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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 朧再び!? 地区大会決勝戦!!
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ライムVS朧&デュラハンその2

 奇襲にたじろぐことなく、的確にスキルカードを発動する胆力。間違いなくシンというプレイヤーは一流であった。そうであるからこそ、テトは確かめておきたいことがあった。

「シン、お前はどうしてそんな腕前をもっているのに、あんなケビンというやつの言いなりになってるんだ」

「私がケビンの仲間?」

「だって、ライムを狙ってきているってことはそうなんだろ」

「そういう意味なら仲間かもしれない。私はある目的のために、ライムの力が欲しい。ただそれだけ。それでも不服なら、あなたというプレイヤーに興味があるといえばいいかしら」

「どういうことだ」

「私と同じく、普通なら使われないようなモンスターを使っている。これで興味を持つなという方が無理」

 予期せぬ話題を振られ、テトは困惑していた。朧が普通なら使われないようなモンスター。どういうことだかよく分からないが、ふとある事実に気が付いた。


 朧がテトと同じように、既存のモンスターがバグって誕生したのなら、その素体となったモンスターがいるはずだ。それがデュラハンだと思っていたのだが、武器に擬態していたのなら正体は別のモンスターということになる。一体それがどんなモンスターなのか、皆目見当がつかなかった。

「シン、まさかあたいの正体を明かすってわけじゃないよね」

「ライム相手なら明かしても構わないと思っている」

「気が進まないけど、シンが言うなら仕方ないか。んじゃ、よく見てなよ、これがあたいの正体だ」

 そう言うと、朧は軽く飛び上がった。その途端、全身がグニャリと曲がり、粘土細工のようにこねくり回される。剣から少女の形態へと変貌した経緯を逆再生しているかのようだ。


 ただ、逆再生しているという表現は比喩でも何でもなさそうだった。両手両足を伸ばして一直線の蹴伸びの姿勢をとるや、上半身が鋭い刀へと変化していった。それに対応するように、下半身は柄となる。現れたのは空中に漂う巨大な剣。それもただの剣ではなく、刀身に巨大な一つ目が浮かび上がるアンデットモンスターだった。

「な、なんだ、そのモンスターは」

「あなたなら知っていると思ったけど、期待外れだった。この子の名はフライソード」

「フライソード?」

 シンからモンスター名を聞いたものの、テトは首を傾げるばかりだった。それなりに長くファイトモンスターズをプレイしていると自負しているが、そんなモンスターは知る由もない。


「シン選手の朧、フライソードなるモンスターへと変貌した。これもまた見たことがないモンスターだが……」

「いや、このモンスターは実在している」

 困惑するファイモンマスターからマイクを引き継ぎ、田島悟が解説を続ける。

「フライソード。ファイトモンスターズのサービス開始から間もない時に実施したイベントのガチャ限定キャラだ。プレイ人口が現在の十分の一以下の時に配布されたうえ、ガチャの中でもレア度が高いモンスターだったから、知らない人も多かろう。私としても、まさかこの場で日の目を見ることができるとは思ってもいなかった」

 ライムのような幻のモンスターではなく、知る人ぞ知るマニアックなレアモンスター。それはそれで、会場内の活気をさらうには十分だった。



「フライソードか。さすがにあれは知らないな」

 観客席では綾瀬が腕を組んで唸っていた。一方で、「俺は知ってたもんね」と悠斗は鼻高々だった。

「悠斗兄さん、あのモンスター知ってるの」

「まあな。俺はファイモンをサービス開始した時からやってるからな。最初期に配布されたやつだから、知ってるやつの方が少ないと思うぜ。

 それはともかく、フライソードは剣が意思を持って暴れまわるっていう闇属性のモンスターだ。ドラクエでいうならひ〇くいサーベル、ポケモンでいうならギ〇ガルドみたいなやつだな」

「ひ〇くいサーベルはともかく、ギ〇ガルドはマニアックな例えだと思うわよ。っていうか、ポケモンって千近く種類がいるのに、よく一体一体覚えてるわね」

「俺はファイモンとドラクエとポケモンと妖怪ウォッチに出てくるモンスターなら大概知ってるからな」

 胸を張る悠斗だったが、「その記憶力を歴史の勉強とかに活かせばいいのに」とツッコまずにいられない綾瀬だった。尤も、彼女もまたゲーマーであるので、有名どころのモンスター育成RPGのキャラは把握しているのであるが。


「ところで、愛華ちゃん。さっきから顔色悪いけど大丈夫?」

「あ、うん。平気」

 そう言いながらも愛華は身震いする。冷房より吹き付ける冷気は一段と厳しさを増しているように思える。当人は「大丈夫」と強がってはいるものの、どことなく青白い顔をしている。試合うんぬんよりも、この冷房をどうにかする必要がある。そんな懸念すら生じ始めていたのだった。



「この子はゲームを始めて間もない時に手に入れて、そこから大事に育ててきた。けれども、最初期のキャラゆえに、現環境では産廃とされている。おまけに、あまりにもレアすぎて、誰にも見向きされない」

「ライム、あんたならあたいの気持ち分かるだろ。存在すら忘れられたあたいを使ってくれるシン。彼女のためにも、あたいは負けるわけにはいかないんだよ」

「朧ちゃん……」

 鬼気迫る主張に、ライムはただ圧倒されるばかりだった。最弱の代名詞として知れ渡っているだけ、彼女はまだマシなのかもしれない。ファイトモンスターズの歴史の中で意図せず闇に葬られることとなったモンスター。同じ不遇キャラとして同情を禁じざるを得なかった。


 ライムがしおらしくなる中、朧は元の少女の形態へと戻り、切っ先を突きつけた。

「言い忘れてたけど、フライソードのアビリティは反撃の刃。近距離攻撃を受けた時に反撃してダメージを与える。けれども、ウイルスの能力で強化してあるってことをお忘れなく」

「そうか、そのアビリティの設定を弄って、いかなる攻撃に対しても反撃するようにしていたのか」

 反撃の刃はフライソード専用のアビリティなので、フライソードそのものを知らなければ、その存在を知らなくても無理からぬことである。朧の能力の秘密が明らかになったものの、二対一という絶対的不利な状況には変わりなかった。残り体力はライムが上だが、デュラハン、朧ともに一撃でアドバンテージを覆すことのできる程の攻撃力を誇っている。


 じりじりと迫りくる二体に、ライムは後退を余儀なくされる。切り札である革命も使用済み。単純にライトニングで攻めようにも、相手の猛攻に耐えられるかどうか。

「デュラハン、朧。お遊びはここまで。一気に畳みかけて勝負を決めなさい。デュラハン、諸刃切り」

「シン選手のデュラハン、最大威力を誇る必殺技を繰り出そうとしている。宣告通り、ここで決着をつけるつもりか」

 先行して首なし鎧騎士が帯刀しながら突進してくる。距離が空いていても、重圧で押しつぶされそうになる。短期間でここまで溜めを作ることができるとは考えにくい。朧が会話していた間に、密かに準備を進めていたのであろう。


 属性を変化させる「炎化メタモルフレア」は日花里の手持ちカードと交換している。最後の一枚は「加速ブースト」であった。素早さの値を上げれば先制攻撃できるだけではなく、回避率の上昇も見込める。こうなれば、ライムのすばしっこさに賭けるしかない。

 テトはスキルカードを発動しようとカードに手を伸ばすが、かじかんで取り落としそうになる。さすがに冷房が強すぎると思ったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「スキルカード加速ブースト。ライム、とにかく避けろ。そして、どうにかしてライトニングを叩きこむんだ」

「なんか、無茶苦茶言ってない」

 不平を漏らすが、考えられる勝ち筋としてはそれしかなかった。素早さを上昇させたライムは、反復横跳びでデュラハンの視線を惑わす。


「無駄なことを。一度はかわされたけど、そう何度もデュラハンの太刀筋からは逃れられまい」

 ライムの挙動に動揺することなく、デュラハンの太刀はただ一点を見据えている。そして、狙いすました一突き。

「おおーっと、デュラハンの諸刃切りがライムに直撃だ」

 わき腹を切り裂かれ、ライムの体力ゲージが一気に減少する。どうにか九死に一生で踏みとどまったものの、体力面でのアドバンテージも消滅してしまった。


 たたらを踏んだライムは、脇を抑えながらも向き直る。とどめを刺しきれなかったことで、デュラハンにはデメリットの防御力低下が発生する。そのはずであった。

「倒しきれなかったなら仕方ない。スキルカード天邪鬼パーバセネス。これをデュラハンに使用」

 シンの袂より放たれたカードの光がデュラハンを包み込む。すると、減少するはずだったデュラハンの防御力が逆に上昇したのだった。

「諸刃切りのデメリットを天邪鬼によりカバーする。王道だが強力なコンボだな」

 田島悟は頷くが、コンボを喰らった方はたまったものではなかった。このタイミングで天邪鬼を使ってきたということは、テトが能力変化系カードを持っていないと見越してのことだろう。

モンスター紹介

フライソード 闇属性

アビリティ 反撃の刃:近距離攻撃を受けた時に反撃し、ダメージを与える。

技 きりつける

ファイトモンスターズ最初期に配布されたガチャ限定キャラ。朧の素体となるモンスターでもある。

初登場以降再録されていないため、サービス開始直後にプレイしていないと存在を知ることがない、ある意味幻のキャラである。また、反撃の刃はフライソード専用アビリティのため、その効果を知らないという人が大多数だ。

能力インフレの煽りを受け、現環境で使用するには力不足というのが悲しいところ。

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