0 場違いな 者
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誤字・脱字があるかもしれません。
もしそれら見つけましたら、報告を頂けるとありがたいです。
投稿は不定期になると思いますが、よろしくお願いします。
そこは何の変鉄もない草原。
あるのは、地上を照らす日の光。
聞こえてくるは風のせせらぎ。草木が揺れ、擦れる音だけだ。
そんな穏やか場所に、電気が流れる様な場違いな音が響き渡る。
ビリッともバチッともとれる、その音と共にソレは現れた。
地面に突如として生まれたのは模様だった。
模様の上に、一瞬の光と共に浮かび上がるのはふたつ人影だ。
一人は薄桃色のスカート部分がふっくらとしたドレスを着た青髪の少女。
頭には髪の色と同色の髪飾りを付け、動きやすそうな白いシューズを穿いている。
もう一人は腰に長剣を下げた、銀色の全身鎧を着た大男。
座り込む青髪の少女を見守るように、微動にせず、ただ静黙している。
青髪の少女はすぐさま立ち上がり、辺りを警戒するように頭を左右に動かす。
それから何もない事を確認し、重たい空気を吐く。
「ありがとうワスターレ、助かりました。どうやらこの場所は大丈夫のようです。ですが、警戒は怠らないようにしてください」
「......」
ワスターレと呼ばれた全身鎧の男性は頷き、腰の鞘に納めている長剣の柄部分に手で触れる。
それはまるで、お前は俺が絶対に守る。と言いたげな仕草。
青髪の少女とワスターレの間に会話はない。だが、その仕草一つで心が通じ合う。
「ありがとう。今はもう、アナタしか頼れる人がいませんので助かります」
少女は腰に巻き付けていた白い鞄を探る。
中から一つ、握り拳ほどある虹色に光る石を取り出し、それをワスターレに渡す。
「ワスターレ、お願いがあります。この『供物』を......六つに分けてください」
再びワスターレは頷き、鞘から長剣を抜く。
音もなく一瞬にして石を六つに分けられ、剣は再び鞘に収められる。
分かれた石は青髪の少女の手の上に落ちた。
「ありがとうございます。では、これからこの場で『召喚の義』を行います。ですが、この『供物』では失敗するかもしれません。そして、私が死んでしまう可能性も、あります」
青髪の少女は次に白いチョークの様なものを取り出す。
雑草のあまり生えていない地面に、取り出したチョークで手慣れたように丸を描き、その中に五芒星を軸とした模様を描く。これは俗にいう魔法陣というモノだ。
少女は黙々と準備をしている間に思った。
本来、これから行う『召喚の義』には、合計六つの『供物』と呼ばれる素材等を必要とする。だが、その『供物』が数分なかったため一つを六つに分けた。
この中途半端な供物で儀式を行った場合、彼女自身どうなるか分からない。
だからこそ最悪な考えが、心の内に生まれた。
「もし、私が死んだ場合は......」
六つに分かれた『供物』を五芒星の先端にあたる五か所にそれぞれ別々に置く。
青髪の少女は魔法陣の中央に座り、残った最後の『供物』を手の平で持ち上げる。
「アナタだけでも逃げて、そして『次の方』に付いてください、ね」
ワスターレは黙ったまま頷く。
頷きを見た少女は「ありがとう」と微笑む。
そして、儀式が開始される。
「我、クリエット・モドュワイト・ロームーブの名の下に要求する。我の声を聴き、姿を捉えし者よ。我に従い、我と共に勝利をもたらす者よ。どうか......姿を現せ」
青髪の少女――クリエットが唱える。
魔法陣が光を放つ。
同じように置いてあった『供物』も光を放ち、宙に浮かぶ。
座っている地面から、強く吹き荒れる風に似た力をクリエットは全身に浴びる。
ドレスが持ち上がり、スカートもなびく。同時に持っている『供物』も、手の平から離れていく。
「......っ!」
しかし、それ以上のことが起きない。
沈黙。
内側から込み上げる、焦り。
クリエットにとってこの儀式は二度目だった。
最初の一回目は唱えた瞬間に現れた。
だが、今回は違う。
クリエットは嫌な予感がした。
唱えても現れない。
理由はいくつかあるだろうが......それでも変だ。
「どうか、どうかお願いします。応じ......答えて。お願い、します......。『あなたの力が必要なのです』!!」
思わず願いを口に出して叫ぶ。
こんな事が無駄だとはわかっていた。
だが、無駄では無かった。
魔法陣が更に輝きを増し、全ての『供物』が砕け散る。
激しい光にクリエットは思わず目を閉じる。
光がおさまった直後、ゆっくり目を開けて辺りを確認する。
周りには見知らぬ五人の男女が倒れていた。
「や、やった。成功した! やったよワスターレ! 召喚できた!」
クリエットは近づいてきたワスターレに抱きつき、跳びはね、嬉しさを爆発させる。
彼女自身かなり不安があった。
以前はすぐに現れた『召喚されし者』がなかなか現れなかった。
それだけでも不安だったが、何より別の事で焦っていた。このような草原にまで追い立てられた状態にした者達が、まだ追ってきている可能性があったからだ。
「こ、これで、この『ゲーム』にも希望が見えた、見えてきました」
徐々に落ち着きを取り戻しつつ、しかし内情興奮した状態で一人一人を確認する。
見た目は普通な五人。
格好もバラバラで、統一感なんてない。
なかなか珍しい人達かもしれない。
「......あれ?」
クリエットは、とあることに気が付く。
同時に次なる不安が内にあふれる。
「この方たち、なんて身軽な装備なのでしょうか?」
クリエットが気になったことはその服装だ。
現れた五人の服装は、都市や街で見かけるような質素な服装だったためだ。
本来『召喚されし者』は、鎧や剣などの武器や防具を装備している場合が多い。だが召喚された五人はそのような装備は一切なかった。
武器も、防具も、道具もない。
頬に手を当て思考する。
「もしかしたら何か特殊な力が備わっている、のかも......」
クリエットは左目を手で抑える。
右目は開いたまま。少し迷ったが、決意する。
「あまり、味方とかに許可なくやるのは好きではありませんが、今は時間がありません。『視察』を発動!」
右目を見開き、景色が一瞬ブレた後、文字が表示される。
初めに確認する相手は、一番歳をとっていると思われる灰色コートの長身男性。
男性の周りに様々なステータスが表示される。
「そ、そんな......ない!」
名前は『ロディオ・ジーヴァピス』
年齢『19歳』
種族は『人族』
性別は『男性』
レベル......『10』
装備の材質は『どこにでもある布製』
特殊武器および特殊スキル『なし』
慌てて隣にいる白いコートの様な服を着た女性に視線を移す。
名前は『ユリアーナ・ジーニ』
年齢『20歳』
種族は『人族』
性別は『女性』
レベル......『11』
装備の材質は『どこにでもある布製』
特殊武器および特殊スキル『なし』
さらに隣の赤茶色の髪の少年を映す。
名前は『ジョン・リード』
年齢『9歳』
種族は『人族』
性別は『男性』
レベル『6』
装備の材質は『どこにでもある布製』
特殊武器および特殊スキル......『なし』
その隣の見た目は良いドレスを着た少女。
名前は『アリシア・ライトベア』
年齢『16歳』
種族は『人族』
性別は『女性』
レベル『8』
装備の材質は......『どこにでもある布製』
特殊武器および特殊スキル『なし』
更にその隣の男性は......もう映すのを止めた。
もう分かった。もう理解した。もういい。
クリエットは自然と膝をつく。
力無く、ただ地面に吸い寄せられるかのように。
全身をこの世界全てに、委ねたように。
「こ、こんなの、のって。あ、ありえるの......? 誰も、何も持っていない。そして......レ、ベルも、低い。彼らはどこから来たのか、どんな世界に居たのかなんて、知らないけど。そ、それでも、こんな人達が、生きていける世界なんて......あ、あるの?」
普通ではありえない。
いくら考えても、いまの状況がまずい事に代わりはない。
しかし、希望が打ち砕かれた感覚が、全身に電気が流れるように染みわたる。
呟き、涙を流しているクリエットに、ワスターレが宥めるように背中を優しく叩く。
彼は普段、こんなことをしない。
どんな気まぐれか何かかは分らないが、それでもうれしかった。
確かに召喚された者達は、期待していた者達ではなかった。
でも、こうなっては仕方がない。
この世界に選ばれた以上、彼等には何かあるはずだ。
涙を拭こうとしたとき気が付く。
後ろから歩み寄る音に......。
そして話しかけられる。
姿勢はそのままで後ろを振り向き、確認する。
話しかけてきた者は、先ほど召喚した五人の一人。
茶髪の少年、ジョン・リードであった。




