13 初期計画
来たときと同じ経路を辿りながら、五人は城まで歩く。
僕――ジョンはその中の一人だ。
皆と歩きながらふと、先ほどまで行っていた買い物の事を考えていた。
店とその土地、そして労働者の購入。
その総額、金貨一,二〇〇枚。
ズルはしていない、言った額を払ったまでだ。
購入する前に、あの土地と店自体の値段をクリエットさんに聞いていた。
彼女曰く、土地は平均で金貨約六五〇枚。店の方は約八五〇枚ほどだと言うことが分かった。それと、あの店の『商品』の数は三三人。店主は一人金貨三〇枚と言っていたから、全員合わせて金貨九九〇枚必要だった。
本来の総額は金貨二,四九〇枚だったが、それを一,二〇〇枚で抑えることが出来た。
本当は一,〇〇〇枚まで抑えようと思っていた。
しかし、それだと購入金額の九九〇枚と比べて一〇枚しか差がなくなることになり、もしかするとあの店の店主が何か言い、『商品』をすべて買えない可能性をあると危惧していた。店にとって商品が無くなるのは店仕舞いの意味だからね。そこでもう二〇〇枚足して、合計一,二〇〇枚にして逃げれないようにした。プラス二〇〇枚だ、この話を逃せば収入ゼロ。
ゼロか金貨一,二〇〇枚。普通の人なら後者を選ぶ、商品だけだったらね。
結果としては予定通りすべて買えたし、何より必要な物がすべて手に入った。
購入した『商品』の方は少しクリエットさんに手伝ってもらい、調べてもらった。
十二人は十五歳か十六歳。
十五人は十七歳以上。
他の六人は十四歳以下だった。
種族もバラバラだ。大半が『人族』という種族で、見た目が自分達に近い者たち。
次に多かったのが『獣族』と呼ばれている動物と人間が合体したような者たち。
他にも『エルフ』や『ドワーフ』と言った、映画とかで聞いたことがあるような種族達だ。
一人しかいないが『魔族』と呼ばれている者もいた。聞いた種族名だけだとかなり怖そうな印象だが、額に角のようなものが生えている以外は特に普通だ。
さて、彼等をどうしようか。
そこもまたソウジやクリエットさんと相談しないといけないな。
などと考えていたところ、もう城に着きかけていた。
城に戻ったときには、もう日は沈みかけの夕暮れだ。白い街並はオレンジ色に照り輝くようになった。
本当は安全のために全員で戻ろうとしたのだが、アリシアが「彼等をほっておけない」と言い。ロディオは「アリシア1人だと心配だ」と言って城に戻ろうとしなかった。
そのため、購入した『商品』をアリシアとロディオに任せ、他の人達は城に戻った。
と、ここまで僕は頭の中の家を使い、思い出していた。
「うん。ところでクリエットさん、金貨の残高の方は大丈夫ですか?」
城に戻ってきて、最初に気になった事を聞いた。
聞かれたクリエットは、左上に目線を上げながら答える。
「そうですね。だいたい所持金の五分の一ほど失ってしまいましたが、これは必要経費と考えれば問題はないと思われます」
やはり出費は大きいか......しかし、そう、必要経費だ。
今後のことを考えると今回の買い物は必要最低限のモノ。他にも買い物があるが、それでも今回のは出来るだけ早く入手しておきたかったものだった。
それにしても、都市の王女の所有する金額の五分の一があれだけとなると、やはりこの都市自体お金がない可能性があるな。
この城は妙に白く、何もない空間の多さが金のなさを物語っている。本来なら城にあるのは豪華で豪勢な物ばかり置いてあるはずだが、ここにはそれがない。それにメイドの数が少ないのは、雇う金があまり多くないためと思われる。
うん。ひとまずは問題ないか、だが気を付けておこう。
「ありがとうございます、クリエットさん」
「い、いえ。心配なのは分かりますので。そういえばあの店はどうするつもりですか?」
素朴な疑問を投げかけてきた。
確かに、奴隷の方はソウジさんの提案で購入を決めたが、この店ごと買うとはどういったことなのだろうか、なんとなくわかるがその真意は聞いておいたほうがいいかもしれない。
「そりゃ~もちろん、オレ達の拠点にするからに決まってるっしょ~」
ひょいっといきなり現れたソウジが話に加わる。
彼は神出鬼没だ、もしかしたらニンジャの末裔か何かだったのかもしれない。
うん。彼のことも気を付けておこう。
「き、拠点......ですか?」
「まー欲しいと思っていたし、この際アレで良いかなってね~」
「うん。確かに必要だと思いますが......」
出来ればそこのところも相談してほしかった。
「まーまー。無事買えたし、良いじゃなッスか~」
「た、確かに、敷地は十分あると思います。しかし、あの店自体を買う理由はなんですか? 買うにしても、もう少し良いところがあると思いますが......」
それは僕も気になる。
僕の考えと合っているか、それも確かめたいと思っていたところだった。
「そうだよね~。もう少し綺麗なところで見晴らしがよくって、柔らかなソファーとかベットがあって、何よりネットが使えるところとかだったら最高だったのにな~」
「そういうことじゃねぇって言ってんだろ! マジで殴るぞ?」
「うん。クリエットさん、また素が出てますよ」
僕の忠告に、クリエットがまたハッと口を押さえ目を見開く。やはり彼女はそっちの方が素だったのか。
「うん。クリエットさん、確かにあなたの疑問はもっともだと思います。しかし、よく考えてみてください。この都市は第一に『規則』で守られています。むしろ、この都市よりも安全でないところの方が難しいのではないでしょうか?」
クリエットに脅され、ショック死しそうなソウジの代わりに答える。相変わらず彼のメンタルは弱い。
「で、ですがこの都市にも他の参加者がいないという保証がありません。もし見つかってしまったら、その時は......」
クリエットの言うことはもっともだ。
彼女はこの都市に他の参加者が居た場合のことを考えている。もし見つかってしまった場合、規則があるためその場所では殺されないにしても。都市外に出た瞬間、蜂の巣が確定だろう。そうでなくてもずっと監視されるか、身動きが取れない状態になると考えている。
だが実際は、そうではない。
「クリエットさん。僕達はすでに包囲されている状態だと考えた方がよろしいと思います。木を隠すなら森の中、では人を隠すなら? 多くの人がいるところ、それも人が集まっていても違和感のないところ。そこであの『商品』と、あの店が役に立つのです」
微妙に納得していない様子のクリエットが数回頷く。
これはもうひと押ししておいた方がいいかもしれない。
「それにです。他の参加者の事についてはそこまで知りませんが、前に現れた他の参加者を見ればだいたい予想が付きます。今は見つからないにしても、何処に隠れていても、所詮は時間の問題でしょう。ならばせめて僕達がやるべきことは、出来るだけ早く、状況を調べ、安定させておいた方がいいと、僕は思います。あの店はそのための隠れ家であり、実験施設でもあるのです」
そう、あの時出会った参加者が思い出される。
煌びやかな鱗のカト・フィン。
魅惑な翼のジャト・アクイラ。
愛嬌と恐怖のアーセル・シュシュ。
彼女達を見た瞬間、僕は睨まれた蛙のように動けなくなった。
彼女達は明らかに他の人達とは違う。姿かたちではなく存在そのものが、僕達との圧倒的な差があり、弱者と強者がはっきりとしていると実感される。
「ま~とりあえずさ、今日で約束の時間は過ぎたってことを思い出してくれさ~い。もうプラフは出来ないよ?」
ソウジが珍しく、少し真面目な顔をして言った。
そう、今日で三日目が終わる。これであの時ソウジが言った嘘の規則の効力が消える。つまり、明日から殺される危険が一層増すと言うことだ。
「そう、ですね。他の参加者がどうなのはわかりませんが、行動は早いほうがよろしいでしょう。ですので皆さんが部屋に戻る前に、少し作戦会議をしたいと思うのですが、よろしいですか?」
クリエットの提案に僕とソウジは頷いた。
たしかに、そろそろ行動計画を立てたほうがいい。この世界の見学は僕達にとってどれも命懸けだ、なんの計画も立てずに行動すればすぐにでも死んでしまうだろう。
そう計画は大事だ、必要だ。一日でも長く生き残るために必須なのだ。
クリエットは「ありがとうございます」と言い、先に廊下を歩いていった。その彼女の後をいつも通り付いていくワスターレ。
そういえば会話から離れていたが、もう一人いたはずだが......。
「うん。ところで、ユリアーナさんは先ほどから何をしているのですか?」
ユリアーナが街道で購入し、齧ったリンゴを片手でマジマジ観ていた。
「......変わらない」
「何がですか?」
「それは......いや、何でもない。結論が出たら話すよ」
そうですか、と言いつつ頷く。
彼女は知識が豊富で、賢く清明だ。何か僕達の知らない違和感に気が付いたのだろう。
だが、それは彼女が答えを出すまで決して口に出さない。彼女はそういうタイプの人だ。
…………
そうこうしている内にクリエットの自室の前に着いた。
「皆さんは昨日と同じ部屋を使用してください。ただ先ほども申しましたとおり、部屋に行く前に私の部屋で作戦会議を行いたいと思います」
僕は「分かりました」と頷き、両手を頭の後ろで組んでいたソウジは「いいよー」と笑う。いつまでもリンゴを持っているユリアーナは、なんの反応しなかった。
クリエットの部屋に入る。王女とは思えないほどに、相変わらずの女の子らしい部屋だ。
部屋に入るなり、クリエットはベッドの上で座る。彼女は少々疲れている感じだ。数時間前にアリシアとの言い争いをしていたしね、世界が変われば常識も変わると言うことをお互いしっかり認識していなかったことが、今回の言い争いの根源だろう。
僕は昨日と同じ位置にあった椅子に、ソウジはまた別の椅子に座っている――というより上で体操座りしている感じの座り方をしている。
ユリア―アは相変わらずリンゴを見つめている、そんなに気になることがあったのだろうか。
ワスターレはいつも通りクリエットの座るベッドの隣に立っている。
「それでは、始めましょうか」
昨日と同じく、人数分の紅茶を創り終えたクリエットが言った。
と同時に会議が開始された。
「うん、まず認識をはっきりさせましょう。僕達は今後の行動を迅速に決め、かつ実効し、可能な限り早く結果を出さなければ、この『ゲーム』では勝てない。......違いました。勝ち負けではなく生き残ることさえも出来ないでしょう」
「そうですね。皆さんの力では、この世界で生き残ることすら難しでしょう。昨日出会った鬼のように、この都市を離れれば『異獣』に襲われる可能性だってあります。それに都市内でも盗賊などもいます。つまり先ほどジョンさんが言った通り、購入したあの店を拠点として動くときでも気を付けなければなりません」
「そうなるとやっぱ、一人での行動はやめといた方がいーね。少なくとも二人一組での行動は原則必要になるっしょ~」
「うん。ソウジさんの言う通りです。例え都市内に居たとしても、危険はどこに潜んでいるか分かりません。考えられる対処はした方がいいと思いますが、この世界では僕達の常識が通用するとは思えません」
「......そうなると必要なのは、この世界の知識」
ユリアーナがリンゴを見つめた状態で会議に参加する。
そう、ユリアーナの言った通り、この世界でまず必要なのは知識だ。
薄々気が付いていたが、この世界は、元の世界との違いがある。それをはっきりと認識しなければ、いつかドツボにはまり、そして......僕達は終わる。
「んじゃ~生き残るのに、どういった計画がいいっすかね~?」
「そうですね。まずは、皆様の能力向上でしょうか?」
一斉にため息が聞こえる。
他の参加者との差を考えて、それを補う能力を自分たちが付ける。とても簡単で単純で、分かりやすく、そして安直な考えで、無駄だということもだいたいわかる。
「......それは、ボクは却下だね」
「うん。僕も厳しいと思います」
「確かにきっついね~」
不評だ。
当たり前か、今から鍛えるとか、どう考えても時間が掛かる。最短で何十年かかるだろう、むしろそれくらいで、あの者達にたどり着けたらいい方だ。
あまりにも現実的にみても無理だと悟れる。
「そ、そうですよね。やはり、別のことで......」
「でも、一度はやってみよ~か」
「えっ?」
予想外だった。
まさかソウジが賛成に回るとは。彼は何を考えている?
「ソウジさん。最初に否定していませんでしたが?」
「うんや~、確かにきついとは言ったけど、無理かはわからないかな~って」
「なぜ、そう思うのですか?」
その問いは一言「勘かな~」と答えて終わった。
相変わらず、彼は肝心なところが抜けている。そこが分かれば僕だって彼の考えに賛同するのにな。
とりあえず、このクリエットの案を<計画:一>としよう。この計画はソウジとクリエット、そしてワスターレの三人が主体で動くことになった。
「ほかによさそうな案は無いかな~?」
ソウジは自分のやることが決まり、気楽に紅茶を飲みながら問いかける。
「......ボクはこの世界にある知識と歴史、情報を集める。もしかすると参加者を倒す兵器が作れるかもしれないし、武器が見つかるかもしれない」
ユリアーナは、いつも通りの仏頂面で答える。
彼女の提案はもっともだ。そんな便利なものが見つかれば、この世界でも生き残る方法が確立させれたも当然だ。ただ、使用できるかは僕は分らないし、僕も使用しようとは思ってもいない。そっち向きじゃないですからね。
これを<計画:二>として彼女と、そうだねロディオ任せよう。二人なら問題ないはずだ。
「やっぱ参加者を倒すことを考えたほうがいいのかね~。ジョン君、何か彼等を倒す手段とか考えれるか~い?」
ソウジがとんでもない事を言い出す。ゲーム参加者を倒す方法なんて、いまの僕達にはない。
だが、たぶん彼が言いたいのはそういうことではない。力で倒すのではなく、他に別の手段で彼等を倒す手段を計画に練り込もうと言うことだろう。
少し考えた後、口を開く。
「うん。同士討ち、とかは可能ではないでしょうか?」
同士討ち、つまり他の参加者同士で潰し合いをしてもらう、ということだ。
はっきり言って希望は薄い。だが一応提案してみたと言った感じだ。
しかし、これが可能だった場合はチームの数が減る、又は被害を出すことが出来る。その結果、自分たちが戦わなくてもよくなる。むしろ傍観するだけで終わる。
これも一応<計画:三>として考えておこう。
「だったらさ~。チーム自体を壊滅させるとかは、どうかな~?」
「チーム自体、ですか?」
「そうさ~。自滅を狙う、という感じでね~」
内部分裂、ということだろう。それが可能ならいいが、難しそうだ。
「先の同士討ちと、内部分裂を行わせるのに必要なことは、何だと思いますか?」
「そうだねー。直接会って罠にはめる、とかかね~」
やはり、そうなるか。
他の参加者も僕達と同じような都市で身を隠している可能性が高いだろう。
都市なら『規則』があるため戦闘できない。つまりソウジの計画では後々、他にあると思われる都市に赴き、他の参加者と直接会う。会った後はどうなるか分からない。
だけどそれは、僕は正直いやだ。単純に彼等と会うのが怖いからだ。
「そういえばさクリエちゃ~ん。あの『規則』って、破った場合はどうなるの~?」
「そうですね。私も実際に見たわけではありませんが......簡単に言えば死にます」
「わ~ぉ」とわざとらしく驚く素振りをみせるソウジ。たぶんそうだろうとは僕も思っていた。
あの時。他参加者三人の女性に会った時、『規則』が監禁とかの罰則程度ならハッタリを構わず、僕達を殺していただろう。何せ他にも仲間がいたのだから、しばらく待てばいいだけだ。
しかし、即死なら別だ。誰だって死にたくなし、何よりチームの人数が減る。つまり、あの時僕達を殺すのには、あまりにもリスクが大きすぎる。そう彼女達も判断したのだろう。
「そっか~、ありがと~」
「い、いえ。前にも言いましたが、私の分かる範疇なら大丈夫ですよ」
「なら、もう一つ。どうやったらあのステータスとかを、見れるのかな~?」
そうだ、彼女はなぜか知らない情報も瞬時に知ることが出来ている。
最初はこの世界にある特別な魔具と言う道具を使用していると思っていたが、どうも彼女の行動を見ていて、そのような物を使っているようには見えなかった。
もしなにか方法があって、それを知ることが出来れば、僕達でもそのステータスを見ることが出来るのではないだろうか。それが使えれば、かなり便利だ。
聞かれた本人であるクリエットは、右目を抑えてすこし沈黙してから口を開ける。
「あれは、私のスキル......いや、私の持っている『神眼』の能力の一つです」
彼女曰く、右目のその『神眼』を使用することで、あらゆるものが見えると言う。
『視察』という、視界に映る者のステータスを見ることが出来るスキル。
『透視』という、壁の向こうを覗くスキル。
『遠視』という、望遠鏡のように遠くを見るスキル、などがあるらしい。
ソウジが冗談で「目から光線とかは~」と馬鹿げた事を言っていたが、その返事は予想外にも「あります」だった。
目から光線......『光視』を使用しないのは、使用後少し右眼が痛いため、らしい。
「な、なかなか高性能だね、その『神眼』っていうの~」
「そうですね。これは代々我が都市で受け継がれる能力ですので、残念ですが皆様には使えません」
「うん。では他の方々は、どうやってそのステータスなどを見ているですか?」
その問いにはすぐに答えてくれた。むしろそれが聞きたかった。
その答えとして、どうやらこの世界には、俗にいう『魔法』というのがあるらしい。その魔法の一つに、相手のステータスを見ることがスキルがあるとか。
もちろん。というのは変だが、僕たちは無理だった。魔法を使用するのに必要な魔力というモノが僕達は少なく、使えたとしても操ることは困難だろう、と言うことらしい。
魔法を使ってみたいと思っていたが、残念だ。
「......それで話が戻るけど、他にも計画は無いの?」
暇そうにしていたユリアーナが肘をつきながらため息を吐く。
そういえば僕達は計画の話をしていたのだった。
先ほど出た、チームの自滅を<計画:四>として考えよう。
「うん。それでしたらやはり、あの購入した労働者の活用、でしょうか」
「『商品』ね~。それはもう確定している感じじゃないですか~」
「やだな~」と言いつつ、ソウジが手をひらひらさせている。この態度は確かにクリエットが怒るのも無理はない。僕だって少しイラってくる態度だった。
「そうではなくて、ですね。誰が担当するかという......」
「あれ? それは君とアリシアちゃんの担当じゃないの~?」
それはまったく聞いていない、僕はてっきり調教はソウジさんがやると思っていた。
言い出したのはソウジだったのに、何か投げられた感じだ。
「......そうだね。ボクもソウジなんかより、ジョンとアリシアに任せたほうがいい」
なぜそう言い切れるのか。いや、確かにそうかもしれない。
ソウジは確かに考えが鋭いが、まるで中身が無い時がある。それに言葉で伝えるのが、少し苦手のようだと思われる。
ユリアーナやロディオも同じ理由。自分の世界に入ったらそれっきり、彼等を指導するには少し難しい。それと、コミュニケーション能力が低く、話が苦手そうだ。
それに比べて、僕は人前に出ることに慣れている。調教まではしていないが、人を操る術なら知っているし、実際にやってきた。
アリシアは......そう、僕のような小細工は使わない。彼女は自然に人を惹きつける何かを持っている。それは本当に羨ましく思うほどに。
そういう意味なら、あの『商品』の扱いは僕らがやったほうがいいのかもしれない。
「......うん、わかりました。では、アリシアさんと共に何とかしておきましょう」
「よろしくね~。出来るだけ従順に、ね」
ソウジの真意は分かっていた、だから頷く。
これが<計画:五>ということになると、やることがさすがに多くなってきたな。
「そうですね。ひとまずは今後の方針が決まりましたね。もう遅くなってきましたので、今回はこの変にして、私は一度食事の準備をしていきます」
「うん。クリエットさん、宜しくお願いします」
もうこんな時間か。
時計とかがないため時間が分からないが、窓から見える外の暗さからだいたい予想は出来る。それでもそんなに話していたのか、まったく気が付かなかったな。
「うん。では、僕は先に部屋に戻ります。何かあったら呼んでください」
そう言い、宙に浮いた足を床にゆっくりと付け、椅子から降りる。
「わかりました、他の皆さんも部屋にいても構いません。食事が出来ましたら呼びに来ます」
クリエットは一礼してから、ワスターレと共に部屋を出て行った。
「......ボクも部屋にいる。調べたいことができたから」
「オレは散歩してるよー。ついでにアリシアちゃんとロディオっちも呼んどくぜ~」
そうして僕らも同時にクリエットの部屋を出た。
僕はすぐ隣の部屋に直行、ユリアーナも僕の前の部屋に入っていった。ソウジは先ほど言っていたとおり、どこかに行ってしまった。
部屋に戻ってすぐにベッドに横になる。
瞳を閉じて、頭の中でつくられた家の中で、壁に刺したリストを確認する。
<計画:一> 僕達自身の能力向上、いわゆるレベルアップ。それとスキルの習得。
<計画:二> この世界の知識、技術による武器の製造又は発見。
<計画:三> 同士討ちを誘う、または待つ。
<計画:四> 内部分裂を起こさせる。
<計画:五> 労働者を用いる。
いまのところ、実用性があるのは<計画:二>と<計画:五>だろうな。
<計画:一>は、僕の予想では出来ない。理由は簡単だ、まず、時間が足りない。
実際戦えるまでに、数十年の月日が必要だろう。
それに、たとえ時間があったとしても、カト等の参加者に勝てるほど、鍛えれるとは思えない。
<計画:三>および<計画:四>に至っては、どうやればいいのかがさっぱりだ。
提案したのはいいのだが、相手の正体が分からなければ、出来そうにない。
仮に正体が分かっても、相手は自分たちのような人かもしれな......まてよ、カト達の言動や仕草は人らしい。しかも、分かりやすい。
もしかしたらこの計画、うまくかもしれない。
そういえば、ロディオやアリシアにも教えていなかったな。
戻ってからちゃんと教えておかないと、情報共有は大事だか......ら。
それと......労働者の......ことも......話さ......ないと。
......。
僕は睡魔に負け、いつの間にか完全に意識が飛んでいた。
目覚めたときには朝日が昇っていた。
朝起きたとき、僕は昨日の夕食が食べれなかったことを、ベッドの上ですごく悔やんだ。




