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場違いな天才達  作者: 紅酒白猫
第一章 場違い召喚
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1 現状把握

この話から主人公達視点になります。



 暖かな風。

 土の匂い。

 草が頬に当たる感触。


 それが、最初に感じた感覚だった。





 赤茶髪の少年――ジョン・リードはゆっくり目を開け上体を起こし、目前に広がる光景を目にする。



 辺りは草原が広がっている。

 草木が風で揺れ、空は青く、雲は白い。

 日差しがまぶしい。思わず目を細め、手で光を遮る。


 空を飛ぶ、鳥に似た生物。

 逆光のせいか全身の姿が黒く、尾羽が妙に長い鳥。


「ここは......どこでしょうか?」


 思わず呟く。

 困惑していることを認めるしかない、こんなの初めてだ。



 少し思い出そう。


 確か客の前で手品を披露しようとしていた。

 そこに純白の少女が現れ、抱きつかれ、光に包まれて。

 それから......どうなった?



 気が付いたらこの場所にいた、と言ったほうが一番手っ取り早い。

 しかし、それだと納得がいかない。

 理解が追い付かないな、もう少し物理学とか勉強しておいたほうがよかったかもしれない。

 意味がないと思うけど。


 たぶんこの場所に連れてきたのは最後の記憶にある『純白の少女』なのだろう。

 でもどうやって?

 何のために?


 ......情報が少なすぎる。


 やはり、いまやるべきことは、この現状をいち早く把握することだ。




 まずは自身の身が安全であるかを確認する。


 ロープとかで縛られていないことから、まず誘拐ではないだろう。

 いちおう薬とかを盛られた可能性もある、自分の身体に異変がないかを調べてみるべきか。


 両手を握り、そして開く。腕を回し、更に逆回転もする。

 両腕と両手は問題無し。自由に動く。


 足も、まだ立ち上がっていないが、指先まで感覚があるのが分かる。

 違和感は今のところ特になし。


 身体をまさぐる。身長は変わっていない、と思う。

 最後に身長を測ったときは131センチだった。残念ながら身長もそのままの感じ、当たり前か。


 服装もステージに立っていた時と同じだ。

 黒いスーツに黒のパンツ。

 それらに少し土や草が付いていたが、特に問題ない。

 靴も紫のシューズをちゃんと履いている。


 念のため一本髪の毛を抜いてみる。「ぷちっ」という音と共に痛みを感じる。

 ここはやっぱり現実なのか、夢なら楽なのに。

 抜いた髪は見知った赤茶色だった。


「う、うん! ジ、ヨ、ン。僕の名前は、ジョン・リード。職業は手品師です。よろしくお願いします」


 うん。声も特に問題ない。

 名前も覚えているし、記憶もちゃんとある。


 とりあえず身体に異常はなさそうだ。




 周りを見渡してみると、他にも人がいることに気が付く。

 人の数は男女合わせて六人。






 一人目はだいたい18歳ほどの青年。

 顔つきからアジア系。たぶん日本人だ。

 服装はグレーのパーカーに、下は黒のシャツを着ている。

 だぼだぼのズボンは濃い目の紫色、無駄に多いポケットが目立っている。

 靴は黒色のシューズを履いている。

 身長は175くらい。黒い瞳で、黒色の髪はボサボサして整っていない。


 彼は「うひょー!」と騒いでいる。まるで今の状況を楽しんでいるようだ。なんて呑気な。

 どこかで見たような気がしたが、服装から大学生だろうか。記憶している人物の中には、学生で有名な日本人はいなかったと思う。見たことあると思ったが気のせいか。

 ただ行動が意味不明だ。


 うん。この人とはあまり、話しかけないようにしよう。




 二人目も男性。歳は20、いや19くらいか?

 顔つきからロシア人だと思われる。

 背は高い。たぶん185はあるだろう。

 服は足の先まである灰色のコート、ボタンはすべて止めていてその下はわからない。

 コートの裾から見える靴は栗色のブーツ。そして黒のハット帽子をかぶっている。

 髪は耳や緑の瞳にかかる程度に長い。髪色は茶色。


 彼は「これはいぃ、いい風景だぁ」と呟きながら空中で指を動かしている。

 指の動かし方を興味深く見ていると、どうやら空中に絵を描いているようだ。

 彼にしか見えない何かが見えるのだろうか。


 うん。この人はアレだ。近寄っちゃいけない人だ。




 三人目は知っていた。

 歳は16。アメリカ人で歌手をしている。

 確か名前は......アリシア・ライトベアだ。

 身長は150くらい。

 服装はなぜか肩がむき出しの紅いハイアンドロードレス。厚底の赤いブーツを履いている。

 どうやらここに来る直前まで舞台にいたようだ。

 たぶん僕と同じく、いきなりこの場所に連れてこられたのだろう。

 クリクリとした青い瞳。腰辺りまである小麦色の髪。

 風が吹くと同時に流れる様に揺れる髪はとてもキュートだ。


 彼女は二人とは違い、ポカンと口を開けて座り込んでいる。

 いまのこの状況を呑み込めていないようだ。彼女に聞いても分らないだろう。


 うん。座り方もとても女の子らしくてかわいい。


 「......」


 おっと、見惚れていた。今はそんな時ではない。




 四人目は白衣を着ている女性。年齢は20かな。

 身長は160くらい。

 ドイツ人っぽい顔つきだが、先ほどから形相がひどいせいではっきりと分からない。

 服装は白衣でその下には......ジャージか?

 あまり人の趣味嗜好にケチはつけたくないが、うん。ダサい。

 エメラルドグリーンの瞳に髪はさっきの日本人の青年よりもボサボサのショートヘア。さっきから手で掻き毟っているからかもしれないが、綺麗な金髪が台無しだ。


 彼女は「ありえない! ありえない! ありえない!!」と呟きながら、木の棒で地面に数式っぽいのを殴り書きしている。彼女と話しても逆に混乱しそうだ。


 うん。とにかく、邪魔しないでおこう。




 さて、問題は次の二人だ。


 五人目は銀色の全身鎧で身を包み、腰には長剣を下げている怪しい人物。

 身長は兜と鎧を除いたとして、少なくとも200はある大男だ。

 年齢は全身鎧のせいでわからないが、立ち振る舞いからして性別は男性だろう。

 兜の奥で赤く光るものがかなり気になるが、いまは気にしないでおこう。



 六人目は先の全身鎧の男に慰められているように、四つん這いの背中をポンポンと叩かれている少女。

 歳は15くらい。身長は......分かりずらいけど、たぶん140くらいかな。

 髪は薄い青色でアリシアよりも長い。髪色は地毛なのだろうか、珍しい。

 全身は薄桜色の少し派手なドレスと白いシューズを身につけ、白い肌の目立つ少女。

 そして頭には、見覚えのあるカチューシャを付けている。


 うん、この少女が当たりの様だ。






 まったく、他の人たちは何をやっているんだ。

 僕はせっせとこの状況を把握しようとしているのに、みんな自分勝手だな。


 とにかく、あの少女に状況の説明を求めよう。いまは分からないことだらけだ。

 少女の隣にいる全身鎧の人物がすこし怖いが、殺されることはないだろう。

 もし殺すのならば寝ている間にやればいい。




 立ち上がり、青髪の少女のほうへと近づく。

 さっきまで座っていたため少しふらつくが、これくらいなら大丈夫。

 大丈夫、知らない人に話しかけるのは慣れている。

 僕ならまず問題ない。


「あの、すいません。いきなりで申し訳ないのですが、ここはどこ......」


 振り向く薄青髪の少女を見て、戸惑い言葉を失った。

 少女の紅く綺麗な瞳に、涙が浮かんでいたからだ。


 この表情は知っている。

 人が失敗したときに見せる顔だ。


 薄青髪の少女は涙を拭い、こちらに向く直す。


「すいません。見苦しい所をお見せしてしまい」

「いえ、大丈夫です。えっと......」

「あ、申し遅れました。私の名前はクリエットと言います」


 青髪の少女は手を組み、慣れた感じにお辞儀をする。

 始めて見る、珍しい挨拶だ。


「うん。僕の名前はジョン・リードです。よろしく」


 胸に手をあて、前屈みになる。

 これがいつもやっている自分の礼だ。


「早速ですが、ここは......」

「そう、そうですね。では始めに、この『ゲーム』の説明をしたいと思います」


 ゲーム?

 意識が飛ぶ前に、何かやっていたかな?


 「......」


 いや、無いな。

 覚えているのは先ほど考えた事くらいだ。


「この『ゲーム』は簡単に言えばバトルロイヤルです。他の『参加者』を殺して最後の1チームになることが、勝利条件になります」


 ちょっと待って欲しいな。


 いま青髪の少女――クリエットが言ったことが、よく理解できない。


 この場にいる全員で殺し合いしろと言っているのか?

 いや、違う。

 チームと言っていたから、逆だ。



 この場にいる全員と協力して、他にいると思われる『ゲーム参加者』のチームを全員殺せということか。



 何がどうなっているのか分からない。

 今は、そうだな......この話はこの場の全員で、話し合った方が良さそうだ。


「うん。クリエットさん、それは皆さんを集めてから話しましょうか。そちらの方が手間も省けますし、意見なども聞けると思います」

「え、あ。そ、そうですね!」


 後ろを振り向き、他の各々を見る。

 相変わらずの自由行動だ。




 とりあえず、彼等を呼んでみるかな。



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