第二章エピローグ
ケビンの介入のせいで、中途半端に閉幕してしまった東海地区大会。一応、徹人が優勝という結果になったものの、ライムや朧という公式には存在しないモンスターが出場したことで、このまま公式記録として残しては非難が殺到するのは火を見るよりも明らかだった。
そこで田島悟が下した判断は、今回の結果を無効とし、後日改めて大会を再開催するというものだった。会場へのセキュリティが問題視されたため、東海地区大会より後に開催を予定されていた大会はすべて日程を後ろ倒しに変更。東海地区大会は再度会場を借り入れることが難しくなったため、オンライン上で実施されるということだ。
また、チートモンスターを使用したことで本当なら反則となるはずだった徹人達。だが、ケビンの企みから会場を救ったこと、予選でのカード獲得枚数から、決勝進出は確実だったことから、再開催される地区大会での予選免除ということで落ち着いた。
「つまり、私たちは決勝へのシード権を獲得したってわけね」
「そういうことになるな」
徹人は運営からの特別メッセージでこの処遇を知り、すぐさま日花里に電話で連絡。彼女もまた、父親から直接メールで連絡を受けたそうだ。
この連絡があったのは、大会が終わって数日後に迎えた冬休み初日。徹人が自室で全国対戦に興じていた時のことである。会場ジャック事件への対応に追われる中での決断ということで、なかなかの手回しの早さというべきか。
ケビンによる大会ジャック事件は全国ニュースとして報じられた。アクセス履歴から居所を探ろうとしても、シルフが消滅したと同時にログまで消去されたようで、まさに立つ鳥後を濁さずだった。唯一の手掛かりはケビン当人と思われるサングラスの男の映像だが、あれはケビンのアバターである可能性が高く、実在の人物像も謎のままであった。
警察ではケビンのアクセス経路を引き続き探っているという。綾瀬も出し抜かれてばかりで相当悔しかったのか、ケビンの足取りを掴むのに躍起になっているらしい。
「ところで、愛華ちゃんの具合はどう」
「やっぱりただの風邪だったみたいだ。今週末には退院できるってさ」
ドームの医務員の見立て通り、愛華の症状は急な温度変化による発熱。少し前に患っていた風邪がぶり返したようだが、重症というわけではないらしい。いくつか検査を受け、すぐに退院の日程が組まれた。
日花里とはそれからしばらく雑談し、通話を切った徹人はベッドへと上向きにダイブする。朧とケビン。敵手と仇敵が同時に現れたものの、ライムの謎については今一つ進展せず。むしろ深まってしまった。難しい顔をしていると、いきなり真正面から覗きこんでくる顔があった。驚いてベッドから転げ落ちてしまう。
「ライム。心臓に悪いからいきなり出てくるなよ」
「だって日花里と話してばかりで退屈だったんだもん」
むくれ顔で本棚の上に腰掛ける。杞憂だと分かっていても、本棚が倒れてこないか心配になる。
「テト、またケビンについて考えてたでしょ」
「ああ。どうやってぶっ倒そうかってな」
「あいつなら私の秘密を知っているかもしれないしね」
ケビンを倒すことがライムのウイルスを取り除く方法に繋がるかもしれない。具体的な目標ができたという点では一歩前進と讃えるべきだろう。
相手が朧以上だというなら、こちらもそれ相応の力をつけるのみ。
「ライム、もう一戦行くぞ。ケビンを倒すためにも特訓しておかないとな」
「合点承知の助だよ」
ライムは勢いよく首肯すると、ファイトモンスターズのサーバー内に戻っていく。そして、意気込んだ徹人は全国対戦を起動するのだった。
どことも知れぬ一室。一台のパソコンを取り囲むように大量の書籍が蓄積されている。元々狭苦しい部屋の面積が更に圧迫されていた。薄暗い照明の中、パソコン画面が一段とまぶしく光っていた。
「愚かな警察諸君だよ。まさかこの私が那谷戸市外にいるとは思ってもいまい」
その声を徹人が聞いたらすぐさま激高するだろう。会場ジャックの犯人ケビンはパソコンの前で頬杖をつき、怪しくにやついていた。
会場内をくまなく捜索しても発見できなかったのは自明で、彼は会場の外、それどころか那谷戸市外から遠隔操作を行っていたのだ。犯行の源は彼の前にあるパソコン。プログラミングの心得がないものには意味不明な文字列が表示されていた。
「情けないのう。この作戦なら間違いなくライムを手に入れると大言壮語を放ち、結局逃しおる」
「並大抵の相手なら成功していたさ。ライムの力を甘く見過ぎていた。ただそれだけだ」
背後に佇む影に、振り返りもせずにケビンは答える。背中には四対の羽が生えており、局部をプレートメールで覆っている他は素肌が丸見えという露出度の高い服装をしていた。肩で切りそろえられた金髪を指で払い、細目だが整った顔立ちで笑みを浮かべる。その様は聖母、いや、天使であった。
「やはりわらわがいくしかないかの。ライムはそれほどの相手なのだろ」
「最終的にはお前の力を借りることになるだろう。だが、今は時期尚早だ。来るべき時まで待っておれ、パムゥ」
パムゥと呼ばれた少女は鼻で笑うと、翼を翻してどこかへ消えていった。ケビンの脅威はまだ序の口。むしろ、これからが本番であった。
ご愛読ありがとうございます。第二章地区大会編これにて閉幕です。
バトル大会ってことで、八割方バトルしてましたが、いかがでしたでしょうか。朧戦でもかなりの長丁場なのに、カズキとか色々強敵が出てきましたからね。
しかし、第三章はそれを上回る、それどころか現時点最強とも言ってもいい強敵が出現。
更に、三章の後に外伝となる特別短編の執筆も決定しました。
次回更新までまた少し時間が空いてしまいますが、第三章「レイドボス編」をお楽しみに。




