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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 愛華を救え! ドームサーバーに仕組まれた罠!!
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ドームサーバーに潜む敵

「嘘よ」

 審判が下され、割れんばかりの喝采が響く中、シンは首を振って絶叫した。負け犬の遠吠えと嘲笑われても構わない。それでもシンは納得できなかったのだ。

「朧のアビリティは確実に発動したはず。なのに、あのライムの体力はありえない」

 別にアビリティが発動しなくても、ライムの残り体力は不自然な値だった。最後の攻防の際、ゲージは一ドットしか残っていなかったはず。


 そうであるのに、最終的にライムは半分近く体力を残していたのだ。


 尽きるどころか逆に回復してしまっている。テトが不正を用いたと糾弾されても仕方ない。だが、彼は動じることはなかった。

「僕が最後の最後にインチキを使ったと思っているだろうが、それはお門違いの指摘だ。きちんとルールに則って、スキルカードで対処させてもらった」

「そんな。あの状況を覆せるスキルカードなんてありえない」

「いいや。君も使った手だよ。よく考えてみて。あるじゃないか、この状況を作り出せるカードが」

「そんなカードなんて……」

 そこまで言いかけて、シンははっと思い当たった。トラッシャーがリサイクルで復活させたカード。逆鱗の他のもう一枚があのカードであったとすれば。


「僕が使ったのはこいつだ。スキルカード回復リカバリー

 徹人の仕組んだカラクリは実に単純だった。ライムが最後の技を放つ直前に回復を発動。先にライムのバブルショットが命中し、朧のアビリティにより反撃を受けるものの、回復量の方が上回った。結果的にライムは瀕死どころか、十分に体力を残したまま勝負を終えたのだ。

 つばぜり合いの間にスキルカード、それも回復を介入させる。まさにシンも披露した一手だった。それでトドメを刺されたのだからショックも一塩だ。

「完敗ね。二対一でも敵わないうえに、自分が使った戦法でやられるなんて」

 四つん這いになってうなだれるシン。そんな彼女に徹人は手を差し伸べた。

「ナイスファイトだったぜ。正直、ライムのアビリティがなければすぐに負けていた。また戦ってくれるか、次はケビンの邪魔が入らないところで」

 破顔すると、シンは顔をあげ素直に差し伸べられた手を握った。激闘を讃える選手同士の握手。この日最高の盛り上がりをみせ、大会は幕を閉じる。


 そのはずであった。興奮が冷めやらぬまま、新たな敵が出現する。なんて展開ならまだ許容できただろう。しかし、徹人は強烈な違和感を覚えていた。火照った身体が急速に冷やされていくのだ。骨の髄まで凍えそうな空っ風。室内にしては異常な冷気が吹き付けてきている。

「おい、どうなってるんだよ」

 追い打ちをかけるように、出入り口付近から怒声が響く。ホール内に幽閉された選手たちが束になりドアに体当たりをしているが、扉はびくともしないのだ。


 勝敗は決した。しかし、ケビンによって仕掛けられた空調とドアロックの異常は解決していない。

「ケビン、これはどういうことだ」

 田島悟が声を張り上げたのをきっかけに、恫喝が集中する。孤立無援にも関わらずケビンは表情を崩すことはない。

「さあね。システムに不具合でも起きているんじゃないか」

 火に油を注ぐが如く惚ける始末だ。当人がどこにいるか分からないため、モニター越しに怒りをぶつけるしかない。


 徹人もまた険しい顔でケビンを睨みつける。そうしていると、観客席の一角がひときわ騒がしくなっていた。何事かと思い、その付近へと歩み寄る。徹人の姿を確認するや、綾瀬が手を振った。

「あ、徹人君。ちょうどいいところに来てくれた。君の妹が大変なんだ」

「愛華が!? 一体どうしたっていうんだ」

 群衆によりはっきりとは視認できなかったが、愛華が椅子にもたれているというのは分かった。それだけでも、彼女が健全な状態ではないことは察せられる。


 暑苦しささえ感じていた暖房から一転して、極寒の冷気が吹き付ける。加えて、ゲームのイベントという特殊な環境下。病弱な彼女が晒されるにはあまりにも過酷だった。

「熱っぽいし、風邪をこじらせているかもしれない。病院に連れて行ければ一番だけど、こんな状況じゃ無理そうね。せめて救護室まで運べれば」

「いずれにしてもドアが開かないんじゃどうしようもないですよ。綾瀬さん、このシステムをどうにかできませんか」

「アクセスさえできれば、私の持ってる端末からいくらでも対処できる。でも、アクセスを妨げている謎の存在がいるのよ。せめて、そいつさえ退治できれば」

 異常事態を引き起こしている根本的原因。おそらく、ケビンが会場内に仕掛けたコンピューターウイルスだろう。しかも、プログラミングのエキスパートである綾瀬でさえ対処できない強力な代物だ。


 もちろん、ずぶの素人である徹人が正攻法で対応しようなんてお話にならない。このままほぞを噛んでいるしかないのか。かじかむ手を更に震わせ、徹人はぐっと奥歯を噛む。

 そんな彼の肩にそっと手が置かれた。横を見遣るとシンがそっと囁いた。

「この状況を打破する方法が一つだけある」

「本当か」

 逆に肩を掴まれ、シンは口をつぐんでたじろいでしまう。それでも、平然な顔で話を続けた。

「ライムや朧に宿るウイルス。その能力を使えば強制的にシステムに介入し、ケビンが仕掛けたウイルスを打ち破れるかもしれない」

「なるほど、その手があったか」

 ライムはファイトモンスターズ以外のネットサーバーにも干渉できる力を持っている。かつて学校のスプリンクラーを強制発動させたぐらいだから、ドームのシステムに入り込むぐらいは容易にやってのけそうだ。


 しかし、当のライムの姿を前に、その作戦は無謀だと悟る。敗北した朧はもちろんのこと、度重なるウイルス能力の発動により、ライムは大幅に疲弊してしまっている。意図しているのかどうか分からないが、彼女らは二人背を合わせてぐったりと腰を下ろしているのだ。

 これでは別システムに入ることすら危うい。回復を待つにしても、時間をかければそれだけ愛華の症状が悪化してしまう。ライムに無茶はさせたくないが、愛華を見捨てるわけにもいかない。まさに究極のジレンマに陥ってしまっていた。


 徹人が頭を抱えていると、そっと並び立つ影があった。ふんわりとした髪を揺らし、ケビンと対峙する少女。更にその横で四足歩行のドラゴンが唸り声をあげている。

「徹人、ここは私に任せてくれない」

「策があるのか、日花里」

「まさか忘れたわけじゃないわよね。ドームのシステムに入ることができるのはライムだけじゃないのよ」

 素っ頓狂なことを言っていると思ったが、ふとあることに思い当たった。日花里のパートナーであるジオドラゴン。彼もまた擬人化することができる。つまり、ライムと同じウイルス能力を持っている。と、いうことは、ジオドラゴンもまたファイモン以外のサーバーに侵入できるのだ。


「私のジオドラゴンがシステムに入って、ケビンが仕掛けたウイルスを見つけ出す。排除できればめっけもんだけど、少なくともライムが回復するまでの時間稼ぎはできるわ」

「そうか、やってくれるか」

「愚問だな、少年よ。ようやく我が真価を披露する時が来たようだ」

 ジオドラゴンは咆哮すると全身を変質させた。二足で立ち上がり、頭部から無造作に掻き乱されたワイルドな髪が生えそろう。あっという間に、筋骨隆々とした山伏風のおっさんが会場に出現した。


「なんと予想外の事態。ライト選手のジオドラゴン、なぜかおっさんへと変身してしまった」

「AIを搭載しているのでしゃべることはできるが、こんな変身能力は予想外だったな」

 元々自分が使っていたモンスターがおっさんへと変貌してしまったのだ。さすがの田島悟も腰を抜かしていた。

「雑魚が刃向ったところで解決はせんと思うがな。まあ、せいぜいあがくがいい」

 嘲笑しているケビンをよそに、おっさん形態のジオドラゴンは腕を伸ばして準備運動をしている。システムに入り込むとはいえ、どこに入口があるか皆目見当がつかない。それでも自信満々に鼻息を鳴らしているということは、ジオドラゴン当人には干渉の仕方が分かっているということなのだろう。


 会場の人々の期待を一身に背負い、ジオドラゴンは軽く足踏みをした後、一気に跳ね上がる。すると、ホログラムが頭から徐々に分解されていく。おそらく、さっそくファイモンのサーバーから離脱していっているのだろう。やがてジオドラゴンは会場から跡形もなく消え去っていった。

次回、まさかのおっさん活躍回です。

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