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短編

神官さんの恋愛模様

作者: 純太

ルリスタリアの王都タリの中央には、世界の信仰の要、ラズリ神殿があった。

私、ノリスはそこで『先見の神官(さきみのしんかん)』として奉仕をしていた。

神様の気まぐれで、稀に“少し先の世界”を見ることの出来る者がいた。その者は神官となり、国が揺らぐとき、神に願い、少し先の世界を見せてもらい人々を導く。それが私たち先見の神官である。


私もそんな誉れ高い『先見の神官』の一人なのだが、下っ端のぺーぺーで、中々神託をさせてもらえない。

今のところ私の先見は確率十割(まあ、神託の回数が少ないので必然的に確率は上がっている)なのだが、他の神官のように多くの人の役には立てていない。

下っ端ぺーぺーなので仕方がないと分かってはいる。

だが、私も多くの人々の役に立ち、少しでも災厄から守りたいのだ。

それでも現実は厳しく、神官としては未熟な私よりも熟練の立派な神官に誰しも見てもらいたいだろうし、その方が人々は安心し役にも十分に立っている。

分かってはいるが、なかなか思うようにいかないものだ。


「全然分かってないわよ」


私の懺悔を聞いていたシンシアが呆れ顔で私に言った。


「確率十割だから、大事な局面でしか貴方の先見の能力を使わないのよ」


謙遜しすぎにも程がある、と鼻息荒く彼女は出されたお茶をグッと飲み干した。


今日の彼女はお城の用とかで、王宮師団の騎士らしく、軽装ではあるが甲冑を身につけていた。深紅の髪も上で一つに纏められており、元が美人なだけになんとも凛々しい姿だった。

ところでお茶、熱くないのだろうか?


「だから、王宮師団の騎士である私たちが持ってきた大事な案件を貴方が見たんじゃない」

「実に一ヶ月ぶりの仕事だったよ」


彼女はそう言って私を励ますけれども、中々役に立つ機会が少ないというのも淋しいものだ。


「励ましじゃなくて事実だからね」


なんと。私の呟きは聞こえていたようだ。


「全然呟く声の大きさじゃないわよ」


なんと。


「まったく」とシンシアは零すと、一つに結い上げられた波打つ赤毛を指に絡めて溜め息をついた。気を落ち着かせるときの彼女の癖だ。

そうしながら、彼女は何か思い出したようで、あ、と声を漏らした。


「そうだわ。貴方の禊ぎの護衛の件だけど、私も参加できそうだわ」

「本当かい?」


2年に一度行われる禊の儀式は、神殿から少し離れた山で行われるため、神官の中でも希少な存在と言える私たち先見の神官は、毎年王宮師団が護衛をしてくれる。

今回、私は禊の対象となり、その護衛役の王宮師団に彼女が立候補してくれたのだ。

彼女の実力から、よっぽどのことがない限り同行者から外されることはないと思っていたが、さすがはシンシア。狙った獲物は逃がさない。


「ええ。男が多い先見の神官と謂えども、同行者には女もいるんですもの。牽制しとかないとね」


彼女の発言に私は苦笑した。

このように冴えない男など相手にする女性はそうそういないと思うけどな。

私はシンシアの髪を一房つかむと彼女の真似をして指を絡ませた。

波打つ彼女の髪は柔らかく、絹のように滑らかで気持ちがいい。

長い髪に顔を寄せると彼女の香りがする。

とても落ち着く匂いだ。


「私のことを好いてくれるのは君だけだよ」


彼女の髪を解放すると、シンシアが彼女の髪にも負けないくらい真っ赤な顔をして口をパクパクさせていた。

その様子に私は首を傾げた。


「どうしたの?シンシア」


シンシアは真っ赤な顔の眉をぴくぴくと動かし、拳を固く握って叫んだ。


「このっ、誑しっ!」

「え?タラシ?」

「しかも無自覚なんて余計性質が悪いわ!」


シンシアは頭を抱えて唸りをあげた。

悩ましい様子の彼女を見ながら、私は口元に笑みを浮かべた。


彼女は私には勿体ない人だった。

王宮師団の七番隊副隊長をしている、所謂エリートという役職であるうえ、街一番の美人と有名だった。

そのうえ器量良しで、街の男たちが熱を上げている。

そんな女性と私は所謂恋人同士というもだった。

とても光栄だと思うと同時に、私にはもったいないという気持ちも・・・・・・・・少しはある。

うん。本当に少ししかないな。

何しろ、選び放題の彼女に選ばれて、私が触れると顔を赤くする。彼女が私を好いているというこの様子が、私に自信を持たせてくれる。


プリプリと怒る彼女の様子を、私は彼女が近くにいる嬉しさに打ち勝つことができない緩んだ表情のまま眺めた。

そんな私を見て、今度は彼女が首を傾げた。


「そんなにニヤニヤしてどうしたの」


ニヤニヤしてたか。思ったよりも緩んでいたようだな表情筋。

私は頬に手を当てて緩んだ筋肉を元に戻す努力をすることにした。


「好きだなーと思って、君に出逢えたことが嬉しすぎて、つい、にやけてしまったようだ」

「なっ」


次は頬を染めたかと思うと、一回息を吐き出してシンシアは頭をひと振り。


「危ない。また臭いセリフに凍らされるところだった」

「おや。私は思ったことを素直に言っているだけだよ?」

「余計たちが悪いわ!」


そうかなあ?と私は頭を捻るものの、色付いた彼女の顔を眺め、彼女が喜んでいるようだし、まあ、いいか。ということにした。

本当は、少し緩んだ口元に口付けたいところだけど、それをしたら騎士の腕前を持って鉄拳制裁されるだろうから、今日のところは止しておこう。

ノリスは無自覚タラシ。イケメンだったらホストクラブで荒稼ぎ出来るタイプ。

ちなみに先見の神官の中ではべらぼうに凄い存在というチート設定だったりします。

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