいて少し露出度があるドレスだ。色は薄い紫で、妙に化粧が濃いような気がする。
彼女は知っている。
名前は『プリアリス・ファンドゥラ・ショウエール』。彼女も私同様、召喚者の一人で自然都市『ファンドゥラ』の王女。どうやら『王の法則』を召喚したのは彼女みたいだ。
彼女の右薬指には、良く目立つ紫色の宝石が付いた指輪をしている。私の記憶が合っていれば、あの指輪も私が持つ髪止めと同じ、召喚に必要な道具、『契約の宝縛』の一つのはずだ。
契約の宝縛と、召喚に必要な『供物』さえあれば、また異世界人を召喚できる。
敵チームを全滅させても、ゲームさえつづいている状態で、さらに召喚に必要な供物があれば異世界人を再び召喚し、ゲームを継続。契約の宝縛を破壊をすれば召喚できなくなる、が。参加者は残るため、以前としてゲームを続行できる。
つまり、このゲームに勝利するには、敵チームの全滅と契約の宝縛の破壊。その二つを同時にやることが、ゲームで勝利する一番の近道となるのだ。
「もういい! あとはオレ一人だけで十分だ、二人同時にかかってくるがいい!」
モニターから男性の声が聞こえた。
声の主はチーム『ドラゴンズフォース』のリーダー格であろう褐色肌の人物――ヴァン。
服装はカトと似ている。
胸の開いた、身体の輪郭がはっきりと分かるほどぴったりな服。裾が地面まで伸びた袴を穿いてる。
他の者達も同じような服装、大きな違いはそれぞれの色彩くらいだ。
ヴァンが着る服は紫色。
彼の後ろに匿われるように立っている白い肌の女性――ミナは、肌と同じくらいの純白。
彼女の後ろにいる、先ほど戦闘していたカトは前回であった時と同じ緑色。
そのカトの隣にいる少女――リコはすこし明るい茶色。
彼女達のさらに後ろにいる、ヴァンよりも筋肉質で、口ひげを生やした男――ギースは黒色を基調としている。
最後に、ギースのに匿われるように後ろにいる、私やプリアリスと同じようなドレスを着た女性。彼等『ドラゴンズフォース』を召喚した召喚者、未来都市『ノヴォエラ』の代表である王女。
神の声を持つ少女――『エミュー・ノヴォエラ・バーン』。
ドレスの色は淡い赤色。三つ編みに纏められた髪は、カトよりも少し濃い緑色をしている。
その彼等がいま、戦闘を優位に進めている。だが、気になることがある。
彼等はいま武器を持っていない。
あのカトもだ。以前出会った時は、彼女は曲がった剣の様な物を持っていたが、いまは素手だ。腰にも下げていない。たぶん他の参加者に自分たちの実力を悟られないようと考えたからだろう
いま映っている映像は全世界の、あらゆる場所に中継されている。
戦っている彼女たちも、そのことを知っているはず。
だからこそ武器を隠している、バレれば対策を取られかねないから。
「くそっ! お前たち何をしている、二人がかりなら一人くらい始末できるでしょ! さっさとやりなさい!」
紫の髪を持つプリアリスが、怒鳴るように残っている騎士二人に指示する。同時に、チーム王の法則の騎士二人が左右に別れるように動く。
色黒の男性ヴァンをちょうど挟む位置に着き、止まり、剣を前に出し、構える。
瞬間、同時に仕掛けた。が......。
「ほぅ......、共に殺そうかと思っていたが、避けたか。貴様は他の奴らよりも、少しはマシの様だな」
ヴァンは青い剣を持っていた騎士の首を鷲掴みし、持ち上げながら、離れた場所でしゃがみ込んだ、赤い剣を持つ騎士に語りかける。
持ち上げられた騎士の腹には、彼が持っていた青いロングソードが突き刺さり、背中を貫通している。
何が起きたかを簡単に説明すれば、騎士二人が同時にヴァンに突きを放った。だが、その突きの攻撃は避けた後、逆に彼は、騎士の持っていた武器へと手を伸ばした。
一人は剣を取られ、そのまま流れる様に、剣を腹に突き刺し、次に首を掴み、へし折る。
もう一人の騎士は右腕を捻り、武器の奪取を回避。すぐさま距離をとった。
この一瞬で分かるように、同じように見えた騎士二人の力量の違いがはっきりとわかる攻防だった。そして最後に残った騎士は、かなり強い。いままで倒されてきたどの騎士達よりも、断然な力の違いがある。
そのことをヴァンも察知していたのだろう、先ほどから最後の騎士をずっとマークしている。
油断など全くしていない。
「さて、残ったのが貴様一人だが、どうする?」
ヴァンは掴んでいた一人を放り投げ、最後の騎士に問いかける。
放り投げられた騎士は空中で塵になり、消え去る。この世界での参加者の最後はいつもこうだ。死体など残らない、綺麗に世界の一部となって消滅する。
「もちろん戦うさ。全力で、な」
騎士が言い、ゆっくり立ち上がる。
持っている剣の柄を両手で掴み、地面に突き立てる。力を込め、唸り、突き立てた剣から出現した青色のオーラが、騎士の全身を包む。剣が徐々に大きく、太くなるにつれ、騎士自身も鎧と同時に膨大化していく。
しばらくして突き立てた剣を地面から抜く。
剣はだいたい三倍近く、騎士自体もだいたい元のサイズから一・五倍ほど大きくなっている。
騎士はその巨体と巨大化した剣を軽々振り回し、剣をヴァンに向け突き出し、構える。
「ほぅ、ならば俺も、せめてもの礼儀だ。私専武器を用いるとしよう」
ヴァンがそう言うと右腕を前に突き出し、手を開く。
手の平の中央から黒い炎のようなものが現れ、ヴァンはその炎を握り、そして思いっきり引く。黒い炎から現れたのは赤黒い、巨大な斧。その斧には亀裂が入っており、亀裂の隙間から赤い光が脈動するように光っている。
ヴァンは斧を引いた状態で腰を落とし、いつでも走り込める姿勢になる。
二人の間に沈黙が流れる。
微動にしない。モニターから流れる風の音が、現場の静けさを物語る。
私は静かに右眼の神眼の能力の一つ、『解視』を発動し、この戦いを完璧に理解できる準備をする。
永遠に続くかのようなにらみ合い。
だが、永遠ではない。
先に動いたのは騎士の方だ。
騎士はヴァンの背後を取り、いまにもその巨大化した剣を振り下ろそうとしていた。
剣を振り落とされるよりも早く、ヴァンは身体を回転させ、騎士の開いた脇に赤く脈動する斧で斬りつける。いや、殴りつけると言ったほうが近いかもしれない。
鈍く、騎士が着ていた鎧がひしゃげる音を立てた後、吹き飛ぶ。が、騎士はまだ生きている。
剣を地面に突き立て減速し、態勢を整えようと立ち上がったところに、今度はヴァンが接近し、正面から堂々と斧を振り下ろす。下ろされた斧を騎士は地面から抜いた剣で弾く。ヴァンは弾かれた力を利用し、身体を回転させてた後、今度は下から斬り上げる。剣を戻しきれていない騎士は、ヴァンの斧をバックステップで回避するが、ヴァンも地面に右足がついた瞬間、蹴り、宙に飛び、すぐさま騎士の背後に回り込む。
ヴァンは身体をひねり、騎士の左脇腹を狙い、薙ぎ払うかのように斧を大きく振るう。騎士も剣を後ろに回し攻撃を防ぐが、体格差があるにも関わらず騎士が力負けし、すこし前によろめく。透かさずヴァンが左足で、態勢の整っていない騎士の背中に蹴りを入れ吹き飛ばし、さらに追い打ちをかける様に自らも地面を蹴って、接近して斧を振り下ろす。
だが、ヴァンの攻撃は空振りし、騎士の姿が消える。騎士はヴァンに飛ばされた後、騎士自身もその勢に乗って地面を蹴り、加速した。それが異常な速さだっため、消えたと錯覚したのだ。
騎士は一蹴りで塀まで移動すると、そのまま壁を蹴ってヴァンに急接近し、斬りつける。
ヴァンは難なく攻撃を弾く。だが、騎士も弾かれた力に身をゆだねる様に壁まで飛び、再び態勢を整え、壁を蹴ってヴァンに今度は左から剣で攻撃を仕掛ける。その攻撃もヴァンは弾き、騎士も再び壁を蹴り、攻撃を繰り出す。
同じような攻防が何度も続き、辺りには剣と斧がぶつかり合う音が響き渡るのみになってきた。
いまのところ、地形を利用して縦横無尽に攻撃を仕掛けている、赤い剣を持つ騎士が押されているように見えるが、対するヴァンは余裕だ。その場で動かずに、ただ向かってくる攻撃を弾くだけ。騎士が疲れ、動きが止まったところを狙うつもりなのだろう。
現に少しずつだが、騎士のスピードが徐々に落ちてきている。スピードもだが、勢いもなくなりつつある気がする。ヴァンが攻撃を弾く感じも、身体全体で受けていた初めの頃とは違い、右手で適当に弾いている感じになってきている。
そして、ついに......止まった。
「どうした、もう疲れたのか?」
斧を肩で支え、つまらなそうにヴァンは騎士に問いかける。
「いや、ただ貴殿にこれ以上こんな攻撃をしたところで、どうせ無意味だろうと思っただけさ」
「ならば、次はどうする? 曲芸でもするか?」
「悪いが芸は苦手でな。代わりにマジックを披露してやるよ」
騎士は剣を天に突きだす。背中から花開くように、六つの大きな炎の翼が現れ、騎士は生まれた翼を羽ばたかせ、ゆっくりと宙へ舞う。
上空十メートルほど上がり、ヴァンを見下ろす形になったところで、騎士は剣を振り下ろした。
「これを食らっても余裕を持てるかな? 『死滅の流星連弾』!!!」
騎士から現れた六つの羽から、炎を纏った巨大な岩石が出現し、ヴァン目がけ降り注ぐ。その量、数えるなど馬鹿らしくなるほどだ。『視察』が使えていたら数は把握できるだろうが、使用できないためざっとしかわからない。それでも、数は確実に百を超えるくらいはあるだろう。
ばら撒くように発射された火の塊は、地面に激突した際に巻きあがった砂煙の中へと吸い込まれる様に、次々と消えていく。激しく揺れる大地と、発射と着弾の際に発せられた爆音のおかげで、モニター越しでもその威力がはっきりと分かる。普通の人なら一つでも食らえば消し炭になるだろう。
「どうだ! 千を超える魔物を一瞬にして消し炭にした力だ!!」
騎士は叫んだ。
彼が召喚し、放出し続ける炎の岩石はその一つで、直径約数十メートルのクレーターを生み出すほどの威力を持つ。たった一つそれほどの力、さらに数は百を超え、未だ炎の翼から生み出されている。
これは、もしかすると、本当にあの、参加者随一の歴戦であるヴァンを倒せるかもしれない。
私がそう考えた直後、自分の考えが甘かったことを悟った。
流星群によって発せられた、立ちのぼる砂煙。その中央から高音と共に、一筋の光線が発射された。
光線は数百ある流星群を薙ぎ払い、消滅させ、勢いそのままに騎士に向けられた。騎士は咄嗟に六つの翼を自身の前に出し、防御態勢をとる、が、光線はそのまま彼を飲み込んだ。
先ほどまでの轟音は、光と同時に消え、パチパチと土が焼ける音しかなくなった。
「千の魔物を屠ったと言っていたが、先ほどの『光滅咆』は、万の起動兵を一掃させた」
砂煙が薄れると行く中、男性の声が静かな大地に響いた。
巨大で、赤く脈動する斧を持つヴァンが、悠々とした態度で煙の中から現れた。
あれだけの攻撃を受けてなお、傷ひとつ付かず、余裕を見せる。見せつける。
「一時的とはいえ、このオレを竜化させたことは誇れることだぞ?」
「ふん。あの攻撃を受け、なおかつ無傷とはな。とんだ男だ......」
同じく砂煙から現れたのは赤い剣を持つ騎士だった。
だが、違いは明らかだ。翼は消滅し、鎧はどこもかしこもヒビが入り、いまにも砕け散りそうだ。
「残念だが無傷ではない。ほら、ココの焦げた」
ヴァンは服の、左腕の裾部分を見せる。確かに端が少し黒ずんではいるが、逆に言うと、それだけで済んでいる。通常ではありえない、とんだバケモノだ。
「あれだけの攻撃で、裾を焦がすのがやっとか。真に、世界は広いな」
「気を落とすな、ただオレとの相性が悪かっただけだ。先の攻撃は十分強力で、素晴らしいものだったぞ」
「お世辞は良い。あの攻撃を一瞬にして塵に変えた、貴殿の光線の方がよっぽど恐ろしい」
「ククク、そうだろう? オレの自慢の技だ。むしろ、直撃を受けて生きている貴様が可笑しいのだ」
「ふふ、日々鍛えていた成果というモノだ」
二人は笑う。お互いの全力を称えて、大声で笑う。
男の参加者にはよく見られる光景だ。敵同士だというのに、戦闘の途中で、まるで子供のように楽しそうに笑う。私にはそれは理解できない。たぶんこれから先、永久に理解できないだろう。
しかし、その光景も、すぐに終わった。
「クッハハハハ! ......さて、すまないがそろそろ終わらせるか。まだ来ていないが、他の輩も来ないとは限らない。そんな者達に横やりをされては興が削がれる」
「本音は。貴殿の後ろに控えている、多くの美しい女性達がそろそろ怒りそうだから、であろう?」
「ククク、それもあるな」
「なら、お望み通り、終わらせようか......」
騎士は折れかけの剣を両手で掴み、腰を下げ、構える。
「あぁ、そうだな。終わらせよう......」
ヴァンも斧を後ろにまわし、迎え撃つ姿勢を取る。
再び沈黙が流れるが、今度はすぐに動いた。
二人とも、一瞬にして消える。
結果はすぐに分かった。
斧を振り下ろし、姿勢を低くしたヴァンと、その後ろで剣が折れた騎士が立っている。
ヴァンがゆっくり立ち上がり、黒い炎と共に巨大な斧を消す。
と、同時に、騎士は四散し、消滅した。
終わった。決着だ。圧倒的すぎる。
事前に『解視』を発動していなければ、これほど詳しく戦況を理解できなかっただろう。
つまり、私よりもステータスの劣るソウジ達は、このモニター越しだけでは、何が起きているのか理解できていない可能性が高い。いや、ふつうに考えてそうだろう。彼等にはとって目に映るモノは、全てが想像を凌駕し、あらゆる理屈を屁理屈へと変えていく。
参加者には世界の常識や理など、意味をなさないのだ。
そう考えると、彼等ソウジ達も、ある意味常識を逸脱している。ベクトルが全くの逆方向だが。
今回の戦闘映像をみて、確実に分かったことがある。
あのチーム、『ドラゴンズフォース』はやばい!
ヴァン一人であの力を保有しているのに、後ろには他に四人。その内一人がカトだと分かっている。
仮にヴァンが一番強いと仮定したとしても、私達では決して勝てない。無理だ!
「それで、貴様はどうするのだ? 彼等に戦わせて、自分だけ逃げるのか?」
ヴァンが岩に隠れていたプリアリスに問いかけた。彼女は岩陰で何かをしていたが、呼ばれた瞬間、ビクッと肩を上げ、ゆっくりと振り返る。
「ふ、ふふふ。私が、逃げる? いい! 逃げるのではなく見逃すのよ? 分かる? この違いを? 今回も弱い奴だったけど、次はそうはいきませんわ! 次はあなたたち何かよりも強い者達を召喚する。その時までせいぜい頑張って生きてなさいな!」
プリアリスは吐き捨てる様に言い、地面を思いっきり踏む。同時に地面に浮かび上がる模様。
あの模様はよく知っている、むしろ最近使ったばっかりだ。
移転魔法陣。
発せられる色は赤色。つまり往復用ではなく一方向用の移転陣だ。
なんだかんだ言って、やっぱり逃げるのか。
プリアリスが消えた、と共にモニターの画面が変わり、一人の男性が映った。
男は白いスーツに白いシルクハットをかぶり、白い革靴も履いている。
「いやー、今回もすさまじい戦いでしたね! まさに激闘! 素晴らしい!」
白スーツの男は拍手しながら両者を称える。
その後ろには、先ほどの一騎打ちの映像がループして流れていた。
「プリアリスさんのチームも頑張りましたが、やはりエリュー率いる『ドラゴンズフォース』は格が違ったぁあ! これは、今ゲーム、ますます盛り上がることでしょぉう! 負けたプリアリスさんも、まだ『契約の宝縛』を持っていますしぃ、あのファンドュラ家ですからねぇえ。まだまだ供物は残っているはずです、次に期待しましょう! さて、お送りしましたのは、今『ゲーム』中継担当のビトレイでした。では、次のプレイで、また会いましょぉう!!」
白スーツの男――ビトレイは帽子を取りお辞儀し、映像が消え、空中のモニターも消滅した。
「さすがオレが押している『ドラゴンズフォース』だ。強すぎるぜ!」
「いやいや、アレは相手が弱かっただけだろ!? 『地獄獅子』なら一瞬にして五人倒していたはずだぜ!」
「わかってねぇなー! 今回のゲーム優勝候補の『神の集い』を忘れたのか? 三ヶ月前の一戦録画してあるから一緒にみようぜ!」
「相変わらず『ラブピース』は出てこないか......。ま、遺跡都市に行けばいつでも会えるけどな」
「それにしてもヴァン様は、いつ見ても勇ましいわ。あぁ! 黒く引き締まったあの筋肉に抱かれたい!」
「ミナ様も相変わらず白くお美しい。あの華奢な足に踏まれて逝きたい!」
「カトはいつも通りの、クールだったな。もう少し笑えばいいのに」
「あれだけの実力の持ち主だ。ギースが彼等に仕えるのも納得だな」
「リコは小さくて可愛いなぁ......」
街の人々は熱狂しながら、それぞれ溜まっていた感想を言っている。
その感想の中には他の参加者やチームの事も言っているが、さすがというか、私達の話は一切出ていない。察してくれているのか、それとも本当に忘れ去られているのか。いまの私が知る由もなく、知ったところでなんてこともない。すこし胸が苦しくなるだけだ。
…………
戦いは終わった。
今回もまたチーム『ドラゴンズフォース』の勝利、これで五連勝くらいだろうか。
本当に彼等は強い。いまの私達では太刀打ちできないどころか、その場にすらいられないだろう。
窓を閉め、外からの刺激を遮断する。
私が召喚した者達は皆、恐縮している感じだ。話そうという者がほとんどいない。労働者も含め、全員が顔を下げ、考え込んでいたり、先の戦闘を思い返しているような仕草をしている。
無理もない。
アレが私達の敵で、倒さなければいけない相手で、現状の知ってしまった敵戦力の一部だ。彼等にとって、現実と絶望を身体全体にぶつけられたようなもの。気が弱い者だったら、その場で倒れてしまうだろう。
ソファに次々と座る彼等を見ながら、私は心の中でそう思った。
「どったのさ、クリエちゃん。そんなところで突っ立ってさ~?」
「えっ?」
ソウジが椅子に座った状態で、机の上に七人分の飲み物をカードで創りながら問いかけてきた。
「うん、そこでは話が聞こえにくいと思うのですが」
「もぅすこし、こっちに近づいて来ないのかぁ......?」
ジョンとロディオも、不思議そうな顔をこちらに向けている。いったいどういうこと?
「......緊急会議」
「あっ、そういうことでみんなここに座ってたのね!」
呟いたユリアーナの言葉に、手を合わせ納得した様子で笑顔を見せるアリシア。
つまり、そういうことか......。
「分りました。すみません、あの戦闘を見て皆さん怖気づいたとばかり思っていました」
「うんや~。残念だけど、クリエちゃんの言う通りだっせ~」
「うん、僕等はいま、クリエちゃんの言う通り、戦慄しているところですよ」
「あんな映像、見てしまったらなぁ......」
「......冷静に分析するには、一人よりも複数人の方がいい」
「ってことね! 分かったクリエちゃん!」
最後にどの者達よりも元気で理解してなさそうなアリシアが、人差し指を左右にピコピコ動かしながら自慢げに話す。
彼等は理解している。いや、理解していたといった感じだろうか。
今さっき、新しい情報が手に入ったことで、彼等は動く。ただそれだけだ。
「そうですね、わかりました」
私が奥の椅子に座るのを確認した後、ソウジが机の端を二回叩く。その動作に反応し、私達が座っている席全体を囲むように地上から透明な立方体――魔具『シークレットルーム』――が出現する。これで外からは私達がただ椅子やソファに座っているように見えるだけで、声は聞こえず、動作も見えなくなった。
その部屋も出来あがったところで、私は声を高くして言った。
「では、これからの方針を決める緊急会議を、はじめましょうか」




