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場違いな天才達  作者: 紅酒白猫
第一章 場違い召喚
16/47

15 レベルアップ?



 ソウジとのレベルアップ訓練は二日目を迎えた。



 昨日の続きだと言うことで、あと三〇回死ほど。それでソウジはレベルアップする......予定だ。

 彼がレベルアップをしたら、もしかしたら何かあるかもしれない。例えば、不思議な能力やスキル等を身に付けたり。あるいはステータスが極端にアップしたり。もしかすると参加者らしい武具が出現てぎるようになったり、など。

 私がそれほど期待しているのは、それらは本当に、過去に何度か例があったからだ。だからこそ、一度だけでも試してみよう。そう私――クリエットは考えていた。


「まさか、ソウジさんが率先して被験体になって頂けるとは......、うれしい限りですね」

「それさ~、人が首ちょんぱされた後に言うと、悪役の研究者のように見えるからやめよーぜ~」


 そう、早速の今朝の一本目。

 全身を覆い隠す銀の鎧を着た騎士、ワスターレによる見事な剣技の前に綺麗に首と胴が分かれ、そして部屋の効果で復活したソウジ。復活した彼が、相変わらずなにやけ顔と一緒に放った言葉がソレだったのだ。


「これで、あと二九死ですね!」

「そんなに、オレが死ぬがのうれしいのか~い?」


 私は「そんなわけありません」と言いつつ、何度死んでもその性格が変わらないことに、心の中で驚いていた。

 それと気づいたことがある。彼は攻撃を避けることに関しては筋がいい。ステータスと対戦相手を考えると、普通なら一撃で絶命するところを、彼はギリギリで避けている。しかし、どう頑張っても身体が追いつかないのか、二、三撃目で絶命はいつも通り。むしろ三撃目まで生きている方が不思議なくらいだ。


「今のところ、変化っぽい変化はないね~」


 指を握りながらソウジは答える。もちろんレベルアップしていないため変化なんてするはずがない。


「そうですね。ですが、レベルアップしたら驚きますよ! 自分の成長を実感しますので!」


 そう、現に私がそうだった。

 レベルアップした後の感覚は素晴らしい。単純な身体能力の向上も目に見えて判るし、今まで出来なかったことが出来るようになる。それと、スキルも覚えれたら最高だ。その日は覚えたての技を連発するほど気持ちが高まる。

 私もまた、鍛えてみようかな?


「さて! 続きもう一本、逝きましょう!」

「クリエちゃん、目的違うようになってな~い?」







 そのあと、順調にソウジは死んで生き返り、死んで生き返りを繰り返した後、ついに、ついに......ソウジのレベルアップの時が来た。


「ソウジさん、やりましたね! レベルアップですよ!」

「そ、そっすか......オレはちょっと休憩してるから、勝手に視ておいてちょ~」


 言わずもがな、早速右目を見開き『視察』を発動させ、ソウジを視る。

 ソウジの周りにあらゆるステータスが表示される。その中で名前の隣にある数字を視る。レベル欄の数字は12と表示されていた。


「あ、あれ......?」

「どったのさ~、クリエットちゃ~ん。もしかしてまだ上がってない、とか?」


 最初に出会った時のレベルは、確かに11だった。

 そして、いまレベルが12になっている。なっているのだが......。


「い、いえ。ちゃんと上がっています。ですが、ス、ステータスが、その......」

「ステータス......あっ......!」


 ソウジもどうやら気が付いたらしい。当然か、当の本人なのだから。

 ステータスもレベルアップと同時に上がっている。だが、その上昇値は、驚くほどに低い。

 全体的に他の者の平均上昇率、その五分の一から十分の一ほどしかソウジは上昇していないのだ。


「ソ、ソウジは、何か、感じるものは、ありますか?」

「ん~、心なしか体が軽い、程度かな~。心なしか......」


 そう言い、ソウジは肩を回したり飛び跳ねたりもしているが、見たからに脚力もあまり変わっていない。

 スキル欄を表示させて、視てみる。スキルは変わらず『なし』と表示されており、思わず肩を落とす。もしかしたら何かしらの能力に目覚めているか、習得しているかもと思っていた。だが結局は何も習得なしとか、かなり驚いた。普通じゃほとんどありえない。 

 そんなテンションが下がっている時に、なにも知らないソウジが話しかけてきた。


「でっ! クリエちゃん! どんなもん上がってた~?」

「あなたは適度に名前を略しますね。ま、いいですけど......」


 ソウジにどれほど上がったかを教えてあげた、ついでにスキルのことも。




 彼自身少しは気が付いていたらしいが、それでも実際に言葉に言われると辛いらしい。徐々に私と同じようにテンションが下がっていくのが目に見えてわかった。


「――と言った感じです」

「そ、そっすか~」


 素っ気ない返事をするソウジは、体操座りの状態でボサボサの頭を抱え、虚ろな目をしていた。自分が予想していた以上にショックが大きかったのだろう。

 たしかに二〇〇回死んでまで努力した結果がこの有り様では、いくら彼が苦手な私でも同情をしてしまう。


「だ、大丈夫ですよ! 次はちゃんと上がっていますよ!」


 これは嘘ではない。ステータスの上昇値は決められていないからだ。そのため、次のレベルアップでいきなりステータスの値が上昇する可能性は十分にあった。

 そして私自身もあきらめていなかった。


「は~い......それで次は、何回、死ねばいいんすか~」


 元気なく手を振るソウジの問に、また『視察』を発動させ次までを計算する。


「そう、ですね。あと......二五〇回ほど、でしょうか......」


 自分で言っておいて、悲しくなってきた。

 次のレベルアップまで、今の戦闘をこなせば二五〇回死ぬ程度で上がる。

 このペースなら、明日中には上がるが、相変わらず時間が掛かる。


「もっと効率のいい方法はないんですか~?」

「残念ですが彼、ワスターレとの戦闘は一番効率がいいです」


 そうだ、これが今一番に出来る最短の経験値稼ぎ、のはずだ。

 別に敵を倒すだけが経験値の入手の条件ではない、むしろ戦闘中のほうが経験値がはいる。そして入手できる経験値の入手量は、その行った戦闘の濃度に比例する。例えば、いまソウジが戦っている相手、ワスターレのような圧倒的な力の差のある相手なら、剣を交える、いや先頭に入るだけでも相当な経験値が手に入る。

 経験値は強い相手であればあるほど、多く手に入る。

 つまり、そこらにいる異獣と戦うより、効率がいい。そのはず、なのだが......。


「そういえばさ~、ワスタっちはレベル、どれだけあるの~?」

「あれ? 言っていませんでしたっけ?」


 ソウジは首を横に振る。

 そういえば言っていなかったのか。


「そうですね。あなたの10倍と考えて頂いてよろしいですよ」

「10倍か、なる~......だからカトは逃げたのか」


 ソウジは一瞬だけ普段見せない真面目な顔になり、そしてすぐににやけ顔になる。

 彼はたまにそう言った表情を見せる。何も考えていないようで、何かを考えているのだろうか。それとも私の思い過ごしか。気になるけど、気にしたらまたふざけるだろう。

 ......脅すか?


「じゃ~クリエちゃ~ん。続き、やりますか~」


 そんな事を考えている内にソウジはいつの間にか立ち上がり、腕を伸ばしてストレッチしている。

 彼はやる気があるが、たぶんこれが無意味だと言うことにも気が付いているだろうな。


「わかりました。では、やりましょうか。ワスターレ、お願いします」


 呼ばれたワスターレが頷き、腰の長剣を抜く。

 彼は屈伸しているソウジの前に立ち、剣を構え、そして始まる。



 こうして、レベル上げが再開した。






…………






「......今日は、ここまでのようですね」


 通算ソウジ死亡回数一〇二回。


 休憩していたためと、少し早めに切り上げたため成果が昨日より上がらなかった。

 ソウジは疲れ果て、息が荒く、仰向けに倒れており。ワスターレはいつも通り直立したまま、無言のまま微動にしない。


「やっと......はぁ......おわった......はぁ......かい?」

「そうですね、本日は終了です。お疲れさまです」


 頑張ったソウジにいちおう礼をする。

 彼は目を閉じたまま、いつも通りのにやけ顔で笑い親指を立てた。

 三〇〇回以上死んだ心境は分からないが、精神的にきついはず。それでも彼は憎たらしいほどいつも通りだ。心が脆そうだと思ったが、打たれ弱さには種類があるみたい。

 そんな彼を少しだけ、ほんの少しだけ敬意を払おう。


「はぁ、はぁ、ふぅ~......よし、帰るか!」


 ソウジがそう言い勢いよく飛び跳ね、起きようとしたが失敗して頭を打つ。

 残念ながらこの空間は、死んで初めて肉体が入ったときに戻る。そのため、頭に出来たコブは治らない。

 ため息をつき、頭を抑え痛がっているソウジに回復魔法『セカンド・ヒール』をかける。


「だ、大丈夫ですか?」

「はは~、ありがとさ~ん。てかやっぱりこういった魔法ってすごいんだね~」

「この魔法は致命傷以外なら治すことが出来る魔法です。さらに強力な回復魔法もあるのですが、残念ながら私は使えません」


 ソウジは興味なさそうに「ふ~ん」と言い打った頭を擦る。

 幸い、このソウジ達は冴えている。こういった知識もその内、自分たちで勝手に補完するだろうが、いちおうこの魔法の知識くらいはあげよう。私の得意魔法だし。

 ただ変なことを言って、またあのようなことになっては意味がないけど......。


「そういえば、明日からどうするよ~」


 ソウジが扉の取手に手をかけたところで語り掛ける。語り掛けてきた姿勢がブリッジ気味なのが、妙に気味悪い。


「明日からもここでレベル上げを行いますが......、なにかありましたが?」

「ん~。いや、大丈夫かな。気にしないでい~よ~」


 そう言い捨て、ソウジは鉄の扉を開け外に出る。

 こういう時、ジョンやユリアーナなら察しがついただろう。

 結局私には、何が言いたかったのかわからなかった。

 外を出たソウジが手を振り、急かす。


 外は昨日より明るかった、一時間早めに切り上げたためだろう。昨日よりも明るかったためか、帰りは昨日よりも早く、そして無事に施設まで行くことが出来た。



 施設――元は半永久労働者の店だった場所。

 最初こそかなり汚れがあったが、今はかなり綺麗になっている。どうやら、ジョンとアリシアが労働者をうまく扱ったからだとか。私は思ったよりも彼等を見下していたようだ。


「ただいま~。ジョンく~ん、いるか~い?」

「うん、すみませんソウジさん。すぐ行きますので、少し待っていてください」


 施設の奥の方からジョンの声が聞こえた。彼は施設の奥に作られたステージのところにいたらしい。

 ジョンは施設の奥、三分の一を幕で遮っている。その向こう側に教卓のような物を置き、その上に立って演説の様な事をしている。理由は前回のチーム会議で考案した<計画:五>を実行しているためだ。


「お待たせしました。何でしょうか?」

「ハッハー! 分かっているでしょ~よ。そういやアーちゃんは?」

「アー......リシアさんは買い出しを頼んでいて、今はいません」


 ソウジはそれを聞き、少し残念そうな表情をする。

 アリシアは彼等の世界で有名なアーティストらしい。私も歌手という存在を知っているがまだ見たことが無い、出来れば歌っているところを見てみたいな。

 

「昨日言っていたことなら、ロディオさんとユリアん......ーナさんが来てからのほうがいいと思います。二人ともまだ帰ってきていませんので、もう少し待っていただけませんか?」


 誤魔化していたが、ジョンもたまにユリアーナをユリアん、と略称するようになった。他にも私やワスターレ、アリシアも同じく、だ。

 私は気にしていないけど。

 すべてソウジは勝手に変な名前を付けている。そして彼はその呼び名を広めようとしている、気がする。

 私は気にしていないけど。


 そういえば、彼等がこれからやることを聞いていなかった。

 確か昨日の夜くらいに魔具屋で購入したものを試したいと言うことだったが、詳細を聞いていなかった。なんか手に負えないようなことでなければいいのだけれど......。


 そんな無駄な考えている間に、ユリアーナとロディオが施設に入ってきた。


「すまない、待ったかぁ......?」

「おっけーだよ! じゃっ! 早速はじめますか~」

「......チッ、これはボクもいるのか?」


 「当たり前じゃ~ん」と言い、ソウジは親指を立てる。

 ユリアーナはその親指を掴み、左に曲げる。同時にソウジが絶叫する。

 もちろんその後、回復魔法をかけた。何と無駄なことをさせるのだろう。


「うん。では、今日は一回目ということで、シンプルな感じで行きましょう」

「せっかくだから、ステージ風にするってのは、どうかな~?」


 ソウジが言った途端、ロディオは私が渡したスケッチブックにペンを走らせる。

 彼が描き始めて数秒後、描きあがったもの見ると何もないシンプルな部屋が描かれていた。

 描かれた部屋には飾りっ気はない。代わりに奥側の四分の一が段差になっている設計図だった。


「うん。そうしていただくと、ありがたいですね」

「じゃ~、一階はそうしようか。ユリア~ん、部屋の寸法とかよろしく~」


 ユリアーナは「勝手に決めるな」と言いつつ、ロディオがすでに描いた設計図を受け取り、すさまじい速度で寸法を書き足す。

 字は少し汚いが、読めなくは......ない、はずだ。


「階段は、そうだね~。グルグルな感じので、いいかな~」

「らせん階段、というのですね。ロディオさん、分かりますか?」

「これでも一応、家の建築の仕事もしていた時があったからなぁ。問題なぃ......」


 ジョンの問にロディオがすぐに答える。

 そのやり取りをしている間に、すでにほとんどの設計図に階段が加えられていた。その描き足された階段に、すばやくユリアーナが寸法を書き足す。


「とりあえずは、一回目の実験を兼ねて、こんなのでいっかな~?」


 ソウジは分割した設計図の中から、全体図が見える一枚とり、その場にいた全員に見せる。


「うん。僕は良いと思います」

「俺も大丈夫だと思ぅ......」

「......ボクも、いいよ」


 みんなが頷くのを確認した後、「じゃ主役のとうじょ~」と言い、ソウジは施設の端に置いてあった筒状の物をとってきた。

 それを見た瞬間、私にも彼等がやろうとしている事がわかった。


 ソウジが持っているあの筒は魔具だ。名前は『ドリーム・ルーム』と呼ばれている物。用途はたしか、部屋をつくり出す道具だ。

 使用するのにまず必要なのは寸法に合った場所の確保、それと完全に書き込まれた部屋の設計図だったはず。設計図は先ほど彼等が描いていたが、場所の確保は出来ているのだろうか? あぁ、なるほど、どうやら彼等はこの施設を二階建てにしようとしているようだ。

 この施設は一階立て、上には何もない。

 だが、それには問題がある。あえて目立たないようにするためにこの場所を選んだのに、それだと逆に目立つのではないだろうか。


「おーけー! じゃ、この施設の下につくるよ~」


 えっ? 下に?


 ソウジが施設の三分の一を覆っている幕を開ける。そこには購入した時とは違い、ちゃんとサイズが合った服を着ている労働者達と、昨日までは無かった大きな穴。その穴の中にソウジ達一同は入っていった。


「ここだね~、ちゃんと寸法通りできてる?」

「うん。彼等のおかげで問題なくできていると思います。やはり人数が多いので予定よりも一時間早く終わりましたよ」


 そう言い、穴の上から覗く労働者達を対し顔を向けるジョン。

 どうやら場所の確保も出来ているみたいだ。これで条件はそろっている。


「えっとたしか......、どう使うんだっけ?」

「......チッ! ちょっと貸してみな」


 ユリアーナは無理やり引き剥がすようにソウジの持つ魔具を引き取る。

 すぐさま魔具を確認し、そして筒の形をした魔具の両端を捻ったあと伸ばす。魔具の横から青い光線が常時放ち始める。それを見たユリアーナは「ちょっと貸して」と言い、ロディオの持っていた設計図を受け取り、青い光に設計図を当てる。

 数枚分に分けた設計図をすべて当て終わると同時に青い光がなくなり、代わりに全体が薄く赤色に点滅し始める。その動作を確認したユリアーナは部屋となる予定の空間の中心へ行き、魔具を突き立てた。


「......上に行くわよ」

「うん、もういいのですか?」


 ジョンの問に軽く頷き先ほどの穴から共に上がった。


 全員が地下の空間から上がったところで魔具が起動し始める。

 なんとなく気になり、穴から軽く覗いてみる。

 中央に突き立てられた魔具は、その上半分を回転させ、空間が寸法通りになっているかを確認するかのように赤い線を出し、角や部屋全体を照らし出す。そして、赤い線の光から徐々に白い何かが浮かび上がるかのように壁が生み出されていく。




「なる~、あのくらい細かく設定すると、こうなるのか~」

「うん。予想以上ですよ」


 ソウジとジャンは感心するように、何度もうなずく。

 起動して数分後、生み出された階段を降りた先には、一面真っ白なエントランスホールのような広間だ。

 広間の大きさは、地上の施設と同じくらいだろうか。何もないため、この地下室のほうが大きいように見える。そして設計図通り、四分の一ほどに段差が出来ていた。あの場所を今後はステージ代わりにするのだろうか。

 見た感じ何もない。そこには真っ白な地下室が出来上がった。


「......思ったよりもそのまま出来るんだね」

「なんか感動だなぁ、俺の描いたものが実体化するのはぁ......」

「うん、色がありませんでしたね。次は彩色も加えましょう」


 床や階段を手でなぞりながらそう言うユリアーナ。腕を組んで辺りを見渡すロディオ。設計図と見比べながら次の事を考えるジョン。

 彼等は魔具の力に疑心暗鬼だったのだろうけど、これでどんなものかがわかったはずだ。


「そうですね。私もここまで細かく設定が出来るとは、正直驚いています」


 本音だ。

 あの魔具は昔使ったことがあったが、上手くいかなかった。

 出来てせいぜい小さな白いキューブみたいな物だ。


「お~し、じゃ城に戻ったら次に誰の部屋を作るかを考えよっか~」

「うん。ここまで再現が可能と思うと、出来ることが増えましたからね」

「要望があれば、どんなもの何でも描こぅ......」

「こんなことが出来るなら、ボクの計画も大きく進めれる。ふふはは」


 各々話しながら階段を上がる。

 もう少しここにいるかと思ったが、思ったよりあっさりだった。




「ちょっとぉ! まさか、まさかまさか! この私を抜きでやっちゃったの!」


 上がった後すぐ、アリシアが施設に現れて叫ぶ。

 にやけ顔で宥める様に近づいてきたソウジの腹を殴り、彼を一発でノックアウトさせる。

 ジョンがすぐさま弁解をしていたが、アリシアは完全に拗ねてしまった。

 ユリアーナは呟きながら入り口付近に設置されたソファーに座り、テーブルの上のコーヒーを飲む。

 ロディオもソファーに座り、スケッチブックにまた何かを描いている。


 この光景を見て思う。

 彼等は自由で、正直で、勝手だ。

 今まで見てきた、どんな人物よりも、どんな参加者よりもだ。


 未だ絶望的な状況というのは変わらない。

 それでも、なぜか彼等といると、不思議と不安があまりない。


 不安はない。だが、希望も少ない。



 この先も同じように、何事もなく、乗り越えればいいのだが......。



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