ライムVSデュラハンその3
お待たせしました。ようやくの更新です。
苦悩する隙も与えまいと、デュラハンは剣に雷光を宿す。いじゅーがそれに気が付いた時には、稲光を発しながらライムを切り裂いていた。
「キリク選手のデュラハン、再び雷光一閃を発動。だが、辛くも九死に一生で阻まれる」
「アビリティ頼りで虫の息か。ここまで連続発動させたのは興味深いが、このまま負けるのであれば逆に興醒めもいいところだ」
ケビンから大っぴらに発破をかけられたが、ここで冷静さを失っては元も子もない。なにせ、デュラハンの秘密を暴くために危険な賭けに出るのだから。
「テト、確かめたいことがあるんだ。下手したら戦闘不能になってしまうほど危険な作戦なんだけど、頼めるか」
「なーんか、その言い方だと引っかかるな」
さすがに「戦闘不能になる」と注釈されては決断を渋るか。とはいえ、あっけらかんに破顔し、
「でもまあ、テトが言うならいいよ。あいつのピノキオ鼻をへし折るんでしょ」
「鼻どころか顔すら存在してないけどな。よし、まずはスキルカード回復で体力を回復させる」
「いじゅー選手、二枚目のスキルカードを使用。しかし、デュラハンの攻撃力の前では気休めにしかならないか」
実況される通り、デュラハンの一刀はカードの回復量を容易に凌ぐ。結局はアビリティに頼るしか生き残る術はない。しかし、いじゅーの狙いは別にある。疑念を解き明かすためにはある程度体力が残っていないと不都合なのだ。
「今更体力を回復させても無意味。その気になれば諸刃斬りで必殺できる」
「だろうな。でも、その前にお前の化けの皮を剥がしてやる。ネオスラ、体当たりだ」
「無駄なことを」
デュラハンは剣を下ろし、片足に体重を預けて悠然と構える。キリクもまた、いじゅーがステータス干渉を狙っていることは承知していた。彼がある一挙動だけで修正を施しているという事実を把握しているかどうかまでは分からない。だが、いくら体当たりされても恐れるに足りず。
しかし、キリクは妙なことに気が付く。先ほどまでと比べると、明らかにネオスライムの軌道がおかしいのだ。デュラハンの胸へと突撃をかけてきたはずが、標準を大きく右にずらしている。道筋を辿っていくと、予期せず吃音を漏らす羽目になった。
「まさか、あんたの狙いは……」
「気が付いたか。ネオスラ、そのまま剣へと突進しろ」
いじゅーが体当たりの標的に定めた「物」。それはデュラハンの剣だったのだ。
意思を持つ鎧のモンスターデュラハン。そいつで細工を施すなら、手品の種は剣に仕込むしかない。実際、初めて体当たりを発動した後に披露していた剣を胸に当てる不自然なポーズ。あの瞬間に何らかの細工を発動していたとすれば合点はいく。
ならば、剣そのものに干渉してしまおうという作戦なのだが、常識的に考えて愚行の極みだった。相手の武器に体当たりしたらどうなるかなんて、小学生でも分かる問題だ。特殊なアビリティでも発動していない限り、いじゅーの攻撃ターンにライムにダメージが発生することなどあり得ないはず。それでも体力を回復させたのはイレギュラーへの配慮であった。
よもや剣を狙われているとは予測できなかったのか、デュラハンは右腕を垂れ下げたまま呆然としていた。キリクが迎撃を指示しようとするも、ライムの最接近を許してしまっている。
「ヤケになったか、いじゅー選手。デュラハンの剣にネオスライムの体当たりが直撃だ」
「デュラハンの武器ということで、ダメージ判定は為されるが、見た目からすると悪手と評するしかないな」
あきれ返る田島悟であったが、直後に発生した現象に驚愕する羽目になる。それは彼だけの話ではなかった。
剣と正面衝突し、解説された通りデュラハンへのダメージ判定が発生。数ドットではあるが体力が減少する。
これだけなら物議を醸しだすことはなかった。だが、剣とぶつかった途端、ライムの体力ゲージまでもが減少したのだ。
剣に突撃したのだから当然と思うかもしれないが、ゲームプログラミング上の処理としては、デュラハン本体に体当たりしたと相異はない。つまり、数手前に繰り出した体当たりと同一の行動を繰り返しているに過ぎない。なのに、減るはずのないライムの体力が減ってしまったのだ。
いじゅーとしては予想外の収穫だった。剣に細工がしてあるだろうなと見当をつけていたが、まさかこんな変異が露呈してしまうとは。
加えて、この現象にはデジャヴがある。攻撃した瞬間にダメージを受ける。そんなアビリティの持ち主とつい最近戦ったではないか。
「こ、これはまさかの展開。剣へと体当たりしたとはいえ、本当に自滅してしまうとは」
「ほう、おもしろいものを見せてくれる」
ケビンですら、感嘆して戦況を注視している。バグか、仕様か、インチキか。様々な憶測が飛び交う中、流れを変えようとキリクはデュラハンにある技を指示する。前傾姿勢のまま、右手に備える剣に力を込める。軸足にも同様に力を入れ、いつでも飛びかかる準備は万端だ。
「諸刃斬り」
「キリク選手、疑惑を払拭せんと大技を使ってきた。ネオスライム相手には確実にオーバーキル。いじゅー選手、どう対抗するか」
この技を受けてしまっては作戦が瓦解してしまう。
「ネオスラ、なんとしてもあの一刀を避けるぞ。集中してタイミングを合わせるんだ」
いじゅーとライムは共にデュラハンの挙動に視線を合わせる。やつの一挙一動を一秒足りとも見逃さんと開眼し、ゆっくりと呼吸を整える。
「意図的に攻撃を避けようだなんて愚かな。やれ、デュラハン」
雷光一閃とまではいかないものの、獲物に喰らいつくライオンのごとく、デュラハンは一気に間合いを詰める。溜めに溜めた刀身が振りぬかれ、ライムのボディへと切迫する。
「跳べ!!」
抜刀の初動に合わせ、ライムは地表に我が身を叩きつける。その反動で天高く跳ね上がった。上空へ逃れるライムを捕えようと、デュラハンは剣筋を上向きに修正する。上昇するライムとそれを追う剣。二、三秒の間に緊迫の追走劇が展開された。
高々と剣を掲げる恰好となったデュラハン。腕を伸ばしきっているので、命中したなら切っ先にネオスライムが串刺しになっているというグロテスクな光景が広がっているはずだった。だが、剣は綺麗な刃先を披露したまま、照明の光を反射していた。
相手を切り裂いた感覚がない。では、獲物はどこに。キリクが天上を見上げると、口いっぱいに弾丸を充填したネオスライムと視線がぶつかった。
諸刃斬りを空振りさせたという歓喜に酔いしれる暇もなく、いじゅーは疑惑を晴らす一撃を発射した。
「剣へ向けてバブルショットだ」
空中散歩を楽しんでいただけではなく、悟られぬように弾丸を生成する。諸刃斬りを躱しただけでも賞賛に値するのだが、反撃の機会まで整えていたとなると、彼らの底知れぬ実力を再認識する他なかった。
狙ってくださいとばかりに掲げられている剣へと一直線に弾丸が撃ちだされる。先の体当たりとは話が別で、これこそ愚策でしかない一撃だった。遠距離技でわざわざ効果が薄い装飾品を狙う意図が分からない。
だが、キリクは焦燥していた。いじゅーが自暴自棄になっている様子はない。明白な意思によってデュラハンの武器を攻撃してきた。そうなればある事実を呑み込むしかない。いじゅーはデュラハンの秘密に気付いている。
「回避して、デュラハン」
甲高い声を張り上げて指示を飛ばす。反応して体を傾けたが、時既に遅しだった。手にしていた柄に衝撃が迸り、あやうく取りこぼしそうになる。どうにか両手を使って構えを維持する。
もちろん、デュラハン側のダメージは大した量ではない。だが、それはさしたる問題ではなかった。キリクにとって最も恐るべき事態が表面化してしまったのだ。
「こ…これは、どういうことだ」
絶句するファイモンマスター。田島悟、ケビンといった曲者までもが目の前で展開された不可思議現象に唖然としている。
遠距離攻撃であるはずのバブルショットを命中させ、ライムの体力が減少したのだ。
直接剣にぶつかった体当たりで体力が減少するのなら、まだ分からなくはない。だが、間合いを置いているのにもかかわらず、砲撃が命中した瞬間に反撃されてしまった。
本来、仕掛けた側であるいじゅーが狼狽するというのがセオリーだ。しかし、慌てふためいているのはキリクの方であった。いじゅーはむしろ、予定調和とばかりに胸を張っている。
「その剣に仕掛けがあると思ったけど、まさかこんなカラクリがあるとは予想外だったぜ」
「あなた何を言っているの。私が細工を施しているなんてあり得ない」
「そんな幼稚な言い訳しても見苦しいぜ。その剣にはある仕掛けがしてある。そうでなくとも、あの一撃であることを確信した」
いじゅーが落ち着いていられたのは、この不可思議現象を体験したことがあるからだった。ハッタリという可能性も捨てきれないが、あんな荒業を発揮してしまった以上言い逃れはできまい。いじゅーはキリクの胸を指差し、堂々と宣言した。
「お前の使うデュラハン。その正体は前にライムと戦ったことのある朧だろう。そしてキリク、お前は朧の使い手であるシンだ」
技紹介
諸刃切り
剣を使う技の中では最強の威力を誇る。
反動で防御力が下がってしまうため、反撃を受けたらそのまま敗北してしまうリスクを秘める。
それでも、並大抵の相手なら一撃必殺できるほどの威力があるので、まさに諸刃の一撃といえる。




