ライムVSデュラハンその2
相変わらず仕事で忙しいため、次の更新は1週間ぐらい先になりそうです。申し訳ない。
「ライム、作戦がある」
小声で彼女を呼び寄せると、いじゅーは耳打ちをした。
「あいつが朧だという確証がほしい。だから、あえて長期戦を挑む。かなり疲れてると思うけど、またお前のアビリティに頼ることになる。加えて、あの能力も使うけど問題ないか」
「そんな心配しなくてもオールオッケだよ。テトのためなら、疲れててもたとえ火の中水の中ってね」
「頼もしいな。けど、無理はすんなよ。やばくなったら合図してくれ」
力強く頷くと、ライムはスライムボディを弾かせながらデュラハンへと向かっていった。
「力の差を思い知らされて意気消沈してると思ったけど、そうじゃないか」
「当たり前だ。勝負はまだ始まったばかり、勝つか負けるかはやってみなくちゃ分からないからな」
「なら、その空虚な自信を砕くのみ。電光一閃」
デュラハンの剣に雷が迸る。まずいと思って発声しようとしたのも束の間、ライムは撥ね飛ばされて天高く舞い上がる。瞬間移動と見間違えるばかりの高速を披露したデュラハン。揚々と剣を鞘に納める。墜落とともに、ライムの体力は尽きようとしていた。
「知らないとは言わせない。雷属性の剣術、雷光一閃。素早さに関係なく、先手で攻撃できる」
「おまけに僕のネオスラの弱点まで突いてきたわけか」
「それは本当におまけでしかない。そんな体力では、火属性の技すら耐えられまい」
虫の息だったのは確かだ。呆気なく決勝戦の幕が閉じられる。なんて失態を犯すわけにはいかなかった。
微動だにしないライムを置き去りにし、デュラハンは背を向けて主のもとに帰還する。だが、その歩みがふととまった。背後で蠢く気配を察したからだ。振り向きざま剣を振りぬく。そこで使い手のキリクともども驚愕することになる。戦闘不能になっているはずのネオスライムが水を被った犬のごとく体を震わせたからだ。
「な、なんという強運。いじゅー選手のネオスライム。またも九死に一生を発動させた。もはやスライムというより不死鳥。化け物じみた攻撃力に、決して倒れないしぶとさで対抗するつもりか」
ざわめく会場。あまりの発動率の高さにある疑念を抱いた者も多かろう。こいつがライムなのではないかと。
この場で正体が露見してしまうのは覚悟の上だった。むしろ、隠匿したまま戦い続けても勝機はない。そして、陽動作戦のためにいじゅーは本来ならあり得ない技を選択する。
「ネオスラ、体当たりだ」
「トチ狂ったか、いじゅー選手。せっかくの反撃の機会に、初歩中の初歩技を指示した」
「随分と余裕たっぷりな」
嘲笑されるのをよそに、ライムは潰れんばかりに体を圧縮させる。溶解したまま標的を定め、デュラハンの胸元へと突進する。
剣を下ろして泰然としているデュラハン。直撃したとしても大したことがないと高を括っているのだろう。木偶人形と化した相手に渾身の体当たりがぶちかまされる。
案の定、減少したのは数ドット。胸を払うと、すぐさま剣を振りかぶる。飛び込みざま唐竹割を放つが、ライムは飛びのいて空振りさせる。そして、首元に狙いを定め「バブルショット」を撃ちだした。
またも回避の素振りはなく、鎧の襟元に気泡が命中する。本来ならば一割も削れればいいところだ。そのことは承知の上であえて攻撃を受けたというところか。だが、その油断こそがいじゅーの狙いであった。
「おおっと、ネオスライムのバブルショット、クリティカルヒットしたか!?」
ファイモンマスターの実況に連なり、会場中が色めき立つ。己のモンスターの体力ゲージを確認したキリクは慄くこととなった。無理からぬことだ。デュラハンの残りHPは半分以下となっていたのだ。
「そんな。デュラハンがここまでダメージを受けるはずがない」
「いや、普通はこれだけ喰らうはずだぞ」
動揺していたキリクであったが、ふと思いついたことがあったのか、デュラハンの肩に刀身を触れるように構えさせる。そして、何食わぬ顔できりかかってきた。
躱しきれずにダメージが発生するが、どうにか九死に一生で堪える。そして、反撃のバブルショットをお見舞いする。先ほどの威力からして、命中すれば勝負は決まるはずだ。だが、またもや回避する様子はない。キリク程のプレイヤーがこんな単純なダメージの目算を誤るはずがない。スキルカードで防御する素振りもなく、直撃を甘んじるつもりだ。
あやまたずバブルショットが直撃する。拍子抜けしたが、勝利は勝利だ。いじゅーはガッツポーズをとろうとするが、逆に上げ足をとられることとなる。
デュラハンのHPゲージは消滅するどころか、全くといっていいほど減っていないのである。相手が防御力を上げるカードを使った形跡もないのに、初撃の時よりもダメージが少ない。
「クリティカルで大ダメージを与えたいじゅー選手だったが、ラッキーは続かなかったか。依然としてデュラハンの超防御力は健在だ」
異常ダメージはクリティカルだと認識されたようだが、そんなことは問題ではなかった。
無意味と思える体当たりでいじゅーが仕掛けたこと。言わずもがな、相手のステータスの変更だ。密かに防御力を低下させ、バブルショットで奇襲をかける。敵がステータスを弄っていたとしてもこれで突破できるはずであった。
しかし、ダメージが元に戻ったということは、防御力も元に戻されたと考える他ない。おまけに、更に値を上昇させている可能性もある。
疑念を払拭するためにも、いじゅーは再び「体当たり」を指示する。デュラハンの胸元に突撃するや、内部ステータスに干渉。防御力の値をゼロへと変更する。
「無駄なことを」
歓声にかき消されそうになったが、キリクは確かにそう言い放っていた。いじゅーにだけ伝わればいい、そんな意図だろうか。いずれにせよ、いじゅーの動揺を誘ったという点では思惑は成功といったところだ。
デュラハンは何食わぬ顔で剣を胸へと構える。そして、挑発するように指を数回折り曲げた。
「あいつ、まだ余裕みたいだね」
「まさかと思うけど……バブルショット」
わだかまりが残りながらも挑発に乗って攻撃を放つ。防御力皆無、体力半分以下という現状、命中すれば即死するはず。
しかし、胸元にヒットしたにも関わらず、またもダメージは軽微だったのだ。信じがたいが、胸の内に生じている懸念を信じる他ない。
「あの野郎、ライムと同じウイルスの能力を宿しているのか」
甲冑に阻まれ、表情を確かめることはできない。しかし、どことなく勝ち誇っているように思えた。
ライムと同能力を持っているのなら話は別だ。あちらもステータスに干渉できるのであれば、ライムによって下げられた値を元に戻すことなど造作もない。問題は、どのタイミングで能力を発動させたのか。
デュラハンの挙動を脳内で反芻させると、ある瞬間に行きついた。と、いうより、デュラハンの図体で仕掛けを施すならあの部位を疑うのが筋だ。
技紹介
雷光一閃
雷属性の剣技。
素早さの値に関わらず先手で攻撃することができる。
剣の技を使うモンスターは素早いものが多いが、それでも相手に奇襲をかけられるという点は大きい。主に、僅かに残った相手の体力を確実に削り取る際に使われる。




