表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 愛華を救え! ドームサーバーに仕組まれた罠!!
92/238

ケビンの真の目的

 ドームサーバーに入るや、ライムにも激しい重圧がかかる。すぐに遊泳を開始するが、少し進んだところで息切れを起こしてしまう。徹人の懸念は的中しており、彼女は完全に回復したわけではない。ウイルス能力を駆使して九死に一生を発動させるなんてことは無理だろう。それどころか、攻撃属性変化さえも使えそうにない。どうにかバブルショットぐらいは撃てそうというのが救いだった。


 しばらく進むと、やけに騒がしい一角に辿りついた。会場のモニターにはジオドラゴン、シルフに続きライムの姿が映る。

「おじさん」

 モニターで確認してはいたものの、実際に目の当たりにするとその姿は悲惨だった。全身の大部分がノイズに浸食され、かろうじてその姿がおっさんだと分かるぐらいである。

「ライムか。気を付けよ、この空間はじっとしているだけでも体に負担がかかる。我もかろうじて実体を保っているぐらいだ」

「そうみたいね。この空間のせいだけじゃないかもしれないけど、ものすごく辛いもん」

 いつものように冗談を飛ばす余裕はないようだった。その場に留まっていても少しずつノイズに侵されていく。


「日花里ちゃん。これ以上ジオドラゴンを他サーバーに置いておくと間違いなく消滅してしまう。ライムとタッグでシルフを倒せればベストだけど、ここは早々に離脱させるのよ」

「分かったわ、綾瀬姉さん。ジオ、そこから脱出できる」

「しようと思えばいつでも脱出できるようだな。不本意ではあるが、我はここまでのようだ。ライムよ、必ずやあやつを倒すのだぞ」

「任せといてよ」

 それを置き言葉にジオドラゴンがドームのサーバーから消滅していく。状態が状態だけに、本当に消滅したのではないかと不安視されたが、その点は大丈夫だったようだ。十秒ほど後、日花里の隣におっさんのアバターが転送された。ノイズは一切混じっておらず、至って平穏無事であった。

「大丈夫、ジオ」

「愚問だ。こちらのサーバーに逃れた途端、急速回復したぞ。ここにはパワースポットでもあるのか」

「そんなボケをかませるなら平気みたいね」

 ため息とともに日花里はその場に座り込んでしまう。徹人は微笑を送ると、すぐに真剣な表情になり自身のデバイスに向き直った。


 ジオドラゴンが戦線離脱したことで、会場のモニターは徹人のデバイス映像を映し出している。あの空間に残されたシルフとライム。互いに様子を窺っているが、そうしている間にもライムのグラフックが歪んでいく。

「待ちかねたぞ、ライム。このサーバーへ足を踏み入れたが貴様の運の尽き。ここでは実力の十分の一も発揮できまい。シルフ、確実に奴を捕らえるのだ」

「承知しましたわ」

 お嬢様らしく礼をすると、ワンピースの裾を広げるように一回転した。その挙動に合わせて空気の刃が放たれた。風属性の中堅技「ウインドカッター」だ。普段のライムなら難なく回避できる一撃だが、あっけなく正面から刃に当たってしまう。胸に一直線のノイズのラインが走り、同時にライムは片膝をついてしまった。


「無様ですわね、ライム。もう少し楽しませてくれると思いましたのに」

「ここじゃなかったら思い切り暴れられるもん。っていうか、どうなってんのよ。あんた、ここにいて苦しくないの」

「僕も疑問に思った。ライムやジオのおっさんが苦しんでいるのに、どうしてシルフは平気なんだ」

 ファイトモンスターズのモンスターにウイルスが混入して生まれた存在なら、ライムと同様にペナルティを受けているはず。なのに、シルフは平然と佇んでいるのだ。


「君たちはこのシルフがただのモンスターだと思っているのかね」

 馬鹿にしたようにケビンは言う。

「どこからどう見てもファイモンのシルフだろ」

 徹人はムキになって反発するが、ケビンは嘆息と共に続けた。

「ファイトモンスターズのキャラクターにウイルスを混入させたと思っているのならお門違いだ。こいつの正体は純粋なコンピューターウイルス。それも、このサーバー環境に適用させた特殊なものだ。このグラフィックはファイトモンスターズのシルフを用いているから、勘違いするのも無理からぬだろうな。

 こいつに命令してあるのは空調とドアのシステムの支配。邪魔するアクセスがあれば阻むようにもプログラミングされている。ライムがそうなっているのは、シルフではなく、ドームのファイアウォールの影響だろうな」

「ファイアウォールって、まさかウイルス駆除システムが邪魔になってるのか」

「ドームのサーバーからすればライムは招かれざるプログラムだから、除外しようとされるのは当たり前だろう。それとも、全く影響がないと思っていたのかね」

 罠があるとは思っていたが、ごく普通にインストールされているウイルス駆除ソフトが壁になるとは予想外だった。加えて、予めこの環境に適用したウイルスを用意していることからして、ケビンの目的はライムを他サーバーにおびき寄せることだったのだ。


 度重なる連戦でライムを疲弊させ、まともに戦えない場で確実に捕獲する。敵ながらあっぱれな作戦ではあるが、思惑通りにさせるつもりは毛頭ない。

「ライムを手に入れるだけなのに作戦が大がかりすぎるだろ。会場ジャックまでやりやがって。お前の本当の目的はなんだ」

 徹人がぶつけた質問は会場の誰もが知りたい疑問であった。たった一体のモンスターを手に入れるためにしては、やり方が大袈裟すぎる。それとも、見合うだけの価値がライムにあるということだろうか。


「私の真の目的か。そんなものを容易く明かすわけがない……そう言いたいところだが、特別に教えてやろう。私がライムを狙う理由、それはネット上に眠る埋蔵金を手に入れるためだ」

 ネット上の埋蔵金。あまりに突拍子もない概念が飛び出したことで、会場は静寂に支配された。

「埋蔵金……予想外の目的が語られたが、果たしてライムとどう関係があるのか」

 ファイモンマスターが場の空気を繋ごうとするが、氷結した雰囲気は容易に溶けそうになかった。


「なんとなくだけど、聞いたことあるな」

 そんな発言をしたのは綾瀬だった。静まり返ったドーム内では、マイクなしでもその声はよく通る。衆目を一心に浴びるのはさすがに気恥ずかしそうだったが、綾瀬は咳払いして話を続けた。

「とある資産家が莫大な預金データをネット上のどこかに隠したっていう都市伝説よ。そのデータは強力なセキュリティによって守られていて、未だに打ち破る手段は開発されていないみたい」

「その話なら私も聞いたことがある」

 呼応したのは田島悟であった。ケビンを一瞥すると、会場へ向け語りかけた。

「現代技術では発掘不可能な埋蔵金。その金額は国家予算レベルに上るとか。ただ、噂に尾ひれがついただけやもしれぬ。隠されているものの正体は誰も知らぬからな」

 本当に国家予算規模の大金が眠っているとしたら、こんな大規模犯罪を引き起こして手に入れようとしても不思議ではない。ただ、それとライムがどう繋がっているかが不明だった。


「私はその埋蔵金を手に入れる方法を模索してきた。そして行き当たったのがライムなのだ。彼女の類まれなるデータ干渉能力。それを以てすれば、いかに強固なセキュリティだろうと突破できる。今はデータ負荷のせいで、この環境下に苦戦しているようだが、万全の状態であればこのセキュリティさえも苦なく順応できるはずだ」

「ライムの力で埋蔵金を手に入れようとしているのは分かった。けれど、どうしてそんな大量のお金を狙うんだ」

「君は実に愚かな問いかけをしているな。金が欲しい。それ以外に特別な理由が必要かね。人はなぜ宝くじというろくすっぽ当たらない紙切れを買い求める。そんなのは金が欲しいからに決まっているだろ。資本主義経済の世の中、これ以上の動機がどこにある」

 いっそ清々しいまでの犯行動機だった。だからこそ、ケビンの所業は許せなくなった。私利私欲のために大会を潰し、妹を危機に晒した。徹人はデバイスを握りつぶさんほど強く力を込めた。


「お前みたいなやつにライムを渡してたまるか。ライム、バブルショットだ」

 いきりたって命令する徹人に合わせ、ライムは指先から気泡の弾丸を放つ。しかし、シルフは上空へと舞い上がって難なく回避してしまう。それどころか、飛び上がりざまにウインドカッターを発射され反撃を受けてしまう。

 どうということのない相手のはずなのに、実力の十分の一も発揮できずに苦戦を強いられている。ケビンへの憎悪も合わさりなんとも歯がゆかった。

この物語はフィクションなので、本当にネット上に埋蔵金があるとは限りません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ