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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 朧再び!? 地区大会決勝戦!!
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朧との再会

新年一発目の更新です。

 突然の宣告に、会場は一転して静まり返った。無理もないことだ。ライムという謎のモンスターが参戦しているかもしれないというだけでもお腹いっぱいなのに、更に未知のモンスターの存在が示唆されたのだ。

「い、いじゅー選手。苦しまぐれに虚言を吐いたか」

 絶句しているファイモンマスター。田島悟もまた眉をひそめていた。ケビンもまた似たような反応をすると思われたのだが、むしろ面白そうにほくそ笑んでいる。その視線は徹人からキリクへと注がれていた。


 突拍子もない指摘にキリクは固まってしまっていた。だが、堰が切れたように、突然大笑いし出した。静寂が支配しつつある会場に盛大な笑い声がこだまする。

「な、なにがおかしい」

 うろたえつつも、いじゅーは詰問する。腹を抱えながらも笑いを堪えると、キリクはいつもの能面を取り戻した。

「まさかデュラハンのカラクリが破られるなんて。あなたは予想を遥かに上回る曲者のようだ。

 カモフラージュしたまま勝負を決めようと思ったが、こうなってしまっては隠しきれまい。ここからは全力でいかせてもらう」

 そういうとキリクは指を鳴らした。


 合図を受け、デュラハンは手持ちの剣を天高く放り上げる。回転しながら宙を舞っていた剣は、頂点まで達するや急に動きを止める。無機物が空中停止するだけでもあり得ないのだが、加えて全体が薄暗い光に包まれる。硬質な刀身が粘土細工のごとくグニャリと変形し、やがてアメーバ状の物質へと変貌していく。

 しばらくこねくり回されていたが、やがて四対の突起が飛び出す。天辺には丸い物質が形成されており、その様は簡易的な人形であった。

 人形の顔に当たる部分から長髪が生えそろえ、いずこよりか立ち現れた髪留めで一束に結われる。四本の突起は人間でいうところの手足となった。一瞬、素っ裸のマネキン人形という不健全な様相がお披露目されたが、すぐに袴と道着が着こまれる。そして、腰に自慢の剣を帯刀し、その少女は空中でにやりと口角をあげた。


「やっぱり、お前がそうだったのか」

 おそらく、会場内で彼女と面識があるのはいじゅーとライムだけだろう。大会前日に相見えた謎の少女型モンスター。そいつと瓜二つ、いや、そいつそのものが目の前に参上したのだ。

「まったく、剣のままでずっと戦ってきたから肩が凝って仕方ない。けどさ、こっからは本気でやっちゃってもいいよね、シン」

「ええ。叩きのめしなさい、朧」

 やはりいじゅーが予想した通りだった。この大会でずっと追い求めていたプレイヤーシン。そして、そのパートナーである朧。因縁の相手とようやく再会することができたのだ。


「えっと、一体どうなっているのか。キリク選手のデュラハンが放り投げた剣が謎のモンスターとなったぞ。田島チーフ、あのモンスターはご存知で」

「いや、あんなモンスターは存在していないはずだ。考えられるとしたら、画像データを改造したか、あるいはバグによって生じたか」

「運営といえど、知らないこともあるようだな。無知な奴らめ」

 ケビンに吐き捨てられ、田島悟とファイモンマスターはモニターを睨みつける。ライムとほぼ同類のモンスターが出現したというのにやけに落ち着いている。そんな態度に田島悟はどことなく違和感を覚えていた。

「ライムが目的のお前なら血眼になるかと思ったが、随分冷静じゃないか。まさか、あの朧というモンスターを知っているんじゃないのか」

「さあ、どうだろうね」

 たぶらかされるが、あまりに沈着とした様子は暗に答を示していた。


 デュラハンと双璧を為す朧。本来の姿に戻ったばかりで本調子でないのか、幾度となく肩を回していた。

「それよか、あたいの正体を見破るなんて、あんた只者じゃないわね」

「まさか剣に化けていたとは思わなかったが。それに、デュラハンが発揮した異常な強さも大体見当がついた。デュラハン単体で戦っているように思わせておいて、本当は朧のステータスも合算して勝負していた。つまり、知らぬ間に二対一で戦う羽目になっていたんだ」

「それも見透かされたか。その通り。朧をデュラハンの武器として扱うことで、二体分のステータスを反映させた。だから、並大抵の相手では打ち破ることはできない」

 いくらステータスを上昇させようと、二体のモンスターが同時に相手をしていたのではとても太刀打ちできない。大会に出場するような相手に無双できたのも当たり前のことだった。


「僕が見破る決め手になったのは、バブルショットを使った時の不自然な挙動だったけどな。攻撃したら無条件に反撃されてダメージを受ける。まさしく、朧が持つアビリティそのものじゃないか」

 剣に体当たりされた時にうろたえたのは、持ちうるアビリティが表面化してしまうのを恐れたからだった。特に、徹人が朧の存在を知っているのだとしたら、そのまま正体を暴かれることに繋がりかねない。

 秘密が明かされてしまっては、こそこそと立ち回る必要はない。吹っ切れたキリク、否、シンはそっと兜を持ち上げた。

「薄々感づいてはいたけれど、やはりあなたは昨日戦ったテト、そしてライムのようだ。なら、私もこんな飾りは必要ない」

 密閉された面から解放され、つやつやとした長髪が広がっていく。その様にテトのみならず、会場中も息を呑んだ。


 同時に、アバターのみならず現実の空間でもどよめきが起こっていた。これまでニット帽によって頭上を隠していたシンであったが、その覆いを取っ払ったのだ。黒髪ストレートのアバターと瓜二つのきれいな髪が展開されていく。頭を振り動かして髪を整えると、まっすぐに徹人を見据えた。

 絶句して立ち尽くしていた徹人であったが、開口一番漏らした感想はこうであった。

「お前、女だったのか」

 長髪の男という線も考えられなくはない。しかし、肩まで伸びるさらさらとした髪はその仮定を木っ端みじんに砕いていた。つり目がちのためか、ショートヘアにしていたら男かと誤認しそうであった。


 頓狂な指摘にシンは頬を膨らませて反論する。

「もしかして、男だと思った?」

「あ、いや、男だか女だかよく分からなかった」

「そう。それはよく言われる。相手に舐められないために、わざとそんな恰好してるし」

 下手に相手の琴線に触れることはなかったようだ。

「シンって、短い髪にしたら男の娘としても通用しそうなのに、惜しいことしてるよな」

「朧、黙って」

「おお、怖っ」

 朧はふざけて身震いしてみせる。一瞥しただけで軒並みならぬ圧迫感。やはり、只者ではない。


「私だけ正体を明かしておいて、あなたが謎のままというのは不公平。いい加減、本性を現したらどう」

 まっすぐに指を指され、徹人は頭を掻いてたじろぐ。だが、腹を決めてライムを呼び寄せた。

「いい加減、年貢の納め時だな。ライム、綾瀬さんから仕込まれたカモフラージュって自力で破れるよな」

「そうじゃなきゃ、掛山ノブヒロのライブ見に行ってなかったよ」

「それもそうか」

 公然とライムと会話している徹人。それが思わぬ波紋を広げていた。

「ど、どういうことだ。ネオスライムがしゃべっているぞ。それに、ライムということは……」

 徹人はついつい忘れそうになるのだが、ネオスライムにはAIは搭載されていない。なので、本来しゃべることができないのである。これまでのこの大会での会話は、相手に聞こえないようにこっそりと小声で行ってきたため、大声で話したのはこれが初めてであった。


 スライム形態のライムはステージの中央まで跳ね進むと、大きく息を吸い始める。前振りはバブルショット発射時と酷似しているが、異なっているのは際限なく膨らんでいるところだ。そのままはちきれて自爆するんじゃないかと不安がよぎったが、二倍ほどの体積になったところで粘土細工のように体がこねくり回される。

 そこから先は朧の変異とほぼ同じようだった。四対の突起が四肢となり、やがて頭部から髪が生えそろう。体全体が光ったかと思いきや、あっという間にワンピースが着用されていた。ここの経緯はライムの魔法少女じみた着替えを目撃していたので特段驚くことはなかった。


 最後にトレードマークであるカチューシャが装着されると、美少女形態のライムはウインクしてモデル立ちをした。

「ついに出たー! 界隈で噂されている謎のモンスターライム。彼女がついに公の場に姿を現したぞ!!」

 会場内は最高潮のボルテージを醸し出していた。朧と違い、ライムは既に幻のモンスターだと話題になっていた。名前だけは知っているが姿を目にしたことがないという者が大多数だ。むしろ、迷信ではないかという説もあるくらいである。

 そんな彼女が堂々とお披露目されたのだ。その昔、イギリスの伝説的ロックバンドが初来日した時のような盛り上がりを呈していた。

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